イスラエル発行の切手と5人の外交官 | ケネディスタンプクラブ日記

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 先月末の1月27日は国際ホロコースト記念日でした。
 1945年のこの日、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所がソ連によって解放された事にちなんで制定されたのだそうです。

 さて、こちらの切手をご覧ください。

ユダヤ人を救った5人の外交官 記念切手 イスラエル発行 | 切手,西アジア | 趣味の中古切手や紙幣・硬貨の販売と買い取り|ケネディ・スタンプ・クラブ (kennedystamp.jp)


 建国50年を記念して、1998年にイスラエルで発行された切手です。
 少々デザインが変わっています。
 見た瞬間、印刷されている5人の顔で1枚ずつ分かれるのかと思いますが、これは1枚の横に長い切手なのです。
 また消印らしきスタンプが複数ありますが、これは初めから切手のデザインとして印刷されているものです。

 この切手に描かれている5人は、第2次世界大戦時に欧州のユダヤ人たちをホロコーストから守るために大量のビザを発行した外交官たちなのです。
 右から2人目は日本人杉原千畝ですね。日本のシンドラーとして有名です。
 リトアニアのカウナスに領事として赴任した杉原千畝は、本国の意向を無視して数千のビザを発給して、大量のユダヤ難民の命を救いました。
 画像には「SEMPO SUGIHARA」と記載されてますが、これは「CHIUNE」が発音し難いため、サインをこの名義ですることが多かったのだそうです。(そのため、戦後ユダヤ人団体が杉原千畝を捜し当てるのに時間がかかります)
 敗戦後は無断で大量のビザを発給した事を理由として外務省を退職させられます。外務省が彼の名誉を回復したのは亡くなった後の2000年になってからでした。

 一番左端の人物はジョルジョ・ペルラスカ(Giorgio Perlasca)、イタリアの実業家であり、元ファシストでもありました。

 ジョルジョ・ペルラスカはスペイン内戦ではフランコ将軍の下で戦いました。そのためもありスペイン語が堪能で、ムッソリーニが倒れた後にハンガリーのスペイン大使館に逃げ込み、以後はスペイン人外交官になりすます事に成功します。(このためスペイン人と思われ続けたペルラスカもユダヤ人団体が捜し当てるのに時間がかかってしまいます)

 ハンガリーで外交官として活動したジョルジョ・ペルラスカは、スペイン大使館管轄下の建物に大量のユダヤ人を保護し、スペインの法律を利用して彼らを脱出させる事に成功します。
 1924年にスペインで可決された法律では、セファルディ系ユダヤ人(15世紀後半にスペインから追放されたイベリア系ユダヤ人の子孫)にスペイン市民権を与える事ができたのです。これを利用して、ポーランドなどから逃げてきた5000人以上のユダヤ人たちにビザを発給し続けました。

 戦後、ペルラスカはイタリアに戻ります。彼によって助けられた人たちが1987年に彼を捜し当てるまで、彼の家族を含めて誰一人、彼の英雄的行為を知りませんでした。
 その後ペルラスカは1992年に心臓発作で亡くなります。

 左から2人目のアリスティデス・デ・ソウザ・メンデス(Aristides de Sousa Mendes )は、ポルトガルの外交官でした。ドイツ軍侵攻下のフランス、ボルドーの総領事として、で本国の命令に反してユダヤ人を含めた難民にビザを発給しました。
 家族や同僚の反対を押し切ってメンデスがビザを発給して救った人の数は3万8千人以上、そのうち約1万2千人がユダヤ人だったそうです。
 戦後メンデスは無断で大量のビザを発給した事を理由として失職。あらゆる資格を停止させられ、身内からも非難され、無一文で亡くなってしまいます。

 中央に描かれているのはカール・ルッツ(Carl Lutz)、スイスの外交官でした。
 ハンガリーのブダペストの副領事だったルッツもまた、大量のビザを発給して6万2千人ものユダヤ人をハンガリーから脱出させました。ブダペストのユダヤ人の半数は、彼の行動により収容所送りを免れる事ができました。

 右端のセラハティン・ウルクメン(Selahattin Ülkümen)はトルコの外交官でした。
 ギリシャ領のロドス島(ロードス島)の領事だったウルクメンは、ロドス島に進駐してきたドイツ軍から、ロドス島内のユダヤ人コミュニティを守るために抵抗しました。そのため彼自身もドイツ軍により拘束され、彼の妻と子は殺されてしまいます。

 これらの事を踏まえた上で、今度はこちらをご覧ください。

ユダヤ人を救った5人の外交官 記念切手(初日カバー) イスラエル発行 | 切手,西アジア | 趣味の中古切手や紙幣・硬貨の販売と買い取り|ケネディ・スタンプ・クラブ (kennedystamp.jp)



 これは消印付き切手を貼られた封筒で「初日印カバー」と呼ばれるものです。通常は記念切手発行の日の消印が押されています。
 ところが、この封筒には、切手の上から押される消印の他に、5つのスタンプ跡が印刷されています。
 切手本体にも印刷されているこのスタンプこそ、彼ら5人の外交官が発行し続けたビザのスタンプなのです。
 このスタンプのおかげで死から免れた人々がいた事、このスタンプを職や生命をかけて発行し続けた人たちがいた事は、忘れてはならない事だと思います。