『星』
真っ暗な空に浮かぶ
今にも消えそうな月と
もう消えてしまった星。
何光年も昔の光は
此処までは響かない。
僕らが見上げていた頃は、
夜は月と星の世界だったのにね。
思い出せなくなった
あの星を繋げた言葉が
今では酷く愛おしい。
君が教えてくれたんだ
僕の隣で
瞳を輝かせて。
何時までも其処にあると思っていた全てが
何時の間にか遠い過去になって
まるで消えた星の様に
見えなくなってしまった。
僕は一人
居なくなった君を探して
毎晩同じようにあの丘を登る。
細長いケーブルから耳に繋がって聞こえる
君がよく聴いていた音を頼りにして。
あの頃は必死になって登ったこの丘も
何時の間にか悠々と登れるようになった。
それでも僕は隣に君が居ないと
泣きそうになるんだ。
どうしたらいい?
丘の天辺で空を仰ぐ。
今にも消えそうな月と
───あれ
星が、見える。
二つだけ
寄り添うように
小さな星が。
僕は笑った。
泣きながら笑った。
やっと見つけた。
君を、やっと。
僕に何が出来ただろう
祖母が癌になって
もうすぐ一月経つ。
祖父が癌になり、入院した時
顔を見せるだけでいいからと
親に見舞いに連れて行かれたけれど、
僕なんかの顔が一体何の役に経つのか
僕には終ぞ解らなかった。
特に喋るでもない
テレビを見る祖父と
窓の外を眺める僕。
それでも親は
僕の同伴を求めた。
祖母が入院する病院は
祖父の事を考えると大分家から近くにある。
バス一本で行けるのだ。
だから見舞いには事欠かないと思う。
僕は祖父が苦手だったから
見舞いもどうしたらいいか分からなかった。
でも祖母とは無遠慮で接することが出来るくらいの仲だから
見舞いが毎日なんてことも有り得る。
それは外出が困難な僕には苦ではあるが、
話し好きの祖母の相手をしてあげるのは
今までのお礼も含めて当然の行いのように思えた。
そこまで考えて
漸く祖父の気持ちが解った。
口数も少なく、厳格な人だったが、
祖父は確かに僕の面倒をよくみてくれた。
病院への見舞いは、そのお礼だったのだ、と。
祖母もやがて痩せ細って死ぬのだろう。
だから今度こそ
行為に発生する意味をよく考えて
自分の意思で行動したいと思う。
それが、孝行だと信じて。
春
春はさよならの季節。
沢山の人が僕の前を通り過ぎて、
僕は行く宛ても無いまま壁にもたれてそれを見ている。
隣に来て話しかけてくれる人もいたけど
僕が動かないと知ると早々に飽きていなくなった。
僕は此処が好き。
誰もいなくなっても
海底に沈んでしまっても
僕は此処が好き。
ずっと前に決めたこと。
僕の時間は1997年で止まってる。
新しい物を手に入れても
例えば心や信念が変わってしまっても
僕の中心は変わらない。
あの時
現実は終わってしまった。
僕は幻想に逃げた。
架空の友達を沢山つくって
偽者の自分を沢山つくって
現実から目を背けた。
それでも季節は移り変わり
また春がきた。
何度目かのデジャヴを見て
僕はまた歳をとる。
歪んでしまった自分の世界の中で
儚く散る桜を見る。
僕が飼っていたハムスターを埋めた樹は
どれだっけかな。
複雑。
僕は幼少期から小学校を卒業するまで、ほぼ祖母一人に育てられてきました。
祖母と暮らしていたわけではないのだけれど、
朝祖母に預けられ、夜母が迎えに来る、そんな感じで。
母はその当時離婚を決めていて、その為の資金を稼ぐ為に働いていたのです。
だから、僕は殆ど祖母に育てられました。
勉強が出来ないと床に張り倒され踏み潰されたりもしましたが、
それでも僕は祖母を嫌いにはなりませんでした。
殆ど家に寄らず、たまに帰って来ては酒を飲み怒鳴り散らす父の方が嫌いでした。
今でも祖母とは映画や食事によく行く仲で、多分今時珍しいタイプの関わり方だと思います。
そんな祖母が、胃癌と診断されました。
まず考えるのは、やっぱり死ですよね。
でも僕は、死に関しては誰でも遅かれ早かれだと思っているのでスルー。
いや多分悲しいと思いますけど俺もいつか死ぬんだし。
それよりも、親に
「祖母さんの世話はお前がするんだからな」
と言われたのがショックでした。
僕は統合失調症で、どちらかというと世話される側です。
世の中の何もかもが怖くて、死んでしまいたいと思っているのです。
確かに就職もバイトもしていなくて、手が空いているのは僕なのですし、
僕は今まで祖母に物凄く世話になっているので恩もあります。
それでも、世の中の何もかもが怖い僕は、
片道15分の外出はおろか、朝起きる事さえ出来ないのです。
僕が障害者だという事を、家族は理解してくれません。
唯一の理解者である祖母は僕が世話をしなければならない当事者です。
僕だって役に立ちたいけれど、人間出来る事と出来ない事があります。
病人の世話を毎日することは、僕には出来ないことです。
結果的に巡り巡って思うことは、
「何故死ぬのが俺ではなく祖母なのか」
という不毛な疑問。
あぁ、死にたい。
春
貴女は岸壁に立っていて
僕は声が出せず動けもしない。
貴女は一度だけ振り返って
微笑んで
海の底へ旅立ってしまう。
そんな夢を見た
あれから三度目の春です。
何故僕らは出会い
同じ願いを持っていたのに
僕だけが
こうして今も生きているのか
そんな理不尽な現実が嫌で
気が付けば何時も病室です。
此処の窓からは何も見えません。
貴女が恨んだ桜も
貴女が悲しんだ空も
何も見えないのです。
日めくりのカレンダーだけが
今日の月日を教えてくれて
時計の針だけが
今が何時か教えてくれます。
月命日には貴女の写真の前に
看護婦に頼んで花を添えてもらいます。
生きる事を拒絶して
こうして隔離されて生かされる僕は
貴女にどう映るでしょうか。
貴女の手を離さないようにと
握っていた手は蒼白になり、
腕には僕を苦しめる点滴が刺さっていて。
僕はまた死のうと足掻いて
暴れるから
薬で眠らされては
また貴女の夢を見るのです。
ずっと一緒だよと誓い合った指輪だけが
綺麗に光り輝いていて
とても悲しい春です。
命の終わりを待つ春です。