本日の大会はハッピーエンドになりません――芦野祥太郎インタビュー | KEN筆.txt

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今年の横浜文体大会で最後に入場してくるWRESTLE-1チャンピオンシップ王者は、キャリア2年半ながら並みいる先輩たちや同世代のライバルを倒し破竹の快進撃を続ける27歳の本格派である。その傍若無人なふるまいからブーイングや罵声を浴びせられようとも、芦野祥太郎は「強ければ何をやってもいい」とうそぶきこの半年間、最高峰のベルトを保持してきた。その荒々しさ、ふてぶてしさの裏に秘めている王者の信念とはいったいどんなものなのか。決戦前、不敵なまでの静けさをまといながら語った。

 



人気者になりたいとは思わない
誰からも好かれるなんて都合がいい


――WRESTLE-1チャンピオンシップ王者として、今年のGPトーナメントは高みの見物をする立場でした。
芦野 優勝したから言うわけじゃないですけど、やっぱりイケメンが一番目立っていましたよ。あいつが優勝したことによって話題にもなったということは、一番発信力のある人間でもあるということだと思うし。まあ、ちょっとだけ強くなりましたね。
――優勝しても、ちょっとだけなんですね。
芦野 まだお客さんにアピールしているから。コーナーポストの上で倒立して脚をパタパタさせるんだったら、そのスタミナを試合で使えって。だから終盤、疲れちゃうんですよ。技のキレや展開力はほかの人にない素晴らしいものがあるのに。
――芦野選手自身は、河野選手が優勝して上がっていることを望んでいました。
芦野 その河野さんに勝ったんだから、そこは評価しますけど…でも、あれも俺とやった時のようなエゲツない河野さんじゃなかった。そこは優勝が懸かっているということで堅実にいった結果、そうなったんだと思いますけど。
――優勝したイケメン選手と向かい合った時、向こうから右手を差し出されて握り返しました。
芦野 どんな勝ち方であろうと優勝を果たしたんだから、そこは健闘を称えようと思いました。でも、それだけです。去年の文体はケガで欠場してスタンド席から眺めていたわけですけど、復帰してからはずっとパパパッと来ているじゃないですか。それと同じペースでサクッといっちゃうんじゃないかとしか今は思えないですね。
――年間最大のビッグマッチのメインでありながら、サクッと勝ってしまうと。
芦野 ええ。それは全力を出さないとかいう意味じゃなく、順当に強い方が勝つプロレスをお見せするという意味です。イケメンが勝ったら波乱と見る人が多いと思うけど、その波乱が起きるような空気さえも出させないというか。
――パパパッと来ているという実感が得られるほどの調子でいられるのは、肉体的なコンディションに加え気持ちの面にも理由があると思われます。
芦野 俺は毎回、もしもベルトを落としたらしばらくは挑戦できないという意識でやっているんです。負けても名乗りをあげれば一年に2回、3回と挑戦できるようじゃタイトルの価値は上がらない。そんなベルトにはしたくないから、自分は最低でも1年間は挑戦しない。そうなると、何がなんでも防衛するという気持ちが強まる。
――WRESTLE-1における他のタイトルは王座の移動が激しく、一度負けた人間にもチャンスが巡ってくるサイクルが速い。そんな中、芦野選手だけが長期政権を築いています。
