チャットGTPで漢語の般若心経を翻訳させてみました。サンスクリット語の原典でも翻訳可能ですが、中国で漢語に変換された経典の翻訳から始めてみます。般若心経は、空海が最も重要視したお経であり、空海自身も解説本を書いています。この262文字の般若心経には、仏教思想の全てが埋め込まれています。極めて短いお経ですが、その内容は深く、簡単には理解できません。世界中のお寺で、お経があげられ、写経も多数の信徒によりなされています。


一番有名な箇所は、「色即是空」でしょう。唱えることは出来ても、意味がよく分かりません。空海の「般若心経秘鍵」という解説文に於いても、「空」について詳細な説明はありません。空の思想は最先端の量子力学にも繋がると言われていますから、驚きです。さらに、眼、耳、鼻、舌、皮膚などの感覚器官から入った情報は、神経回路を介して脳に伝達され、情報処理されるものだと生理学的に理解されていない時代、1900年も前、に成立しているのも不思議な感じがします。漢語の原文は以下です。



仏説摩訶般若波羅蜜多心経


観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時。

照見五蘊皆空 度一切苦厄。

舎利子 色不異空 空不異色。

色即是空 空即是色。

受想行識 亦復如是。

舎利子 是諸法空相。

不生不滅 不垢不浄 不増不減。

是故空中 無色無受想行識。

無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法。

無眼界 乃至無意識界。

無無明 亦無無明尽。

乃至無老死 亦無老死尽。

無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故。

菩提薩埵 依般若波羅蜜多故。

心無罜礙 無罜礙故 無有恐怖。

遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃。

三世諸仏 依般若波羅蜜多故。

得阿耨多羅三藐三菩提。

故知般若波羅蜜多。

是大神呪 是大明呪。

是無上呪 是無等等呪。

能除一切苦 真実不虚故。

説般若波羅蜜多呪。

即説呪曰。

羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶。

般若心経。


上記漢語にはチャットGTPが判別し易いように句読点を付けました。


空海の時代にパソコンと生成AIがあれば、サンスクリット語から直接翻訳し、その他の何百という仏教経典と一緒にUSBメモリー1本に納めて、唐から持ち帰ることができたでしょう。たくさんの翻訳者 (当時の唐の長安では、インド人と中国人を翻訳集団として集めていた) や筆写する人員も必要なかったでしょう。もちろん、インドからネット経由で、ダイレクトに日本へ経典が入って来たかもしれません。しかし、空海が開いた真言密教とは随分違った教理になっていたと思われます。それは、中国と日本の2つのフィルターがかかり、純化された思想となりました。



空海筆とされる般若心経の写経。



次に、漢語で書かれた般若心経を、チャットGTPに現代日本語訳させてみました。



仏教が説く摩訶般若波羅蜜多心経


観自在菩薩が深い般若波羅蜜多を行う時、五つの蘊(集まり)を照らし見て、すべてが空であることを悟り、あらゆる苦しみから解放された。


舎利子よ、色(しき、物質的なもの)は空と異ならず、空もまた色と異ならない。色即ち空、空即ち色。感覚、思考、行動、意識も同様に空である。


舎利子よ、これらすべての法(現象)は空の相を持つ。生じず、滅びず、汚れず、清らかでなく、増えず、減らない。したがって、空の中には色も、感覚も、思考も、行動も、意識も存在しない。眼、耳、鼻、舌、身、意のような感覚器官もなく、色、音、香り、味、触感、法(観念)もない。眼の領域から意識の領域に至るまで何もない。無明(無知)もなく、その終わりもない。老いも死もなく、その終わりもない。苦しみ、集まり、滅び、道もない。知恵もなく、得るものもない。何も得られないがゆえに、菩提薩埵(ボディサットヴァ)は般若波羅蜜多に依って、心に障害がない。障害がないため、恐れがなく、すべての逆さまの夢想から遠ざかり、究極の涅槃に到達する。三世(過去、現在、未来)のすべての仏は、般若波羅蜜多によって、最高の悟りである阿耨多羅三藐三菩提を得た。


したがって知るべきである、般若波羅蜜多は大きな神秘の呪文、偉大な光明の呪文、最上の呪文、比類なき呪文であり、すべての苦しみを取り除き、真実で虚偽ではない。したがって、般若波羅蜜多の呪文を述べる。


呪文はこう言う、ガティ ガティ パーラガティ パーラサムガティ ボーディ スヴァーハー。

般若心経。


以上が、チャットGTPの翻訳です。


空海の画像。右手に五鈷杵 (ごこしょ)を持っています。五鈷杵は真言密教の代表的な法具であり、いかなる煩悩や苦悩も破壊するとされています。



さて、肝心な部分の「色即是空」の部分に関してですが、極めてすっきりと翻訳されました。舎利子よ、色(しき、物質的なもの)は空と異ならず、空もまた色と異ならない。色即ち空、空即ち色。感覚、思考、行動、意識も同様に空である。」


ここで、「空、くう」について解き明かさなければなりません。仏教学者の高神覚昇氏によれば、「空」は仏教のエッセンスであり、1文字の中に多様で、複雑かつ深遠な、哲学や宗教が、ことごとく織りこまれていると解説されています。因縁によって相互に関連し合ってできている宇宙に存在する一切の事物、すなわち五蘊 ごうん(色、受、想、行、識) の集合、は何一つとして永遠に存在しているものはない。万物は流転する。従って、移り変わって行く実体のない状態を「空」と表現するのが、適当だと考えます。しかし、いまだに「空」に関して明確に文章化された定義はありません。宇宙に存在するもの全ては「空」であり、実体はないので、世の中に存在する苦悩も実体はない。従って、観自在菩薩が深い般若波羅蜜多を行う時、五つの蘊(集まり)を照らし見て、すべてが空であることを悟り、あらゆる苦しみから解放された。」と。


一番最後の、「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」の部分は、サンスクリット語から中国語への音写であり呪文です。これは重要な呪文です。舎利子とは、釈迦の直弟子の名前でシャーリプトラ。



★空海の「般若心経秘鍵」、空海の「即身成仏義」、高神覚昇の「般若心経講義」、梅原猛の「空海の思想について」などを参考にした。



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