芥川賞作品、火花を読了。
『狂ってる』とか『アホ』が最上級の褒め言葉になる、芸人の温かさがとてもリアルでした。
私がいた養成所も、鬼の構成作家さんから、ガチガチの説教をされて、仕上げに『分かったか!?』と怒鳴られた時、『おっす。オラ悟空。』と返すと、一転褒められるような奇天烈空間だったことを思い出します。
20歳そこそこの僕は、世の中にこんなクレイジーな空間があることが面白くてたまりませんでした。
後にNHKのオンエアバトルでも活躍した、シロハタというコンビの『たーくん』と稽古から一緒に帰ったクリスマスの日。
彼女へのプレゼントを嬉しそうに抱えながら、
『これ渡したら、あいつ嬉しそうな顔するやろ。それ見たら俺、間違いなく腹立つねん。』と呟いた、たーくん。
下手くそな照れ隠しなのか、純度の高い変態なのかは定かではありませんが、普通の会話が成り立たないヒリヒリした感じは、とても居心地が良かったことを覚えています。
爆裂コンビ『虹の黄昏』さんと栃木のイベントに一緒にいった帰り道の車中、自ら作ったという謎のラップに、3時間延々、合いの手を打たされたこともありました。
灼熱のサウナ(健康ランドの本物のサウナ)の中で3分ネタ×3ステージの営業で、本当の意味で死にかけたこともありました。
頭に鳥のフンを被弾した時、大したリアクションを取るでもなく、手で拭い去り、無言で僕のダウンジャケットに擦り付けてきた女芸人に対しては、今も断固として着信拒否を貫いています。
当時は、ネタ番組が全盛で『オーディションに勝ちたければ、子供が真似をするネタを作れ』と放送作家さんから言われた時代。
ライブで無類の強さを誇り、幾多のネタ見せを乗り越え、テレビへと勝ち上がっていった先輩たちですら、ネットでは『一発屋』と揶揄される厳しすぎる現実。
そんな厳しい競争のライバルでありながら、どんな事も笑い飛ばしてくれる仲間は圧倒的に心強くて、『マイナスからプラス』を生み出す事を教えてもらいました。
めちゃくちゃ腹立つことや、恥ずかしい失敗をしちゃった時でも、すかさずメモ帳を取り出しエピソードトークの貯金をする『芸人』という人種は、私の知る限り最強の人類です。
作中で特に響いたのは『生きている限り、バッドエンドはない。僕たちはまだ途中だ、これから続きをやるのだ』という一文。目の前に手一杯になると、つい忘れがちですが、この精神はいつも胸に持ち続けようと思います。
面白くて面白くて、夢中で読み進み、最後は真面目に読んでたことを後悔するくらい笑っちゃう芥川賞作品。
間違いなくオススメです。