追いこまれた消費者庁 ~241 号~(2024/06/12) | 景表法ニュースレター バックナンバー

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弁護士出身の実業家・リーガルマーケティング

創始者の林田です。

 

景表法に関しては「不実証広告規制」というル

ールがあり、企業側が「不当表示でないこと」

の立証責任を負っています。

言わば消費者庁はゲタをはかされている状態に

あり、圧倒的に有利な立ち位置にあります。

 

ただ、その消費者庁も今まで2度ヒヤリとした

ことがあります。

その一つは、クレベリン事件仮処分申立事件

です。

今日はそのおさらいをしたいと思います(事実

関係以外の部分は私の推論が含まれています)。

 

1.消費者庁は措置命令を下すと決めたら、

そのドラフトを示して「これについて反論した

いことがあれば15日以内に言いなさい」とい

う書面を送って来ます。

これが「弁明の機会付与」です。

 

2.クレベリン事件仮処分申立事件(大幸薬品

社)では、「クレベリンで空間除菌できると広

告しているが、その根拠があるとは認められな

いから措置命令を下す予定である。反論したい

ことがあれば15日以内に言いなさい」といっ

た形で「弁明の機会付与」が行われました。

令和3年11月20日のことでした。

 

3.その後、大幸薬品社は反論を行ったものの

「消費者庁は全く聞く耳を持たない」「このまま

では措置命令は100%下される」と判断し、

翌月12月14日に、措置命令発令の差止を求

める訴訟を提起すると共に、緊急性があるとし

てその仮処分も申請しました。

 

4.この戦術はおそらく史上初の作戦でした。

よく政治家や芸能人のスキャンダルが週刊誌で

公表されそうなときに出版差止の仮処分を申請

することがありますが、そういう時に差止の仮

処分が用いられます。

緊急性が高い時に、ある程度確かであれば認

めるという制度ですが、認められることはあまり

ありません。

 

5.ところが、クレベリン事件では6商品中2

商品について、東京地裁はこの差止の仮処分

を認めました(令和4年1月12日決定)。

やむなく、消費者庁は4商品について措置命

令を下し(1月20日)、2商品については措置

命令を下せないので、東京地裁の1月12日決

定はおかしいと主張して、東京高裁に即時抗告

しました(1月20日)。

 

6.即時抗告を受けた東京高裁は3ヵ月近く審

理して、措置命令を差し止めた東京地裁の決定

はおかしいとしてこれを取り消しました(4月13

日)。

これで消費者庁は2商品についても措置命令

を下せるようになったので、同月15日、措置

命令を下しました。

 

7.以上が事件の顛末です。

大幸薬品社はおそらく、今措置命令を出される

と当社の経営が傾きかねない、しかも、2商品

については、「空間除菌について密閉空間のエ

ビデンスはある。密閉空間のエビデンスを根拠

としていることは打消し表示でわかる。だから

消費者に誤認はない」といった主張を行い、東

京地裁も「ある程度はそう言える」と判断して、

差止の仮処分を認めたのだと思います。

 

8.東京地裁の決定は結局、東京高裁に覆され

てしまいましたが、差止の仮処分申請が認めら

れたときは消費者庁もヒヤリとしたものと思い

ます。