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表紙

 

 

 矢儀(やぎ)は異様(いよう)な雰囲気(ふんいき)を感じながら、橋を渡る。

 農道(のうどう)の荒廃(こうはい)ぶりも凄(すざ)まじい。アスファルトは変色し、所々剥(はが)がれていた。

 何とも、自転車には辛(つら)い悪路(あくろ)だ。

 

 

アスファルト

 

 

 矢儀は心持ち、スピードを緩(ゆる)めた。

 タイヤが砕(くだ)けたアスファルトを弾(はじ)く度(たび)に、冷や冷やする。先を急いでいる時に、パンクをされては、敵(かな)わない。

 尤(もっと)も、目的地は、橋から僅(わず)か一キロ弱だった。

 高野台(たかのだい)の外(はず)れから、およそ十分。全行程(ぜんこうてい)で、約四十分。

 今回の研究対象――禁忌(きんい)の石段は、西側の山の麓(ふもと)にあった。

 織田村(おだむら)の到着を待って、三人はとりあえず、路肩(ろかた)に自転車を止めた。

 湿気が多い中、運動部並に身体を動かしたおかげで、全身から汗が吹き出す。

 矢儀は、シャツの胸元を煽(あお)りながら「やっと、着いたの」と、独り言(ご)ちた。

 聞こえているだろうに、兼行(かねゆき)も織田村(おだむら)も、完全に無視だ。

 ただ、織田村は、そもそも声が出ないと見える。膝(ひざ)に手を突いて、まだ肩で大きく息をしている体(てい)たらく。

 まったく、織田村の軟弱振(なんじゃくぶ)りには、呆(あき)れを通り越して、哀(あわ)れみすら感じる。

 矢儀は一応「大丈夫か?」と声を掛けた。返事はない。代わりに、恨(うら)めしげに、上目遣(うわめづか)いで睨(にら)まれた。

 ガンを飛ばせるほど元気なら、よい。

 矢儀は無言の二人を尻目(しりめ)に、さっさと曰(いわ)く付(つ)きの石段の下に立った。

 頬(ほお)を伝(つた)う汗を拭(ぬぐ)いながら、一直線の階段を見上げる。

 

 

石段

 

 

 長い間、人の手が入っていないのだろう。両脇の木々は伸び放題。日の光を求めて横へ広がり、石段の天井(てんじょう)を完全に覆(おお)っていた。

 おかげで、通路は周辺(しゅうへん)に比べて薄暗い。天辺(てっぺん)で切り取られた鈍色(にびいろ)の空が、やけに明るく見えた。

 それにしても、随分(ずいぶん)と急な勾配(こうばい)だ。

 矢儀は、幾分(いくぶん)か顎(あご)を仰(の)け反(ぞ)らせて、石段を見上げる。

 高さは、校舎の三階くらいだろうか。

 横幅はおよそ二メートル。大きさの違う直方体(ちょくほうたい)の石を、一段に四~五個並列(へいれつ)し、階段を造っている。

 石と石の間には、コケが生(は)えている箇所(かしょ)も多い。風がないところでは、年々積もる落ち葉が、層(そう)をなしていた。

「よし! とりあえず、上(のぼ)ってみよーや」

 一通(ひととお)り観察を終えた矢儀は、ひょうひょうと上(のぼ)り始める。

 背後から、悲鳴にも似た、仰天(ぎょうてん)の声が上がった。

 振り返ると、兼行が信じられないとばかりに、目ん玉を引(ひ)ん剥(む)いている。

「なんで? 立ち入りは、禁止されちょらんぞ」

 矢儀は冷静に、現状を述(の)べた。

 兼行の顔が、一層(いっそう)の驚愕(きょうがく)に歪(ゆがむ。眉(まゆ)は八の字、目は三角、唇は片方だけが攣(つ)上がり、せっかくの美形が台無(だいな)しだ。

 思わず、「すっげぇ、不細工(ぶさいく)になっちょるぞ」と、本音(ほんね)が口を突(つ)いて出る。

 美形の自信か、兼行は右から左へ聞き流すだけだ。織田村のほうが、変に狼狽(ろうばい)している。

 矢儀は仕切直(しきりなお)しに、「織田村、足元に気をつけろよ」と、声を掛けた。

「転がり落ちて死んだら、いい笑い者(もん)だ」

 矢儀はニヒルに言い足し、さっさと石段を上(のぼ)る。

「落ちやしませんよ。小学生じゃあるまいし」

 背後から、ふて腐(くさ)れ気味(ぎみ)の、強気(つよき)な発言(はつげん)が飛んで来た。

 次(つ)いで、石段を勢いよく駆(か)け上(あ)がる足音(あしおと)がする。

 矢儀も釣(つ)られて、歩調(ほちょう)を速めた矢先(やさき)――

「ぜってぇ落ちるって! 間違いなく落ちて死ぬ!」

 慌(あわ)てふためいた兼行の脅(おど)しが入る。

 

 

 

 


 

 

 

 今日のにゃんこ

ブリテッシュショートヘア

 🔺「飯はまだか」の圧がスゴイ

 

 

 

はじかれ者中学生3人が『禁忌の石段』の謎を解くミステリー小説

ケ・ハレあらすじ

まずは、あらすじから読んでいただけると嬉しいです

 

①ケ・ハレ 序章(神の放物線)

学校内転落事故のゆくえ

②ケ・ハレ 第一章(禁忌の石段)

その石段、通るべからず


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