ますたーの研究室

ますたーの研究室

英詩を研究していた大学院生でしたが、社会人になりました。文学・哲学・思想をバックグラウンドに、ポップカルチャーや文学作品などを自由に批評・研究するブログです。

 

これで『夏帆』への助走はばっちりというわけ。

 

・村上春樹『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』

久しぶりに初期村上春樹を読むかと思い、『羊をめぐる冒険』から読み始めた。『羊をめぐる冒険』が結構面白かったのでその1つ前の『1973年のピンボール』も読んだが、そちらは全然面白くなかった。ピンボールを探し始める物語の本筋がようやく中盤から始まったが、それに至るまでのぐだぐだしている件が何のお話なのか全然わからなかった。あの双子は何だったんだろうか。

 

 

一方で『羊をめぐる冒険』はなかなかよかった。よくわからない事件に急に巻き込まれ、わけもわからず何かを探し求めるという村上春樹フォーマットはこの時からあるのだなという知見を得た。また、戦後の憎悪(と自分は何となく読み取っている)を凝縮した羊という存在も不気味なのになんだかコミカルなのがよかった。わりとすぐに再び振り返るときが来る気がしている。

 

・城山三郎『「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯』

前職のお世話になった上司から餞別としてもらった一冊。かなりよかった。

三井物産の代表取締役社長を経て国鉄総裁を務めた石田禮助という人物の伝記小説で、彼の生涯と言動を冷静な筆致で捉えている一作。

 

 

「粗にして野だが卑ではない」というのは石田の座右の銘でもあると同時に、その上司の座右の銘でもあるらしい。

言動は飾らずに率直で粗忽であるが、卑しいことや曲がったことはしないというのがその意味で、「筋を通す」「義を立てる」ことを重視していた上司が石田の姿と重なるところも多く、改めて感銘を受けた。

 

こういう気づきや学びを大事にして、次の仕事にもつなげていきたいものです。

 

・鈴木ジェロニモ『水道水の味を説明する』

鈴木ジェロニモというピン芸人がいる。「説明」というフォーマットのネタがYoutubeで話題になり、その内容を書籍にまとめたのがこの一冊である。この本が新宿の紀伊国屋書店の「詩歌」の特設コーナーに平積みされていたのが面白く、思わず買ってしまった一冊。

 

 

あとがきにも書かれているが、谷川俊太郎に帯をお願いしたものの断られてしまったが、その断りの文言がすでに本の帯としてふさわしい文章になっているのでそれを使っていいかと許可を取って結果的に帯になっている経緯がめちゃくちゃ面白い。そしてその帯がなんてことのない文章なのに、すでに詩になってしまっているところに、谷川俊太郎の詩人としての凄まじさを強く感じる。

 

 

本書の内容も、その谷川俊太郎の「詩」に負けないくらい「詩」になっている。「造花の匂いを説明する」くだりが一番好きだった。布でもなく、花でもない宿命を背負ってしまった造花の悲哀と誇り。

 

・小川哲『君のクイズ』+『映画 君のクイズ』

 

(C)2026 映画『君のクイズ』製作委員会

 

映画がラジオで紹介されていたことをきっかけに興味を持ち、「そういえば原作小説を連れが持っていたな」と思い至り触れた一作。映画を観た後に原作を読んだ。自分はクイズ番組のエンターテイメント性に大きく舵を切った映画版の方が好きで、かつ本庄絆のパーソナリティを原作よりも深く掘り下げて表現した映画の方が作品全体の鑑賞後の印象を良くしている感じがして非常に良かった。

 

 

とはいえ、「なぜクイズ番組で問題を読み上げる前に正解ができたのか」という問いを立て、「クイズ」と「クイズ番組」のわずかな差をもとにメタ的な謎解きを用意した原作の強さもまざまざと感じたのも当然ある。

クイズが人生をなぞっていくこと、そしてクイズを正解することで世界に祝福された幸福感を得ること、という知見もよかった。