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15Mar
- ☆作者からひとこと☆
  読者の皆様お久しぶりでございます暑い夏からビューンっと冬になり、12月半ばとなり気がつけばお正月が過ぎ、バレンタインも過ぎ去り……。卒業🌸シーズンがきて……なんだか色々と過ぎ去ってしまいました投稿の回数が遅れ気味となっていますがストーリーは日々制作していますが納得ができるものが出来上がりましたら随時更新していきます……。ただいま(改)の入っているものが新たに修正されていておりその他にもさり気な〜くかけているものもございますちゃんとした作家さんはちゃんとしたシナリオで作り上げていられていると思いますが私は思いついた時にストーリーを一気に作り、修正をかけつつ、ブログに上げさせて頂いております。ですので文章自体が会話ばかりの時もあり、途中修正をかけたりも致しますが……。お許しくださいませ……。カテゴリー別でもそれぞれのストーリーが読むことができますので今後もご愛読されると嬉しく思います💦kazu-Lina
11Oct
- ～番外編～和海ストーリー⑭
  ホテルへ戻りニューヨークへ戻る支度をしていた。日本にひとり残して行くことが不安で仕方がなかった。　例え１週間でも、あの大男が職場にいる。たかが１週間だけれど……。そのせいか、頻繁に声をかけてしまう。香水だけでは彼女と自分の不安を拭うことはまだ足らないが……。「それから……。」「もう！大丈夫ですって！」「本当か？信じられないなぁ。そんな事言ってこの前の事あったからなぁ？」「どう言えば信じてくれるんですか？」「じゃ、俺も聞こう。夢じゃないって信じてくれるか？」「それは……。」　こうして話をしていることも現実と思って貰えない事に少し腹が立っていた。　『パパなにか忘れていない？』（ん？）『会えたら渡すものあったでしょ？』（渡すもの……。あ！あれか！ってか、なんで莉奈の物って分かるんだ？）「それと一緒だよ。あ……。そうだ！あれがあれば信じてくれるよな。」「あれ？」「ちょっと待ってろ？」　クローゼットの中からカバンにいつも入れていたピンクのぬいぐるみを取り出して見せた。「あ……。」「思い出したか？」あの時置いて行ったピンク色のぬいぐるみを渡した。　「夢じゃないんですよね……？」「夢じゃない。職業は『芸能人』だけど、今は他の人と変わりはない。ひとりの男だ。」「……。」「信じてくれるよな？」　しばらく黙っていた。　「私には……彼が居るんですよ？」「わかってるよ。」「それなのにどうして？」「どうしてだろうな。そばに居ないといけない気がするんだ。」「彼氏と会うのなら会うと良いよ。ずっとお前のそばにいる。」　俯いたままぬいぐるみを抱きしめていた。　「莉奈」「はい……？」「必ず毎日連絡する。少しの間会うことができないけど……。何かあったらすぐに戻る。」「大丈夫……ですよ。」　ぬいぐるみを抱きしめる腕に力が入っていた。　「大丈夫じゃないよ……。大丈夫じゃないんだよ。」「えっ……。」　（もう、言うしかないな……。）　自分の気持ちを抑え隠し通すことが出来なくなっていた。「愛してるんだ。だから1人で居させたくないんだ。」「あ……、愛して……！？」「愛しているからそばに居てほしい。離したくない、1人にさせたくない。そばで守ってあげたい。それが普通の事なんだよ。」　「うそ……。違う……。違うよ……。黙って着いて来ればいい、黙って言う通りにしていろ。じゃないの？」「俺は違う……。喜びや悲しみ、辛い事を分かち合いたい。辛い苦しい気持ちを共有したいんだ。俺じゃ……ダメか？」「私を……？愛してくれるのですか？」「愛している。これからもずっと一緒にいたいと思っている。ダメ……かな？」　生まれて初めて自分から人に告白をした。ただ何となく交際をスタートしていることが多かった。彼女が言うように俺もまた、身勝手で一方的な考え方をして、相手を苦しませて来た。不適当多数の女性とも関係をも持った事もあるが……彼女は違う。自分が守らなければ行けない、安らぎや癒しを与えてくれる彼女を愛したい、共に歩いて行きたいと思える人物になっていた。　「ダメですよ。私みたいな厄介な人間……。あなたに迷惑かけてしまう……。不幸にしてしまう……。」「一緒に不幸になるのなら構わないよ。必ず幸せにしてみせるから。」「私なんて居なくてもいい存在なのに……。」「いてもらわなきゃ、困る。」　彼女は涙を流し、お互いの目を合わせキスをし強く抱き締めた。「ずっと一緒に……いてくれないか？」「……はい。こんな私でよければ……。」「決まりだな。」　できることならこのまま連れて行きたかった。　