「BBC トーキング・ムービーズの2025年のベスト10」
10位 Pillion
9位 It Was Just an Accident
8位 WEAPONS/ウェポンズ
7位 マーティ・シュプリーム 世界をつかめ
6位 スプリングスティーン 孤独のハイウェイ
5位 ワン・バトル・アフター・アナザー
4位 Blue Moon
3位 The Secret Agent
2位 My Father‘s Shadaw
1位 センチメンタル・バリュー
映画賞なんかでもそうですが、去年までは選ばれているものの日本で劇場公開がされているものや公開予定が決まっているものが多かったのが、今年は半分しかない。
「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」
舞台はスイスですが、英語の映画。
死んだ母親の後を継いで裁縫店を営んでいたバーバラ(イヴ・コノリー)は、経営不振で店をたたまざるを得ない状況になっていた。
店の売り物は人物の裁縫にその人の声を仕込むというもの。
残っている母親の肖像の裁縫から出てくる母親の声に毎日の生活を導いてもらってようやく暮らしているという感じ。
残った最後の顧客ともいうべきグレース(キャロライン・グッドオール)の花嫁衣裳の直しのために彼女の家に行く。
「お母さんとは偉い違い」と嫌味ばかり言われてイラついて、花嫁衣裳の背中のボタンを落としてしまう。
ボタンは床の穴の蓋のふちに停まっていたのだが、続くグレースの嫌味にわざとボタンを穴に落としてしまう。
グレースは何とかしろと怒り狂う。バーバラは店にボタンを取りに帰ることになる。
ところが、その途中とんでもない情景に出くわす。
転がっているバイク、その先には道路わきに突っ込んでいる車。
バイクの運転手らしいヘルメットをかぶった男が横たわり、その先にやはり横たわっている車の運転手らしい男。二人の先には手錠のついたアタッシュケースがある。
道路には麻薬の袋らしいものが散乱している。
どうやら麻薬の取引でもめて、金を持ち逃げしようとした車とそれを追ったバイクがぶつかってしまったよう。
2人の脇には銃が落ちているが、二人ともケガしていて、銃をとることもできないよう。
バーバラは警察に電話をかけるのだが、相手が出たところで切る。
「選択、選択、選択」
バーバラは車から降りると・・・
ここでとんでもない仕掛けをして、二人の手元に銃が同時に行くように細工して大金がはいっていると思われるアタッシュケースを持って車で逃げる。
仕掛けがうまく動いたようで銃声が二つ響く。二人とも死んだに違いない。
しかし、そこで仕掛けに使った針を現場に残してしまったことに気が付く。
針には店の名前が刻まれている。
戻って針を回収しようとする。
ところが、バイクの男の靴に刺した針が抜けない。無理に抜こうとしたら折れてしまう。
しかも、バイクの男が息を吹き返す。
バーバラは銃をとって男に向けるが撃てない。
男を車に載せて店に戻る。
人に気づかれないように店に男を入れたバーバラは、またしても複雑な仕掛けを作って男を2階に上げるのに成功する。
男は、「お前が俺に殺させた男の父親は恐ろしい男だ。息子の仇をとるために必ずやってくる。
そうなれば2人とも終わりだ。俺を解放してくれたら俺のボスに頼んで奴を消してもらえる。俺を解放してくれ」
しかし、バーバラは聴く耳をもたない。
バーバラの知り合いの老人オスカーがやってきたのをなんとか追い返したり、なかなかバーバラが来ないのでタクシーでやってきたグレースの花嫁衣裳のボタン付けをしたりする。そうしているうちに自分の車のタイヤがパンクしているのに気づく。
これでは逃げられない。
そこで、店の入り口に仕掛けを作って、父親がやってきた時に備えようとするのだが・・・
冒頭で、バーバラが横たわっている3つの情景がでてくるので、想像できるように、実はこの映画3つの選択を描く映画で、事故現場を通った時点に戻ってその選択でどういう結果になったかをみせるという設定です。
2番目は警察に電話して相手が出たら、切らないで通報した場合。
やってきたのはエンゲル(K・カラン)という女性の警官。バーバラの知り合いでもある。
医療関係者が来るには時間がかかるからと事故現場の2人を警察署に連行することにする。
しかし、エンゲルはなかなか鋭い人で、現場にあるべきものがなくなっているのに気づく。
