米国を孤立させるトランプのイラン敵視策
https://tanakanews.com/170211iran.htm
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まず要約。
トランプは、オバマがイランと結んだ核協定を破棄(再交渉)し、イランのミサイル試射を機に、イラン制裁を強化すると言っている。
だが世界各国は、それについてこない姿勢を強めている。
トランプが和解するはずのロシアは、イランの肩を持った。
中国もイラン制裁に反対している。
サウジアラビアなどGCCは逆に、イランとの対話を開始することにした。
トランプからイラン制裁強化の宣伝役を任されたイスラエルのネタニヤフは、英国に行ってメイに圧力をかけたが、結局メイはイランとの既存の核協定を堅持した。
エアバス機を売り込んだフランスも核協定支持を表明。
米国内でも、与党共和党の議会筆頭のライアンが、核協定の破棄は簡単でないと言っている。
(UK defies Israeli pressure on Iran nuclear agreement) (Ryan admits Iran deal cannot be simply undone)
だがトランプはむしろ、孤立するほど過激になる。
トランプは共和党のイラン敵視議員と結託し、イラン政府の軍隊である「革命防衛隊」をテロ支援組織に指定して制裁する法案を議会で通そうとしている。
防衛隊は中東最強の軍隊のひとつで、イラク、シリア、レバノンといったシーア派系諸国でも大きな影響力を持っている。
米国が防衛隊をテロ指定すると、イラン国内やシーア系諸国で反米ナショナリズムが扇動されて強硬派が台頭し、親欧米的な穏健派が力を失う。
防衛隊は、制裁されるとむしろ影響力が増して得をする。
イランはトランプと張り合う姿勢を見せ、2度目のミサイル試射を挙行した。
米議会では、シーア派のイラン革命防衛隊だけでなく、スンニ派の世界的な政治組織である「ムスリム同胞団」をもテロ支援組織に指定して制裁する法案を検討している。
同胞団は穏健派であり、テロ支援などしておらず、制裁は逆効果だ。
米国内外の政府機関や専門家がそう言って同胞団制裁に反対しているが、トランプは無視している。
米国のイスラム教徒の主要な合法団体は同胞団系で、それらが閉鎖されると、米国のイスラム教徒の政治活動は地下化し、テロがむしろ起こりやすくなる。
トランプは、米国の孤立化や、中東から米国自身を締め出す流れを扇動している。
要約ここまで。
▼ロシアとの和解を棚上げして世界にイランを敵視させる
1月29日にイランがミサイル発射実験を行ったのを機に、米国のトランプ政権が、イラン制裁の再強化と、オバマ政権が結んだイランとの核協定を破棄(表向きは、いったん破棄して再交渉)する姿勢を強めている。
先週の記事では、トランプの米国がイランを敵視するのと同期して、シリアに進出しているロシア軍が、シリアからイランやヒズボラを追い出す動きを強めており、イラン敵視でトランプとプーチンが協調するような流れになっていることを指摘した。
だがその後、ロシアのチュルキン国連大使は2月7日、イランのミサイル試射は法的に国連の取り決めに違反しておらず、米国がイランが違法行為をしたと言っているのは驚きだと表明した。
イランが試射したミサイルは核弾頭を搭載できるもので、同種のミサイル開発を禁止した国連決議に違反していると米国は言っているが、その条項がある国連決議は15年7月、オバマが作って可決された新たな国連決議(いわゆるイランとの核協定)によって上書きされた。
新決議は、イランが核弾頭ミサイルの開発をしないことを望むと書いてあるが、明確な禁止事項として規定していないので、今回のミサイル試射は合法行為の範囲だとチュルキンは言っている。
ロシアのラブロフ外相は、イランが中東でのテロ退治に必須な勢力だと評価し、制裁に反対する姿勢を見せた。
ロシアの外務次官も、米国のイラン再制裁(イラン核協定の再交渉)は中東を不安定な状態に引き戻すので危険だと警告している。
やや脱線するが、国連安保理での最近の米露のやり取りからは、トランプが当初述べていた対露和解が棚上げされている感じが強まっている。
米国の新任のヘイリー国連大使は2月2日、ロシアが併合したクリミアをウクライナ領に戻さない限り米国はロシア制裁を解除しないと宣言し、ウクライナ東部の混乱は(ウクライナでなく)ロシアのせいだと批判した。
