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立命館大学ビジネススクール教授 高橋慶治のブログ

立命館大学ビジネススクール教授、合同会社人間開発研究所代表社員、元臨床心理士、元JOC強化スタッフ(メンタルトレーニング、コーチング)の高橋慶治が、マインドフルネス、メンタルタフネス、ストレスマネジメント、コミュニケーション&人間関係など色々書いています。

前のブログで人間性心理学のマズローがポジティブ心理学のはじまりの一歩でもあると紹介しました。そこでマズローによって有名になった「自己実現」について述べていきたいと思います。

 

「自己実現」という言葉は、現在では

 

・理想や憧れの生活を送ること
・仕事もプライベートも充実させながら、目標を実現させること

・なりたい自分になること

 

といったように「充実した幸せな人生を送る」という意味で使われているケースが多いです。しかし、自己実現はもともとは心理学用語であり、マズローの定義はこのような意味とは異なります。

 

マズローの定義では、「偽りのない自分の姿で好きなことをして、それが社会貢献につながる状態」が「自己実現」であるとされています。利他と利己の統合的な意味で自己超越的自己実現を考えていました。

 

マズローは自己実現した人の15の特徴をあげています。

  1. 現実をより有効に知覚し、より快適な関係を保つ、願望・欲望・不安・恐怖・楽観主義・悲観主義などに基づいた予見をしない
  2. 自己、他者、自然に対する受容
  3. 自発性、素朴さ、自然さ
  4. 課題中心的、哲学的、倫理的な基本的問題に関心があり、広い準拠枠の中で生きている
  5. プライバシーの欲求からの超越、独りでいても、傷ついたり、不安になったりしない。
  6. 文化と環境からの独立、能動的人間、自律性
  7. 認識が絶えず新鮮である
  8. 至高なものに触れる神秘的体験がある(至高体験)
  9. 共同社会感情(共同体感覚)
  10. 対人関係において心が広くて深い
  11. 民主的な性格構造、権威主義的性格でない
  12. 手段と目的、善悪の判断の区別
  13. 哲学的で悪意のないユーモアセンス
  14. 創造性
  15. 文化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超越、社会の中で上手くやっているが、しかし社会常識、文化的な固定観念にとらわれない
これと以前述べたオルポートの成熟した人格の特徴と合わせて読み、自分の状態や課題を考えてみることも良いかもしれません。


ポジティブ心理学は1998年にアメリカの心理学者マーティン・セ
リグマンによって提唱されました。 セリグマンは「心理学には、問題を解決する面だけでなく、 プラス面を伸ばす肯定的な側面もあるはずだ」と考えました。 

 

その分野は広く、多くの心理学者が専門的にいろいろなテーマを研究しています。 例えばバーバラ・フレドリクソンは「ポジティブ感情」、 ミハイチクセントミハイは 「フロー」、 タル・ベン・シャハーは「幸福」 などです。 もちろん、ほかにもたくさん有名な学者がいます。 ポジティブ心理学は、一人の学者が系統立てて研究している学問ではないのです。


これら多くのテーマの研究は、実際に日々の幸福度を上げ、 人生を豊かにするために役立つ知識を与えてくれます。ポジティブ心理学を学ぶ意義は、 ポジティブ心理学の知識や知恵を実践という形に落とし込み、 生活にも仕事にも活かして自分やまわりの人々の幸福度を上げることです。


ポジティブ心理学は、英語でいうwellbeing (ウェルビーイング)を追求する学問です。直訳すれば「よい状態」で、 「精神的・肉体的・社会的にいい状態」をいいます。 一方、英語のhappiness (ハビネス) は「ごきげん」のイメージが強くなります。 日本語の 「幸福」には、ハピネス以上の深みがあります。 私はウェルビーイングの意味を込めて「幸福」という言葉を使っています。


先ほど述べたように、ポジティブ心理学の研究テーマは広範囲です。 いろいろなテーマがありますが、階層的には3つ (主観的・個人的・社会的)に分けられます。それぞれのテーマでポジティブ心理学を紹介できればと思っています。

ポジティブ心理学の誕生は1998年にアメリカの心理学者マーテイン・セリグマンによって提唱された新しいものです。 しかし、 幸福や有意義な人生について探求する歴史はとても古く、ルーツは古代ギリシア時代にあったと言えます。


ギリシア時代の哲学者たちの間でも重要なテーマの1つでした。 ソクラテスは、「人がよいと思うこと」と「世間が欲していること」を一致させられれば、幸福になると言っています。 プラトンも幸福を得る方法を探求しましたし、 そして、アリストテレスは「達成しうるあらゆる善のうち最上のもの」 が 「ユーダイモニア (幸福)」 だと述べています。


また、ポジティブ心理学は、インドの思想や宗教(ヴェーダなど)や仏教、日本の禅の影響も受けています。 研究対象の「愛」 「思いやり」 「喜び」などは、インドの宗教や仏教において幸福へ通ずる道だとして推奨されています。ヨーガや座禅など瞑想をはじめとした東洋的な訓練法や手法が、ポジティプ感情を養うために効果的であることも実証されているのです。


1990年代より、多くの心理学者が臨床心理学(精神的疾病の治療研究)に発展してきました。その一方で、 1960年代に主体性や自己実現といった、 人のポジティブな側面を強調した 「人間性心理学」が生まれました。 

 

その代表的人物がアプラハム・マズローです。 彼は、 自己実現(幸福や有意義な人生を実現)している人を研究し、その成果を普通の人々に役立てるべきだと考えました。

 

ポジティブ心理学を提唱したセリグマンは、ポジティブ心理学とは 「人間が持つ潜在的能力を十分に開花させ、自分がなり得る最高の自分になるための科学的研究」 だと説明しています。 

 

人間性心理学は、定性的な分析 (性質の様子や変化などを、数字では表せないことに注目して分析)するまでで実証的研究、科学的な枠組みが乏しいと批判されていました。人間性心理学に科学の枠組みを与えより定量的な分析 (数値を用いて具体的に分析する)をする実証的な研究をし、それを応用することがポジティブ心理学とも言えます。