(八俣遠呂智が棲んでいた「斐伊川」の「天が淵」)





【古事記神話】本文
 (~その59 八俣遠呂智 4)





八俣遠呂智(八岐大蛇)の4回目。

いよいよ大蛇が登場します。

結果は周知の通りですが、
一字一句丁寧に、かつ編纂者の意図を汲みながら訳したいと思います。




【読み下し文】
乃ち船毎に己の頭を埀れ入り其の酒を飲みき 是れに於ひて飲み醉ひて 留まり伏し寝たり 爾に速須佐之男命 其の所に御佩せる十挙劔を拔きて 其の蛇を切り散らしかば 肥の河 血に變り而して流る 故に其の尾の中を切る時 御刀の刃毀れき 爾に怪しきと思ひ 御刀の前を以て刺し割きて而して見るは 都牟刈之大刀在りし 故に此の大刀を取りて異しき物と思ひて 而して天照大御神に白し上げる也 是れは草那藝之大刀也 [那藝の二字以て音]


【大意】
八俣遠呂智は船毎に頭を垂れ入り酒を飲むと、酔ってしまい伏して寝てしまいました。速須佐之男命は佩いていた「十挙剣(とつかのつるぎ)」を抜き、斬りまくると「肥河(斐伊川)」は血で染まりました。ところが尾を斬った時、刃が欠けたのです。不思議に思い裂いてみると「都牟刈之大刀(つむがりのたち)」がありました。見たこともないものなので天照大御神に献上しました。これが「草那藝之大刀(くさなぎのたち)」です。


【補足】
◎「八鹽折之酒」を八つの酒船に準備した時点で、速須佐之男命の勝利は見えていました。酔わせて襲うという、少々姑息な手段ですが。

「八鹽折之酒」とは水を醸造するのではなく、醸造された酒をさらに醸造させることを繰り返したものですが、アルコール度数が上がるわけではなく芳醇度が上がるだけのようですね。遠呂智はさぞかし美味いお酒に酔ったのでしょう。

◎「十挙剣」
2度目の登場です。1度目は第25回の記事で伊邪那岐命が迦具土命を斬った時。
握り拳(こぶし)10個分の剣という意味。
「布都斯御魂剣」として、備前国の石上布都魂神社に鎮まった後に、崇神天皇の御宇に大和国の石上神宮へと遷されています。

◎「都牟刈之大刀」
結局は「草那藝之大刀」のことですが…。
「摘む」「刈る」の太刀ということでしょうか。収穫の際に使う刃物ということかと。でもこれでは「十挙剣」にすら劣る太刀となり不自然。
別に「ツム」を斬る時の音と解するものも。「布都御魂剣(韴霊剣)」の「フツ」も斬った音と解されています。ま…人によって聞こえた音の表現は様々ですが。それこそ鶏の鳴き声が、日本人とアメリカ人ではまったく異なるように…。

◎「草那藝之大刀」
「都牟刈之大刀」の正式名称といったところかと。三種神器の一つとなり、日本武尊神話にも登場します。

◎速須佐之男命は高天原から追放されたはず。それなのに天照大御神に剣を献上しています。文章もあっさりとし過ぎており、これはもうとってつけたとしか言いようがありません。
いつの時点で天孫族に渡ったのか、既に分からなくなっていたから、このような表記になったということでしょうか。

種々の神剣については、一度どこかの段階で概要や経緯をまとめないといけませんね。



(石上神宮の鳥居、「布都御魂大神」の扁額が上がる)


*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。