小僧物語(14)女の声がする? | 愚僧日記3

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知外坊真教

真別処円通律寺の真冬の修行を楽しんでいた私は、行者の中でも変わり者でした。ほとんどの行者は、耐え難きを耐える日々でした。

多くの行者は、カレンダーを持参して、×印を毎日書き込んでいました。4人部家に4つもカレンダーがあるのですから笑えます。

便利な生活を満喫していた行者は、不自由な食生活、生まれて初めてこんな早起きしたこともなく、生まれて初めて早寝したこともない人には慣れるのに時間がかかりました。

修行の最初のうちは、早寝に慣れないので、消灯してもそこら中で話し声が聞こえました。しかし、礼拝加行に入ると、皆疲れ果てて爆睡するようになりました。

そして早起きにも慣れてきます。しかし、慣れないストイックな生活や、慣れない精進料理に、これまた慣れない断食なんかトライする奴がいました。

そんな一人が、ある日のことです、朝のお勤めが終わったら呟きました。

俺、女の声が聞こえた、、、

すると、明くる日になると、別の断食をしている行者が、女の声が聞こえたと言い出しました。

明くる日も、だんだんそんな事を呟く奴らが出だしました。私はこれだなぁって思いました。

私は師僧から修行に入る前に言われました。

加行は、ひとりでするものだ、他の行者に流されてはいけない。断食も絶対にするな。環境になれてないのに断食なんてすると、幻聴や幻覚が出たりして、肝心な行法に集中できなくなるからな。断食は禁止。流されずにベストな体調を保つこと!

って口酸っぱく言われました。まさにこれだなぁって思いました。そのうち断食に耐えられず食べ出すと、自然に女の声はしなくなりました。

私は女の声よりも、獣の気配を感じていました。周囲には鹿や猪がいました。こうした獣は、私達修行僧がいることが分かっていましたから、隙あらば食べ物にありつこうと集まっていました。

ある日のことです。その日は奥の院参拝もなく、昼ご飯を終えて、寺の周りにある祠にお供え物をもってお参りに皆で行きました。

お供え物を供えて、読経が始まった途端、野生の鹿が表れて、お供え物をを咥えて持って行ってしまいました。読経が始まると、私達修行僧は動けないことを鹿は分かっているのでした。

私達修行僧も、この鹿達にとっては自然そのものなのでした。