またまた北京語言学院に留学していた時の思い出です
この学校のよいところは
いろいろな催しもあったことです
まあ
留学生が多いので
そういうことがしやすかったのかもしれません
ある時のことです
留学生による運動会を開催する
との通知がありました
開催日より1カ月ぐらい前だったかな
もう少し前だったかもしれない
日本で「運動会」と言いますと
運動会専用みたいな競技が多いですよね
「大玉ころがし」とか「玉入れ」とか
「騎馬戦」とか
今じゃ
けがをしやすいということで
あまりやらなくなったみたいだけど
「棒倒し」みたいな競技もある
中国の場合はそうじゃなかった
本格的なスポーツの競技をやるのです
たしか
サッカーもあった
それから
50メートルとか100メートルの短距離走だったら
日本の運動会でもありますけど
かなり長い距離を走る競技もある
たしか1万メートル走だったかな
(5000メートル走だったかもしれない)
で
それぞれのクラスで
担任の先生が出場者を募るわけです
まあ
中距離走みたいな疲れる競技に出たいと名乗り出る留学生は
あまりいない
先生の側としては「員数」を集めねばなりませんから
口説き落としにかかる
それにはかなり時間がかかるかもしれない
ということで
かなり早くから運動会の告知をしていたみたいです
ところが私が留学していた時には
エジプト人のアリ君がいの一番に
「1万メートル走に出ます」と名乗り出た
周囲は驚きました
「え? なんで?」
アリ君は
余裕綽々
威風堂々
説明を始めました
なんでも中学の時から陸上競技をやっていて
エジプトではかなり大きい大会に出場して
好成績を収めたこともあったとか
だから
「私は絶対に優勝して見せる」
と宣言しました
アリ君の説明を聞いた留学生らは
ヤンヤ ヤンヤ
「いろいろな国から来た留学生が出場する
つまり国際大会だ
アリは国際大会のゴールドメダリストになるんだ」
てなことを言うヤツもいた
それを聞くアリ君
まんざらでもない顔をしている
アリ君はやせ型で
手足がとても長い
まあ
エジプト人には多い体型かもしれないけど
たしかに陸上選手みたいに見える
さてさて
運動会の当日になりました
1万メートル走もスタート
注目はもちろん
本命のアリ君です
最初はいかにも
走り慣れているなあ
というフォーム
ところが
まださほど走らないうちに
アリ君のペースがガクンと落ちた
最後尾を走っている
とっても苦しそうだ
かろうじて走っているみたいに見える
何とか完走したのですけど
ほとんど最下位
アリ君の周囲に知り合いの留学生が集まりました
「おい 優勝するはずじゃなかったのかい」
と心無い冷やかしをするヤカラもいる
するとアリ君
「し しくじった ラマダンを忘れていた」
と呻くのでした
ラマダンというのはイスラム教徒にとって
とっても重要な信仰のあかしで
日の出から日の入りまで飲食を断つ
空腹や自己犠牲を経験し
同時に
貧しくて食事もろくにできない人と同じ体験をすることで
貧者によろこんで施しをする心を得る
なんて目的があるとか
私はイスラム教に詳しくないので
表現方法が必ずしもピッタリあっているかどうかは
まあ
だいたいにおいて
そういうことだそうです
アリ君は敬虔なイスラム教徒です
夜明け前にはしっかり食事をして
水分も十分に摂取したのですけど
1万メートル走の競技が行われたのは
午後でした
ということは
一番苦しくなってくるころだったんだろうなあ
アリ君
お疲れさまでした!
ラマダン期間中の日没後の食事の前に祈るイスラム教徒