「あの……。」「ん？」「星川さんにとって私はどんな存在なんですか？」「存在？」　（存在って……。）　「友達、親友、彼女とか……。」（自分がどういう立場にあるのか知りたかったのか。）　「あ〜。知りたい？」「ダメなら良いです……。知らなくても平気……。」「結婚を考えてる。」「け、結婚！？」「『家族』だな。前も言ったろ？今は婚約者として思っている。」「なんだか……色々と飛び越えていませんか？」「そうか？」「だって……。彼と別れていないし……。御付き合いだってしていないし……。」「彼氏越えたなぁ。俺、勝ったな。」　確かに色々な段階と言うものを超えてはいた。彼女を幸せにしたいという思いだけだった。　　時計を見るとフライトの時間が迫って来ていた。　「お！もうこんな時間。急がないと飛行機乗り遅れちゃうな。予約キャンセルしてこの続きをしてもいいんだけど……。」「ダメですよ！お仕事向こうでもあるんでしょ？ちゃんとお仕事してください！」「お！おおぅ。嫁っぽいこと言われたな。」「一応、『星川和海』さんのファンなので？ちゃんとファンの事を考えて仕事しているんでしょ？」「ファンの為にもちゃんと『星川和海』しないといけないよな！」　顔を見合わせ笑っていた。　「そうだ！忘れる所だった。」　小指に嵌めていた指輪を外し、莉奈の左手を取り薬指に指輪をはめた。「これがお前の指輪。いつか渡そうと思ってた。」「じゃ、ぬいぐるみの指輪は……。」「俺の。大きかっただろ？あの当時は太っていたから……」「あ……。太ってました？」「あ！しまった！」「ひどい……。あれでも10kg近く頑張って痩せたんです！彼は細い子が好きみたいだったから……。」「ごめん！これからはその指輪が食い込まないぐらいまで太っていいからな？」　指を見ると少しまだ大きい位だった。ぬいぐるみにつけていた指輪を外し付けようとした。「あのっ！」「ん？」恥ずかしそうに手を触れようとしていた。「私も星川さんにつけていい……ですか？」（恥ずかしいのか？）「つけてくれるか？」小さな手の平に指輪を預けると「ありがとうございます。大切にします。」「って、やばい！飛行機！」　　慌ててスーツケースを締め、玄関に向かうと後をついてくる。　「あのっ……空港まで見送りしたいんですけど……。」「ダーメ！帰り1人になるだろ？ちゃんと連絡するから。テレビ電話もする。なんなら行くのをやめるけど……」「それはダメです！」「だろ？だから待ってて。」「……。分かりました。」　少し拗ねた様な顔を見せた。　「あ、そうだ！」　（職場どこかきいておかないとこの先のこともあるし。）　「わぁっ！」立ち止まった時に背中に抱きついてきた。　「ん？そうかぁ、そんなに行って欲しくないんだなぁ？」「違います！急に止まるからー！」「そうか？残念。」「どうしたんですか？」「お前の仕事先どこだっけ？」「ビルバオ百貨店ですけど……。」「ビルバオ？」「たっちゃんの百貨店か！」「たっちゃん？」「俺の友達だ。取締役やってるんだ。」「取締役？」「そうかぁ。それなら色んなことはできそうだな。」「色んなこと？」「詳しくはまた教えるよ。とりあえず、行ってくる！」「あの、気をつけてくださいね。」「いいね〜。そのセリフ！あ〜。仕事に行けるようになるまでゆっくりするんだぞ？でも、無理して行かなくてもいいんだからな？」「私も仕事へ行ってちゃんと生活リズム整えないと行けませんからね。」「気をつけろよ？」「……？」「俺がなんとかするからな。」「なんとか……？」「じゃっ、行ってくる。」「行ってらっしゃい！」　行きたくはないが行かなきゃならない……。エレベーターをおりタクシーに乗り込み空港へ向かう途中でたっちゃんに連絡を入れた。「あ、俺だけど……。この前はありがとうな。」『お！彼女の様子どうなんだ？』「ああ。かなり危ない状況だったよ。」『なんでまた……。』「莉奈が働いている同じ職場の奴が手を出してたんだ。」『それは災難だったな。』「それでお前に頼みがあるんだ。」『今度はなんだ？』「ソイツを解雇して欲しい。」『名前分かるのか？ってか、彼女はどこで働いているんだ？』「お前の百貨店で働いてるんだ。名前は『米田莉奈』」『え！？あの子！？最近来ないと思ってたら……。店長に聞いたら体調不良で休んでるって。こっちには全く連絡が来なくてさ。退職させようと思っていたところなんだよ。』「薬漬けされてたんだ。大麻に覚醒剤。」『はぁ！？なんだよそれ！なんでそんな事に……。っていうか、あの子が働いている店舗には4人しかいないんだぞ！？1人は歳がいってて……。あいつらか！なにか企んでる感じはあったけど……。警察に叩き出そう！』「いや、それは待ってくれ。