サッカー審判TIPS(8)
さて、第4の審判まで話が進んだ。
まだ試合は始まらないよ。
ピッチは描いた。
次に必要なのはボール。
本部で複数個用意してくれるのが望ましい。
そのような場合、たいていは空気圧は本部の方でチェックするので主審が気を使う必要はない。
問題は双方のチームが試合球を持ち寄る場合だ。
少年団の場合など、それぞれのチームの選手が自分の近くにあったボールを適当に持ってくる。
大事な試合なのだから、と新しそうなボールを選んで持参することも多い。
それはそれで微笑ましいが、多くの場合空気圧が低い。
指で押すとペコリと凹むこともある。
私は遠慮なく、「もっと堅いボール持ってきて」と突き返す。
それでもチーム内に甘いボールしかない場合もある。
仕方がないのでもう一方のチームのボールを使うことにして「じゃあ、始まるまでに空気を入れて
ここ(ハーフラインフラッグのところ)に置いておいてください」とベンチのコーチに言う。
両者のボールがほぼ同じかあるいは微妙に異なるときのために秘密兵器がある。
空気圧計だ。
高価なものでは7~8,000円するものもあるが私は3,000円くらいで買ったCRIXのものを使っている。
かなり昔に購入したものだ。今はPUMAから出ているのではないかしら。
これを持っていると「うむ、この審判はいい加減にやる人ではないな」という印象を与えられる。
これでボールの空気圧を測り、同じ数値に合わせる。
(だから本当は空気入れも欲しいところだ)
空気圧計をポケットに入れてグランドを走り回るわけにはいかないのでフラッグポストの根元に
そっと置く。第4の審判がいれば預かっておいてもらう。
空気圧は、天然芝の場合は堅め、人工芝の場合は柔らかめと言われる。
だいたい0.85気圧くらいに設定している。
ルールブックでは0.6~1.1気圧となっている。(これテストに出る)
0.6気圧は実際はゆるゆる。この程度で試合をやることはあまりないだろう。
Jリーグでは1.0でセットすると聞いたことがある。
ボールの周囲は68cm~70cm。これは中学生以上が使う5号球の場合だ。
センターマークの円の直径が22cmという話を書いたことを覚えているだろうか。
直径×π=69となるので記憶しやすい。
重量は410~450g
今では信じられないだろうが、私が高校の頃はボールは皮製が多く、使っているとだんだん膨らんで
きてイビツになってきたものだ。そして縫い目が少しほころび始める。
雨で濡れたピッチで蹴ろうものなら水を吸ってかなり重くなる。
そんなボールで練習、試合をしていた。
今はほとんどが合成皮革であまり水を吸わないし変形しない。
材質は進歩しているのだ。
閑話休題。
私のレベルの審判が吹く試合ではマルチボールシステム(複数のボールを周囲に配してボールボーイ(あ、
女子もありえるからボールパーソンが正しい)が手渡す)を採用することはめったにない。
予備のボールをフラッグポストの根元に置いて、試合に使うボールを双方のキーパーに渡し、堅さを
チェックさせて試合をする。(このキーパーチェックの段階で甘いとか堅いとか文句を言うケースは
少ない)
この予備のボールの使い方について。
基本的に「ボールがラインを割ったらボールを取りに行き拾ってくる」こと。
シュートがはずれてゴールの後ろに飛んでいってしまった場合など、グランドによってはかなり先まで
転がって行ってしまうことがある。
急ぐ側のチームとしては早く試合を再開させたいところだ。
ベンチにいるコーチがフラッグポストの根元に置いてあるボールを拾って、「おーい、キーパー!」と
ボールを蹴り入れることがある。
これはいけない。
ルールブックに主審に無断でボールを交換してはいけないと書かれている。
(ボールパーソンは主審に無断でボールを交換しているではないか、などと言わない。彼らはそのために配置されており、主審がその存在を承認しているのだから。そして交換するボールは事前にチェックされているのだから)
このようなことをされないよう、第4の審判やベンチサイドの副審(1st Assistant Refferee、「A1」
という)はベンチの動きにも気を配る必要がある。
取りに行けるところにあるのに、選手が「審判、ボール、ボール」と交換を要求することがあるが、
言うことを無理に聞く必要はない。
★遠くに飛んだボールを拾いに行って帰って来るのにかなり時間がかかりそうだと思ったら私は左手を
高く揚げてストップウォッチを大げさに押して「時計を止めてるよ」ということがベンチにも選手にも
わかるようにしている。
★副審はボールを拾いに行かない。
親切心で旗を揚げた後ピッチに背を向けて球拾いに走る副審がいるが、これはしなくてよろしい。
いやしない方が良い。
(足元に転がってきたものを股を開いてやり過ごすのはちょっと行き過ぎかもしれない。足に当たる
ようであればトラップしてやってもよいかもしれぬ)
これは、攻撃を急ぐ方に一方的に有利になってしまうことを避けるため(と私は思っているが)である
ことと、球拾いのために目を逸らした隙にピッチ内で選手同士がもつれあったりした場合にそれを
見落とす可能性があるということだからである。
審判の役目はプレーの監視だからピッチ内の状況から目が離れる時間はできるだけ少なくしたい。
私は試合前の打合せで「球拾いには行かないで下さい」とお願いしている。
副審が旗でスローインの方向を示しながら、転がってきたボールが完全にラインを割る前にトラップで
止めてしまったことがある。
どうせ双方の選手がボールに追いつけないのだし、選手が球拾いに行かないで済むようにという優しい
気持ちからだろうが、厳密に言うとピッチ内の主審にパスが当たって方向が変わったのと同じ扱いに
なる。
つまり、ボールは石に当たってライン上で止まってしまい、まだインプレー(プレー続行)中というように
解釈できる。だからスローインしようとしてこのボールを手で拾い上げたらハンドリングの反則となる。
そこまで厳密に反則を取るケースは無いと思うが、もし私がその場面に選手としてピッチにいたら、
相手選手がスローインをしようとしたときに「まだラインを割ってないぞ!ハンドだ!」とアピール
するだろう。
そのような抗議をさせないためにも副審はボールに触れないことを原則としたい。
ボールについて書き始めたらずいぶん長くなってしまった。