近年、がん治療は大きな進歩を遂げています。
現在は臓器別にがんを治療する方法が主流ですが、徐々にがん細胞が持つ分子に注目して治療法が選択できるようになりつつあります。
外科的切除、つまり手術であれば、がんができた場所が重要です。
胃がんと肺がんの手術方法が違うのは誰もが理解できるでしょう。
がんの診断はまずどの臓器にできたのか、そして周囲にどれぐらい浸潤しているのか、リンパ節や他臓器への転移の有無を問います。がんの進行度を表すステージ分類は外科的切除を念頭に置いた分類です。
一方で、抗がん剤治療では、がんができた場所よりもがん細胞の性質のほうが重要です。同じ胃がんでも、抗がん剤が効きにくいがんもあれば効きやすいがんもありますし、ある胃がんに有効な抗がん剤が、肺がんに効くこともあります。とはいえ、診断技術が進んでおらず、抗がん剤の種類も限られていたころは、臓器別に抗がん剤治療を行わざるを得ませんでした。
革命的な進歩の一つが分子標的薬の登場です。
それまでの抗がん剤は細胞分裂を妨げることで作用しますが、分子標的薬はがん細胞の表面にある分子に働きかけることで効果を発揮します。
肺がんに対して最初に承認された分子標的薬であるイレッサ(一般名ゲフィチニブ)は、EGFRというがん細胞の増殖に関連する分子をブロックします。
イレッサが著効する患者さんもいればまったく効かない患者さんもいました。
同じ肺がんでもEGFR遺伝子変異がある患者さんにはよく効いたのです。遺伝子変異は顕微鏡でがん細胞を観察しただけではわかりませんが、遺伝子検査をすることでわかります。現在では、検査でEGFR遺伝子変異が陽性の患者さんに限り投与されています。
HER2という分子が発現している乳がんにはハーセプチン(一般名トラスツズマブ)という分子標的薬がよく効きます。
乳がんは手術と抗がん剤を組み合わせる治療が標準となっていますが、HER2やホルモン受容体の有無で乳がんはいくつかのサブタイプに分類され、使用する抗がん剤の種類が変わります。興味深いことに、ハーセプチンは乳がんだけではなく、胃がんや大腸がんや唾液(だえき)腺がんにも適用が認められました。もちろん、HER2が発現していることが条件です。
ハーセプチンやイレッサ以降も、さまざまな分子標的薬が登場しています。
そして分子標的薬は、がんが発生した臓器よりも、がん細胞がどのような分子を発現しているかが重要なのです。
一度に複数の多くの遺伝子変異を調べてどの薬が期待できるのかを調べる検査も行われはじめています。
現時点では、遺伝子変異を調べても有効な薬が見つからなかったり、費用が高すぎたりすることが課題です。将来は、臓器ではなく分子レベルに基づいて、個別の患者さんに最適化された治療が行われるようになるかもしれません。
★★この部分が重要です。
分子標的薬は、がんが発生した臓器よりも、がん細胞がどのような分子を発現しているかが重要なのです。
一度に複数の多くの遺伝子変異を調べてどの薬が期待できるのかを調べる検査も行われはじめています。
多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」という検査もあります。最先端の検査方法です。
特定の遺伝子が変異すると、臓器の枠を超えてさまざまながんの発症原因となることが分かっています。
そんな変異を特定するのが遺伝子検査です。
変異を特定した上、かつその変異に対応する薬剤があれば、その薬を使うことで、完治に近い状態まで回復するケースもあるようです。
最近のがん治療の一つとして、遺伝子検査があるということを覚えておくといいです。