君と僕の物語(第十話・前篇) | 若宮桂のブログ・空と海がぶつかる場所
もう9~11年半年前の話になる。
2000年9月10日。それまで7年近く勤めていた職場を突然解雇された。

私が勤めていたのは地場大手工業系の会社のレジャー部門。ゲームセンターでアルバイトしていた経験を買われ、契約社員として入社し、ゲームセンターの従業員として勤務。辞める直前は支店の店長もしていた。
部長から告げられた解雇理由は、「お店の雰囲気を悪くした」、だった。
もっとも、実際は本社から人員削減を申し渡されていたらしく、その一人目に私が選ばれたらしかった。

しかし解雇なのに自己都合退職扱いにされ、雇用保険が出たのは3ヶ月後。
最初は契約社員でその後正社員ということだったが、実際は店長になった頃まで厚生年金すらもついていなかったと後で知る。当時は本当に無知だった。

解雇1ヶ月後に、お袋が甲状腺癌と分かり、その後肺も癌に。
更に自分も、ハンダづけをしているとき急に呼吸が苦しくなって救急車で運ばれた。病院で、喘息と告げられた。
入退院をくり返すお袋の癌治療でお金が必要となり、自分は交通事故に2度遭い、ボロボロ。
喘息の治療もあり、就職活動らしいことができるようになったのは、翌2001年になってからだったと記憶している。

2000年9月から2002年10月までの、持ち物以外の全てを失くした空白の2年間。
チョビとは、この人生で最も苦しかった、そんな2002年5月に出会った。




ニャァァ~ン…ニャァァ~ン。

夕刻、何処からか猫のか細い鳴き声がする。

君と僕の物語・第四話に書いたとおり、この頃私と妹は近所の野良猫にごはんをあげていた。
鳴き声に気づいたのは、ごはんをあげた帰り道だった。写真の記録によると、5月28日のことらしい。

妹とふたり、近くを探してみたが、声は聞こえなくなってしまった。
駐輪場に放置されていた金属製の大きな物入れの引き出しが半分くらい開いていた。
中を覗いてみると、チャトラのちいさい仔猫が震えていた。
放ってはおけず、連れて帰った。

当時、家には第三話で紹介しためっしゅが居た。
部屋は狭く、それに失業中なので多頭飼いは不可能だろう。さて、どうするか。

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写真のように、チョビは目の周囲が赤く荒れていた。
妹は、何度も何度も消毒した。
トイレはすぐに覚えた。

ようやく喘息も、治ってはいないが、親身になってくれた医師と出会ったおかげで症状が落ち着き、就職活動をしている最中だった。
どうしていつもこんな目に?と思った。




お気に入りの場所 軒下の冷たいコンクリート
夜は星見上げ君と過ごした日々 思い出す

人見知りの僕 誰からも愛される君
対照的だけど いつもどこでも一緒だった

ある日、君がいなくなった みんな心配をしていた
どこへ行ってしまったの? なにも言わずに

君を探した 昼寝をした屋根の上 塀を越えた抜け道
君はいなくなった 僕をひとり、残して

お気に入りの場所 ママのひざの上 温かいな
心地いい眠気が 夢の世界へ連れてゆく

あの頃みたいに 駆け回ったりもできるんだ
君と競争した あの路地や森への迷路

目を覚ますとそこに 君はいるはずもなく
どこへ行ってしまったの?なにも言わずに

君を探した かくれんぼした草むらも 大きな駐車場も
僕は年をとった 君を、探し続けて

目も耳も悪くなって 身体も思うように動かない
君が帰ってきたら したいことが沢山あるのに

君を探した 昼寝をした屋根の上 塀を越えた抜け道
君はいなくなった 僕をひとり、残して

君を探した かくれんぼした草むらも 大きな駐車場も
僕は年をとった 君を、探し続けて

君を探した 戻らない日々の面影 薄れる君の記憶
僕は年をとった 君を想い続けて

僕は今も探してる

君の姿探してる

作詞作曲、吉崎硝子。「君と僕の物語」より。




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5日、経った。
6月2日。親父が突然、これも「ついで」に頼むと、写真の別な仔猫を連れて来た。
自分で育てる能力も無い、無責任な人間が押しつけてきた仔猫。見覚えがあった。
この日の昼に、自分はこの仔猫が親らしき猫と2匹で仲良く歩いていたのを偶然見かけていた。
その母猫にごはんをあげたことはなかったが、自宅近くのバス停裏の公園によく居るのを知っていた。
どうやら、親猫が近くにいたのに気づかず連れ帰ってしまったらしかった。

妹とふたりでその仔猫を連れて公園へ行ってみた。

公園於、ニャーニャー鳴く仔猫を抱っこして暫く待ってみた……
……現れない。
もう諦めようか。妹と話していると、ニャーニャーと鳴き声がする。
仔猫とは似ても似つかぬ、いわゆるサビ柄の猫さんがこちらへ歩いてきた。

すぐに分かった。

だってさ、
仔猫と同んなじ鳴き声だったから…

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そっと仔猫を離すと、2匹は匂いを嗅ぎ合い、やがて仲良く歩いていった。
この写真は、泣きじゃくってシャッターを切れなかった妹の手からカメラを取って、自分が撮影したものです。

その後親猫は見かけたことあったけど、この子猫は見ない。
おそらくすぐに亡くなってしまったのではないかと思う。
生まれてすぐに親と離され、狭い部屋で不自由に暮らすチョビと、ほんの短い間だけど親猫の愛情とともに暮らした迷い猫。
どちらが倖せだったのかなと、写真を見て想う。




吉崎硝子さんの楽曲を聴いていて思い出した、ちいさなちいさな、いのちの物語。「君と僕の物語」。
この日記は不定期で連載中です。
今回はあえて、今まで書くのを避けてきたことも、思い出せただけ向き合って記してみました。最後までお読みくださってありがとうございます。

この後チョビはどうなったのか?後篇に続きます。
それよか試験勉強せんかという突っ込みはナシに願います。

このテーマの日記を書きはじめる切っ掛けとなった、吉崎硝子さんの楽曲「君と僕の物語」のPV公開中です。
こちらもぜひご視聴ください。