彼女の人生にヒビがはいる。辞めさせるだけでいい。彼女にさえ近ずかなければ……。」『それで済むとは思えないけどな。』「それは大丈夫だ。いずれ彼女も辞めさせる。俺が彼女のそばにいる限り二度と手をつけさせない。」『ん？それって……。』「彼女と……。一緒に暮らす。」『そういうことね。わかった！ボディーガードだな？ガチムチの……。』「いやー！男はやめてくれ。絶対に男は近ずけないでくれ。」『その方がいいんじゃないのか？』「女性でいないのか？本人に気が付かれないようなさぁ。」　『女性で？あ……、そういえば元空手の選手が1人いたかも。身体は結構華奢なんだけど、オリンピック目指していた程の子なんだけど。』「いいねぇ！その子は従業員なの？」『確か……、米田くんと同じフロアで働いていたんじゃないかな？』「その人に頼めないかな？」『呼び出して見るよ。』「他はこっちで手配するよ。あまりガードが固すぎてもな……。」『そうか……。辞めさせるのか……。』「辞めさせるつもりだったんだろ？」『他のチームに回って貰おうと思ってたんだ。』「そうか……。悪いことしたな。またお詫びでもするよ。」　『困った時はなんでも言ってくれよ。』「ありがとう！悪い！フライトの時間なんだ。また連絡する。」『早速手配しておくよ。いつ出社してもいいように。』「よろしく頼むよ。」　そして飛行機に搭乗する前に空港内の写真を莉奈に送った。　『これから搭乗する。』『酔わない様にね。』『酔わねーよ！』　座席に着いた写真を送ると驚いていた。昔からこういったファーストクラス席に座り続けているせいか何も思ったことはなかった。座席を見て感動するなんてな……。『揺れない？』『多少は揺れてるとおもうけど？』『うわぁー。酔うー。』『乗り物酔いするのか？』『うん……。かなりキツめ。』『そっかぁ。まぁ、頻繁に日本に戻らなくなるから大丈夫だろ。』　しばらくすると間隔を開けてメッセージが届く様になっていた。　『星川さん、彼から離れる事にしました。』　（突然なんだ？そりゃ、その方が安心できるけど……。）『できる？』　『うん……。その方が自分の為だと思うから……。』『無理しなくてもいいんだぞ？好きなんだろ？』『好きだけど、どの様に好きだったのか、彼の考えや接し方が分からないんです。』　（考えや接し方がわからない？）　『そうか……。』（大丈夫かな……。好きなのに接し方がわからない？ずっと何をしていたんだ？）　『だから時間を貰えますか？』『構わないよ。ずっと待ってるから。』『ありがとうございます。』　（彼女の対人関係は今までどうなっていたのだろう……。　家族とも会っていないとか……。）とにかく用を済ませてできるだけ早く戻ろう。空港に到着したがニューヨークではなく、日本にまだ近いハワイの新居のある事にしていた。妹に以前行ったアミューズメントパークで莉奈が見つめていたぬいぐるみを購入してもらい、ひとつは莉奈の元へもうひとつはハワイの新居で飾ることにした。大きな荷物を抱え再びハワイへ向かうとなると……。さすがに面倒だった。（送って貰えば良かったかな……。ハワイに売ってないのか!?）　「あ、蒼司？頼みがあるんだけどさ……。」　到着してすぐにバンドのメンバーに電話を入れボディーガードの件を話した。他のメンバーにも協力してもらい、ホテルに戻るまでの道のりを頼みホテル側にも何事もなくホテルに辿り着けたか連絡を貰えるように伝えた。１週間位ならと思いながらも気になって仕方がなかった。　　
10Sep
- ～番外編～和海ストーリー⑬
  　天使のような澄んだ綺麗な歌声が聞こえ、優しい歌い方は美奈と似ていた。「綺麗な歌声だな。」「起こしちゃった？ごめんね。この綺麗な星を見ていると歌いたくなったの。和海もようやく素直になれたね。」　彼女は1度も下の名前を呼んだことは無いはずなのにそうよんだ。あの子供の声を聞き始め慣れてきたがまさかと思った。　「もしかして……美奈？」　彼女は微笑んだ。　「この子と波長があっちゃったみたいで体を借りちゃった。和海のことが心配で仕方なくてずっと向こうに行けなかったの。」「ごめん……。」「和海も私の呪縛からようやく抜け出せるね。」　ありえない事が再び起こっていた。あの声が導いたのだろうか……。　「お前に言い残した事があったんだ。」「言い残したこと？」「ずっとお前を事苦しませて泣かせたよな。幸せにするって言っていたのに。ごめん……。」「ううん。凄く毎日が楽しくて幸せだったよ。あなたに会えて本当に良かった。」「本当か？」　美奈は微笑んだ。　「うん。たくさん愛してくれてありがとう。彼女を幸せにしてあげてね。あなた達の事をずっと見守っているからね。」　美奈を最後に抱きしめた。　「美奈……。