中国で、「高温超伝導リニアモーターカー」の試作車が完成した。理論上の設計時速は620キロに達するそうだ。それはよいことだし、開発に懸命に取り組んでいる研究者には敬意を表したいけど、大丈夫かなあ。
今、普通に使われている超伝導では、沸点が摂氏マイナス269度の液化ヘリウムが使われるけどこの場合の高温超電導では冷却材として沸点が摂氏マイナス196度の液体窒素で大丈夫だそうだ。
液体窒素だって十分に低温だけど液体ヘリウムに比べりゃずっと高温ということ。
ところで、ヘリウムは極めて希少な物質で、しかも米国での生産量が全世界の8割以上という状態。そして、液体燃料ロケット(もちろん、弾道ミサイルも)を発射する際には燃料の液体酸素を冷却するために、この液体ヘリウムが使われている。
だから米国はヘリウムを重要な戦略物資とみなしていて、米ソ冷戦の際には輸出を禁止したりしたこともある(現在では、弾道ミサイルは燃料注入作業の必要がない固体燃料式が主流)。
だから、中国が液体ヘリウムが必要なリニアモーターカーを作っても、米国が対中輸出を禁止すれば、すぐに動かせなくなる。液体窒素が使えるリニアモーターカーを実用化できれば、中国にとって意義はとても大きい。
(日本のリニアモーターにしてもヘリウムが必要で、「十分な確保できるのかね?」と疑問を示した研究者がいた)
ただ、とっても大きな問題がある。世界中で「高温超伝導」を実現する物質の開発が続いているが、要するに「かなり無理をして複雑な物質を作る」という方向だ。というか、そうならざるをえない。
そして、最大の難関は超伝導現象を安定して継続させること。なんかの拍子で結晶構造がわずかに変化して超伝導が失われたら、とんでもないことになる。
なんでまたリニアモーターカーが超伝導なんかを必要とするかと言えば、車体を十分に浮かせるため。車体を十分に浮かせるためには大電流を必要とする。通常の電流である常伝導では、どんなに頑張っても莫大な抵抗熱が出る。放熱はほぼ不可能だし、第一、電力コストがとんでもないことになる。
ちなみに上海リニアはドイツのジーメンスが開発した方式だけど、常伝導を利用している。車体を浮き上がらせる高さはごくわずか。だから地震などにはとても弱い。
日本が超伝導方式にこだわった最大の理由は「地震に比較的強い」ということだった。
さて、話を中国の高温超伝導方式に戻そう。
走行中に何らかの原因で超伝導が失われたら、とんでもないことになる。瞬間的に莫大な抵抗熱が放出される。大爆発を起こすこと、間違いなし。
中国の関係者は「高温超伝導を安定して維持できる物質」の開発の成功を期待しているのかもしれないけど、どうかなあ。
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