函館ちゃんちゃんこ物語49(2)
道場海峡男、間本久直、山高ー焚人ー潔、深間克明の、
通称「ちゃんちゃんこ軍団」は、年に数回、不定期に総会を開く。
場所は、函館・海岸町の焼き鳥屋「かしらや」。
そこで極秘の「軍団会議」が開かれていた。
「オレの生き様を見ててくれ!」
ちゃんちゃんこ軍団の定期総会「かしらや」。
「オレは土方歳三と同じなんだよ!」
突然の間本の、なぜか、自分を土方歳三と関連させている意味不明の発言・・・。
何と言っても土方歳三は、新撰組時代に「鬼の副長」と恐れられた男だ。昭和のこの世の中で「昭和のこんにゃく男」と笑われている男が、どう考えたら、自分と土方を並べて考えられるのだろう。みんなは不思議だった。
しかし、間本の心はもはや土方歳三であった。そして、
「かわいい横野とのけっしぇ!んも、五稜郭にする」
と語った。途中、声がひっくり返り、何を言っているのか分からない部分があったが、あえて誰も触れなかった。
「そうか、横野典子との決戦?・・・好きな女のことだ」
「五稜郭・・・土方ゆかりの地だ」
何となく、間本が自分を土方と並べて考えていることが分かった。
みんな空気を読んでいる。利口な連中だ。
「間本さんは、横野さんに告白しようとしている・・・」
「それも、五稜郭で・・・」
海峡男と山高、深間の3人は、目で会話していた。
横野典子。以前の総会で間本が、
「おれさあ、うちの横野が可愛いんだよお・・」
とぶちまけた憧れの女の子だ。海峡男たち3人とは同期入学で、学生番号は海峡男の一つ前、入学式なども隣だった小づくりの可愛い子だ。間本とは一つ年下の後輩で同じ研究室にいる。
間本は、いよいよ、その横野に告白しようとしているのだ。しかし誰もがみんな思っていた。「無理・・・!」
しばらく沈黙があった。
間本は真剣な顔で、一人ずつ順番に視線を向けた。たまりかねた深間が、
「いよいよ・・・やりますか・・・」
真顔のふりをして言った。横で山高が、ひっくひっくと必死に笑うのを我慢していた。
「おお、見ててくれ!俺の生きじゃめ!を」
間本はまた声がひっくり返った。様にはなっていなかったが、低い声でかっこよく話したつもりの間本は、日本酒をグッとひと飲みした。それを見て、他の3人もあわてて飲み干した。間本への励ましの「証し」であった。こういうときは、いやでも何でも、こうする掟であった。
「間本さんの生きざま、ぜひ見せてください」
「討ち死に・・・」
と言いかけて、山高はやめた。隣で海峡男が、ひっくひっくと笑うのを必死に我慢していた。
3人は間本の手を握り、精一杯の声援を送った(ふりをした)。
間本はうなずきながら3人の顔を見た。間本、いや土方の頬を涙がつたった。
続きます
※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。
「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。ここ数年多くなったのが「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。
道場海峡男(どうばうみお)は、本棚の隅から、大学の研究室の機関誌「学大地理」を取り出した。色あせた機関誌だが、40年前の懐かしい思い出の数々が鮮明に蘇って来た。
研究室の仲間、ちゃんちゃんこ軍団の同志、4年間の輝く函館の歴史がここにある。