これは、これまでのトランプの親露姿勢から離れるものであり、ロシアのチュルキン大使は、米国はロシアに対する態度を変えたと指摘している。
トランプ政権が対露姿勢を敵対方向に変えたことと、ロシアがイランの肩を持つようになったことは、連動している可能性がある。
ロシアは、トランプのイラン制裁につき合わない態度を表明した後、イランに戦闘機を売ることを表明し、イランの空軍基地をロシア軍が使う話を蒸し返して、イランと軍事関係の強化に動いている。
米国がイラン敵視を強めてもロシアがそれに乗らなければ、シリアやイラクでのIS退治は従前どおり露イランの主導で続き、何も変わらない。
トランプはイラン敵視を強めると同時に、サウジアラビアに対し、オバマ時代の米国が人権侵害を理由に輸出を停止していた武器を売る決定をするなど、イランを敵視するサウジへのテコ入れを強めている観がある。
だがこれも、サウジの方が歓喜一辺倒かというとそうでもない。
サウジは最近、イランを敵視するだけだったこれまでの姿勢をやや転換し、中東におけるイランの台頭を容認しているふしがある。
たとえばレバノンでは、政治台頭するシーア派のヒズボラとの敵対を緩和し、サウジは、ヒズボラが提案してきた和解策を受け入れ、召喚したままにしてあった駐レバノン大使を再任して戻した。
レバノンは、かつてサウジの影響下にあったが、11年のシリア内戦勃発後、ヒズボラが台頭してサウジが追い出された。
最近、シリア内戦がアサド・ヒズボラ側の勝利で終わりつつあり、ヒズボラはかつてサウジの傀儡として首相をしていたサード・ハリリを首相職に戻すことでサウジに和解を提案し、サウジはヒズボラが支配するレバノンとの関係再構築に同意した。
サウジはペルシャ湾岸のアラブ産油国(GCC)を率いる国だが、GCCに加盟するクウェートの外相は1月末、GCCとイランを和解させるためイランを訪問した。
イラン側が和解に前向きな姿勢をみせたため、まず石油の価格政策で協調していくことから話し合いを始めることが決まった。
こうした動きの最中に、トランプがイラン敵視を強めている。
対米従属色が濃いサウジやGCCは今後、米国に配慮してイランとの和解を進めるのを棚上げするかもしれない。
だが、いずれ中東での米国の影響力がまた低下したら、サウジやGCCは再びイランに接近することになる。
▼トランプがまっとうな中東戦略をやらないのは意図的?
トランプのイラン敵視策を積極的に支持しているのは、世界中でネタニヤフのイスラエルだけだ。
イスラエルでさえ、軍やモサドといった諜報界が「今あるイラン核協定を壊すのはイランを強化してしまう」と猛反対するのを、ネタニヤフが無視してトランプとの同盟関係に賭けている状態だ。
他の国々はみな、トランプのイラン核協約破棄(再交渉)に反対するか、懸念している。
トランプは、大統領就任来のやり方から考えて、世界中から反対されてもイラン敵視を引っ込めず貫くだろう。
トランプのイラン敵視策は、世界的な策にならない。
米国はいずれ国連安保理で、今のイラン核協定を破棄してイランにとってもっと厳しい別の協定の交渉を始める決議案を提案するかもしれない。
だが、各国の現在の態度から考えて、中国(とロシア?)が反対して拒否権を発動し、否決される。
国連で否決された後、米国だけが勝手にイラン核協定を破棄して離脱する。
トランプは国連を非難し、前回の記事で紹介した、国連に運営費を出さない大統領令を発動する可能性が強まる。
トランプは、当初予定していたロシアとの和解も棚上げし、イランに寛容でイスラエルに厳しい国連など国際社会を批判し、実質的に離脱していく傾向を強める。
トランプは、サウジを誘ってイラン敵視を強めようとするかもしれないが、誘われてホイホイついていくとトランプと一緒に国際的に孤立するはめになる。
しだいに、トランプの米国とまっとうにつき合う国が減っていく。
米国抜きの、中露イランなどが影響力を行使する多極型の世界が形成されていく。
多くの人々は、これを「トランプの失策」と呼ぶだろうが、私から見ると、トランプは意図的にこれをやろうとしている。
トランプは、多極化をこっそり扇動している。
今後の多極化の進行速度は、中露イランなど多極化を指向する国々がどれだけ思い切りやるか、それから、日本やイスラエル、英国、サウジといった対米従属の国々(JIBS)が、どこまでトランプについていくかによる。
要約に書いたように、米議会はトランプに扇動され、イラン革命防衛隊とムスリム同胞団という、シーアとスンニを代表する強い国際組織を、テロ支援組織に指定して制裁する新法案を検討している。
