羽金山(後篇) | 若宮桂のブログ・空と海がぶつかる場所
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羽金(はがね)山は、福岡県と佐賀県の県境を東西に伸びる脊振(せふり)山地のピークの一。
かつての旅で、最高峯の脊振山(1054.6m)をはじめ、この山の隣のピークである雷山(955m)、九千部山(848m)、井原山(982m)、十坊山(535m)を、自転車と徒歩のみで登頂しました。

脊振山地は、いずれも地元では名の知られた景勝地ですが、この羽金山は、900mもある山頂までずっとコンクリートの鋪装道路な上、許可を得ないと山頂へ行けないとあってあまり人気のない山です。

それでもこの山へ行ってみたいと思ったのは、手元にある古い本「ふくおか無名山」に載っている「河童山」というピークへ立ってみたいと感じたから。

河童山は、国土地理院の地図に名前が載っていない、地元の人だけに知られる幻のピーク。
この1冊の本を頼りに、まずは羽金山頂目指して車道を歩いていきます。

途中、車両通行止めのロープが張ってありましたけど、自転車と一緒に跨いで進みました。帰りは麟に乗って一気に駆け下りるつもり。

それから暫く進むと、羽金山頂と縦走路の分岐点がありました。持ってきた「無名山」では山頂まで車道と書いてあったので、ちょっとびっくり。
しかし雨宿りでロスした為時間は遅く、車道を歩いて山頂へ行くことに。


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ガスが出てきました。
先ほど降った雨がこの熱ですぐに水蒸気となっているのでしょうか。

疲れ果てて道路に倒れ込みました。
暑い。
汗で濡れたTシャツから水分が一気に蒸発していき、白い煙となって立ち登っています。


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時間的にもうそろそろ着いてもよさそうだけど。
と、巨大なアンテナが。もう少しか。

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16時45分頃、遂にはがね山標準電波送信所へたどり着きました。
この送信所は、日本標準時、つまり正確な時間を電波時計等へ発信している場所です。

時間が少し過ぎてしまってますが、インターホンで山頂へ行けるか尋ねてみました。
結果は×でした。残念ですね、あの雨さえ降らなかったら。

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「無名山」著者の滝澤昭正氏は、定年退職後に、福岡県の観光案内で紹介されることの少ない登山道未整備の里山、つまり無名山巡りを仲間とともにされ、地元の西日本新聞にその登山記を連載されてた方です。

持ってきた氏の本によると、この施設横のフェンス沿いの踏み跡を下り、ひと登りで山頂と荒川峠方面の分岐道標に出合い、そこから河童山頂まで1分とあります。

さすがにもうあまり時間がありません。
この本を頼りに進んでみることにしました。

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ようやく、脊振山系といった趣の森に出合いました。
この山、山頂まで車道は構わないのですが、白糸ノ瀧から河原を登っていけるルートがあれば、もっと地元の人に愛される山になるのになと感じます。

先ほどの雨でぬかるむ山道。日が射しているところは植物の生育が早いのか、道が無くなって完全な藪になっていました。
僅かな踏み跡やテープを頼りに進みます。
40分、歩きました。おかしいな、25分で河童山頂に出ると本に書いてあるけど。

そういえば道標をふたつ過ぎましたけど、河童山へとあるものは見かけませんでした。
きっと見落としたと思い、慎重に引き返しました。
しかし遂に発見できず、フェンスが見えるところまで戻って来てしまいました。

時計を見ると18時を過ぎたところです。
もう無理か、諦めることにしました。

疲れた。暑い。

10時過ぎに自宅を出て走り続け、900mの山を自転車押して山頂まで登り、それから1時間以上山道を歩いたのです。無理もありません。

もう歩けない。一歩も。

カメラをホルダに入れるとき、携帯電話があることを思い出しました。
そうか、自分にはまだ音楽がある。
あの子のうた声が。
法律で自転車走行中に聴けなくなってしまったので、もうずっと聴いてなくて忘れてました。

最愛の逸曲。吉崎硝子さんの「足跡」を携帯のスピーカーで鳴らす。

  追いかけて追いかけて 掴まえ手放して
  いつも 大切なものに気付くんだ
  走り続け疲れて 壁にぶつかり泣いて
  だけど 後ろを振り向いた時に
  足跡を残したい

あ~こんなに良い曲だったっけ。
いつも音楽の力はすごいとか自分で書いてるけど、なんか、実感。
この曲があれば、この坂上がれるな。

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曲が終わる頃、麟のところへ戻ってきました。

こうして、今回の登山もまたしても山頂へ行けずに終わりました。
でも何故か、すごく充実した気持ちがします。

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鈴木康博/夕山風

マウンテンバイクの麟に乗って、車道を駆け下りる。
40キロ区間でふとサイクロコンピュータを見ると50キロ出ていて驚き、ブレーキを握った。
遅くなってしまったので、思いがけずそれはきれいな夕景を見ることができました。

やがてあの子のうた声も笑顔も忘れていくのかな。

忘れたくないから、人は写真を撮ったり日記を書くのかな。

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この日の「麟」のサイクロコンピュータのデータです。
山道を押して歩いた分も含みます。
走行時間:5時間41分57秒
走行距離:73.16km
平均速度:12.8km
最高速度:50.6km

携帯電話ウェルネスの歩数計。
26997歩、16468mでした。


旅というものはそれを感じた人の数だけあり、大切なことはそれを「感じられる」かどうか。
交通手段は自転車と徒歩のみ。離島だけ船に乗る「ちいさい旅」。

今回もお読みくださり、ありがとうございました。




おまけの話。

帰り道、そういえば朝食食べたきり珈琲とスポーツドリンクしか飲んでないなと思い、疲れていることもあって何処かで食事することに。

旧前原(まえばる)市街地から周船寺(すせんじ)へ向けてゆっくりと走り、ごはん物を食べられるお店を探していると、「麒麟」というラーメン店が。
この子と同じ名前か…

「麒麟」にて、ラーメン、半炒飯、餃子を食。
真面目そうな店主が作るのは、むかしながらのあっさり目博多塩豚骨ラーメンといった趣のもの。自家製とみられる辛子高菜とピリ辛タレもうまかったです。お勧めします。

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