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「ゴジラxコング 新たなる帝国」

アダム・ウインガードが「ゴジラVSコング」を監督すると聞いた時は、畑違いではないかと思ってしまったのですが、その出来の良さは別にしても続編まで監督するのは驚きでした。

しかし、実際に映画を見て思ったのは、前作ではあまり感じられなかった、彼はこうしたジャンルも好きなんだという感じが実に伝わってきました。

こうしたジャンルが好きだというと「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のマイケル・ドハティもそうだと思うのですが、ドハティの場合は、あまりに東宝の怪獣映画が好きすぎて、東宝怪獣映画の悪いところまで引き継いでしまったかのような問題があった。

ウィンガードは、前作ではたぶん自分の気持ちを抑えて完成度の高さを狙ったのかと思いますが、前作の好評をうけて作ることができた本作では、自分の気持ちを多分に表出して見せたのかと思います。東宝だけでなく、様々な怪獣映画へのオマージュが感じられてファンとしては感涙ものでした。

冒頭から怪獣どうしの争い。これこそ「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」で見たかったという感じ。

前回はもったいないくらいチラッとしかみせてくれなかった空洞世界が今回はメインになるわけですが、アップル・テレビの「モナーク」とは齟齬が出てしまっている。「モナーク」のシーズン2はどうなるのかと思いますが、そういう心配はしないで見るのが吉。

まあ、それは別にしてみても話にアラがあるのは確かですが、そうしたことを気にしたくなるくらい快調なペースで面白く見ることができました。

夢幻的な美しさを強調した「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」と対照的に不気味さが強調されたモスラが一番印象に残る。

前作に引き続きのレベッカ・ホールの美しさが際立ちませうが、新登場のダン・スティーヴンスも愉快なキャラでよかった。

ジャンルに関わらず人間描写に手を抜かないのがウインガードの特徴でそれが生きていたと思います。

「ありふれた教室」

原題は「Das Lehrerzimmer」。英語題も「Teachers‘ lounge」で、共に学校の職員室という意味。邦題がイマイチに感じますが、原題もあまりいいと思えません。

舞台は学校に終始しますが、単に学校の話ではなく、社会全体に関わることを描いていると思います。

 

ポーランド系の移民の教師カーラ・ノヴァク(レオニー・ベネシュ)が最近赴任した学校では盗難事件が頻発していた。

ノヴァクの授業の場面が面白い。

これがドイツの標準的なものかは分かりませんし、実はその後の展開での重要な伏線もあるので、独特なもののようですが、興味深いのは確か。

校長は「容赦ない対応」をウリにしていて、盗難事件への対応も厳しい。しかし、クラスメートに密告まがいのことを強要したり、抜き打ち検査したりというやり方にノヴァクは反発を覚えている。

ノヴァクは偶然学校の職員のクーンが共用のコーヒーを飲むときに入れる小銭入れのお金を盗んでいるのを目撃してしまう。

ノヴァクはわざと財布の入った上着を席に残して、机のラップトップを撮影モードにして授業に出る。戻ってみると財布の中身がなくなっていた。

ラップトップの映像に残っていたのは特徴的な模様の服。

それはクーンの着ているものだ。

ノヴァクはクーンに、「金を返して、二度とやらないと約束したら許す。」と言う。

しかし、クーンが「どこに私がやったという証拠があるの」と怒鳴り返してくる。

ノヴァクは校長の元に行き、ラップトップのビデオを見せる。

校長室に呼び出されたクーンは、無実を主張し、ビデオをみせても、「私の服とは限らない」と抵抗する。さらに「隠し撮りしていいのか」とまで言い出す。

クーンは停職になる。

クーンの息子のオスカーはノヴァクのクラスの生徒。

ノヴァクはオスカーに母親に何があったか教えてくれと言われるが答えられない。

一方、オスカーの母親が盗みで停職になっているという噂が広まり、オスカーはいじめの対象になる。

 

ヒロインは誠実であり、思いやりのある行為がどんどん悪循環をもたらしていくのが観ていて辛くなる。また、オスカーの状況がどうやっても救いようがないようにしか思えないのもまた辛い。

そのオスカーの様子はとてもリアリティがあり、それがラストに説得力をもたらしていると思う。

子供たちや親の反応がリアルな一方で、先生の態度はヒロインも含めて何が起きるかの配慮がなさすぎる気がしますが、これもリアルなのか。

非常に流麗に撮られている映画で、一気に見せてくれます。ほとんどヒロインを追い続けるだけのカメラが見事。

音楽もよくできていたと思います(ラストのメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」は意味を考えさせられます)。

「ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー」

ニナ・メンケスが2021年に行った講演を元にその内容を映画化したもの。講演の場面もあるが、これがその時のものか後で映画のためにおこなったのかは分からない。

内容は、いかに映画が男性視線(Male gaze)でつくられており、それがいかに社会全体に影響を与えるかを、多数の映画クリップを元にしながら説くもの。

使われている映画はほとんどが有名作ばかり。しかし、それだからこそ影響力があることがわかる。

また、「Male gaze」という言葉を最初に使ったというローラ・マルヴィをはじめとして、ロザンヌ・アークェットやキャサリン・ハードウィックなどの有名人を含めて様々な人のコメントがあり、

 

Visual language of Cinema

Employment Discrimination

Sexual Abuse/Assault

 

この3つが相関関係にあるという説が極めて説得力ある形で語られています。

 

ただし、異論を感じる場面もあるのは確か。特に映画の表現として意図的に使われているということを故意にか無視しているのはどうかと思う。特に「ブレードランナー2049」につけは、監督の意図を理解してほしいという思いがしてしまう(「こんな映画がアカデミー賞の候補になるのか」とまで言われるし)。

もっともこの映画にかぎらず、内容に100%賛成なんてことはないわけですし、どの程度納得するかは別にして極めて説得力ある論点を提示して見せてくれていて、必見と思います。