糸魚川市の海望公園にある沼河比売(奴奈川姫)と建御名方命の像 *画像はWikiより



■表記
紀 … (登場しない)
記 … 沼河比売(ヌナカワヒメ)
「先代旧事本紀」 … 高志沼河姫
「出雲国風土記」 … 奴奈宜波比売命
他に奴奈川姫命 等


■概要
高志国(こしのくに、現在の福井県敦賀市~山形県の鶴岡市・酒田市辺り)を支配していたとされる弥生時代の姫神。

◎高志国は後に越前・越中・越後、能登、加賀の国に分かれますが、うち越後国の西端の「糸魚川市」で「翡翠(ヒスイ)」が産出されます。この交易で莫大な財力を蓄え、支配していたとされるのが高志国。沼河比売は「翡翠の女王」「翡翠の女神」などとも称されます。

◎記には大国主命の神話の段に登場。「根之堅洲国」でスサノオ神から与えられた試練を乗り越え、娘の須勢理毘賣命を嫡妻に。先に妃とした八上比売が嫡妻の嫉妬を畏れ、生まれた子を木の俣に遺して(木俣神)、因幡国へ出戻ったという記述の後に沼河比売が登場。
八千矛神(大国主命)は高志国の「沼河」に居るという沼河比売を妻にしようと、家を訪ねます。そして八千矛神は家の外から求婚の歌を詠むものの、沼河比売は戸を開かず中から歌を返すのみ。翌晩に二神は結ばれ結婚します。
これは当時の「妻問い婚」のプロセスであろうとされます。ただし出雲族が高志族を攻めて制圧、人質的な政略結婚であったとするのが真相でしょうか。地元伝承には沼河比売が大国主命に追われた、また比売には夫がいたが大国主命と戦うも首を斬られたというものもあるようです。

【古事記神話】沼河比賣への求婚 2 


◎「出雲国風土記」には、島根郡美保郷条にわずかな記述が見られます。
所造天下大神命(アメノシタツクラシシオオカミノミコト、=大国主命)が、高志国の意支都久辰為命(オキツクシイノミコト)の子、奴奈宜波比売命(ヌナカワヒメノミコト)を娶り生まれた子が御穂須須美命(ミホススミノミコト)、この神が鎮座するので「美保」というとあります。
なお御穂須須美命は建御名方命のことであろうとされています。出雲国の美保神社の本来のご祭神であるとも。


◎「先代旧事本紀」には、建御名方神は高志沼河姫の子と明記されています。

◎また地元糸魚川市の伝承によれば、大国主命と沼河比売との間に生まれた子は建御名方神で、「姫川」を遡って諏訪に入り、諏訪大社の祭神になったとのこと。

◎糸魚川市青海町の「黒姫山」東麓に「福来口(ふくがぐち)」という大鍾乳洞があり、沼河比売が住んでいたという伝承があるとのこと。機織りをし、洞穴から流れ出る川で布をさらしていたので「布川」と称されると。「沼河・奴奈川」の由来でしょうか。「黒姫山」山頂には比売を祀るという山添社が鎮座し、石祠が設けられているようです。
他にも沼河比売の「産所」や、比売の「船遊所」なども。また比売が出雲族に攻められ秘蔵の鏡を埋め隠したという旧跡も。

◎「翡翠(ヒスイ)」の世界最古の加工は糸魚川市であったとされます。およそ7000年前(縄文時代)から始まり古墳時代まで続いたとされます。加工完成品あるいは原石は国内各地に流通しただけでなく、朝鮮半島にまでもたらされました。一説には中国にまで流通したとも。これは「魏志倭人伝」に、卑弥呼の後を継いだ臺與(トヨ)が魏に献上した「青大句珠」が、翡翠製勾玉ではないかと推察されています。

◎「翡翠」が産出されるのは、糸魚川市及び近辺で数ヶ所見られます。また国内その他地域でも3ヶ所ほど見られますが、加工等がなされた形跡は無し。つまり糸魚川市産のみが加工され流通したとのこと。
主な産地は2ヶ所。下部に示した地図の「小滝川ヒスイ峡」(川名は「姫川」)と、もう1ヶ所は「黒姫山」の「黒」の文字の西側の切れている部分、「青海川」流域。

◎「万葉集」(巻十三、三二四七)には、
━━渟名河の 底なる玉 求めて 得まし玉かも  拾ひて 得まし玉かも 惜しき(あたらしき)君が 老ゆらく惜しも(をしも)━━とあります。
「渟名河」とは現在の「姫川」のこと。ともに沼河比売に由来する川名かと思われます。「底なる玉」はもちろん「翡翠」でしょう。

◎この「翡翠」を糧に高志国は大いに栄えていたと思われ、沼河比売が「翡翠の女神」などと称され、これを出雲族が狙いに来たと考えるのは自然な流れかと。
近年は研究が進み、これまでは「翡翠」が交易に用いられたとされていましたが、他地域から流入したと思われる遺物が発見されていないため、「贈与品」或いは歓待の目的を果たしていたのではないかとされます。

◎ここ数年で沼河比売の「翡翠の女神」などといった呼称は姿を消してきました。おそらくは確証が取れないからでしょうが、「翡翠の女神(女王)」に変わりはないと考えます。
神名の「ヌ」は(霊力を持った)「玉」の意。ここでは「翡翠」を指すと考えられます。「ナ」は接続助詞、「○○の」といった意。「カワ」はもちろん「河(川)」のこと。「ヒメ」は女性の首長。つまり「ヌナカワヒメ」とは「玉(翡翠)の河(川)の女性首長」となります。
当時の女性首長となると司祭者、つまり巫女(シャーマン)であったということでしょう。




■系譜
父 … 意支都久辰為命(オキツクシイノミコト)
配偶者 … 八千矛神(所造天下大神命)
子 … 建御名方命・御穂須須美命


■祀られる神社(参拝済み社のみ)
[越後国] 居多神社
[信濃国] 諏訪大社 下社春宮(境内社 子安社)
[信濃国] 諏訪大社 下社秋宮(境内社 子安社)
[出雲国] 美保神社(境内社 大后社)



*画像はWikiより

(写真は2013年10月撮影のものです)




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