1200年前に真言密教を開いた空海の足跡①からの続きです。



平安京へ入京が勅許された後、空海は最澄と並び、平安京で、そして仏教界で、重要な地位を築いていきます。810年には、奈良仏教の一大拠点であった東大寺の第14代別当に抜擢されています。これは、平安京遷都により奈良の仏教勢力が弱まり、空海に勢力挽回が託されたためです。それまで華厳宗の総本山であった東大寺に、空海が着任後、密教的な要素が取り入れられました。時代の趨勢でしょう。816年、空海は天皇から高野山を下賜され、翌年から草堂建設が始まりました。821年、空海は故郷の讃岐 (現在の香川県) で朝命による大掛かりな土木工事を指導しました。灌漑用水の満濃池が決壊したため、唐で学んだ土木技術を駆使して、これをアーチ型のダムに造り替えました。この池は現在も灌漑に使用されています。 


823年に、桓武天皇のあとに即位した嵯峨天皇は、空海に東寺を託し、真言密教の総本山としての東寺が誕生しました。この年、綜芸種智院(そうぎしゅちいん)も開かれました。これは京都に設立された真言宗の大学寮で、空海自らがその設立に関わりました。ここでは、密教の教義の研究だけでなく、一般民衆にも様々な学問が教えられ、後の日本文化・学術発展に大きな影響を与えました。 831年、空海は癰 (膿瘍) を発症し、高野山で隠棲の後、835年に入定しました。


この特別展は、空海の激動の人生と業績を再認識する良い機会となりました。京都府や和歌山県の高野山、中国の赤岸や西安などに点在する空海にゆかりの深い寺院や史跡を巡れば、1200年の時空を遡る旅も可能な気がしました。



(参考)

書籍では、司馬遼太郎の「空海の風景」、空海の「即身成仏義」および「般若心経秘鍵」、松長有慶の「高僧伝 空海」、梅原猛の「空海の思想について」、高神覚昇の「般若心経講義」。


映像では、NHK 2019年6月26日放送、1984年東映制作のドラマ「空海」、NHKスペシャル「空海の風景」、NHK「空海への道」、空旅中国「空海のまわり道」等を参考にしました。


空旅中国「空海のまわり道」およびNHKスペシャル「空海の風景」は、YouTubeで視聴可能。




奈良の東大寺大仏殿。世界でも最大級の木造建築。810年より、空海は東大寺別当 (長官) を4年間務めた。彼が別当になって、東大寺では華厳宗の伝統に、密教の色彩が加えられた。まず、東大寺境内に真言院が建立され、更に大仏尊像に献じる経典は、空海が唐から持ち帰った理趣教となった。理趣教は空海が特に重視した教義の一つである。空海が導入したと思われる密教の修行である四度加行(しどけぎょう) は現在でも行われている。"ウェブサイト空海" より引用改変。