三句の法門 | 吉祥院 ~茨城県石岡市(旧八郷町)で約900年続く真言宗豊山派のお寺ブログ(お坊さんのことば)~

吉祥院 ~茨城県石岡市(旧八郷町)で約900年続く真言宗豊山派のお寺ブログ(お坊さんのことば)~

茨城県石岡市にある真言宗豊山派の摩尼山吉祥院です。
ふるさと茨城路百八地蔵尊霊場第九十一番札所に指定されており、
開山約900年の歴史を持つ由緒ある寺です。
境内の四季折々の風情や仏教について、幅広い情報を発信するお寺ブログです。

大乗仏教では、修行者である菩薩は

「上求菩提(じょうぐぼだい)」

「下化衆生(げけしゅじょう)」

という、心のあり方を示さなければなりません。

 

上を向けば、悟りを求める姿勢を失わず

それと同時に下に向かっては苦しむ衆生を

全力で救済するということです。

 

しばしば「智慧」と「方便」の2つが強調されます。

智慧は、空を悟ること、または

それを求める心を意味し

方便は、苦しむ衆生に対して慈悲の心をもって

救済することです。

 

大乗仏教では、自分のみが

悟りに至るのではなく

慈悲の心による方便の行を実践して

いかなければならないのです。

 

真言宗において非常に大事にされる

『大日経』という経典に

「三句の法門」という

  菩提心を因とし

  大悲を根とし

  方便を究竟とす

と説かれている箇所があります。

 

「菩提心」という、悟りを求める、あるいは

悟りと一体となった心を因とし

衆生を救済しようという「大悲」の心を根とし

その救済の手段である「方便」を

究極のものとするという意味です。

 

究竟とは、それを最終的な目標とする

ということであり、空を悟った智慧と

大きな慈悲の心によって

悟りに導くべき衆生を救済する活動を

行い続けることを示しています。

 

弘法大師は、師匠の恵果和尚を讃えて

「貧を済うに財を以てし、愚を導くに法を以てす」

という言葉を残しました。

 

密教では特に民衆の中で教化活動を行うとされます。

雨が降らない時期が続けば

法を修して降雨を願い

貧しい者には惜しげもなく物を与えた

という記述が多く残されているようです。

 

密教の積極的な社会活動への姿勢は

『大日経』の三句の法門に

よく示されているのではないでしょうか。

仏の世界を全く別の宇宙に求めず

この現実にこそ真理が潜んでいることを

主張する密教の立場を

よく表したものといえます。