動物と暮らしたことがある方なら、ペットロスを経験したり、いずれくる別れを想像して不安や悲しい気持ちを感じたり、大切な存在を亡くすことのつらさについて一度は考えらことがおありかと思います。

 

私自身も、今まで何度も経験し、そのたびに心が引き裂かれるような想いと苦しみを抱え、毎日が白黒の世界の中で、やっとの思いで生きをしているような感覚を抱えていたことがあります。

 

その後徐々に受入れることができるようになり、少しずつ日常を取り戻していくのですが、それでもふとした瞬間に思い出して涙があふれたり、何年経っても何十年経っても思い出せば涙が出てくるし、何度経験しても慣れることはありません。

 

そもそもペットロスは決して特別なことではないし、人でも動物でも、自分にとって大切な存在を亡くしたときに起きるこころと身体の自然な反応なのですが、回復のプリセスを通っていくことができないと、重篤な心理状態に陥ることもあります。

 

大切な存在を亡くしたとき、人は、喪の作業(モーニングワーク)といって、対象喪失の深い悲しみから逃げることなく、ある段階を追って向き合い、受けとめていくプロセスが重要となります。

 

まず、大切な存在を亡くしたことへの強いショック、悲しみ、混乱などから、情緒的に非常に混乱し不安定になります。また、その現実を受入れられなくて、呆然としたり、無感情になったような感覚になることもあります。

 

次に、現実を受入れられなかったり、受入れない、受入れたくない、という気持ちが強く、「もういない」という現実を拒否・抗議をしているような心理状態です。「どうして自分だけ」「なぜ自分だけ」などと怒りが湧いてくることもありますし、「神様、こうするから、かえしてください」のような現実的にはありえないけれどもわらにもすがるようなことを願ったりすることもあります。

 

そして、「もういない」という現実に対抗することを諦め、現実を受入れるようになりますが、その分無力感や深い悲しみ、後悔や自責の念なども湧いてきて不安定な状態は続きます。このとき、抑うつや不安、人を避けたり、外界をシャットアウトしたりすることもあり、自分の世界にひきこもってしまうこともあります。

 

その後、徐々に現実を受入れはじめ、亡くした対象との思い出を振り返ったり、穏やかで温かな感情を抱いたりすることができるようになり、こころと身体が回復していきます。

 

もちろん、順調にこのプロセスを踏むとは限らず、順番が入れ替わったり、行きつ戻りつしたり、途中で深刻な心理状態に陥ってしまうことだってあります。

 

いずれにしても、大事な存在を亡くすという大きな喪失体験に対して、自然な反応だとすれば、誰にでも起きうることですし、ペットに限らず、自分にとって「大切」と思っている存在は人それぞれ異なるわけですから、その存在を亡くすことのつらさは想像以上で、その人にしかわからないとてもつらいことなんだろうと思います。

 

時々、たかがペットくらいで、とおっしゃる方に出あいますが、それは間違った考え方で、対象が仕事かもしれないし、居場所かもしれないし、人かもしれないし、それぞれ人によって異なるというだけなのです。

 

長い人生において、喪失体験を一度もしないという人はいません。

 

どうか身近に何か大切な存在を失って悲しんでいる人がいたら、その悲しみを否定することなく、悲しいという気持ちを尊重してあげてください。

 

そして、少しずつ、その人のペースでモーニングワークがすすむように、あたたかく見守ってあげてください。

 

その尊重と温かなまなざしが、前に進むエネルギーになってくれると思います。