伏線大回収 アリス・スウィート・アリス | 不思議戦隊★キンザザ

伏線大回収 アリス・スウィート・アリス

アリスとカレンは母親のキャサリンに連れられて神父館へ伺った。初聖体を前にしたカレンのためにトム神父様から十字架のネックレスをいただけるというのだ。それがアリスは気に入らない。どうして妹なの?どうして私ではないの?

 


模範的な母娘に見えるけど

 

最初から不機嫌だったアリスはトイレに行くついでに不気味なマスクでトレドーニ夫人を驚かす。トレドーニ夫人は神父館に住み込んでいる家政婦さんである。アリスはトレドーニ夫人にもキャサリンにも怒られてますます面白くなかった。


驚くトレドーニ夫人

 


そりゃ驚くわ

 

姉のアリスと違って妹のカレンは誰からも好かれる存在だった。カレンの愛らしさはまるで天使のようだった。それに引き換えアリスは妹の人形を奪う、ドレスのベールを奪う、アパートの大家のアルフォンソに悪態をつくなど、異常行動を起こす困った少女であった。

 


不穏な少女、アリス

 

初聖体の日がやってきた。清らかなベールをかぶった子供たちが列になって礼拝堂へ入ってくる。そこにカレンはいなかった。代わりに遅れてやってきたアリスが無理やり聖体を拝領しようとしたそのとき、奥の控室からシスターの叫び声が聞こえてきた。煙が充満している。火事だろうか?

心配になったキャサリンはアリスが持っていたカレンのベールを見咎める。どうしてアリスがカレンのベールを持ってるの?そういえばカレンがいないわ!カレンはどこ!?

 


カレン役のブルック・シールズが超絶美少女

 

カレンはだれかに殺されて閉じられたベンチで焼死体となって発見された。

 


殺され中でも美少女

 

カレンの訃報をきき父親のドミニクがやってきた。ドミニクとキャサリンは離婚していてドミニクは既に再婚していたが、娘の葬儀のため駆け付けたのである。ドミニクは事件が落ち着くまでキャサリンの傍にいることにした。

さて当然これは殺人事件なので警察が動く。警察はアリスを疑っている。というより誰もがアリスを疑っていた。なぜならカレンが殺されたと思われる時間にアリスのアリバイが不明であること、カレンが殺された後にアリスが姿を現したこと、カレンのベールを持っていたこと、そしてカレンが身に着けていたはずのネックレスがなくなっていることである。神父様からいただいたネックレスをアリスが欲しがっていたことは明白であり、アリスの普段の素行からも疑うには充分であった。

 


カレンのベールを拾ったというアリス

 

そんな周囲の憶測を知ってか知らずか、それともどーでもいいのか、容疑者アリスはアパートの地下室に祭壇をこしらえ蝋燭を灯し、なにやら儀式めいたことをしていた。祭壇にはカレンから奪った人形が供えられビンの中ではゴキブリが蠢いている。アリスはそっとビンの蓋をあけてゴキブリに餌を与え、マスクをかぶった。

 


アリスだけの祭壇

 

アリス一家が住んでいるアパートの階段でアニー伯母さんが何者かに刃物で襲われた。犯人は黄色いレインコートにマスク姿であった。半狂乱になったアニー伯母さんは犯人の素顔を見ていないのにアリスが犯人だと言う。なぜなら常日頃から態度の悪いアリスを憎み、アリスもアニー伯母さんを嫌っていたからだ。それにアリスは黄色いレインコートとマスクのどちらも持っていた。

 


ざっくりいきます

 

アニー伯母さんが襲われた事件でアリスは警察で嘘発見器にかけられることとなった。嘘発見器は奇妙な動きを見せる。すなわちアリスは犯人ではないが犯人を知っているというものである。ではその犯人は?アリスは証言する。「カレンよ!でも誰も信じてくれない!」。この証言に嘘発見器は作動しない。アリスは嘘をついていない。

警察はアリスが正気なのか狂っているのか判断がつかない。アリスは専門の療養所に収容された。

 


治療が必要だそうだ

 

またしても事件が起きた。父親のドミニクが殺されたのだ。そしてドミニクの喉からカレンがトム神父様からいただいた十字架が検出された。殺される間際に犯人から引きちぎり証拠として飲み込んだのだろう。容疑者とされているアリスは療養所で監視されている。ということはカレン殺しはアリスが犯人ではない。ではいったい誰が犯人なのか?事件は振出しに戻った。

 

―略―

 

サイコパスの殺人鬼が連続して刃物で殺害するスラッシャー作品にブルック・シールズのデビュー作品ってな付加価値も相まって、カルト映画として名高い一本である。ということで血飛沫や超絶美少女殺害シーンを目玉にしたスラッシャー風味の「悪い種子」かと思ってワクワク観賞してたら途中から一気に反転、「狩人の夜」めいてきたりして、なんかもうあるカテゴリーに収まるどころの作品ではなかった。

