657冊目 ビリー・ザ・キッド全仕事/マイケル・オンダーチェ(再読) | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「ビリー・ザ・キッド全仕事」マイケル・オンダーチェ著・・・★★★★★(再読)

血は死ぬまでおれについてまわった首飾りだ
左利きの拳銃、強盗や牛泥棒を繰り返し、21人を手にかけた殺人者にして、多くの女たちに愛された伊達者――西部の英雄ビリー・ザ・キッドの短い生涯は数々の伝説に彩られている。友人にして宿敵の保安官パット・ギャレット、のっぽの恋人アンジェラ・D、無法者仲間でライフルの名手トム・オフォリアードら、ビリーをめぐる人々。流浪の日々と束の間の平和、銃撃戦、逮捕と脱走、そしてその死までを、詩、散文、写真、関係者の証言や架空のインタビューなどで再構成。ときに激しい官能、ときにグロテスクなイメージに満ちた様々な断片を集め、多くの声を重ねていく斬新な手法でアウトローの鮮烈な生の軌跡を描いて、ブッカー賞作家オンダーチェの出発点となった傑作。

 

とうとう買ってしまった。

生涯、自分の本棚に残そうと決めて本を買ったのは、マルケスの「百年の孤独」に次いでこれが2冊目である。(買った本は殆ど図書館に寄贈しちゃう)

 

8月に本書を読んで以来、ず~っとこの本は私の心の片隅に余韻を残し、また読みたいと渇望していた。

 

過去にこのブログで紹介し再読した本は6冊(宮本輝「幻の光」は間違って2回読んだ)あるが、こんな短い間に再読してみたくなった本は初めてである。

そして、2冊連続★5つの評価もオンダーチェが初めてである。

 

前回紹介した通り本書は小説のジャンルには入らないと思う。

本書は前回紹介したように、詩、散文、写真、インタビュー(架空)、空白で構成され、そのどれもが断片的に綴られている。

 

前回図書館で借りた本は、最初の日本語版(1994年)で絶版になっていたが、私が今回買った本は今年の4月に白水社より新書版で再刊された本である。

 

この本には初版本から修正された箇所が幾つかある。

一つは「左ききの詩」という副題が付いた。

あとがきでは著者自身が本書を書いた経緯を語り、訳者の福間健二が出版当時の思い出と今回の修正点について述べている。

 

2回目となった今回は、文章の意味と(分かり辛い箇所は繰り返し読んだ)、それを味わいながら出来るだけゆっくりと読んだ。

そしたら、幾つか気づいた点があった。

 

まず、著者あとがきでは「これは、私がぎりぎりで深く泳ぎぬいて書いた最初の本である。」と語っているが、一読するとたいして労力も掛けずに書かれたへんてこりんな本の様に感じるが、その構成、文体、文章は緻密に計算されているのが分かる。

たった180ページ(写真や空白ページがあるから文章のみだと160P位か)の本作は執筆に二年、編集に一年の歳月が掛かったそうである。

 

それともう一つは日本語訳である。

「イギリス人の患者」で訳者の土屋政雄が訳の難しさを述べながらも見事な翻訳をしたが、本作でも訳者は

「本書の翻訳はとてもむずかしかった。わからない箇所を人に聞いてまわったし、原文の微妙なニュアンスがうまく訳文に出せないところで何度もため息をついたし、オンダーチェが大胆にやっている部分が日本語ではおとなしい表現になってしまうことに焦りをおぼえた。」と語っているように、訳もかなり綿密に計算されているように感じる。(原文は読めないので推測だが)

例えば、漢字表記一つとっても「おれ(俺)」とか「かれ(彼)」とか簡単な漢字でもひらがなで表記したり、章によって文字の大きさを変えたり(原文がそうかもしれない)している。

オンダーチェ作品の持っている世界を訳するにはかなりの労力が掛かると想像できる。

 

オンダーチェは8、9歳の頃、西部劇に取りつかれカウボーイの衣装を持っていた。(本作の最後のページはオンダーチェ少年のカウボーイ姿の写真)

その後作家となったオンダーチェは、ぼんやりとした思いつきから、漫画に変わり果てたヒーロー、ビリー・ザ・キッドを基礎から作り上げた。

そして、二十一人殺し、二十一歳で死んだ、愛すべき無法者ビリー・ザ・キッドの”全仕事”を描いた素晴らしい作品を世に出した。

 

これほどハードボイルドで、読んで想像を掻き立てられる本は他には無い。

 

これからも私は何遍もこの本を読み返すだろう。(ストーリー性は無いので、空いた時間にめくったページだけ読んでもいい)

その度に新たな発見があるような気がする。

 

本書を読んで、このブログの評価をもう一つ追加しようか?と考えている。

それは★★★★★★の「棺桶に入れたい一冊」である。

 

 

、、、もちろんその一冊は本書である。

 

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