「ワンオペレーション」
「If I Had Legs I'd Kick You」という原題が印象的で公開を待っていた。映画を見るとなんとなくその意味が分かりますが、邦題にはできなかったのは分かります。
冒頭からヒロインのリンダ(ローズ・バーン)のアップの連続で驚かされる。35ミリのフイルムでの撮影というのが成功していて、決してどぎつくなく見えるのがいい。
冒頭は、リンダの娘と医師(監督のメアリー・ブロンスタイン)が会話しているのを聞いている。途中から自分で口を出したりするのだが、どうやら子供が難病で治療が進んでいないのがわかる。拒食症のような病気で、体に栄養を補給するために体にチューブを指している。そのため、普通の暮らしができない。食事をある程度とれるようになるとチューブを外すオペレーションをして普通に暮らせるという。
医師はしきりに話し合いをもとうと言うがリンダは忙しいので暇がとれないと応じない。
帰りの車ではわがままを言う娘に悩まされる。家に帰ると、なかなか娘がトイレから帰ってこない。
心配して様子を見に行くと、トイレの床に水が溢れていて怖がっている。水のでどころを探ると、奥の部屋から水がでているのがわかる。奥の部屋は水浸し。天井から水が漏れている。リンダ電話をかけようとすると天井が落ちてくる(このシーンは結構ショッキング)。
家を修理している間ホテルで暮らすことになる。
ホテルのレセプショニストが意地悪。隣の部屋のジェームズ(エイサップ・ロッキー)が助けてくれる。しかし、彼に下心がありそうに思って感謝の言葉も言えない。
娘の栄養チューブは夜中に養分がなくなって追加しなければならない。そのために夜起きる毎日。
そのチューブのための材料も作るが、普通の料理も娘に作ってあげなければならない。作ってもほとんど食べてくれないのだが、なんとか食べる量が増えないとチューブがとれない。
心理カウンセリングに掛かっているがカウンセラー(コナン・オブライエン!)は役にたたない。
出張で不在の夫からはしょっちゅう電話がかかってくる。自分が傍にいれないので娘が心配なのはわかるが、リンダには煩わしいだけ。
「私が全部面倒みているのよ」
「俺は仕事ために傍にいれないんだ」
「私だって仕事しているのよ」
リンダの仕事は心理カウンセリング。
自分が悩みで一杯なのに人の悩みも聞いてあげなければいけない。
家を修理していた職人が母親が病気になったと休みをとって帰ってこない。大家に苦情を言っても対応してくれない。
夜、息抜きに外にでてたばこを吸ったりするが、そこにも夫から電話がくる。
「何処にいるんだ?」
「外にいる」
「娘を一人にしているのか?」
ストレスが溜まって一緒にクスリをやらないかと誘ってくるジェームズの話にのってしまうのだが・・・
追い込まれた状況の女性を重々しくでなく、軽妙なコメディタッチで描く演出が秀逸。
先にあげたヒロインの顔のアップを中心にして、周りをあまり写さないという撮り方がヒロインの孤独感と自分以外をみられなくなっている状況を絶妙にかもしだしていて見事。
それを支える見事な演技をしたローズ・バーンが絶賛を浴びているのも当然と思う。
途中からしだいに幻想的になっていく展開が巧み。
「愛と殺意」
ミケランジェロ・アントニオーニの1955年の作品。最初の監督作。
私立探偵会社が大金持ちのフォンタナから妻のパオラの過去を調べるよう依頼を受ける。調査を始めた探偵はパオラが高校まで住んでいた街に行き、パオラが親友の恋人のグィドと言う男に横恋慕していたのだが、親友が事故死した後突然町を出てしまったと突き止める。街を出たパオラがフォンタナと出会ってすぐに結婚したのは事件がおきて4か月後。
パオラの同級生だった女性は夫がパオラの過去を怪しい男に話したと知るとグィドに手紙を書き始める。
夫と共に金持ち仲間と夜遊びをしていたパオラは移動中に現れた男に愕然となる。その場はみんなと共に去ったが、夫に気分が悪いと話して家に帰る。
翌朝、その男からパオラに電話がくる。男はグィドだった。
二つ返事でグィドに会ったパオラは別れていた7年間秘めていた思いが爆発してグィドに迫り、二人は密にあいびきを重ねるようになる。
2人にはエレベーターの事故で負い目があるようだが、探偵も事故と2人との関係はつかめない。
一応、探偵があちこち出没して緊張感はあたえてくれますが、何もつかめない。ここら辺の監督の観客の期待の裏切り方は後の「情事」に繋がるでしょう。
しかし、2人の関係に発展性がなく、そのためダラダラと話が続いている感じがあります。
最終的には二人はフォンタナを殺そうということになるという定番的な展開になってしまいます。
もちろん、単純には終わらないくらいの工夫はありますが。
注目すべきは撮影。奥行あるパースペクティブの場面がこれでもかと続く。
計算されたカメラの動きによる長回しの多さも特筆されるでしょう。
撮影に凝るアントニオーニの個性は初めからあったとわかります。
パオラを演じたルチア・ボゼーが印象的。まず、美貌に圧倒されますし、金持ちというので豪華な衣装を次々と変えて登場するので見栄えがさらに増します。驚いたのは、撮影当時19歳だったということ。実際よりもかなり年上の役なのですが、それを感じさせない見事な演技だったと思います。
「沈黙の女」
クロード・シャブロルの1995年の作品。
何を見たのか忘れたのだが、昔シャブロルの作品を何本か見て、この人の映画は見る価値がないと決めつけている。今回見に行ったのは、豪華なキャスト、とりわけサンドリーヌ・ボネールに魅かれたからだが、結局シャブロルは見る価値がないという思いを確かにしただけだった。
映画として面白くないとか内容がないとかいうのではない。むしろ内容はある。しかし、そこから感じるのはそれで何をいいたいの、という思い。むしろ内容がないなら、面白かったとか、つまらない、で済むだろう。内容を感じるから逆に不満がつのる。
この映画もそうで、階級格差とか障碍者への差別、容疑がかかっただけで犯罪者ときめつける偏見とかいろんな要素がでてきて、うまく描かれそれによって話が進んでいく。普通なら複雑な感情を呼び起こしそうな設定・展開なのに、ただ、淡々とその様子を見るしかない。
ちなみに豪華な出演者の演技はみな素晴らしく、それだけでも見た価値はあったと思ったが、こんな映画ではもったいない。
もう二度とシャブロルの映画はみないだろう。