立命館大学ビジネススクール教授 高橋慶治のブログ

立命館大学ビジネススクール教授 高橋慶治のブログ

立命館大学ビジネススクール教授、合同会社人間開発研究所代表社員、元臨床心理士、元JOC強化スタッフ(メンタルトレーニング、コーチング)の高橋慶治が、マインドフルネス、メンタルタフネス、ストレスマネジメント、コミュニケーション&人間関係など色々書いています。

前々回の「人をたすけるとはどういうことか」の著者エドガー・シャインMIT元教授の別の著書「謙虚なリーダーシップ」を紹介したい。

 

VUCAと呼ばれる目まぐるしい変化が取り巻く中、従来のこれまでのリーダーシップなどが通用しなくなってきていると言われています。そんな中で、キャリアや組織心理学の大御所ともいえるエドガー・H・シャイン『謙虚なリーダーシップ(Humble leadership,2018)』が出版されました。

 

その特徴は、資質ではなく、「関係の深さ」に着目したリーダーシップ論ということ。その要点をまとめると


・英雄的な1人のリーダーに頼る組織は時代の変化に対応できない。重要なのは、相互に信頼し、率直に本音を伝え合う「組織文化」。


・そのような組織文化を築くためには、役割やそれに紐づく能力ではなく、「1人の人間として相手を見る(パーソニゼーション)」という、普段の絶え間ない実践が不可欠。

 

そして、謙虚なリーダーシップが求められている理由は次の3つです。


理由1
課題の課題の複雑さが加速度的に増しており、あらゆる解を一人の人間だけで見つけるのは不可能だから。
理由2
従来の人を道具扱いする管理モデルでは、上下のコミュニケーションが滞って、ひいては不正行為を生んでしまうから。
理由3
職業的、社会的価値観が世代交代によってUpdateされてきているから

 

それは、関係 (≒過去のやりとりに基づいて未来の互いの行動を、互いに予想できる状態)をベースとしたリーダーシップです。
この「関係」には4つのレベルが存在している。Lv2以上を目指すのが、謙虚なリーダーシップの重要なポイントだ。


Lv-1
望ましくない関係
Lv1
単なる業務上、お役所的「ほどほどの距離感を保った」関係
Lv2
個人としての全人格を認め合う関係
Lv3
親密さと愛着、友情、愛情

 

現代においては、従業員を「エンゲージ」させ、個人的プロジェクトに取り組む時間を与え、彼らの才能をもっと組織的に機能させることが、きわめて重視されている。しかしながら、人がエンゲージできる対象は、役割ではなく、人である。マネジャーとして、従業員エンゲージメント、参画・関与、エンパワーメントを懸念するなら、まず、レベル2のつながりをつくることに力を注ぐべきという。

 

謙虚なリーダーシップの基礎となる「関係」を作っていくためには、そうすればよいのか?まずは、読書会とリフレクションを行う。『ティール組織』や『学習する組織』など、謙虚なリーダーシップのベースとなる知識が学べる本を課題図書にして、気付きや学びをシェアし合う。次に、自分を取り巻く関係性を分析する。自分に期待を寄せてくれているステークホルダーを並べてみて、そのステークホルダーたちとの関係性をLv-1~Lv3の間で定義する。


最後に、Lv1以下だったステークホルダーと関係性を構築するための行動を取っていく。生い立ちを質問したり、相手に特有のことが無いか傾聴したり、自分に関する個人的なことを話してみたり、お互いが「相手の全人格を認め合う状態」になれるよう対話を重ねる必要がある。

 

 

聴き上手は質問上手ともいわれる。そして建設的な質問は新しいアイデアの抄出や課題解決、プロアクティブな行動に必要不可欠でしょう。 

特に企業を取り巻く環境は激変しつつあります。ビジネスパースン一人ひとりが、「自ら考え」、「自ら行動する」ことが求められています。

 

 ここでいう「考える」とは、建設的、創造的に考えるということです。すなわち、過去の慣習や経験にとらわれず、常により良い方策を模索するためには、まったく新しい視点から考えなければなりません。新しいビジネスモデルの創造や未経験の課題への対応などは、そのよい例です。

 

 しかし、それは、自分一人だけではなかなかできることではありません。視点を変えるには、建設的なで多様な視点からの質問をしてもらうことが役立ちます。

 

 したがって、マネジャー・リーダーがコーチングを通して、メンバーに意味ある適切な質問をすることが重要になります。また、コーチ役に限らず、プロジェクトや会議などのメンバー間でも、質問を投げかけあうことが不可欠となります。どちらの場合でも、質問する目的は、建設的な課題解決に他ならないのです。   

 

 同時に、質問を受ける側にとっては、自分の中の可能性や能力に気づくということも、当然起こってきます。また、質問する側にとっては、質問するプロセス自体がその対象となる人や物事への興味を喚起し、思考を深めることにつながります。

 

質問には、閉じた質問(クローズド・エンド・クェスチョン)と開いた質問(オープン・エンド・クェスチョン)があります。閉じた質問は、イエス・ノー・クエスチョンともいいます。主に情報の確認のために使われます。会話が閉鎖的になりがちで、相手が有用な情報をもっていても、それをいい出す機会を奪ってしまうこともあります。

 

 「結局は、お客さまに伝えたの?伝えなかったの?」

 というように、イエス・ノー・クエスチョンなので、相手がほんとうに大事な情報を言おうとしていたとしても、それを言い出すチャンスを奪ってしまうのです。

 

 閉じた質問は、相手が、抽象的な表現や事実をあいまいにしか表現していない場合など、それが事実であるかどうか確認するのに使えます。

 

