【17:27】

 

R.

 

『今日は、どんな1日だった?

仕事休みだったんでしょ』

 

久しぶりに聞いた親友の声は、

沈み始めた日が連れてきた夜に

寂しくなっていた私の気持ちを

軽く引き上げた。


「久しぶりにゆっくりできたよ。

って、そっちは、真夜中でしょ。

大丈夫なの?」

 

『大丈夫よ。明日、あぁ、もう今日か、

休みだし。・・ってゆーかさ』

 

「何よ」

 

『休んだ理由って何?』

 

・・・。

 

「別に・・誕生日ぐらい、ゆっくりして

いいかなって思っただけで、」

『ピアス、つけてるでしょ』

 

・・ホントに

 

思わず、左耳に手を当ててしまった。

 

『盗撮なんかしてないわよ。

まぁ、吹っ切れるまでの時間は、

人それぞれだし。

浸る時間もいるだろうし』

 

「浸るって・・」

 

『そんな事するなら、別れなきゃ

よかったんじゃない・・まぁ、

手、離せって言った私が

言える事じゃないけど』

 

・・・。

 

わかってる。

でも、あの場所へ甘えたくなかった。

 

いつでも帰れる場所。

 

それが必要な人もいる。

 

でも、私には

逃げる場所にしかならない。

そんな場所があったら、

弱い私は、きっと、負けてしまう。

 

負けたくなかった。

 

ほんと、

『真面目っていうか、

融通がきかないっていうか・・

面倒くさいって言うか』


もう

「これ、お祝いの電話じゃないの?」

 

『それで、リアナが幸せならいいけど』

 

「幸せよ、ちゃんと」

 

もう、隠れなくていい。

下を向いて歩かなくていい。

わざわざ、料理の世界から

離れる日をつくらなくてもいい。

 

でも、今日は・・


彼がくれた誕生花のピアス。

 

それを1日中、つけていたくて

休みを取った。

 

 

・・・・。

 

 

『リアナ?』

 

 

「・・・夢を見たの」

 

『夢?』

 

「ジョングギから、電話がかかってきた夢

“誕生日、おめでとう、リアナ”って」

 

『ほんとにかけてきたんじゃないの?』

 

「夢だってば」

 

『他には?小学生はナニか言ってたの?』

 

「もう、小学生って・・」

 

『赤ちゃんよりは大きくなったでしょう。

・・で?』

 

・・・

 

「・・それで、よく覚えてないけど、

急に場面が変わって、初めて会ったLAの

アパート前の階段に座って・・

笑って話した。うん、笑って・・

時間になったから“またね”って手を振って」

 

『・・それだけ?』

 

・・・・。

 

「別れ際に“リアナが頑張るなら、

僕も頑張る。僕も頑張るから

リアナも頑張って”って言われた」

 

優しい、優しい彼の笑顔が浮かんで

口元が緩んだ。

 

『・・いい誕生日プレゼント

だったじゃない。あの子の事だから、

リアナの夢に出れるように

寝る前にベッドでお祈りして

寝たんじゃない?』

 

「そんな訳ないでしょ」

 

『・・まぁ、どっちにしても、みんな

リアナの幸せを祈ってる事に

変わりはないから』

 

「ありがとう」

 

『ん』

 

「そうだ、マカベさんとは?

うまくいってるの?」

 

『ん?あぁ、今、一緒にいる』

 

「え」

 

『一緒に住んでるの』

 

「そうなの?」

 

『言ってなかったっけ?』

 

「聞いてない」

 

『じゃあ、・・一緒に住んでる。今、

お風呂、行った』

 

・・・・

 

『Sexした後に電話してるんじゃないわよ』

 

・・・・

 

『ちょっと、大きな仕事が入ってね、

別々に暮らしてたら、2人きりになる

時間がとれなくて。一緒に住んでたら、

どうにかなるじゃない。

まぁ・・住み始めたら、色々あるけど、

そんな事で、ダメになる関係じゃないし』

 

 

「色々って、ケンカした時は、

アンが謝るの?・・想像できないけど」

 

『謝る訳ないじゃない。

私、間違ってないのに』


・・・・

 

「マカベさんが優しい人でよかった」

 

『違うのよ。これはね、日々の

マインドコントロールの成果よ』

 

「マインドコントロール?」

 

『そう、“私は運命の女神なんだから、

手放したら後悔するわよ”って教え込むの』

 

 

それ、女神っていうか・・魔女みたい

 

「そう、それでマカベさんは

アンと暮らせる訳ね」

 

『そゆこと』

 

まったく・・

 

しっかりモノの彼女は、

こういう事を真面目に言う。

 

それを“可愛い”って

思ってくれてるんだろうな。

マインドコントロールされた

“フリ”をしてくれる

大人なマカベさん。

 

まだ、写真でしかお会いした事ないけど

いつか、フルコースをごちそうしますので

どうか、アンを見捨てないでください。

 

『聞いてる?』

 

!?

 

「ごめん、何?」

 

『だから、リアナにとっても私は

“運命の女神”になるかもしれないって

言ったの』

 

 

「何?どういう事?」

 

『来年の誕生日も、新しい男もつくらないで

今日と同じ事してたら、女神が微笑んで

あげましょう』

 

「・・・意味わかんない」

 

『神の御心は、神のみぞ知る。

わからなくてよろしい、あ』

 

遠くで声が聞こえた。

 

『ダーリンから呼ばれたから、行ってくる』

 

ダ・・って


 

『聞かれてないけど、今から

一緒にお風呂。その後は、色々

長くなるから電話終わる~』

 

「・・言わなくていい。行ってらっしゃい」

 

『行ってきます。お誕生日、おめでとう

愛してるわ』

 

「マカベさんの次にね」

 

『あんたが一番に決まってるでしょ、

じゃね』

 

 

「ありがと」

 





 

 

少し熱を帯びたスマホを持ったまま

足が自然と動く。

 

伸びた指先は壁にかかる紫の海をなぞった。

 

朝焼けにも夕焼けにも見える風景の中

手前の砂浜に描かれているのは、

あの“ブランコ”。

 

“思えば、あれは僕達の初デートだった”

 

そう言って描いてくれた画。

 

初デート・・

きしむブランコに乗った

私の背中を押してくれたジョングク。

 

少しずつ、空にのぼる私に

“翼が見えた”と言ってくれた。

 

“大丈夫。リアナは、飛べる。

どこでも行ける”

 

 

この画を見ると、彼の言葉が聞こえる。

こっちに来てからの日々を支えてくれた。

 

ジョングガ、ありがとう。

私、頑張るよ。

 

たくさんの人を、

私の料理で幸せにする。

 

その夢を叶える為に

 

頑張る。

 

・・・・。

 

 

 

 

 






もうすぐ誕生日が終わる。


来年の誕生日、

私は、また、このピアスをつけて

この言葉を言うのかな・・

 

ジョングガ・・

 

 

愛してるよ

 

 

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