686冊目 冥土めぐり/鹿島田真希 | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「冥土めぐり」鹿島田真希著・・・★★★☆

子供の頃、家族で行った海に臨むホテル。そこは母親にとって、一族の栄華を象徴する特別な場所だった。今も過去を忘れようとしない残酷な母と弟から逃れ、太一と結婚した奈津子は、久々に思い出の地を訪ねてみる…。

 

年末で、忘年会やら年賀状作りやらある事業の処理やらと、いろいろ立て込んで読書時間が無くなり、長編を悠長に読む気力も無いので、短編の薄い本を読んでみようと芥川賞作品を3冊纏めて借りてきた。

 

1冊目の本作は第147回(2012年)の受賞作品。

表題作の他「99の接吻」が収められている。

 

「冥土めぐり」は脳に障害を負った夫を持つ妻・奈津子が、昔、家族旅行で訪れた思い出の宿泊施設に夫・太一を連れて旅に出るという話。

 

何故この作品が「冥土めぐり」という題なのかがよく分からないが、奈津子の母親と弟が奈津子の稼ぎをあてにして、遊んで暮らしていた”あんな生活”を葬るという意味合いなのか?

それに対比し、太一は飄々として、障害を持ちながらも自分に出来得る範囲の事を実行し、どこか純真で逆に奈津子の心に平安を与える存在となっている。

家族同士の関係や障害という重いモチーフでありながら、それを感じさせない筆致で描いた作品だった。

 

「99の接吻」は女4人姉妹の近親相姦的な関係を、末娘の視点で描いた作品で、お姉さんに男が出来てそれに嫉妬するという話。

これも、切り口が変わった作品で面白かった。

 

2作とも独特の作風を持った、良くも悪くも芥川賞らしい作品だった。

 

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