ただ、イエスーノー・クエスチョンをひんぱんに使うと、責められている印象を与えるので、尋問口調、詰問口調に聞こえてしまいます。イエス・ノー・クエスチョンを使うときは、できれば穏やかな口調や柔らかい表現を意識して使いましょう。基本的に、閉じた質問の場合は、「はい、いいえ」で答えられるので相手が答えやすい質問です。

 

開いた質問は、5W2H(いつ、だれが、何を、どこで、なぜ、どういうふうに、いくらで)を使います。開いた質問は、イエス・ノー・クエスチョンに比べて、情報収集という意味合いが強く、相手の意見、相手が伝えたい情報、考え、感情などを導きやすいのです。

 

 「仕事はうまくいっている?」、「はい、いいえ」ではなく、「今の仕事はどんな状況かな」と聞くことで、「実は課長に言いたかったんですけれど、○○は変えたほうがいいと思います」というように、相手が言いたいことを導きやすくなります。

 

 しかし、相手がその事について考えていない場合は、「どう思う?」といっても、つまってしまったり、あいまいな返答になったりする場合もあります。抽象的な質問で聞かれると、何を答えていいのか、質問の意図がわからなくて、答えにくいこともあります。

ですから、開いた質問は、より具体的なかたちで伝えるようにしましょう。

 

 とりわけ、「なぜ、どうして(WHY)は、注意して使いましょう。「なぜ?どうして?」という言い方は、攻撃的で、威圧的で、非難がましく、ネガティブに相手に聞こえるためです。

 

 「なぜ?」と詰問調で聞かれたときに、多くの人は防衛的になり言い逃れやつじつま合わせの答えをすることが増えることがあるそうです。「なぜ?」ときつい口調でいうことによって、ラポールが悪くなってきます。

 

コーチとの関係は、責められる、とっつきにくい、怖いというイメージでとられてしまいます。そうすると、ほんとうに欲しい情報は手に入らず、間違った情報を受け取ることにもなります。

 

 実際、わたしたちが「なぜ」というときには、賛成できないとき、不快なとき、否定的な思いを伝える場合に多く使います。「なぜ」といいながら、ほんとうは情報がほしいのではなく、相手を責めたてたいときに使ってしまいがちです。当然、相手を防衛的にしてしまうのです。

 

 こんな「なぜ」を使っていませんか。

 

「なぜ、あらかじめ手を打たなかったんだ」

「時間がなかったもので…」

「時間がないって、なぜ?」

「人手が足りなかったもので…」

「人手が足りないんだったら、なぜもっと早くいわないんだ?」

「そのときはできると思ったので…」

「できなきゃしようがないんだよ!」

 

 

人と組織の研究に多大な影響を与えてきた伝説的研究者、エドガー・シャインMIT元教授。エドガー・シャインMIT元教授は残念ながら昨年逝去したが、彼はキャリア・アンカー理論だけでなくプロセス・コンサルテーションでも有名で、それは人助け=ヘルピングの方法論だ。


私は20年以上前にシャイン先生から直接にプロセス・コンサルテーションを学ぶ機会を得られて、一緒に食事をさせてもらい色々と質問をさせて頂いたのは良い思い出でもある。

 


 
プロセス・コンサルテーションでは、「何をやるか」(What to do)、ではなく、「どのようにそれをやるか」(how to do)に焦点を当てる。つまり、どんな支援を行うかというのではなく、どのんなプロセスで支援を行うべきかを考える。その根本にある考は、「支援される人が自ら自分を助けられるように手助けをする」ということだ。


米国では、カウンセラーやコーチング、コンサルティングを職業とする人々のことを「Helping Professionl」と呼んだりする。「プロの人助け」ということだ。


2009年出版のシャイン先生の「人を助けるとはどういうことか」にプロの人助けとは何か、何をするのか述べられている。

 


 
この書は、類い稀な「支援学」への平易な入門書だ。ヘルピング──人の助けになる行為が、原著の書名だ。ヘルプは「支援」、ヘルピングは「支援行為」と訳されているが、いちばんいい日常語は、「相手の役に立つこと」。そして相手にそう思ってもらえる行為がヘルピングだと翻訳者の金井壽宏立命館大学教授は述べている。


相手(クライアント)のイニシアティブや自律性を尊重しつつ、相手がうまく問題解決するプロセスを支えることが、本書では重視されている。

しかし、誰かを支援することが求められる関係は、普遍的に存在する。親子、友人同士、恋人同士、夫婦などプライベートライフでも、先生と生徒、先輩と後輩、上司と部下、コンサルタントとクライアントなど、学校でも、会社での仕事の世界でも、支援を伴う関係は存在する。

これがうまくできるようにするためには、どんな原理・原則を知る必要があるのか。本書は多数の日常的な例示を活用しながら、支援の基盤にある考え方を整理している。

そのための基礎となる考えをシャイン先生は「人を支援するための10原則」ということにまとめている。それは、


(1)常に人の役に立てるように意識すること
(2)今現在の「現実から離れないこと」
(3)自分自身は「無知」であることを理解する
(4)どんなことでも,相手には「影響」を与える
(5)解決策を考えたり、解決策を実行するのは最終的には,クライエント自身であること
(6)流れに乗ること(文化やタイプに合わせる)
(7)タイミングが重要であること
(8)支援で葛藤が生じたときは、前向きな解決の機会であると捉える
(9)すべてが、データであり、間違いは常に起こる。間違いは学習の源である
(10)疑念が生まれたら、問題をお互いに共有する

とは言え「言うは易く、行うは難し」だ。この書には身近な具体的な多くの例をあげて分かりやすく解説してくれる。