名古屋のプロレスの太陽…高井憲吾が1年3カ月ぶりに復帰! | KEN筆.txt

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鈴木健.txtブログ――プロレス、音楽、演劇、映画等の表現ジャンルについて伝えたいこと

8月23日、今年もDDT真夏のビッグショー・両国国技館大会が盛況のうちに幕を閉じました。2009年より7年連続で開催し(2102年のみ日本武道館)、今回は前売りの段階で完売したため急きょ増席するほどの人気に。来年は3月21日と8月28日に両国大会が予定され、3月には初めて国技館を全面開放(これまでは入場ゲートとステージを設営するため3面使用だった)し、満員を目指します。

継続的に見ているファン以外の皆さんは、DDTと聞けば大社長である高木三四郎、新日本プロレスとの2団体所属レスラー・飯伏幸太、世界的ゲイレスラーの第一人者・男色ディーノ、不動のエース・HARASHIMAといったところを連想すると思われます。その一方では竹下幸之介、遠藤哲哉といった二十代が台頭し、加えて昨年11月に発足した若手のみのブランド・DNA(DDT NEW ATTITUDE)に所属する選手たちが、本体の試合にもレギュラー出場するようになりました。

ほぼ全員、旗揚げ戦の日がデビューだったにもかかわらず8カ月後には両国の大舞台に8名のDNA勢が出場。中でも8月に開催された若手シングルトーナメント「プロレス甲子園2015」でも優勝を果たした樋口和貞(大相撲・八角部屋出身の元力士)は、6人タッグマッチで天龍源一郎と対戦する抜てきを受けるほどに期待されています。

1997年にたった3人で旗揚げしたDDT。そのうちの一人だったMIKAMIは先ごろフリー転身し、草創期を知る所属選手は高木のみとなりました。HARASHIMAや飯伏、そして今回の両国メインにKO-D無差別級王者として上がったKUDOといったところは、両国でやるなど夢のまた夢だった時代を知る数少ないベテラン勢となります。

それほど現在のDDTは新陳代謝が激しく、KUDOを破り無差別級新王者となった坂口征夫(昭和の名プロレスラー・坂口征二の長男)も年齢こそ42歳とはいえ、総合格闘技からプロレスに転身して3年。こうなってくると、小さかった頃と比べること自体適切ではないという思いも頭をもたげてきます。

ただし、吹けば飛ぶように小さかった頃を支えた先人たちなくして、現在のDDTがないのも確か。プロレスから離れた者もいれば、別のリングに可能性を見いだし他団体で活躍する選手もいます。

DDTから離れても、当時を見ていたファンはそんなOBたちを変わらず応援し続けています。高井憲吾もその一人。2001年にDDTを退団後、大阪プロレス等での活動を経て2007年にでら名古屋プロレスのコーチとなったのを機に定着。活動休止後もチームでらを主宰し、入江茂弘を輩出するなど名古屋のプロレスシーンの活性化に貢献していることは、当エントリーでも紹介しました。

 



その高井を悪夢が襲ったのは昨年6月。試合中のアクシデントにより左足首を脱臼骨折してしまったのです。内外両方のくるぶしが割れ、手術によりつなぎ止めたほどの重症でした。

長期欠場を余儀なくされた高井のためにと、半月後に支援興行「高井AID」が開催され名古屋勢だけでなく入江や彰人など、DDT所属となったかつての仲間も東京から集結。大きな団体に所属し保障されない限り、プロレスラーはリングに上がれなくなった時点で収入が途絶えます。

選手たちはノーギャラで試合に出場し、大会収益を高井に送りました。窮地へと陥った時に周りがどう動くか…それによって、その人間が持つ本当の価値はわかるのだと思います。突貫ファイトを信条とする彼だけに、リングから離れ体を動かせずにいた1年2カ月の間はさまざまな葛藤があったことでしょう。

 



そんな彼を支えたのが、いざとなったら集まって力をくれた仲間たちの存在だったのは、容易に想像できます。今年の5月、DDT名古屋国際会議場大会のメインで彰人が保持するDDT EXTREME級王座に入江が挑戦しました。

それは、高井AIDで組まれながらフルタイムドローに終わった2人の決着戦でもありました。高井は、チームでら時代の後輩である入江側のコーナー下につき、かつての弟子にゲキを飛ばし続けました。

 



その姿は、自分自身も闘っているかのよう。プロレスラーは、体が動かなくとも表情で自分の思いを伝えることができます。後輩である彰人に初めてシングルマッチで敗れ、入江はタイトル奪取なりませんでしたが、力尽きて花道を去る時も傍らには師匠の姿がありました。

団体として、選手として成長し過去の自分とは比べものにならぬほど大きくなっても、大切な人との関係性は変わらぬものです。時は移ろうとも入江のそばには高井がいて、高井に何かがあったら入江は飛んでくる――それが自然な距離感なのでしょう。

 



9月6日、高井は約1年3カ月ぶりにカムバックします。その大会にはもちろん、入江も出場。そして復帰戦の相手は大阪プロレス時代、苦楽をともにしたバッファロー。じつはこの一戦、本来ならば昨年7月に9年ぶりのシングルマッチとしておこなわれるはずでしたが、高井のケガにより流れたものです。

 



思い入れが強いほどにプロレスは点から線となり、つながっていきます。高井がリングを離れている間は、名古屋のプロレスを照らしていた太陽がずっと沈んでいるかのようだったそうです。

けっして背丈は大きくないものの、プロレスラーの誇りを持ってパンパンの肉体をまとい「ホフ!」の掛け声とともに体いっぱいのファイトを見せる高井憲吾。復帰戦では大ケガにも諦めなかった思いや、名古屋という地方からプロレスシーンの中央へ打って出るかのような持ち前の負けじ魂を感じさせてくれるはずです。