お前なしじゃ……。」「本当に相変わらず嘘つきだなぁ。もう、あなたの中では彼女の事で精一杯じゃない。彼女には嘘ついちゃダメだよ？」「バレたか。」『もう大丈夫、幸せになってね。今までありがとう。』　美奈は生前いつも抱きしめてくれると頭を撫でて癒してくれていた。お礼を言われた後に美奈が抜け莉奈が戻っていたが離したくなくて強く抱き締めた。　「あ、あのっ！ほ、ほ、星川さん！？」「ん？あ……。ごめん……。」　抱きしめた体を離すと恥ずかしそうにしていた。莉奈に美奈の事を話し病気で亡くなったことや、自分自身の過去の話した。話をしている時は目を見て話を聞いてくれていたが、自分の夢や現実話になると目を逸らし始めた。「まだ俺がここに居ることや話をした事すべてが夢だと思っているんだろ？」「やっぱり……。ありえない事ですから……。」「どう言えば信じて貰えるんだよ？」「ごめんなさい……。」　　眠っている間に今後のことを考えていた。目を覚ましたら彼女を安全で静かで楽しく過ごせる場所で新たな人生を送らせてあげようと思い少しづつ準備を始めていた。信じられないと言うなら強行突破しかない。伺ってばかりだと何も出来ないだろう。　「そうだ来週、ニューヨークに戻るんだ。戻って何すると思う？」「何をするの？レコーディング？」「それもそろそろしないとなぁ〜。待ってる間、曲が結構出来たからなぁ。でも、もう少し後だなぁ。」「じゃあ、何をするの？」「引越しをするんだ。ニューヨークもいいんだけど、ちょっと落ち着かないだろうからな。もう少し自然があって気持ちがゆったりできる所。海や山があって。自然と触れ合える場所。」「そうなんですね。」「『そうなんですね』じゃないよ。その時は連れていくからな！」「ハイ？」「『ハイ？』じゃねぇよ。ここ出たらパスポート作って、身の回りの片付けしてもらう。ま、ビザ作るのにも時間かかったりするから観光に行く程度で用意しておけよ？」「どうして私が？」「どうしても！」　不満そうに首を傾げ信じられないような表情をし完全に嘘だと思われていた。一方的に話を進めることにした。「ほら、体冷えるから布団に入って眠りな。」「あ、はい……。」　じっとこちらを見つめ目が合うと恥ずかしそうに布団を被った。　　目を覚まして1週間が経とうとしていた。ハワイに住んでいる友人が住宅1件が丸々空きになる物件があるという事でそこを買い取り暮らす段取りを始め、電話やメールでやり取りをしていた。「近いうちに挨拶へ行くよ。後は業者との段取りだな。OK！あとはよろしく頼むよ。」　電話をきると莉奈は黙ったまま不安そうに困った顔をしていた。「どうした？家の事なら気にするなよ？」「そ、そうですね。この先どうすれば良いのかまだわからないし、色々としなければならないだろうし……。」「あー。ゆっくり自分のペースで……と言いたい所だけどな。遅かれ早かれ、半年も経てば無理やりでも連れて行くから。」　首を横に振った。　「違うんです……。どんな生活していたのか覚えていなくて、今までの生活環境に戻れるか不安なんです。1人で居ることも怖い。」「怖い？」　（そうだよな……。1人でいるのが怖いって言ってたよな。）　「こっちへおいで。」　莉奈に手を伸ばし抱きしめた。こんなに痩せて小さくなってしまった体……。自分が戻っている間は隙がありすぎる野放しにはしたくない。彼女を安心させれる何かいい方法はないだろうか……。　「どうだ？」「どう……？」「今は落ち着くか？」「うん。星川さんはいつもいい香りがしますね。」「俺の香り？どんな香りがする？」「えっと、甘くてフルーツの様な香りで男らしさのある香りでずっとこの落ち着く香りに包まれていたい。」「この香り好きなの？」「うん。好き。」「（そうだ……！）お守りを渡すよ！次、変な気を起こさない様にいい物を用意しよう。」　「変な気なんて起こしませんよ！」　　カバンの中から小さなアトマイザーを取り出した。　「はい。」「これは？」「この香水は世界に1つしかないんだ。オリジナル香水でどこにも売ってないんだ。俺がいない時につければいい。」「良いの？使うんじゃないんですか？」「向こうに本体おいてるから。」「詰め替えしてるの？」「そうだよ。スポイトで吸ってアトマイザーに入れているんだ。」「結構マメなんですね。」「おおぅ。実はマメな男で綺麗好きなんだ。」　クスッと莉奈は笑う。　「俺を信じろ。お前は1人じゃない。」「ひとりじゃない……。」「家族だ。」「家族……。」　しがみつく様に抱きついていた。　（必ず幸せにする……。）　　退院日になり病院へ向かう前にいつもの花屋へ寄った。「今日はお礼用といつもの花で頼むよ。」「お礼用？」「お世話になったからな。