「ペーターコンヴィチュニー・オペラ・アカデミー in びわ湖2013」聴講記録1 |   kinuzabuの日々・・・

  kinuzabuの日々・・・

      徒然なるままに日々のこと、考えていることを書き連ねる

びわ湖ホールで行われている、ペーターコンヴィチュニー・オペラ・アカデミーを聴講してます。今年は8月3日から8月12日までで、今回取り上げるオペラはモーツァルトの《魔笛》です。

講師であるぺーター・コンヴィチュニー氏は、多くのオペラ公演で世界中に旋風を巻き起こし、演出の時代のオペラ公演を、中心となって引っ張ってきた著名な演出家です。こんな人が、毎年びわ湖ホールに来てワークショップを開いてくれているなんて、オペラファンとしては驚愕するしかありません。

ホントは聴講できるのは音楽、演出関係者ということなのですが、一般人の私が申し込んで聴講できることになりました。といって、平日働いているので、土日しか行けません。これまで8月3日の全日と8月4日の前半のみ聴講しましたので、そこで見て聞いたことを書き並べてみました。

間違いがあるかもしれませんがご容赦ください。なお、何もないところはコンヴィチュニーが話をしたり、指示したこと。「⇒」はコンヴィチュニーの指示で歌手がした行動。()の中は私が思ったこと。

それにしても、1日半でこれだけ書くことがあるのですから、十日間になるとどうなることやら。セリフの一言づつ、音楽の記号など、極めて細かく演出をし、緻密にオペラを作り上げていることを身をもって知りました。すごいです。

ちなみに、以下のサイトで、中央大学の森岡実穂氏が関連ツイートをまとめていらっしゃいます。

コンヴィチュニー オペラ・アカデミーinびわ湖2013 講義日誌+レポ集



2013.08.03(1日目)

冒頭

・「魔笛」というオペラはメルヘンチックで王子様と王女様が結ばれるハッピーエンドのオペラといわれるが、実は2人もの出演者が死を選ぼうとする。そんな物語がメルヘンなのか?

・このオペラは二年前に起きたフランス革命の影響を受けている。いろんなことが解放された。

・「魔笛」は多くの矛盾を抱えたわけのわからないオペラ。これを演出するには二つの方法がある。一つは棘を丸めて全体をまとめてハッピーエンドにするもの。もうひとつは棘をそのまま表して、まとめずにその姿をありのままに提示すること。私は後者を選ぶ。

・この演出では夜の女王は、舞台の隅で飲んだくれて、舞台を見ている。夫に逃げられ、娘はさらわれ、不幸のどん底にいる。だから酒で紛らわせている。悪になる可能性がある。


No.1、タミーノ、3人の侍女のアリア

・舞台中央にいるタミーノは、舞台後方からゆっくりと前に歩み寄ってくる集団により舞台から押し出さていく。大蛇は舞台後方の集団であり、タミーノは客席に助けを求める

・3人の侍女はタミーノがイケメンなので、夜の女王に報告するよりも自分のものにしようと思う。それぞれ他の侍女を引き離しながらタミーノを奪おうとする。夜の女王への忠誠心は低い。

フェルマータは何のためにあるのか?。音楽の指示だけではない。ここで場面が変わる。そこで何かを起こす。
  ⇒3人の侍女が口げんか。

・eiは卵の意味だが、バカっぽいというニュアンス。侍女はタミーノを挑発している。3人の侍女はそれぞれ客席に訴えて客席を味方につけようとする

・音楽の中にモーツァルトの笑い声が聞こえる。(転調し6/8拍子になった後3小節目のフルートとファゴット)

・音楽が始まって3人の侍女はタミーノを誘惑しようとボタンを外したりズボンを下げたりアピールするが、またフェルマータ
  ⇒我に返り、服装を整えて客席に向かってとりつくろうように笑う。

さらにフェルマータ。蛇である絨毯の巻物をタミーノのそばにそっと置く。

フォルテは何のためにあるのか?
  ⇒蛇の血を示す赤い紙ふぶきをフォルテに合わせて絨毯にドバっと落とす。


・最後は三連符で終わる。気を失っているタミーノをこの音でたたき起こしている


No.2パパゲーノのアリア

・パパゲーノは鳥刺しだが、鳥をとるだけで生活している人はいるか?そんな人はいない。存在がメルヘン、愛、神的。つまり多様性を持っている。鳥かごはメルヘンなので、靴箱に代える

・パパゲーノは網で身を隠す。網で鳥を捕まえる。捕まえる動作を繰り返す。女の子を捕まえるための網でもある。

・タミーノは客席に向かって「パパゲーノの正体は何?」と尋ね、蛇が死んだ姿を客席からの指摘で知る。客席とのコミュニケーション

・タミーノは「僕は王子様だ」「パパは王様」という。(客席がわらう)笑いが出るのはタミーノが能天気だから。

・パパゲーノはタミーノに向かって真剣にしゃべらない。女の子といちゃいちゃしながら、軽く話す。タミーノの相手をしないが、夜の女王が怖くて、声に出せない

・タミーノはパパゲーノに「君はそもそも人間なのか?」と失礼なことをいう。自分は能天気な「王子様」なのに。

・三人の侍女が介入、不機嫌そうに机をたたいて「パパゲーノ!」(机をたたく音と声を3人で合わせる)。パパゲーノは侍女が怖いから声を震わせる

・3人目が口にカギをつけるとき、股間を膝蹴り、背中をひじ打ち、椅子に座らせて口をテープでふさぐ。こんなことをされたらパパゲーノはどういう反応をすると思うか?
  ⇒暴れる。暴れるのを侍女が抑え込む。腕を後ろへ引っ張る、脚を体で押さえ込む。