 


これは良い湯加減のジャケット

 

キレのあるプロット、ミステリー仕立ての構成、色彩、カメラワークが混然一体となって不穏な空気を作り上げている。不穏な空気を醸成するのは濃すぎるキャラクターによる部分が多く、例えば大家のデブ男アルフォンソである。過剰なインテリアの部屋でいつもオペラを聞いているアルフォンソは猫を多頭飼いして可愛がっている。

 


猫好き


オペラ好き

 

そんで、後半、犯人に刺されたアルフォンソの血を猫が舐めるという気味悪い描写がある。可愛いはずの子猫が一瞬にして猟奇に変わるショットである。これでまた不穏感爆上がり。

 


ほんの一瞬ですがインパクトあり過ぎ

 

神父館に住み込みをしているトレドーニ夫人の少女趣味なインテリアが薄らキモい。これが若草物語とかだったら「わ~、素敵」とウットリできるが、得体のしれないトレドーニ夫人の少女趣味な部屋となると「わ~、キモい」としか思えない。このあたりの匙加減がなんとも上手い。

 


とても可愛いお部屋なのに


浴室だってこんなに可愛いのに

 

その他登場人物の顔芸がスゴイ。ナンシー関の言う「汚い絵面」ってやつか。

 


教会で賛美歌を歌うおばさんの化粧が濃すぎる


アニー伯母さんの顔芸がスゴイ

 

とりあえず視覚的に不穏なものを取り上げてみた。だが登場人物がすげーデブとかインテリアが過剰すぎるとかアニー伯母さんの顔が怖いというだけで不穏なのではない。

対照的な姉妹、離婚した両親、安息の場で起こった殺人事件。調和すべきものが相反し不協和音を奏でているからである。最も対照的なのが、死体となっても美しいカレンと終始不機嫌な表情で衝動的行動を繰り返すアリスである。

 


死んでも美少女カレン


グロテスクなマスクがお気にのアリス

 

アリスは冒頭から手の負えない少女として登場する。妹のカレンに嫉妬し人形を盗み大人に悪態をつく。そりゃこんな少女だったら疎ましがられて当然だ。冒頭で登場してすぐにアリスは仮面をつける。少女がグロテスクな仮面をつけることで不気味なインパクトを残す。アリスとカレンの姉妹は黄色いレインコートを着ている。

そして殺人鬼はマスクと黄色いレインコート姿で現れる。その姿で観客は犯人をアリスだと思い込む。なぜならアリスは病的なほど嫉妬深く異常行動で大人を困らせる少女であり、学校の先生からは「巧妙でなんでも事故に見せかける」と疑われている危険人物だからである。

ところがアリスが犯人ではなかった。真犯人の真相はさておき、ではなぜアリスを犯人だと誤認していたのかというと、脚本のミスリードによる。このミスリードがとても巧妙で、確かにアリスは仮面とレインコートを持っているが同じレインコートは誰でも持っているものであり、仮面は雑貨屋で売っているありきたりなものである。殺害シーンでアリスの素顔が露わになることはない。そしてなにより不可解だった嘘発見器の結果が、アリスが犯人ではないことが分かってから納得のいくものとなる。

 


カレン殺害時、同じレインコートがいくつかあった

 

あとになって繙いてみれば伏線が続々と回収されているのだ。その伏線は伏線とは思っていなかったもので、見ていたのに見えていなかったと言える。先入観を逆手にとった驚くべきプロットであった。

 


この仮面が曲者だ

 

さてでは真犯人は誰か?真犯人は身近にいる狂人だった。狂人は一見して狂人には見えない。それどころか信心深くさえある。その信心深さが狂気へと駆り立てたのだ。しかしアリスが犯人ではなかったからといってアリスの嫉妬深さと異常行動が治るわけではない。アリスのサイコっぷりは先天性のものである。それを予感させるのがラストシーンだ。

礼拝の最中、参加者のみならず警官が見守る中で惨劇は起こった。犯人は隠し持っていたナイフで愛する者の喉を掻っ切ったのである。騒然とする教会内で、アリスは血濡れのナイフを拾い、隠す。そしてこちらを向いてうっすら笑う。

 


笑ってないように見えて笑ってるんです

 

アリスが殺人鬼になるであろう予感を残すラストである。そういえば・・、とここでも思い当たるのである。劇中で何度か聖体拝領するシーンがあるのに、アリスは一度たりとも拝領していなかったことに。

うーむ、これも伏線だったか!もはや伏線がゲシュタルト崩壊だ!