この男をご存じでしょうか?
テッド・バンディという名のイケメンで高学歴、人当たりの良い男。
1970年代のアメリカ北西部で、30人以上の女性を暴行殺害した連続殺人犯だ。
この映画は、そんな男を愛してしまった女たちの実話物語である。
(C)2018 Wicked Nevada, LLC
愛されたシリアルキラー
良いポスター。
原題は『Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile』で、白抜きで書かれているのは和訳だ。
ある期間を置いて淡々と躊躇いなく人を殺し続ける「シリアルキラー」という言葉があるが、「シリアル」は「連続の」という意味。
元々はテッド・バンディを指し示して、元FBI捜査官ロバート・K・レスラーが使ったワードであった。
被害者は自白が完了した人数が30人というだけで、さらに多いと見られている。
暴行の有様も殺害方法も、まさに鬼畜の所業。
ところがこの男、魅力的なのである。
会う人は魅了されてしまう。
女にもモテる。
自分が愛した優しい男が、次々と暴行殺人を犯している。
こんな怖い話があるだろうか。
本作はテッド・バンディが殺人に手を染める前の恋から描かれ、驚きの顛末を突き進む。
映像資料も多い事件だ。
俳優の風貌や衣装やセットなど、実際のものにかなり近づけられた。
が、犯行現場の惨状や殺害シーンといった表現はかなり抑えめ。
原作はテッド・バンディの元恋人エリザベス・クレプファーの著作なのである。
だから本作は猟奇サスペンスではなく、ラブストーリーなのだろう。
犯罪としてよりも、テッド・バンディに出会ってしまった女性の痛みが際立つ。
怖くて、哀しい。
キャスト&スタッフ
テッド・バンディ役にザック・エフロンは合わないのでは…と思っていたが、まったくの杞憂。『グレイテスト・ショーマン』でも素晴らしかった唄えて踊れるイケメンは正義の印象が強いので、殺人鬼役は大きなチャレンジだっただろう。
開始10分もする頃にはもう、本人そのものにしか見えなくなった。大拍手。
恋人役のリリー・コリンズが可愛いのなんの! ご本人にもよく似ている。
支援者役のカヤ・スコデラーリオが素晴らしい。美貌は隠しきれないが、ご本人に似せている。カヤさん、『クロール 凶暴領域』でワニをタコ殴りにしていたあの美女だったとは!
『シックス・センス』の少年、ハーレイ・ジョエル・オスメントももう34歳。年相応の肉付きながら、あくまでも童顔。
判事役のジョン・マルコビッチが効率よく、名セリフを持っていく。
ジョー・バーリンジャー監督は、衝撃的な実話エピソードはあえて含めない。物語の焦点は「愛」である。その意味で成功しているのかもしれない。
ちょうど気になっていた『ブレアウィッチ2』の脚本監督だと知った。観ます。
この男から多くのサイコパス映画は作られた
アメリカ社会で、テッド・バンディは超有名人である。
その手口や傾向、事件の顛末をヒントに数多の映画や小説やドラマが作られた。
たとえば、髪の長い女を狙うとか。
ケガ人を装って手伝いを頼み、相手を車に押し込むとか。
刑務所でインタビューを受け、警察に捜査協力をしていたとか。
『羊たちの沈黙』を筆頭に、他にも幾つかの作品が浮かぶ。
そのせいか、映画では犯罪の仔細は描かれない。
アメリカ人の多くは、もう知っているからだ。
そのため、テッド・バンディの犯罪歴を知らないままで観ると、もしかすると少々分かりにくいかもしれない。
喋り方まで似せたザック・エフロンの好演もあって、映画の中にあってもテッド・バンディが魅力的に見えてしまうから怖い。
人の心を操り、心身ともに傷つけ、凌辱して命を奪った男だというのに、だ。
真性のサイコパス、テッド・バンディに群がる大衆の愚かさ。
こういう光景は日本でも見られることがある。
女性からの視点を中心に据えたことで、彼女らの心情が胸に迫って切ない。
誠実に作られた、犯罪実録ラブストーリーかと思う。
↓テッド・バンディを更に知りたくなった方におススメのドキュメンタリー2本です。いずれも真実に圧倒されました。
★本作のモデルになった元恋人のインタビュー
★テッド・バンディ本人とのインタビューから構成されたドキュメンタリー
2019年製作/109分/R15+/アメリカ
原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile
監督:ジョー・バーリンジャー、原作:エリザベス・クレプファー、脚本:マイケル・ワーウィー、撮影:ブランドン・トゥロスト、製作総指揮:ザック・エフロンほか、出演:ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラーリオ、ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジム・パーソンズ、ジョン・マルコビッチ
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