No.3 タミーノのアリア

・パミーナの肖像画はビデオ(ダイアナ妃の結婚式)。肖像画だと見た後にすることがない。「結婚式」からは「愛」を思い浮かべる。それも永遠の愛。

・ビデオは侍女が持ってきた不思議なもの

・このアリアはいろいろな音楽でできている。音楽の変化はタミーノの心の変化。それぞれ音楽に合わせて別々に動く。

死んでいると思った人が生きていると知った時、どれだけうれしいと思うのか?周りの人と抱き合って喜びあいたいと思うだろ。サッカーも一緒だ。ギリギリのところで点が入ったら、知らない隣の席の人と抱き合って喜ぶだろう。真剣な気持ちだからこそ喜ぶ。それは人間の本能。
  ⇒客席の女性を捕まえて熱狂的に抱きつく、スクリーンの前で称える、もう一人のタミーノと肩を組んで歌う。


・夜の女王は、ここまでの三人の侍女とタミーノの話を聞いている

・侍女はタミーノへのセリフをスチュワーデスが非常経路の案内をするときの仕草でいう。
1)両手を前に平行に出し通路を示しながら「あなたに必要なのは勇気と意志の強さです」
2)右腕を後ろにいる夜の女王に向けて前方の非常口を示しながら「女王様のメッセージをお伝えしましょう」
3)両腕を平行に前から後ろへ回して非常時に通路に明かりが点くことを示しながら「幸せに通じる道が」
4)両手を肩まで上げて左右に手を振り両側に非常口があることを示しながら「あなたの目の前に拓けているのです」。
(ばっちりあってて爆笑。「幸せに通じる道」って非常口!と通訳氏)



2013.08.04(2日目)

・侍女たちのセリフにはエロティックな部分がある。糸杉はパミーナとザラストロの密会の場所。パミーナとザラストロの間に関係、あるいは思いがあることをにおわせる。

・夜の女王がこちらを観察していることを知り、タミーノはピアノの下に隠れる。3人の侍女にもてあそばれる。本来はピアノの下でやりたかったが、せまいのでピアノの下からタミーノを引き出す。

ザラストロは性的に魅力的だと思わせるように。悪者だけどいい男。

・侍女がザラストロがすぐ近くにいるというセリフでは、「(私たちの)すぐ近くよ」という感じで胸にタミーノの頭を押し付ける。「糸杉の近くで」でタミーノの指を触る。

・ピアノの裏で見えにくいところでエロティックな演技をしている。思わず覗きたくなるだろ。オペラは全部見えなくていいと思う。

・「娘をきっと助けだしてくれる」というセリフで、タミーノは初めて王女様がそんな状況にあることを知って驚く。頭を上げる。

・侍女の話は作り話。タミーノの想像をかきたてる。いろんな情報が次から次と入ってくる。侍女はタミーノを洗脳しようとする。

・女王は侍女とタミーノのやり取りを全部知っている。やりとりを陰から覗いている。

王女さまの名前「パミーナ」はとっておきの情報。侍女はゆっくりためて伝える。そこでタミーノは奮い立つ!

・タミーノの「パミーナ、君は僕のものだ」なんて言葉をどう思うか?こんなことを言わないだろ。タミーノはおめでたい人。肖像画を見ただけなのに「君は僕のものだ」という。

・オペラ上演の95%はばかげている。でもオペラはばかげてない。ばかげたものにならないようにするのが演出。洗脳するには説得力が必要

パミーナは意外と軽いのよね。

・タミーノの「誓うぞ、この愛にかけて」のせりふで夜の女王が机をひっくり返す。やってきたのがおめでたい王子様なので、「ふざけんじゃないわよ!こんなやつに娘を取り返すことなんてできるわけないじゃない!」と思っている

・夜の女王だけあって強いオーラを持つ。酔っぱらうとさらにいろんな力を持つ


No.4 夜の女王のアリア

・フランス革命は性的解放をも意味する。清く正しく賢いことを馬鹿にする。

・我が息子と言われる。初めて会ったのに何故こんなことを言われるのか?タミーノは驚くはず。

女王の嘆きは本物なのか?真実かどうかわからない。悲劇と喜劇を併せ持つ。人生も同じ

・女王様の登場は「夜の女王様のお出ましです」ではなく、「わあ、でてきた!今日はいつもより荒れてるわ~」という感じで3人の侍女は「来たー!!!」と叫び走って逃げまどいそれぞれ分かれて隅に隠れる

・なぜタミーノが夜の女王を助けようと思ったのかわからなかった。おそらく声に説得された。ならば映すべきものは声帯。夜の女王のアリアでは生で侍女がビデオをとり、スクリーンに映す。全体から口にズームし、最後は本物の声帯の映像。



以上です。次の土曜日からまた聴講に行きます。とても楽しみです。