バーバラがアタッシュケースを隠しているのを見つけて、バーバラも逮捕されてしまう。
警察署に連れて行かれた3人は手錠で壁に繋がれる。
エンゲルは医療関係者が来る間に仕事があると隣室に入ってしまう。
エンゲルは公証人も兼ねていて結婚の儀式を始める。その結婚式はグレースのもの。
バーバラはその隙に逃げ出そうとバイクの男と一緒になんとか机の上にある手錠の鍵を取ろうとするのだが・・・
3つ目の選択は、何もしないこと。
警察にも通報せず、そのまま車を走らせて店に戻ってボタンを取って引き返す。
しかし、当然のようにまた事故現場に行きあたることになる。
しかも、車の男の父親がやってきていた…
冒頭で見せたように3つとも悲劇的な結末をバーバラは迎えます。その冒頭の場面にかぶるモノローグで言っているように、バーバラ自身の欲がもたらした結果であるわけです。
話のつなぎに入る「選択、選択」というバーバラの言葉は、3番めの話が終わった後にも出てきて、選択をどこで間違ったか考えて違うところから始まる物語になります。これがとても良い。最後の締め方もありきたりですが、これでいいという感じ。
タイム・ループものの変形といっていいでしょう。選択を間違ったと悟ったところで、選択した時間に戻ってやり直すという話です。
ただ、タイム・ループしているというより、何故かやり直しができるようになっていた、という感じで少々いい加減な感じがあります。とはいえ、先に書いたように締め方がうまかったので悪くない映画と言っておきましょう。
「エディントンへようこそ」
アリ・アスターの新作は2020年のアメリカ南部の田舎町を舞台にしたもの。
主人公となるのは町の保安官のジョー・クロス(ホアキン・フェニックス)彼はマスクが嫌いで、冒頭は、止めているパトカーの中でマスクなしなのを隣町のパトカーの警官たちに注意されるところ。
そこに緊急通報があって、一応マスクを着けて向かうが、すぐにマスクを外す。
通報された件はスーパーにマスクなしで入ろうとしている男がいるから止めてくれというもの。
ジョーは、「入れてやれ」と反対の態度。
自分もマスクなしで店に入るのだが、結局マスクなし男が追い出されてのを見て、買い物をして追い出された男に渡す。
金を出そうとした男を止めてパトカーで去る。
ここら辺は2020年当時のアメリカでの状況を垣間見る面白さがあるのですが、マスクなしで追い出される人を同情的に描いているわけではないので、ジョーの行動に共感が持てない。
市長のテッド(ペドロ・パスカル)にとっては、マスクにたてつくジョーは問題の塊でしかない。一方、彼はハイテク企業を誘致しようとしているが、反対する議員の声を聴こうとしなかったりして、彼もまた問題がありそう。
しかし、映画はテッドの方にはあまり突っ込まないで、もっぱらジョーを描く。
先に書いたようにジョーの行動には共感が持てないのですが、逆に反感を抱くような感じで描くわけでもない。これは意図的なのかとも思いますが、これでは映画をどう見ていいのかわからなくなってしまう。
ジョーの妻ルイーズ(エマ・ストーン)はちょっと変わった人のようですが、それ以上に問題なのは、コロナを言い訳に家に住み着いてしまっているルイーズの母親のドーン(ディードル・オコンネル)。
陰謀論の信者でネットでも有名人のよう。彼女の言葉にジョーは耳を貸さないのですが、何か悪影響を与えられているようなのか微妙。
BLM運動が町で起きる。
デモを見てからフロイド事件を知ったジョーはどう対処していいか分からない。
ここら辺の2020年という年の切り取り方はさすがだとは思う。しかし、BLM運動の若者たちがなんとなく熱気に欠ける気がする。原因は白人が運動の主体になっているせいかと思うが、そこらへんも意図的なのではないかと思う。
意図的というとカメラワークのすばらしさは見事としかいいようがない。緊張感の高め方など最高。
ただ、話がそこまで緊張感がないので違和感もある。
物語は中盤で意外なことが起きて、話も町の様子を中心にしたものから、ジョーが主人公のサスペンスドラマに変化してしまう。こうなるとカメラワークのすばらしさも生きてきて長さを忘れさせてくれる映画になっていると思う。
ただ、色んなところに目を配っている分、少々総花的になって突っ込みが足りないというか、こなれていない感じがする。それでもアンチ・トランプの精神がにじみ出ているのがいいと思う。