691冊目 青の時代/三島由紀夫 | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「青の時代」三島由紀夫著・・・★★★

地方の名家に生れた川崎誠は、父への反感を胸に徹底した合理主義者として一高、東大へと進むが、ある日大金を詐欺で失った事から今度は自分で金融会社を設立する。それはうまく行くかに思われたが……。戦後世間を賑わした光クラブ社長の自殺に至る波瀾にみちた短い生涯を素材にして、激しい自己反省癖と自意識過剰の異様で孤独な青春を描いて作者独自のシニシズムに溢れる長編。

 

三島の長編5作目。

 

これ以前の4作は、主人公の内面を中心に描いていたが、本作は戦後に実在した「光クラブ」をモデルに描いた社会性を持った作品で、三島特有の心理を抉り出すような描写や、難解で華美な文体も控えめ、ストーリー自体も大雑把で途中6年の間が空いたり、光クラブのエピソードも母親と一緒に取り立てに行く場面しか描かれておらず、結末も物足りない。

その為、明らかにそれまでの作品と較べ見劣りしてしまい、三島自身も失敗作だと認めている。

 

本作について三島自身は次のように語ったそうだ。

〈資料の発酵を待たずに、集めるそばから小説に使つた軽率さは、今更誰のせゐにもできないが、残念なことである〉とし、〈文体も亦粗雑であり、時には俗悪に堕してゐる。構成は乱雑で尻すぼまりである〉と自己反省している

 

この時期は「愛の渇き」や「純白の夜」などと執筆が重なり、本作の掲載が締め切りまで半年しか時間が無かった事によるらしい。

 

モデルとなった「光クラブ」は、三島と同じ東大法学部の学生・山崎晃嗣が高利貸金融会社として設立し、派手な広告で資金を集め急速に成長するも、山崎が逮捕され信用を失い急激に業績が悪化。

債務不履行で服毒自殺を図った。

 

三島は、前年のエッセイ『重症者の兇器』の中で、〈私の同年代から強盗諸君の大多数が出てゐることを私は誇りとする〉と皮肉を込めて記している。

 

また、日本マクドナルドの創業者・藤田田は山崎の一級下で、藤田も出資し、自殺直前の山崎から資金繰りに行き詰まったことを相談された藤田は「法的に解決することを望むなら、君が消えることだ」と言った。そうである。

 

このような経緯により光クラブは世間を賑やかし、この事件は本作の他にも数多くの小説やドラマのモデルとなっている。

 

余談だが、前作「愛の渇き」は当初「緋色の獣」という題名だったが改題され、もし予定通り「緋色の獣」だったら「純白の夜」と「青の時代」でトリコロールカラー(フランス国旗色)になっていた。

三島らしい御洒落である。

 

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