芦野 負けても次があるからいいか…みたいな感覚の人が多いんですよ。だからじっさいにコロコロ変わっているじゃないですか。あんなのでベルトの価値は上がらない。特にNEW ERAの連中は、落としても若いからチャンスはいくらでもあると思っていやがる。そういうところでも俺は、世代が同じだからって一緒にされたくないんですよ。
――復帰前の時点で2017年の横浜文体のメインに立つことを想定はしていたんですか。
芦野 想定というよりも、その時点で目標として立てていましたね。望むだけではなく、じっさいにそれを形にする。誰になるかはわからないけど、その時点でのチャンピオンに勝って、ベルトを巻いて年間最大のビッグイベントのメインに立つんだって。欠場している間にリング上を見ているうちに、これは負けないな、復帰したら勝てるなって俺に思わせちゃっていたんですよ、WRESTLE-1のみんなは。その時点で復帰まで5ヵ月ぐらいあったから、それほどの時間を練習だけにつぎ込めばリングにさえ戻ったらできるなと思っていました。思っていたようにならないことで、挫折という物語になる場合もあるじゃないですか。でも俺はプロレスラーになる前に死ぬほど挫折したんで、プロになってからはトントントンといかなきゃいけないんですよ。挫折している時間なんてないです。
――ファンの頃から夢見ていたチャンピオンになって半年が経ったわけですが、じっさいに味わってみてどうでしょう。
芦野 俺はそれほどデカくないんで、地方にいくと「あれがチャンピオンで大丈夫なの?」みたいな目で見られるんです。そういう先入観を試合で吹っ飛ばさなければならないという意味でのプレッシャーを常に感じています。それはベルトを獲るまでにはなかったものですよね。ただ、やっぱり居心地いいですよ。僕は常にチャンピオンベルトを持ち歩いているんです。見せたらみんな喜んでくれるから。そこで「すごいねー!」って言われるわけじゃないですか。単純ですけど、それで気分がよくなる。
――関心を持ってもらったり、喜んでもらったりするためにベルトをちゃんと活用しているんですね。
芦野 やっぱりチャンピオンベルトって子どもにとっても大人にとってもあこがれなんですよ。現物を見たことがきっかけで、会場に足を運んでくれた人もたくさんいます。リング上がああだからみんなギャップに驚くんですけど、あれは対レスラーだけですよ。
――試合会場でもファンサービスに努めています。
芦野 それでプロレスがより好きになってまた来てくれるなら、もっとやらせてほしいぐらいです。リング上は、俺に挑戦してくる選手がみんな人気者なのと、勝ったら何を言ってもいいと思って言っているから、なかなかお客さんには応援してもらえないけど。
――人気者になりたいとは思わないのですか。
芦野 うーん…あんまり思わないですねえ。喜んでくれるのは確かに嬉しいけど、みんなのヒーローになる必要はないなと。誰からも好かれるタイプっていう人もいますけど、俺は昔からすげー仲のいい親友か、すごく嫌われているかのどちらかなんです。誰からも好かれたいなんて都合いいじゃないですか。自分の性に合わないんですよ。小学生の時点で敵が多かったですから。いじめられても泣かないし、言うことも聞かないのが気に入らないんでしょうね。それで「あいつを仲間外れにしようぜ」ってなるんだけど、仲のいい友達はいたから全然平気で。
――それが大人になってプロレスラーとしてのカラーになっていると。
芦野 よく社会や会社の歯車にはならないって言うじゃないですか。俺はならないんじゃなく、なれないんですよ。その意味でもプロレスラーになるしかなかった。小さい頃にプロレスと出逢えてよかったですよね。プロレスを知らなかったら今頃、社会の中でどうなっていたか。

