※ 10万HITリクエスト!てん様から頂きました☆
必ず読む前に注意☆ に目を通してください!
「・・・・・・・・・・貴方には・・・・当時妻がいたんですよね?」
久遠の言葉に、隣の社は少し咎める視線をなげてきた。
知っていながらも一つ一つ確認していく言葉は、まるで蓮に一つ一つ罪状を突きつけているようで
あの結末を責めているようで
だが、久遠は知りたかった
敦賀蓮の事を知りたかった
「ああ・・・・・当時結婚して4年目だった。俺には勿体無いぐらいの素晴らしい女性だったよ。」
淡々と話す蓮の様子は、あえて感情を押し込んでいるのか、判らなかった。
「奥さんを・・・・愛していたんですか?」
「・・・愛していたよ」
京子の名前を出しただけで涙を見せた男は、妻の事を愛していたと口に出す
その事に苦々しい想いが再び湧き上がってきた
知りたいと思う反面、理解が出来ないもどかしさ
「なら・・・ッ!どうして・・・ッ!」
底から絞り出す様な久遠の言葉に対する答えを蓮は持っていなかった
どうしてか・・・・なんて、20年たった今でも
全てが終わった今でも判らない
判るのは「始まり」ではなく「終わり」だったのだから
あの朝は晴れていたのを覚えている
透き通るぐらいの青い空は、清々しい気持ちにさせてくれて
その奥に潜む暗雲に気付かなかった
「貴方、今日は何時ぐらいのお帰りになります?」
朝食時にいつもの様に妻の綾が聞いてきたのを、蓮はいつもの様に微笑んだ。
「今日は、講師のあと最上邸の日だから少し遅くなるよ」
「まあ、そうでしたね。最上の若奥様に先日お借りした本を返して頂けますか?」
「判った。」
そう言って朝食を食べ終えると、心得たように出掛ける支度をしてくれる妻に、誇らしい様な、嬉しい気持ちになる。
ピアノで生計を立てている蓮にとって、決して生活は豊かではなかった。
だが、芸術学校の講師と貴族の方へのピアノの手ほどきで、妻と二人生活していくには十分でもあった。
妻の綾と結婚したのは4年前、知人の紹介で知り合った。
3つ年下の妻は美しく従順で、控えめで、やさしく、よく蓮を支えてくれていた。
唯一の懸念は未だ子供がいなかった事だが、妻ほど蓮は問題にはしてなかった。
それでも結婚生活は十分に満ち足りていたのだから。
「とても面白かったと伝えてください。いつもありがとうございますと」
「ああ」
本は高価なものだったので、蓮はよく妻の為に本を借りてきていた。
特に最上家の京子は、綾と年が近いのもあって綾が好みそうな本を多くもっており、よく本を借りていたのだ。
本を借りて来た時に見せる嬉しそうな顔が蓮は好きだった。
そして、後に思えば・・・・・この朝が妻の顔をなんの後ろめたさも持たずに見た最後だった。
蓮にとって京子は数人いる貴族の教え子の一人だった。
京子の元々のピアノの先生が田舎に越すのを機に、蓮がその役目を引き受けて半年になる。
貴族特有の澄ました所も、内気過ぎる所もなく
素直で、純粋で、真面目な京子を蓮は、生徒として好ましく思っていた。
上手になって夫に聞かせるのだと、いつも真剣に鍵盤に向き合っている姿にも微笑ましく思っていたのだが、その日は少し様子が違った。
「・・・・・・京子さん?どうかした?」
「・・・・・・・・・え・・・・あ・・・・・」
レッスンが開始してから、どこかぼんやりとした様子の京子。
声をかければ我に返るが、どこか集中しきれていないように見える
いつもはこちらが感心するぐらいの集中力を見せるだけに、それはとても珍しい事だった。
「調子でも悪い?今日はもうやめにしようか?」
「いえ・・・・ええと・・・ダイジョウブデス・・・」
そう言って鍵盤に向かうものの、やはりどこか様子がおかしいと思った。
なによりも奏でる音色は誤魔化されず、正直だ。
京子の人柄を現わす様なあの音色
聞けなくて想像以上に残念に想っている自分がいた。
あまり込み入った事を聞く気は無いが・・・
「京子さん、やはり今日はもう辞めよう。何か悩みがあるなら次回までに解決している事を願っているよ」
ほんの少しの戒めを含めて、溜息まじりに言うと京子はハッと目を見開いた。
「・・・・・・・すみません・・・・」
自分の未熟さを見抜かれたのを恥じるように、顔を赤くして目を伏せる姿に、京子の素直さが表れていると思った。
素直で純粋で、いつも真っすぐな娘だったから
あの笑顔も、音色も、早く戻ってきて欲しいと願ったから
だから、つい口に出た言葉だった
「・・・・・・俺で力になれる事があったら相談にのるから」
実際に自分に何が出来るとも思っていなかった
貴族の彼女と庶民の自分
ただのピアノの教師と生徒
たんなる社交辞令的な、励まし同様の言葉
なのに、彼女はその言葉に目を見開いて固まった
じっと、何かを訴えるような視線に思わず、引き込まれた
「京子・・・さん?」
「あ・・・・・あの・・・キャッ!」
横向きで思わず身をのりだした京子はそのはずみで、ふいにぐらりと体が傾いた。
それは、ほんの一瞬だったが思わず蓮は手を伸ばし京子の体を支えた。
「大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・はい・・・・」
肩に当たる大きな手
その熱
それは、その手が体から離れても、何故か心に残った。
だから
京子はその手をじっと見つめていた
「・・・・・・・先生・・・・」
「ん?」
京子は何かを言いたそうに・・・だけど、再び考え込むように黙って、そして出て来た言葉は全く予想しなかったモノだった。
「先生・・・・私と・・・・・不貞しませんか?」
「・・・・・・・・・・・え?」
蓮は静かに久遠に目を向けた。
自分を射抜く視線は、ほんのわずかな誤魔化しも許さないと言っている様に見えた。
「君は・・・・・どこまで聞いているんだ?」
京子と尚の息子だと言った彼の様子と、自分への態度から何とく予想は着いたが確認せずにはいられなかった。
そして、久遠一瞬躊躇して・・・だが、ここで言わなければ、きっとそれ以上は聞けない気がしたから
「・・・・・・・・・貴方が・・・・妻がありながら・・・・母と・・・・・・不貞関係にあったと・・・」
口に出すにはひどく言いづらい言葉
自分の母の不名誉な言葉
なのに脳裏に浮かぶのは、あの時の母の姿
「・・・・・・・・そうだね・・・・その通りだ・・・・」
「不貞か・・・」と呟く蓮は、あの時の事を思い出していた。
突然の突拍子もない京子の提案
あれが始まりだったかと言えば、きっと違う
だが
その後にも・・・・その以前にも・・・・・やっぱり「始まり」なんて判らなかった。
参加しています☆ぽちっとお願いします☆
↓↓↓