アニメーションビジネスの仕組み(5) 製作委員会の組成 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 製作委員会はどうやって立ち上げるのか。その説明の前提として、製作委員会には、幹事会社というのが必要になる。


 幹事会社は、製作委員会の取りまとめ、製作委員会の開催の場の提供、対外的に製作委員会を代表するといった役割のほか、出資者のお金を預かり、管理し、損益を計算して分配するという任務がある。これがあるから、財務的な意味も含めた信用力があることが前提となり、ある程度の規模が求められる。分配業務は著作権が切れるまで、つまり理論上70年続くので、その間に企業として存続しているだろうというくらいの信用力が必要で、どこの会社でもよいというわけにいかない。


 ということで、アニメの製作委員会の幹事会社は、通常、ビデオメーカー(パッケージメーカーともいう)などが担うことが多い。パッケージというのはアニメファンがいうところの「円盤」、DVDやブルーレイのことである。法律的な文章ではビデオグラムともいう。すなわち流通機能を持つ会社である。これらの会社には、自らアニメスタジオ(制作機能)を持つところと、専ら流通機能のみを有するところがある。


 アニメの企画は、誰かが立ち上げる。幹事会社のスタッフが企画立案することもあれば、アニメスタジオの監督やスタッフが企画することもあり、誰が企画してもよい。面白いと思うのは、自らはスタジオを持たずに、アニメの企画立案を専門とする会社が少数ながら存在すること。そのような会社はクレジットで「プロデュース」として表示されるので判別できる。


 なお少し脱線するがクレジットで「企画」として表示される個人名は、企画立案した人という意味ではなく、プロデューサー系クレジットの一種であり、幹事会社の担当者(プロデューサーと表示される)の上司(エグゼクティブ・プロデューサーと表示されることがある)のそのまた上司が「企画」と表示されることがあるようだ。


 

 企画立案した人が所属する会社が幹事会社になればよいと思うが、上記のとおり幹事会社には信用力が求められるので、ビデオメーカーで企画立案された場合はそのまま自社が幹事会社となるが、そうでなければ幹事会社を引き受けてくれるところを確保する。

 それから幹事会社などが制作スタジオに企画を提案したり、オリジナル作品以外は原作の版元(出版社など)に打診し、出資者(製作委員会メンバー)候補に声を掛け条件を提示して交渉する、というようなことを経て委員会が組成される。


 製作委員会のメンバー構成のことを「座組」(ざぐみ)という。ビジネス上の理由のほか、金融商品取引法の「みなし有価証券」とならないためという法令上の理由もあり、アニメの製作委員会のメンバーは、お金だけ出資することは認められず、各メンバーが自らビジネスを行うことが求められる。


 そこで座組を決めるにあたっては、メンバー間の役割が重複せず、各分野にうまくばらけていることが重要となる。

 各メンバーには役割があり、これを「窓口権」という。案件により異なるが、国内ビデオ化権(国内ビデオグラム権)、国内商品化権、国内テレビ放送権、国内配信権、国内ライブエンターテイメント権、海外販売権などが設定される。「窓口権」という名称は、第三者がその作品について製作委員会にライセンスの許諾を求める際に、その分野について窓口になることから、こう呼ばれる。


 ただ、製作委員会メンバーは、(1)自己実施(自己利用ビジネス)のみをするところ、(2)第三者へのライセンスビジネスのみをするところ、(3)両方するところがあるのだが、いずれの場合も「○○窓口」である、あるいは「○○の窓口権をもつ」と表現する。