「オラクル・ナイト」ポール・オースター著・・・★★★★
重病から生還した34歳の作家シドニーはリハビリのためにブルックリンの街を歩き始め、不思議な文具店で魅入られたようにブルーのノートを買う。そこに書き始めた小説は…。美しく謎めいた妻グレース、中国人の文具店主M・R・チャン、ガーゴイルの石像や物語内の物語『神託の夜』。
オースター作品を読むと、鰻の如く掴んだようでスルリと逃げてしまうような感覚がある。
思索的と言うか、含蓄があると言うのか。
ニューヨーク三部作は明らかに思索的だが、それ以降の作品は物語性が強まり分かり易くなってはいるものの、逆に表層の裏に隠れたメッセージがあるような気がする。
もちろんストーリーは面白いが、奥も深く、どう読むかを読者に問い掛け、その力量を試しているのだろうか?
ストーリーは、主人公の作家シドニーが執筆する奇妙な物語が作中作として描かれ、妻・グレースと暮らす2人の日常に有名作家で親友のジョンが入り込み、更に文房具屋の中国人店主M・R・チャンとの幻覚的なやり取りが重なる。
著者が、前作「幻影の書」が交響曲なら、本作は弦楽四重奏だと評したように、スケールは小さいながらも重厚な音が重なり合い、豊かで深い音楽を奏でているようである。
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オラクル・ナイト (新潮文庫)
680円
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