波多甕井神社
(はたみかいじんじゃ)


大和国高市郡
奈良県高市郡高取町羽内アズキ谷235
(P無し、近隣に路駐)

■延喜式神名帳
大 波多甕井神社 月次新嘗の比定社

■祭神
甕速日命


高取町南部に丘陵裾の農村地帯「羽内(ほうち)」に鎮座する社。
◎高取町唯一の式内大社であり、推古天皇二十年の箇所に「…の五日、薬猟す。羽田に集ひて相連なりて朝(みかど)に参趣く」という記事からも想像するに、往時は式内大社に相応しい広大な社地の荘厳な社だったと思われます。鹿の角切りや藁草の採取などが行われたようです。
◎ところがこの「波田」の地については当地以外に別説有り。明日香村冬野に鎮座する波多神社であり、10km足らず東方の山中に鎮座。
「和名類聚抄」は「波多郷」としており、「波多郷稲渕山」であると。これはいわゆる「奥飛鳥」と称される飛鳥川上坐宇須多伎比賣命神社などがある山中のこと。当社と波多神社との中間辺り。
また「大同類聚抄」という平安初期の医学書には、波多神社には新羅から伝わった「志呂木藥」があると記されています。
◎ご祭神は甕速日神としているものの、多くの書では天照大神。「高市郡神社誌」においても天照大神社としています。
この辺りに居住した波多氏(後に羽田氏)の鎮守社であったと考えられ、「羽内」の地名はその中という意味でしょうか。武内宿禰の御子を祖としています。渡来系の氏族(新羅か)、或いは渡来人を束ねていた氏族かと考えられます。また秦氏とも関連がありそうです。
波多神社が鎮座する「波多郷」も波多氏が拠点としていたようで、広範囲に山中を拠点としていたように思います。
◎当社下方の字井戸谷に「大師井戸」という、老杉に囲まれた清浄水があるそうで、それが社名の「甕井」のことだと考えられています。
現在は田畑と荒れ地の中にひっそりと佇む古社として、往古の面影はまったくありません。

*写真は2018年1月と2021年2月撮影のものとが混在しています。