 



この団体は破壊なくして創造なし
新ユニットに加入する者はまだいる


――横浜はイケメン選手が相手だけに、そんな図式がMAXになります。
芦野 いや、遠慮なくブーイング、罵声を浴びせてください。人気者が勝つことによってプロレスはハッピーエンドになるわけですが、俺の試合に関しては申し訳ないけどそれを裏切ることになってしまいます。でも、内容と自分の強さでお客さんを納得させられる自信はあるんで。あいつのこと嫌いだけど、強いよなって思わせるところに意味がある。ただ嫌われたいだけだったら、ツバ吐いてりゃいいんですから。
――ハッピーエンドを拒絶するプロレスラー。
芦野 なのでイケメンを応援しに来る皆さんは、ハンカチのご用意をしてきてください。ハッピーにはならないけど、満足して帰れることをお約束します。7月の後楽園で児玉裕輔が稲葉を裏切った時は、さすがにお客さんが引いているかなと思いましたけど、今のWRESTLE-1はそれぐらいやらないと仲良しこよしから脱却できないですよ。アットホーム感って団体に必要ですかね? 俺はそれをぶっ壊したい。鈴木秀樹選手が上がっていた頃ってピリピリして緊張感があったじゃないですか。煙たがられているけど強いと。あの、いやーな空気ね。それを所属の人間で出せないところに問題があると思いますよ。
――児玉選手にはいつ頃からモーションをかけていたんですか。
芦野 実力的にスバ抜けていますからね。体が小さくても技のキレは抜群だし、何よりTAJIRIさんのプロレス観を叩き込まれているのが大きい。そこがNEW ERAではまったく生かされていなかったじゃないですか。それで欠場期間中にはもう目をつけていました。実は復帰したらTriggeRを解体するつもりでいたんです。熊ゴローがnew Wild orderを抜ける時にグダグダ言っていたけど、ぶっ潰しちまえばいいんですよ、抜けたいんなら。自分の力で勝てば文句を言われなくなる。そうしたかったんです。それで河野さん、近藤さんに勝ったところでじっさいにどういう形でやろうかと話して、NEW ERAの中がグッチャグチャになる形でやろうとなって。本当はもっとグチャグチャにしたかったんだけど、結局はあいつらって会社に言われてやっていたような連中だから強い絆がなかった分、それほどこじれなかった。ああ、やっぱりこいつらの関係ってスッカスカなんだなって思いました。
――8月の後楽園でユニット名が「Enfants Terribles」(アンファン・テリブル)と発表されました。
芦野 フランス語で“恐るべき子供たち”という意味なんですけど、俺たちをキャリアで見るんじゃねえっていうメッセージをこめています。
――ジャン・コクトーの小説のタイトルにもありましたね。
芦野 まだ水面下で動き続けていますよ。NEW ERAの中から出るのか、それとも上の人が加わるのかはお楽しみにということで。新しいWRESTLE-1を創造するためには一度破壊しなければ始まらないと俺は思っています。
――破壊なくして創造なし。
芦野 自分だけだったらシングルマッチで一人しか相手にできないけど、何人かいればいるほど破壊できる。立花にしてもようやく覚醒してきたでしょ。あれぐらい劇的に変わらないと周りの見方は変わらない。技よりも姿勢や心構えの方を叩き込んでいますから。もともと格闘技をやっていたわけじゃないから、どうしても内に内にってなっちゃうタイプなんです。だから“勝者のメンタリティー”を養えるトレーニングをしてきました。フィジカルトレーニングも俺と同じメニューをやっていますよ。
――横浜でシングルトーナメント優勝者を退けてしまったら、タイトルに関しては相手がいなくなってしまいかねません。
芦野 僕は常に自分から指名することはないんで、そうなりますね。来る者は拒まないけどいなくなっちゃう。やりたいんであれば、実績を作ってもらわないと。
――芦野選手は武藤さんのように“WRESTLE-1の顔”と思われたいですか。
芦野 そこは難しいところですね。顔になりたいとは思うけど、受け入れられているという意味での顔だとするとそこはイケメンなんですよ。でも、それがナメられているところですよね。あんな弱いやつが団体の顔でファンの皆さんはいいんですか?と聞きたいです。
――どの団体もイコールで結ばれる存在なのはベビーフェイス(善玉)の選手ですよね。
芦野 俺は反体制でやっていますけど、根本にあるのはWRESTLE-1をよくしていきたいという思いです。方法はどうあれ、この団体を上に持っていきたいという思いはデビュー当時から持ち続けてきている。でも、ストーンコールドも反体制でWWEの顔になったじゃないですか。どんな形でもファンの気持ちをとらえれば不可能ではないんだから、俺は今のやり方でWRESTLE-1の顔になってやりますよ。

 

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