これも、国際社会がつき合いきれない策だ。
防衛隊は、シーア派主導の国になったイラクに入り込み、イラクの治安面を牛耳っているし、内戦のシリアでアサドの政府軍を助けてISアルカイダと戦い、今ではシリアをも牛耳っている。
防衛隊の協力なしに、シリアやイラクでISアルカイダを退治できない。
中東の安定を考えるなら、防衛隊の制裁はあまりに愚策だ。
ロシアもEUもトルコも支持できない。
ムスリム同胞団は、アラブ諸国で圧倒的な最大野党だ。
百年の歴史を持つ同胞団は、かつて暴力革命を追求していたが、1980年代以降は選挙でアラブ諸国の政権をとることを狙っており、テロ支援はやっていないと、米欧の中東専門家の多くが認定している。
同胞団の発祥地であるエジプトでは、アラブの春の後の選挙で勝った同胞団政権を軍部がクーデターで倒したが、アラブ諸国が民主化するなら、同胞団は与党になれる存在だ。
米国のイスラム教徒の最大コミュニティであるCairも同胞団の系列だ。
同胞団をテロ支援組織に指定するのは、まっとうな策でない。
トランプは、まっとうな中東戦略をやろうとしていない。
私の以前からの分析は、トランプが米国の覇権を崩すことを隠れた最重要の目標としている、というものだ。
この分析に沿って考えるなら、トランプがまっとうな中東戦略(国際、国内政策全般)をやらないのは、意図的なものだ。
米国がまっとうな国際戦略をやらないほど、国際社会は米国に見切りをつけ、覇権体制が脱米国・多極化していく。
トランプは無茶苦茶をやりつつも、米政界を牛耳るイスラエルと良い関係を結び、米議会の反逆を抑えている。
トランプは最近、ネオコンの一人であるエリオット・アブラムスを国務副長官にしようとしている。
好戦的な政権転覆策をやりたがるネオコンを国務省に入れるなと、米国のリベラル派から草の根右派までが反対している。
だが見方を変えると、世界が米国に見切りをつける中で、ネオコンが国務省を牛耳って好戦策をやろうとするほど、世界が米国を敬遠することに拍車がかかり、多極化が進む。
国務省は、ブッシュ政権時代にパウエルが国務長官を辞めたあたりからどんどん好戦的になり、ろくな政策をやれなくなっている。
トランプは、それにとどめを刺そうとしている。
ネオコンのエイブラムズを国務副長官にする話は消えたようだが、トランプの娘のラインは残る
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201702120000/
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201702120000/
エリオット・エイブラムズを国務副長官にするという話はドナルド・トランプ大統領が拒否したようだ。
前にも書いたようにエイブラムズはネオコンの中心グループに含まれている人物で、イラン・コントラ事件(イランへの武器密輸とニカラグアの反政府ゲリラに対する違法な支援)にも連座している。
とりあえずネオコンの影響力がこれ以上強まることは避けられたが、影響を受けていないわけではない。
トランプの娘、イバンカが結婚したジャレド・クシュナーはニューヨーク・オブザーバー紙を発行しているオブザーバー・メディアの創業者で、現在は大統領の顧問を務めている。
ジャレドの父親であるチャールズもトランプやジャレドと同じ不動産開発業者で、現在は大統領の上級顧問だ。
チャールズの両親はナチスによるユダヤ人迫害を経験しているとも言われている。
こうした背景があるため、クシュナー親子は親イスラエルで、ネオコンに近いとも考えられる。
ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)の出現と勢力拡大をDIAが2012年の時点でバラク・オバマ政権に警告していたことは本ブログで紹介してきたが、その当時のDIA局長、マイケル・フリン中将は昨年、選挙キャンペーン中に「ラディカル・イスラムとその同盟者」との戦いをテーマにした本を出しているのだが、問題は共著者のマイケル・リディーン。
この人物はイスラエルの情報機関と緊密な関係にあると言われ、1970年代の半ばにイタリアのイル・ジョルナレ・ヌオボ紙でジャーナリストとして働いていた際には「アカの脅威」を盛んに宣伝していた。
