大阪国際フェスティバル『サロメ』の感想 フェスティバルホール 2019年6月8日 |   kinuzabuの日々・・・

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大阪国際フェスティバルのリヒャルト・シュトラウス作曲歌劇『サロメ』の公演に行ってきた。

指揮者はシャルル・デュトワ。題名役はリカルダ・メルベート。オケは大阪フィルハーモニー交響楽団。コンサート形式。会場は、大阪中之島のフェスティバルホール。2019年6月8日。

 



サロメを歌うリカルダ・メルベートが来年パリでブリュンヒルデを歌うことを知って、彼女の歌を聴いてみたくなり、チケットを買った。そこに病気で休養する尾高さんに代わってデュトワが大フィルを指揮するという。

デュトワといえば、セクハラで問題となって、主要オケからは追放状態。最初は大フィルに、大阪国際フェスティバル協会にプライドはないのかと反発していた。

だが、デュトワに代わってもチケットを放出しなかったのは、デュトワの『サロメ』を聴いてみたいと思ったことも否定できない。


舞台の上は楽器と奏者でいっぱい。それを見るだけでR・シュトラウスの音が聞こえてきそうだ。


指揮者と歌手が出てきて、演奏の始まり。

最初の一音がふわっとはじまり、そこからもう感激してしまった。何と軽やかで美しいのだろう。

デュトワの指揮は基本、音が美しく、クリアで、楽器ごとの分離がよい。これは昔聴いたときから変わらない。変わったのはオケからR・シュトラウスの音(特に弦と木管の官能的な音)をしっかり引き出し、極めて情熱的な音楽を形作っていること。熱いサロメ。

歌手はサロメのリカルダ・メルベートが圧巻。あれだけオケが鳴っても突き抜ける強い声はサロメを聴く醍醐味を十分味あわせてくれた。音程もよく、声の質も好み。ヘロデの福井さんも声がヘロデ!こういう役も高精度にこなせるんだなと感心。ナラポートの望月さんも雰囲気が良くてよかった。

一方、ヨカナーンの友清さんはいい声だったけどオケが絡みすぎて少しかわいそうかな。音響効果を使うのも私は好きじゃない。

そして、最後の聴きどころの7つのベールの踊りでは、デュトワはゆっくり目でオケをあおり、これでもかという緊張感で会場を満たした。呆然とした。最後まで緊張感が続き、終了。


やっぱりデュトワはすごいわ。大フィルからこれだけの音を引出し、無難どころか、極めて上質のR・シュトラウスを実現するのだから、その実力は計り知れない。相当なリハーサルをこなしたのではないか。


で、デュトワのセクハラ問題になるけど、この演奏会を聴くと、問題に正面から向き合って、真摯な音楽を作り出すことに専念しているように思えた。日本の地方オケを指揮して、実績作りをしているのだろうけれど、それだけでない使命感のようなものを持って、大フィルを指導しているのではないだろうか。

無論、セクハラは許されるものではないけれど、以前より、それに対する怒りは減ったように思う。もちろん、いい音楽を聴けたせいもあるが、彼の音楽に対する姿勢に感銘を受けたことが大きい。

デュトワのこれからを考えると、もうお歳だし、引退してもいいと思うのだが、一流どころでない地方オケをガンガン指導していくというやり方もあるのではないかと、今回の演奏を聴いて感じた。彼ならでは、今の境遇ならではのやり方があるような気がする。


それはともあれ、いい音楽を聴けて良かった。こういうR・シュトラウスは日本では聴くことは少ないだろう。もっとR・シュトラウスのオペラを聴きたい!と強く思ったコンサートだった。