658冊目 幻影の書/ポール・オースター | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

ヘタな読書も数撃ちゃ当る

ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「幻影の書」ポール・オースター著・・・★★★★

その男は死んでいたはずだった──。何十年も前、忽然と映画界から姿を消した監督にして俳優のへクター・マン。その妻からの手紙に「私」はとまどう。自身の妻子を飛行機事故で喪い、絶望の淵にあった「私」を救った無声映画こそが彼の作品だったのだから……。へクターは果たして生きているのか。そして、彼が消し去ろうとしている作品とは。

 

カズオ・イシグロが現代イギリス文学界を代表する作家とすれば、アメリカ文学界を代表する作家がこのポール・オースターだろう。

寡作(8冊)なカズオ・イシグロに較べオースターは多作で、現在まで30冊近くが上梓されている。

本作は2002年の作品。

 

大学教授兼著述家の主人公デイヴィッド・ジンマーは、妻子を飛行機事故で亡くし絶望の中で苦しんでいた。

そんなある日、テレビで流れていた映画の一場面を見て数か月ぶりにジンマーに笑いが起きた。

それは、12本の映画を残し忽然とこの世から姿を消した、ヘクター・マン主演の無声コメディ映画だった。

休職中で、半年近く何もせずに堕ちていくだけの自分から抜け出そうと、ジンマーはヘクターの映画をすべて観ようと決める。

徐々にヘクターに惹き込まれたジンマーは、映画を観終わりヘクター作品についての本を書き上げ「ヘクター・マンの音なき世界」を出版した。

その後、ジンマーのもとにヘクターの妻と名乗るフリーダからヘクターに至急会って欲しいと、遠くニューメキシコから手紙が届く。

しかし、ジンマーは信じられず、素っ気ない返信をするが2週間たっても何の連絡も無く、ジンマーは再び自分の内にこもっていく。

夏になったある日、ジンマーは買い物と映画に出かけ自宅に戻ると、ヘクターに会って欲しいとヘクター夫妻と共に暮らす女性アルマ・グルンドが待っていた。。。

 

オースター作品を読むのはこれが11冊目になるが、その中で物語としての面白さからすると本作が一番だった。

 

家族を失ったジンマーの喪失感と心の揺れ。

ヘクター・マンが出演した映画の描写。

この世から姿を消した、ヘクーターの知られざるその後の波乱に満ちた人生。

恋に落ちたジンマーとアルマ。

ヘクターが監督作品として撮った「マーティン・フロストの内なる生」。

ヘクターの残した映画フィルムを巡るアルマとフリーダとの葛藤。。。

 

本作は物語展開の面白さだけでなく、ジンマー、ヘクター、アルマ、フリーダがそれぞれの大切なものや人生と希望を失っていく姿と心理を描き、すべての出来事が幻影のような、奥が深い印象に残る作品になっている。

 

オースターの作品は名高い「ニューヨーク三部作」以降、その作風は現実的な物語に大きく変化してきているが、本書はその中でも高く評価できる一冊ではないだろうか。

 

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村