[越後国一ノ宮] 居多神社 (大国主命と奴奈河姫等を祀る)(2013年10月撮影のもの)






【古事記神話】本文 
(~その77  沼河比賣への求婚 2)






連日の投稿。

前回の記事と今回の記事とで初めて1セットとなりますが、長くなるため2回に分割しました。

代わりに次回は2ヶ月近く空けようかと考えています。


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【読み下し文】
爾に其の沼河比賣 未だ戶を開かずして内自り歌ひて曰く
━━夜知富許能 迦微能美許等 奴延久佐能 賣邇志阿禮婆 和何許許呂 宇良須能登理叙 伊麻許曾婆 和杼理邇阿良米 能知波 那杼理爾阿良牟遠 伊能知波 那志勢多麻比曾 伊斯多布夜 阿麻波世豆迦比 許登能 加多理碁登母 許遠婆 阿遠夜麻邇 比賀迦久良婆 奴婆多麻能 用波伊傳那牟 阿佐比能 惠美佐加延岐氐 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐  阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 毛毛那賀爾 伊波那佐牟遠 阿夜爾 那古斐支許志 夜知富許能 迦微能美許登 許登能 加多理碁登母 許遠婆━━
故に其の夜は合わずして 而して明日夜に御合わしたまひき也


【大意】
沼河比賣は戸を開けず、内側から歌を詠みました。
━━八千矛神よ。私はか弱い女です。我が心は浦渚の水鳥のように浮わついています。今は私自身にしか心は向かない鳥ですが、後には貴方の鳥となるでしょうから、命(いのち)は奪わないで下さい。天からの遣いよ!伝えたいのはかようの事です。青い山に日が隠れたら、ぬばたまのように真っ黒な夜になりましょう。朝日のような爽やかな笑みでお越し下さい。栲綱(たくづぬ)のような白い腕、沫雪(あわゆき)のような若やる胸乳を素手抱き手抱きまながり愛しんで、玉のような手を纏わりつかせ、股(もも)に挟まれ寝ましょう。なんとも不思議に恋しいのです。八千矛神よ、語りたいのはかようです━━
その夜は顔を合わせず、翌日夜に結ばれました。


【補足】
◎沼河比賣のいわゆる「反歌」。所々に韻を踏んでいます。

前回の記事にて「祝詞」の修辞法とそっくりとは書きましたが、叙情的な文学的要素も見えます。この辺りが「祝詞」とは異なる点。

「猪突猛進スタイル」な八千矛神に対して、「たおやかスタイル」の沼河比売。「祝詞」的な表現の八千矛神に対して、「叙情的」な表現の沼河比売。対比が巧妙になされています。

「萎草(ぬえくさ)の女にしあれば、我が心は浦渚の鳥ぞ。今こそは吾鳥にあらめ…」
「青山に日が隠らば、ぬばたまのよはひてなむ。朝日の咲み(えみ)栄へ来て、たくづぬの白き腕(ただむき)、沫雪(あわゆき)の若やる胸乳を素手抱き(そだたき)手抱き(たたき)まながり…」

美しい…。

官能的な表現をオブラートに包んで訳しているものを多く見受けますが、なるべく忠実に訳するよう心がけました。

◎「ぬばたまの…」は黒いものにかかる枕詞。夜(宵)、髪などにかかります。
「ぬばたま」の学術名は「ヒオウギ」。黒い実を付けます(写真参照)。

ぬばたま(ヒオウギ)
*画像はWikiより



今回はここまで。

次回はまたあの女性が登場します。



*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。