前回に引き続き、作家がどのようなリサーチをするのかについてお話ししましょう。
まず、文芸やミステリー作家は、あまり資料はいらないかわりに、取材旅行というのをします。一人で部屋にいて、自分が書く本の舞台になる場所を訪れ、天気、景色、匂いなど五感を使って、情報を取りに行きます。いい旅館に泊まって豪遊するというよりは、普通の小料理さんに行って、地元の人と世間話をして、ヒントをもらうような感じです。お店に行っても、さりげなくその地方の名産、習慣、言い伝え、方言などをメモして帰ってきます。その取材メモをもとに、原稿と向き合うことになります。
ノンフィクションの本を書く作家は、もっと大変です。最近は、インターネットでいろんな情報があるので、だいぶラクですが、それでもちゃんと裏を取らないと、後で恥をかくことになります。最悪の場合、出版後に回収ということになります。インターネットで下調べした後は、そのテーマに関する関連した本を買い漁っていきます。
僕が本を書くときは、テーマによりますが、その本のための取材ということはあまりしません。それよりも、ほとんど毎日が取材であり、読書も、将来の本のリサーチのようなところがあります。普段ランチやディナーを食べたり、パーティーで会った人とのちょっとした会話が、本のヒントになるのです。そのために、一瞬も気を緩められないというわけではなく、普段の生活がそのまま取材活動になっているともいえます。
このスタイルを確立するのに、10年かかりましたが、一旦うまくいくと、本が量産できるようになります。なぜなら、ずっと取材しているので、書くよりもネタが貯まってしまうような状態だからです。商売で言うと、仕入れをしないと、売上が立たないわけですが、仕入れが十分だと、売り物がいっぱいになるわけです。そういう意味では、おもしろい生き方をしている人は、作家に向いているかもしれませんね。
本田健