後、二度と入院しないっていう願掛けかな。」　花を買いに行き始めた時に自分もサーフィンをしているという店員と友達になった。3日に1度は立ち寄り海の状況など話をしていた。　「でも、元気になられて本当に良かったですよね。毎日のお勤めご苦労様でした。」「なんで知ってるんだよ。」「こっちに来なくても姿は見えていましたよ！」「バラの効果ありました？」「あの時は振られたんだよ！」「えー！？じゃ、別の方？」「同じだよ。好きなんだから仕方ないよな！色々あってなー。今に至るって訳だ！」「なんだか、運命感じますね。」「運命？ってか、この事誰にも言うなよ！？」「わかっていますよ！」「そうだ！俺、ハワイで暮らすことにしたんだ。その時遊びに来いよ！」「本当ですか！是非招待してくださいよ！」「もちろんだよ！」　相変わらず、サーフィンの話をして時間がすぎていた。「やべっ！迎えに行くんだった！また連絡するよ！」「了解です！」　慌てて病院へ迎えに行くとベッドに座り外を眺めていた。「準備はできた？」「うん。花束……持って来られたんですか？」「お礼をな言いたくてなぁ。あと、二度とこの病院には来ない様に願掛け。この病院には思い出がありすぎるよ。」「うん……。そうだよね。」　　病棟へ花束を持って向かい挨拶をして回った。　「その節は大変お騒がせしました。お体大切にして下さいね。お大事に……。」　　入院している患者の皆さん一人ひとりに花を渡して行き、莉奈は先にナースステーションへ向かい最後の挨拶をしていた。「色々とお世話になりました。しばらくはお会いしないはずなので……。」　割り込んで話に入った。　「いや！二度と来ることはないので最後の挨拶に来ました。」「二度と来ないでくださいね。来られても受け入れ拒否しますからね。」「これ、今までお世話になったので。」　花束を渡した。　「え？いいんですか？こんなにたくさんのお花！」「僕、スターですよ？これぐらいは……。」「あの……。入院したの私ですよね？全部星川さんがしてるのおかしくない？」「そうか？おかしいか？家族だったら当たり前だろ？」「でもぉ……。」　　看護師達は微笑んでいた。　「米田さん。しっかりついて行くんだよ。この人だったらちゃんとあなたのこと守ってくれるはずだから。」「ありがとうございます。考えておきます。」「お前、考えとくってなんだよ〜。なぁ〜。」彼女は嬉しそうに笑うとその場にいる全員が笑っていた。自然と周りを笑顔にし癒される状況を作り出していた。　（本当に天使みたいだな……。）　挨拶を終え、車に荷物を積み込み病院を後にした。部屋の荷物確認をする為に様子を見に行くことにした。どこに住んでいるのかを聞くことを忘れていた。　「所で、お前の住んでる所はどこなんだ？」「ん？あ！このマンションだった！病院から近いこと忘れてた！」「急すぎるだろ〜。俺も場所聞いていなかったのは悪かったけどさぁ。ちょっとだけ迂回するぞ。」「ごめんね。久しぶりすぎて忘れてました。」　マンションに到着し、ポストを確認すると大量のチラシが入っていた。「おぉ〜。エロチラシばっかりじゃん。ひゃーすごいな。お前ここに電話してみろよ。綺麗なお姉さんが……。」「もー！何言ってるんですか！」　一般の賃貸マンションはこんな感じなんだと新鮮さと興味津々になっていた。部屋の前につくと鍵をカバンから出し鍵穴にキーを入れ回した。　「開けるよ？いい？」「お、おう。なんか緊張するな。」「うん。」　扉をゆっくりと開くとほぼ荷物のない生活感のないビジネスホテルの様な部屋だった。　「おー。よかった。汚部屋じゃなくて」「私もそう思った！」「本当にここで住んでいたのかな？他人の部屋みたいでなんだか落ち着かないなぁ。」ベッドにテーブルの上に卓上カレンダー、少しのぬいぐるみ……。こんな殺風景な冷たい部屋にいれば気持ちも前向きにはなれない。どうしてこんなに寂しい部屋なんだ？　「随分寂しい部屋だな。荷物はこれだけなのか？」「ここにあるのは全てこのマンションの備え付けのものなんです。荷物は洋服とか細々したものだけで……。」「そっか。このマンションから撤退しても支障はないな。俺のいるホテルに仮住まいしなよ」　ニューヨークに戻っている間は年会費を払っているホテルに住むように提案をした。　「ダメですよ！ホテル代なんて払えないし、第一仕事もしていないんですから……。それに、ここにいなかった分の家賃も滞納しているし……。」「お金のことは俺が全て払うから心配しなくてもいいよ。勝手にホテルに連れ込んだのが原因なんだマンションの滞納分も気にすることないよ。」「ダメですよ！ちゃんと仕事をしていればこんなことにはならなかったハズなんです！だから……いつまでも夢を見ちゃ行けないんです……。」