2023年10月、11月に読んだ本たち | ますたーの研究室

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英詩を研究していた大学院生でしたが、社会人になりました。文学・哲学・思想をバックグラウンドに、ポップカルチャーや文学作品などを自由に批評・研究するブログです。

 

最近はプライベートが繁忙期という感じです。

 

・千葉雅也『エレクトリック』(新潮社、2023年。)

めちゃ個人情報になるが、千葉雅也は自分の高校の先輩にあたる。その千葉先輩が高校のころの話を小説に書いたという話を、同じ故郷の高校の後輩かつ大学の後輩となった人から聞き、気になって読んだ一冊。

 

 

1995年の宇都宮が舞台。高校2年生の達也は、広告業を営む傍ら機械いじりが趣味の父親を慕い、父が作るアンプを筆頭に、電気的なものに心を惹かれている。男子校に通う達也は、自分が性的な話題を嫌悪する一方で、同性に性的な興味を抱いていることも自覚しつつあり、揺らいでいる。そんな中、黎明期のインターネットでゲイのコミュニティの存在を知り、東京への憧れを強めながら、おずおずと接触を試みる。

 

 

普通に小説として読んだ感想を言うと、正直あまり面白くなかった。どこが盛り上がりなのかがよくわからないまま、もにょっと始まってもにょっと終わっていったという印象がある。「これ結局何の話だったんだろう」と人にあらすじを語るのに困ってしまう。

 

 

一方で、作者と同様に宇都宮市出身かつ同じ高校に通っていた身からすると、この小説は本当にやばい。普通に「主人公は俺か?」と錯覚してしまう。あまりにもリアリティが生々しすぎて、リアルそのものだ。「戦前からそのままの姿だという、深い飴色になった木造の講堂」(24)だの「内職」だの「前衛的な校舎の構造」だのは序の口で、一番笑っちゃったのはあの高校の校内模試をこんなにきちんと説明した小説ある?というところである。シャー芯が引っ掛かるような、しみったれた灰色のわら半紙でできた、「平均点が五十点で東北大学という基準」の学校独自の模試は、決してフィクションではありません。千葉雅也も宇高の卒業生なんだなってのが、本当によくわかった。

 

 

「エレクトリック」という題名は、その雷の多さから「雷都」(らいと)と呼ばれ、雷を「雷様」(らいさま)と呼んである種の畏敬の念を持つ宇都宮の感じを直接的に表している。今年開通した路面電車も「芳賀・宇都宮ライトライン」といい、雷をイメージした黄色の車体となっている。

 

 

11月の頭、急な事情で宇都宮にしばらく帰らないといけなくなったときに読んだこともあって、その「リンクしている」感じは多分しばらく忘れないんだろうなと思う。読んでよかったです。

 

 

・津村記久子『この世にたやすい仕事はない』(新潮社、2018年。(単行本:日本経済新聞出版社、2015年。))

これまたある日、出先帰りに書店に寄った際に平積みになっているのを見つけ、挑発的なタイトルに惹かれて買った一冊。なかなか面白かった。また、文学研究から距離を置いても相変わらず純文学や翻訳小説ばかり読んでいたので、たまには一般的な小説を読んで純粋にエピソードの面白さに浸るのもいい時間だった。

 

 

主人公はストレスに耐えかね、ずっと勤めていた仕事をやめた女性である。その女性が、1日中隠しカメラで小説家を見張る仕事、バスで流れる停留所付近のお店などの広告アナウンスを書く仕事、おかきの裏のミニコーナーの文言(豆知識など)を書く仕事、等々の様々な不思議な仕事を経験し、仕事との向き合い方を見つけていく。

 

 

第1話「みはりのしごと」と第2話「バスのアナウンスのしごと」はかなり楽しく読めた。特に「バスの広告アナウンスを作ったりひっこめたりすることによって、その事業所が現れたり消えたりする」という着想はめちゃくちゃファンタジックで面白く、よくできている。だが、第3話「おかきの袋のしごと」と第4話「路地を訪ねるしごと」はなんだかすごく息苦しくて、主人公の「本当にピンチになるまで人に相談できない」「自分の仕事の範囲がわかっておらず余計なことをする」「仕事に愛着を抱きすぎて勝手に苦しくなる」みたいな特性が顕著になり、楽しい読書のはずなのに無駄に苛ついたりもした。正直仕事での近しい関係でこういう人がいたらきついなと思いそうである。

 

 

最終話である第5話「大きな森の小屋での簡単なしごと」において、主人公はふとしたきっかけで社会生活からドロップアウトし、公園の中で野性生活を送る人と出会う。その出会いを通じて、この高度資本主義社会における仕事の本質を悟る。そのテーゼはもう4年くらいは職業生活を送っている自分はすっと共感できるものであったし、確かにそうだよなと思う。そのメッセージは、この社会で働いている全ての人たちに寄り添うものなのではないかという印象がある。かなりよかったです。

 

 

・青山剛昌『名探偵コナン』(104)

 

・青山剛昌『名探偵コナン』104巻表紙。(C)小学館

 

今年はコナン熱が久しぶりに再燃したので、思わず書店でコナンの最新刊を買ってしまった。面白かった。

メインは17年前の羽田浩司の事件の全容が明かされる話数だが、個人的には授業参観の挿話で、コナンと灰原の2人が有紀子さんや阿笠博士に対して子どもっぽい姿を見せているところになんだかぐっときてしまった。年を取ったのを感じる。