当時、リディーンと親しくしていたイタリアの情報機関SISMIのフランチェスコ・パチエンザによると、リディーンもSISMIのエージェント。
1980年のアメリカ大統領選挙ではジミー・カーターの再選を阻止するため、盛んにスキャンダルを流していた。
パチエンザは非公然結社P2と結びつき、グラディオと呼ばれるNATOの秘密部隊でも活動していた。(Edward S. Herman & Noam Chomsky, "Manufacturing Consent," Pantheon, 1988)
トランプ政権内でクシュナー親子を含む人びとはイランを敵だとしている。
テロリズムの黒幕だというのだが、フリンはその黒幕がサウジアラビアだということを熟知しているはず。
アル・カイダ系武装勢力やダーイッシュのような存在を本気で潰すつもりなら、サウジアラビアを相手にしなければならないが、トランプを支える柱のひとつで石油産業もそれは受け入れられないだろう。
イランを潰すとポール・ウォルフォウィッツは1991年の時点で口にしていた。
その当時、国防次官だったウォルフォウィッツはイラク、シリア、イランを5年から10年で殲滅すると言っていたのだ。
その年の1月16日にアメリカが主導する連合軍はイラクへ軍事侵攻、2月末に停戦するのだが、その際にサダム・フセインをジョージ・H・W・ブッシュ政権は排除しない。
それが不満でウォルフォウィッツはそうした発言をしたようだが、その際、彼はアメリカが何をしてもソ連は動かないと信じることになる。
ソ連消滅後、ウォルフォウィッツを含むネオコンはロシアに対して同じ見方をするようになる。
「唯一の超大国」になったアメリカが軍事侵略してもロシアは傍観すると信じたのだ。
それだけに、2015年9月末にロシア軍がシリアで空爆を始めたことがショックだっただろう。
そうした思い込みに基づき、1992年2月には国防総省のDPG草案として世界制覇計画を作成した。
ライバルだったソ連が消滅した後、残された雑魚を整理し、潜在的なライバルを潰すことを決めたのだ。
これがいわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンである。
2001年9月11日の攻撃を利用し、その攻撃とは無関係のイラクをジョージ・W・ブッシュ政権は先制攻撃、今度はフセインを排除した。
当初、2002年には攻撃したかったようだが、統合参謀本部の反対で約1年間遅れたと言われている。
イラク攻撃の口実に使われたのは「大量破壊兵器」。
アメリカをはじめとする西側の有力メディアは攻撃を後押しする報道を続けたが、中でもニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラーは有名。
偽報道を続け、イラク国土を破壊、約100万人とも言われるイラク人を殺す道を整備したのだ。
2005年にミラーはニューヨーク・タイムズ紙を辞めてからFoxニューズで働き、政策研究マンハッタン研究所なるシンクタンクの特別研究員になるが、この研究所の共同創設者のひとりはウィリアム・ケイシー。
1981年1月から87年1月にかけて、ロナルド・レーガン政権でCIA長官を務めた人物だ。
その後、ミラーはニュマックスなるメディアで働くようになる。
このメディアを創設したのはクリストファー・ルディーで、資金を提供したグループにはケイシーのほか、メロン財閥の中心的な存在で情報機関と密接な関係にあり、ビル・クリントン大統領を攻撃するキャンペーンのスポンサーでもあったリチャード・メロン・スケイフも含まれていた。
ルディーはスケイフの下で働いていたことがある。
ネオコンのネットワークは政府内だけでなく、議会、有力メディア、あるいはハリウッドにも張り巡らされ、その背後では巨大金融資本や戦争ビジネスが蠢いている。
ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されて以降、この仕組みには向かった大統領はいない。
コンドリーサ・ライス元国務長官はFOXニュースのインタビューで、控えめで穏やかに話すアメリカの言うことを聞く人はいないと語ったが、世界にはアメリカを快く思っていない人は少なくないということだ。
各国の首脳たちはアメリカのカネに目が眩んでいるのか、暴力を恐れている。
そうした中、公然とアメリカ支配層をロシアのウラジミル・プーチンは批判、ロシア軍の戦闘能力が高いことも見せつけた。
アメリカ国内からプーチンと手を組もうと考える人が出てきても不思議ではない。