「本当に……。今でも夢みているのか？こんなことがあっても『いつまでも夢を見てちゃ……』っていつまで言うんだよ？」「……。ごめんなさい。」　何をすれば現実だと思ってくれるのだろう……。いい事も悪い事もすべて夢だと思いたいのだろうか……。　「とにかく、辛い思い出がある部屋に住まわすことできないよ。ホテル代は契約しているから大丈夫なんだ。ライブがある時いつも同じホテルに泊まっているしさ。空き室状態じゃもったいないからな。」「でも！」「明日からニューヨーク帰るし。」「え？明日……戻るんですか？」「ああ。言ってなかったっけ？」「うん。いつ帰ってくるんですか？」「予定では３ヶ月後。お前が寂しいって行ったらすぐに帰る。」「3ヶ月……そ、そんなわがまま言わないです。」「言っていいんだぞ？」「言わないです！」「なんだよ寂しいなぁ〜。しばらくいないから、ホテルでのんびり過ごせば良いよ。今から解約手続きをしに行こう。細々した荷物は後で運んでいこう。」「……。本当にいいんですか？私なんか……じゃま……」「本当ならすぐにでも一緒にニューヨークへ連れて行きたい所だけどな。パスポートが無いからな……」「……。」「とにかく、このマンションから出よう。」「はい……。」　　契約書を探して一緒に不動産屋へ行き解約手続きをし、今月中の契約となりこの日からホテルで住むことになった。　パスポート申請も一緒にと思ったが体力的な事を考慮し後日向かうことにした。　ニューヨークにいる間ホテルでひとりになるが大丈夫だろうか……。ホテルに連絡して、ボディガードを数人つけよう。だが、莉奈の職場や周りの事を知らなかった。身の回りの事調べて行く必要があるな。１週間様子をみるか……。　
06Sep
- ～番外編～和海ストーリー⑫
  　奇跡的に一命を取り留め、その日はライブ会場へ急いで戻り何事も無いよう舞台向かい公演を続行した。「かーくんどうしたの？様子おかしかったけど大丈夫？」「おかしかった？」「無言で帰ってきて、冗談も言わず舞台に向かって行くとか……。みんなびっくりだよ。もしかして莉奈ちゃん何かあったの？」「莉奈……。意識が急変して入院したんだ。」「えっ！」「一時は危篤状態になってさ……。」「ええー！今は……大丈夫なの？」「ああ。でも……。もう目を覚まさないかもしれない。」「そんな……。植物人間……に？」「いつかは目を覚ましてくれることを信じるよ。その時まで日本で暮らそうと思ってる。ずっとそばにいてあげたいんだ。いいかな？」「仕方ないよね。了解。スケジュールはどうしようか？テレビとか出演する？」「頼むよ。時々、あの子の事も頼んでいいか？」「任せといて！」　ライブが終わった翌日から病院通いをする事にし、毎日様子を見ていた。彼女にどんな辛い事が今まであったのだろう。眠りながら毎日の様に泣いていた。「まー……ちゃん……。」「ん？目が覚めたか？」　寝言だった。以前も同じ名前を呼んで泣いていた。眠っている彼女に伝わるかはわからないが3日に1度、同じフロアの患者さんの所に花を配ったり、作詞をしながら病院の中遠慮してアカペラで歌っていた。　3ヶ月程経過しても彼女は目を覚ますことは無かった。「今日は何歌って欲しい？バラードばっかりじゃ飽きちゃうよな！今日はさ、ギター持ってきたんだぞぉー！たまにはロックな曲も歌ってやるからな！」　機嫌よく弾いて歌っていると……。「星川さん！何しているんですか！ここは病院ですよ！ギターまで持って来て！」　検診で来た看護師に叱られた。「怒られたじゃないかー。お前が目を覚まさないからさぁー！お前今笑ったな？絶対笑ったろ！」　彼女に声が聞こえたのか見間違えかも知れないが笑った様に見えた。いつもの看護師の検診が始まり終わると彼女の元へ戻った。「今作ってる途中の曲なんだけどさ……。」　手を握りまだ未完成の曲だけれど彼女の為に想いを込めて作った曲を聞かせた。『幾つもの　この季節がモノクロに　染められて　逢いたくて　君に逢いたくてこの歌を抱きしめる　奇跡はいつも偶然に　結ばれ行く　どんな色の　未来になろうとも　ふたりで　乗り越えよう　All for you　君に届け　今　君のもとへ　All for you　All for you　君のための　僕になりたいんだ　永遠（とわ）に　All for you…』「なぁ。早く目を覚ましてくれよ。お前と話がしたい、声が聞きたい、抱きしめたいんだ。目を覚ましたら……永遠に君を守る。約束する。だからもう一度笑ってくれよ。」　　一瞬手が動き握り返された気がした。「ん……。」「ん……？」　彼女の眉間にシワが入り少しづつ目を開き始めた。「ん？目が覚めたか？気分はどうだ？」「……？」　　