小僧物語(18)立たなくなったどうしよう? | 愚僧日記3

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知外坊真教

私自身の加行体験は、前回までで終わりにする。今回は私が学生加行の監督をした体験を綴る。

高野山大学では、私が加行をしたときから大学主催の学生加行をするようになった。原則在校生が加行をするためだった。回を重ねるごとに充実していき、学生加行用の次第や、加行道場も整備された。

学生加行用の次第は、前述の中川善教師によって作られた。中川師の次第は、おそらく真言宗の加行道場の中で、もっとも濃い~内容だと思う。

そして、加行監督は大学の教員と職員が交代で行った。職員の中で、加行潅頂を受けた人が監督をしたのだが、時々学生が監督に質問にきた。その質問のなかには、爆笑ものの話がある。

ある日、ひとりの学生が不安げな顔をして私のところにきた。もそもそして話そうとしない、どうした遠慮無く言え!と促したところ、、、、

先生、、、俺、立たなくなっちゃった、、、先生どうしよう!

大真面目に聞いてきた。何考えてるんだ?と呆れて聞き返すと、大真面目に大学を卒業したら結婚する相手が決まってるという。このまま性不能だと結婚できない!と彼なりに真剣なのだ。幸い彼の勃起障害は、その後に改善したらしい。彼にとって僧侶として一人前になるためには加行は欠かせない。でも勃起不全というのも、彼にとっては将来の不安材料だったのだ。

加行監督は、学生が行法しているときに見回りをするのだが、あるとき、ひとりの学生が座ったまま寝てしまっていた。真言を千回唱えている途中だったと思われる。そっと肩を叩くと、驚いて目を覚ます。

ところが数を数えていた数珠が、寝ている間に落ちていた。慌てて拾い上げると、私の方にまなざしを向けてきた。数珠を見ると、まだ百回唱えたところだった。

~あと、900回やね、頑張って!~

と声を掛けてやる。まわりの学生たちは行法が終わりかけていた。可哀相に彼は寝ていた間に取り残されてしまったのである。

睡魔に襲われる行者は少なくない。とくに散念誦という行法次第のなかでも一番睡魔に襲われやすいところがある。散念誦という箇所は、オンバザラダトバンという真言を1000回とか、そこだけで20分くらい掛かる。

別に何を急ぐ必要も無いのだ。彼らは行法だけをしていればいい。なのに加行に入って1か月くらいは、早く終えたいと真言を機関銃のように早口で唱える。それは滑稽にも思える。

それでも1ヶ月を過ぎる頃から、あきらめて腹をくくるようになる。私は楽しめるようになった。しかし学生加行は、大学の構内にある道場でするので、中途半端に俗世間とつながっている。山内放送や、隣接する図書館から女性の声が聞こえたりする。やはり修行道場というのは、真別処円通律寺のように、世間から遠く離れてなければとつくづく思ったものだった。