引き続きニューズウィークより
By 丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授)
3.科学よりも情緒に引きずられた入国拒否
新型コロナウイルスの特徴は、感染者が無症状のまま他人に感染させてしまうことである。そこで、感染している蓋然性の高い人たちの動きを制限することで感染拡大を防止する措置がとられてきた。すなわち、中国の武漢で感染爆発が起きたときには武漢が封鎖され、その後も感染爆発が起きている国からの入国を制限することが世界中の国によって行われている。WHOは当初国境を遮断する措置に反対したが、結果的には出入国の制限はかなり効果的だったと思われる。
日本政府も感染爆発が起きた国や地域からの入国を拒否する措置を立て続けにとってきた。ただ、そのタイミングを見ると、しばしば入国を拒否するタイミングが遅すぎ、それが3月末以来の急激な感染拡大を招いたとみられる。
日本政府はまず1月31日に中国湖北省に滞在歴のある外国人の入国を拒否すると発表した。同日の中国の新規感染確認数は2102人。武漢の都市封鎖が行われたのが1月23日だからその直後に湖北省から入国拒否をしてもよかったが、8日間も遅れてしまった。習近平国家主席の来日を控えての遠慮があったのではないかと疑われる。
ただ、日本側の遮断は遅れたものの、中国が自発的に武漢の封鎖や団体旅行の停止などの措置をただちにとったため、この遅れの実害はほとんど出ていないようである。国立感染症研究所の最近の研究によると、1月に武漢から日本に入ってきたウイルスはその後大きな広がりを見せることなく3月には終息したらしい(『朝日新聞』2020年4月28日)。
2月16日に日本政府は中国浙江省も入国拒否の対象に加えた。しかし浙江省での感染拡大は2月13日までに終わっていたのでやはりタイミングが遅すぎた。ただ、この遅れもあまり大きな影響はもたらさなかった。
2月下旬には韓国で大邱を中心に感染爆発が起きた。日本政府は2月26日に大邱および慶尚北道清道郡からの入国を拒否すると発表した。この日の韓国の新規感染確認数は214人で、図1に見るようにその後の1週間に感染爆発が起きた。つまり韓国に対しては感染の上りはなを捉える絶妙のタイミングで入国拒否が行われたのである。
3月に入るとイタリアで感染爆発が起きた。日本政府は3月10日にイタリアのヴェネト州など5州からの入国を拒否すると発表した。しかし、この日のイタリアの新規感染確認数はすでに1797人。韓国に対するのと同様のタイミングを捉えるためには、これよりも10日前にイタリアに対して入国拒否を実施すべきだった。さらに3月半ば以降はアメリカでの感染がものすごいことになってしまったが、日本政府がアメリカからの入国拒否を発表したのはようやく4月1日である。その日のアメリカの新規感染確認数は2万2559人であり、あまりに遅すぎた。
クラスター潰しに固執
しかし、新型コロナウイルスの強い感染性を考えると、毎日発表される統計に何よりも求められるのは速報性である。統計が遅ければ、緊急事態宣言を出すタイミングが遅れるなどさまざまな問題が起きる。統計の正確性を高めるための「突合作業」はもちろん必要なことではあろうが、それは確認作業が終わったら統計を修正すればいいことで、確認できていない死者数を計上しないというのでは速報性を大きく損なってしまう。
緊急事態宣言が出たこの重要局面で厚生労働省はいったいなぜ「突合作業」に時間をかける愚を犯したのか。その理由は日本の死者数のグラフに韓国の死者数を重ねるとなんとなく想像できる(図2)。この時期には、日本の死者数が韓国の死者数に迫っていたのだ。おそらく厚生労働省は日本の死者数が韓国を超えるのを避けたかったのである。しかし、都道府県が発表する死者数を隠すわけにもいかないので、「突合作業」に時間をかけることによって国全体の死者数を見かけ上少なくした。そしてこの数字はWHOにもそのまま報告されたのでWHOのレポートでも日本の死者数はまだ韓国よりだいぶ少ないように報告されていた。
しかし、4月21日についにNHKが韓国超えの死者数を発表してしまった。厚生労働省もついに観念し、翌日には統計上の死者数を一気に91名も増やした。 これ以外にも、「クラスター潰し」という当初はうまくいっていた感染拡大防止の戦略に固執し、感染の急拡大という次の局面に対応する戦略が準備されていなかったなど、旧日本軍の失敗パターンを想起させる事例はまだまだある。ただし戦前との重要な違いは、現在ではこうして日本政府の失敗を批判する言論の自由があることである。もっとも、安倍首相と親しいある評論家が、厚生労働省の戦略に批判的なテレビ番組に対して電波使用を停止すべきだなどと言い出した。仮にそんなことになれば、日本政府の失敗を止めるものはもう何もなくなってしまう。
丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授)様には面識も無く、Yahooニュース掲載記 事をご無礼承知で引用(一部色調、文字の大小で強調し)させて頂きました。 過去ブログで述べた持論の不備を、本欄でも是非周知させたく紹介させて頂きました、付きましてはご無礼の段深くお詫び申し上げます。
尚 本項①及び②項に異論や警告有る場合、当方抗する力量も無く、直ちに消去は厭わない積りです、その節は皆さま是非ご理解下さいませ。 木村 記
一方 世界は経済対策等出口戦略をも視野の動き