髪を撫で頬に触れると光が眩しそうな顔をし、甘えるように頬ずりを微かにしていた。　「ん……。」「ずっと眠ってたもんな。」　大きく息を吸い込むと眩しそうに目を合わせた。　「誰……？あの……。ここは……？」「病院だよ。」「……病院？何が……あったんですか？」　はっきりしたことは後々話そう。　「少しだけ旅に出ていたみたいだよ。」「旅……？」「なかなか帰って来なくてな。」「旅……ですか？」　嬉しさのあまりにナースコールを入れ忘れていた。「ちょっと！米田さん目が覚めたのね！って星川さん！どうしてナースコールで伝えないんですか！」　たまたま通りかかった担当の看護師が慌てて中へ入ってきて担当医に連絡をしていた。　「あ〜！悪い！嬉しく忘れてたよ！異変があったらナースコールしろって言ってたね？」　看護師にまた叱られていると微かに微笑んだ。「本当に良かったなぁ！早く元気になって彼氏に合わないとな！」（そうだよ。彼女には彼氏がいるんだよ。早く元気になって……。）　「彼氏……？」「どうした？彼に……会えるんだろ？」　戸惑った様子を見せた。　「……彼の事が思い出せないんです。」「本気で言ってるのか？」「……はい。」「一時的に記憶がなくなっているだけだろ。きっとそうだよ。」「だと良いんですけど……。」　できることなら……。そのまま忘れてしまえば良いと思った。　医師が病室に入ってきた。　「目が覚めて本当に良かったですね。容態も良好で本当に良かった。こんな奇跡が二度も起こるなんて考えられないことだけど。昔から精神的な負担がかかりすぎている事から安心して過ごすことの出来る環境をさせてあげてくださいと付き添いされた方に一度お話した筈なのですがね……。薬や精神的な負担はかけないようにと……。それなのに覚醒剤を使用していたなんて……。」　（以前から忠告されていたのか！？）　「……覚醒剤？」「あなたの体に多数の内出血が見られました。検査の結果陰性でしたが星川さんはアザのことはお気づきでしたね？」「はい。ホテルで……薬を抜いていました。」「それで反応が出なかった……。」「はい……。」「米田さんは薬が切れかかると誰かが打ち、その繰り返しを過剰にされ続けていた……。」「これは覚醒剤犯罪行為ですので警察に……。」　この事は表沙汰にはなって欲しくなかった。　「彼女は何も悪くはありません！まだ夢や未来があるんです。ここで潰してしまうともう、本当に生きては行けなくなります。人間誰にでも誤った行為や間違えることもあります。再び息を吹き返した彼女にもう一度チャンスを与えてください。もう二度と僕がいる限りこのようなことをさせることはしません。警察には……。」　医師は悩み彼女を見つめため息をつき何かを決めたようにこちらを向いた。　「仕方ない、分かりました。今回反応が見かけられなかったので、急性心筋障害という事に……。けれど米田さんの生活環境を変えなければ再び同じことを繰り返す可能性は大いにありますよ。生活環境を変えることは可能ですか？」　彼女を全てから守りたい。　「僕が何とかします。彼女にとっていい環境作りをします。」「あの……私なら大丈夫です。今のままで生活もしていけますし薬物に手を出さなければ……。うん。大丈夫……。」　（何を言ってるんだ！？）　「出来なかったからここにいて、危ない橋を渡ってしまったんだろ？心身共ボロボロになって人一倍苦しんで、悲しんで我慢して、それでも人には笑顔を見せなきゃ行けないって小さな頃からずっとしてきたんだろ！色んな人が君の笑顔みて力を貰って幸せな気持ちになっているはずだぞ。それを独占しようとするものもたくさんいたはずだ。もう、十分頑張って来たんだ。好きなことして自分の為に笑うんだ。」　思わず肩を握り締め、彼女の行なった行為に関して思わず怒鳴ってしまった……。「……ごめんなさい。でも……。」「『でも』じゃねーよ。いいんだ。」　　彼女の頭を撫で言い聞かせるようになだめた。　「そういえば米田さんの御家族の方と連絡は付けられないのかな？こんな事態になっているのに。」　（莉奈の家族……。）「私の家族……？すみません……。覚えていないんです。」「あ、目が覚めてすぐだから仕方ないか。ゆっくり思い出せば良いよ。」「両親の事は思い出せませんが、決して誰にも甘えることはしない1人で生きて行くと決めていた気がします。」　1人で生きていく？誰にも甘える事をしない？幸せだから笑ってたんじゃないのか？それなら……。　「じゃー、お前の家族になるよ。」「ハッ！？」「お前の笑顔を絶やさないように一生幸せしてみせる。」　彼女と医師は驚き目を丸くしていた。　「ハッ！？な、何いってるんですか！？あなたは芸能人ですよ！？