「大観峰」から見た「阿蘇五岳」。*画像はWikiより





◆ 土蜘蛛 二十顧 (「肥前国風土記」~1)





前回の記事にて予告を「肥後国風土記」に記される「土蜘蛛」を…としましたが、「肥前国風土記」に変更します。

「肥後国…」に記される内容は、「肥前国…」に記されるものと同じであるため。




今回で記事数は二十を超えましたので、
新たに「過去記事一覧」という記事を設けました。

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■ 「肥前国風土記」~1

「肥前国風土記」には多くの「土蜘蛛」が載せられています。分割掲載にしていきます。



◎総記 (打猿・頸猿)

━━肥前国は、元は肥後国と合わせて一つの国であった。昔、磯城瑞籬宮御宇御間城天皇(崇神天皇)の御世、肥後国益城郡の「朝来名峰」に「打猿(ウチサル)」と「頸猿(クビサル)」という二人の「土蜘蛛」がおり、180人余りの軍勢を率いて天皇に服従しなかった。そこで天皇は肥君等の祖である健緒組(タケヲクミ)に征伐するよう勅命を下した。そして健緒組は「土蜘蛛」らを悉く滅ぼした━━

肥前国の「総記」として「土蜘蛛」征伐から始まります。これは「火の国」(「肥前国」と「肥後国」の総称)の国名由来を載せるために必要なもの。「肥前国風土記」ですが、舞台は肥後国です。

その地名由来となった残りの話も載せておきます。

━━それから健緒組は国を巡察したが、日が暮れたので八代郡の「白髪山」で宿をとった。その夜、虚空に火が現れ自然に燃え上がり、それがだんだんと下ってきて山に火が付いたため、それを見て驚いた健緒組は不思議に思い復命(=報告)した。「勅命を受け西夷を攻めたところ、刀刃を濡らさずに首長は自ずと滅びました。しかし後に威霊のようなものが現れ、それは火が下りてくるようでした。これは何でしょうか」と申し上げた。すると天皇は「そのような事は聞いたことがない。火が下った国は火の国というべきだろう」と言った。これにより健緒組は火の君 健緒紕(タケヲクミ)の姓名を賜り、この国を治めた。また、これによりこの国は「火の国」と呼ばれるようになった。この後この国は肥前と肥後に分けられた━━

以上の「総記」部分が、「肥前国風土記」にも「肥後国風土記」(逸文)にも記されています。



この記述は平行して進めている「阿蘇ピンク石」製の石棺の第15回目の記事でも取り上げました。そちらで健緒組という人物(神)を紹介していますが、こちらでもあらためて。


*健緒組命
初代「火の国」国造。出自は不明。
阿蘇国造と同じく「多氏」の血筋とする、景行天皇皇子とする、など諸説あります。

こういう時は「地元の豪族か?」としておくのがこの業界の常。当り障り無く、断定もしてないですよね~という言葉を濁す常套手段。

そうしておきます(笑)

初代「火の国」国造は文献により異なり、「肥前国・肥後国風土記」のみが健緖組命としています(文献による初代「火の国」国造一覧 → 第15回目の記事)。

健軍神社という建緒組命を祀っていたとされる社が、熊本市東区に鎮座します(未参拝)。熊本市最古の神社であるとのこと。

現在は健磐龍命(初代 阿蘇国造)を祀っています(詳細は → 「阿蘇ピンク石」製の石棺 第16回目の記事)。
社伝によると阿蘇神社(未参拝)の大宮司が、欽明天皇十九年(558年)に同社より当地に勧請して創祀したとされます。元々は健緒組命を祀っていたところに、健磐龍命が被さったようです。

社伝では建緒組命の「土蜘蛛」討伐は崇神天皇の御世ではなく、景行天皇のこととされています。

当時の様子からして、景行天皇の熊襲征伐からの九州「土蜘蛛」退治の流れの中、建緒組命が駆り出されて討ったということでしょうか。


*肥後国益城郡(ましきのこほり)
「阿蘇外輪山」の南側から西側一帯。
現在の上益城郡・下益城郡の大部分、阿蘇郡・菊池郡・熊本市・宇城市の一部。


*「朝来名峰」
現在の「朝来山(あさこやま)」。熊本県上益城郡益城町から御船町に跨がる。標高464.5m。

健軍神社の10kmほど東方。ご本殿は西向きであるため、「朝来山」を御神体山とする可能性も。「神奈備山」として、標高はほどよいものの、周辺の地勢や等高線を見る限り「神奈備山型」には見えないように思います。また境内からは手前の山が遮り見えないのでは?現地確認したわけではないので不正確な情報ですが。


*「打猿」と「頸猿」
居場所と軍勢の数以外は示されていないので、ほとんど何も分かりません。

「打猿」という「土蜘蛛」の名は前回の「豊後国風土記」にも出てきました。そちらは豊後国の「九重連山」にいたとされます。「阿蘇山」からは北東20~30kmほど。「阿蘇くじゅう国立公園」としてひとくくりにされていますが(下部スクショ参照)。

果たして同一人物なのかどうか…。


赤三角 → 「九重連山」
紫三角 → 「阿蘇山」


*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。