健磐龍命を祀る阿蘇神社 「一の神殿」。*画像はWikiより



■表記
健磐龍命(タケイワタツノミコト)
紀 … 阿蘇津彦
その他、武五百健命、阿蘇大神、阿蘇大明神など


■概要
初代阿蘇国造である速瓶玉命の父とされます。
「阿蘇山」に鎮まる神霊が阿蘇大神(阿蘇大明神)であり、健磐龍命のこととされます。

◎景行天皇の九州巡幸の途上、十八年の段に以下のように記されます。
━━天皇は阿蘇国に到る。その国は野が遠くまで広がり、人が居る様子はない。天皇曰く「この国に人はいるのか?」と。その時、阿蘇津彦と阿蘇津媛という二柱の神が現れ、忽ち人と化して天皇の前に詣でて曰く「我々二人がいる。人がいないとはどういうことだ」と。故にその国を阿蘇と名付けた━━(大意)

「肥後国風土記」にもほぼ同じ記述が見られます。
「阿蘇山」は活火山。阿蘇津彦は火山神としての神格を持つと考えられます。

阿蘇津彦と阿蘇津媛は夫婦神。阿蘇津媛は神八井耳命の兄である彦八井耳命の娘。

◎「先代旧事本紀」の「国造本紀」には、子の速瓶玉命と健磐龍命のことが記されます。
━━崇神天皇の時代に、火国造と同祖で神八井耳命(神武天皇の皇子)の孫の速瓶玉命が初代阿蘇国造に任じられた。また速瓶玉命はその父 健磐龍命の意志を継ぎ、農耕を広めて畜産・植林等にも力を尽くした━━(Wikiより引用)

九州地方には多氏の痕跡が多く見られます。これは神武天皇が東征を進め大和を平定、そして故地に神八井耳命を派遣したとも言われます。

こちらでは神八井耳命の子が健磐龍命となっていますが、他に孫・5世孫・11世孫とする資料があるようです。

◎祖神である神八井耳命は神武天皇の第3皇子。弟の建沼河耳命(タケヌナカワミミノミコト)が第2代綏靖天皇。

また紀には神八井耳命は多氏の祖とあります。記には意富臣(オホノオミ、=多氏)を始め、小子部連(チイサコベノムラジ)・坂合部連・火君・大分君など多くの祖となっています。

同じ「火の国」(肥後国)では、「火国造」の初代国造である建緒組命と同祖とされます。

◎「阿蘇郡誌」には次のように記しています。
━━神武天皇七十六年に孫である健磐龍命に「西国鎮撫」の命を下し、「火の国」に封じた━━

そしてその途中に宮崎神宮と幣立神宮を創祀したとしています。

*宮崎神宮
神武東征前の神武天皇の宮跡。神日本磐余彦尊(神武天皇)を祀ります。
式内社とはなっておらず実際の創建は鎌倉時代以降ではないかと思われますが、健磐龍命により創祀されたのではないかと考えます。

*幣立神宮
「高千穂」にも近く天孫降臨伝承が多く残る地。
健磐龍命は「眺めがとても良い場所」として天津神・国津神を祀ったとされます。ご祭神は神漏岐命(カムロギノミコト)・神漏美命(カムロミノミコト)。

付近には「神武天皇御発輦跡」石碑が立ちます。神社側では「神武天皇の御発輦(ごはつれん)の原点」としていますが、具体的な内容は示されていません。

◎「阿蘇山」北麓には阿蘇神社が鎮座します。子の速瓶玉命が健磐龍命を祀ったのを始めとする社。

神名帳においては「健磐龍命神社 名神大」。またその妻を祀る「阿蘇比咩神社」が式内小社。一宮~十ニ宮まであり、一宮には健磐龍命、ニ宮には阿蘇都比咩命(式内小社)、三宮には國龍神(阿蘇都比咩命の父、健磐龍命の叔父)、十一宮には速瓶玉命、十ニ宮には神渟川耳命(綏靖天皇、健磐龍命の弟)、その他大宮司家や社家の祖が祀られています。

◎後裔は阿蘇氏。代々阿蘇神社の大宮司を歴任し、現在に至るまで続いています。阿蘇氏の中には「宇治」姓を名乗る者がおり、これは「阿蘇郡誌」に健磐龍命が「宇治」から赴任されたと記されるものと合致。

「宇治」については山城国の「宇治」からとされるものの、多氏の痕跡は見当たりません。

これに対しては一つの可能性として、紀伊国名草郡の「宇治」を考えています。宇治神社が鎮座。そちらは紀伊国造家(紀直)6代目の宇豆比古(菟道彦)が創祀に携わったという説も。宇豆比古の娘が武内宿禰の母。

ほぼ真南2kmには宇須井原神社が鎮座。こちらは宇須神社と井原神社が合わさった社。宇須神社は神武東征時に「速吸門(はやすいのと)」で出会い、東征を先導したという宇豆比古(珍彦、椎根津彦)を祀るとされます。

宇豆比古(珍彦、椎根津彦)については、個人的見解として多氏の祖神とみており、こちらの「宇治」から健磐龍命が赴任したという可能性を考えています。

紀伊国造家(紀直)6代目の宇豆比古(菟道彦)というのは、この宇豆比古(珍彦、椎根津彦)を系図に紛れ込ませたのではないかと。そもそも紀伊国造家(紀直)の祖とされる天道根命は架空の存在だとする説もあります。



■系譜
祖父 … 神日本磐余彦(神武天皇)
父 … 神八井耳命
母 … 姫蹈鞴五十鈴姫命(紀では事代主神の娘、記では大物主神の娘)
弟 … 彦八井耳命(子とする説あり)、建渟川耳命(第2代綏靖天皇)
妻 … 阿蘇津媛命(彦八井耳命の娘)
子 … 速瓶玉命(初代阿蘇国造)
*子孫は阿蘇神社 大宮司家の阿蘇氏



噴火中の「阿蘇山」。*フリー画像より