あな、貴方は私となんの接点もない……。それに私とは何も関係がないじゃないですか！」「職業は芸能人だけど、仕事から離れれば一般人だ。」「そうですけど……。やっぱりオーラが他の人とは違うし……。」「君がそう見てるからだろ？公園で見かけた時は何も思わなかっただろ？」「そうですけど……。」「接点だってさ、人間誰がどこで会うとかわからないよ。たまたま気分を落ち着かせる為に公園へ行って歌ってたら君がいて泣いてた。事務所に戻ろうとしたら男に襲われかけていたよな？逃げて事務所に着いてようやく俺の事がわかったんだよな？どこでどうなるかわからないし、君の昔の事は知らない。だけど……。これからなんとかしてあげたいって思うのはおかしいことか？」　　医師は隣で笑い始めた。　「星くん変わったね。もういい？堅苦しい言葉使い。僕さ、星川くんのサーフィン仲間なんだよ。まさかの発言にびっくりしちゃったよ！」　医師というのは職業で俺たちはサーフィンで知り合った友人だった。極力院内では身分がバレない様に接していた。　「はぁ……。」「君がドリンクを飲ませてくれていたあの時、星くんの担当医していたんだよ。熱中症になっていてねスタッフさんが用意してくれていた物を一切飲まなかったんだ。フラフラになって救急で運ばれてきたのにステージに立つって聞かなくてさ。ものすごくあの時尖っていて大変だったんだ。水分取らないとって渡していたんだけど拒否されていてさ。君は強制的に飲ませてくれたんでしょ？」　その話をしないでくれよ！あの時は死んでしまえば美奈の元へ行けると思ったんだ。　「お願いされたから、買いに行ったんです。」　その場から離れて欲しかっただけなんだ。それなのに……。　「あれさ、弱いところを見せたくなくて来ないで欲しかったんだ。それなのに、何本も俺なんかのために持ってきてさ。しかも勝手に無理やり飲ませられてさ。」「あれはドリンクを持つ力がないんだと思って……。」　あの時は余計な事をして欲しくなかった。けれど手を触れられた時に何かが変わった。　「手を添えて子供に飲ませる様に飲ませてくれたんだんだよね。あの時のかーくんにはちょうど良かったんだよ。ずっと尖っていた心に優しく手を添えて笑顔で自分を包み込んでくれた事が彼を変えたんだ。周りにあんな態度をとっていたけど、君は忠告をしてくれた。コイツ笑ってたんだよ。」　この事実は話さないで欲しかったが……。　「調子を狂わされたからな！怒ってんのか、怒ってないのかどっちなんだ！？と思ってさ。そんな感じの女の子と出会った事もないしさ。」「ただあの時は1人のファンとして言っただけなので……。」「嬉しかったよ。」　彼女は恥ずかしそうに俯いた。　「それでも……。おかしいですよ。一生幸せにするとか……。それに、彼氏がいるんですよ？」「彼氏がいてもお前の家族になる。」「家族……？」「家族はどんなことがあっても繋がっている。戻って来るところはここだからいつでも帰って来ればいい。」「家族と言われても……。血の繋がりもないし……。おかしいです……。」「血の繋がりがなくても家族になれる。誰にでも帰る場所は必要だろ？君がこうなってしまったのも、少しだけ関与している気がするしな。」「それに……。」「それに？」「いや、なんでもない！」　なんなんだろう……。彼女のことほとんど知らないのに、ただのファンの1人に過ぎなかっただけなのに、これ以上関わってはいけないと思うのに……気になって仕方がなかった。何より、結婚をしたいと言うよりも先にどんな形であっても家族になってあげたいと思うようになっていた。どんなことが起ころうとも彼女を受け入れてあげたかった。彼女の……憧れの人でスターでありたかった……。『無理しちゃって！好きで好きで仕方ないクセに！』　頭の中で話しかけられた。見透かされているようで恥ずかしかった。　「バカ！何言ってんだよ！」「あ……ごめんなさい！」「え？」「え？私怒られたんじゃ……ないんですか？」「いや、君に怒った訳じゃないよ。じ、自分自身をさ、お、怒ってたんだ。君だって迷惑だよな。彼氏でもない俺が君のこと幸せにしたいなんてさ……。バカだよなー。俺って。」「あの……。すごく……嬉しいです……。そんなこと言って貰えるなんて……。罰が当たります……。ありがとうございます。」　何とか誤魔化すことは出来た。少しは慣れてきたが、謎のあの声にはいつまで経ってもなれない。「覚せい剤の禁断症状も完全に無くなってこうして目を覚ます事ができて本当に良かった。あとは自力で食欲と体力を戻さないとね。家族にも協力してもらわないとね！」　医師は肩を叩き、指差しをされた。「任しときな！たくさんいい物食べさせてやるからな！もちろん！運動もして……！」「やだ！」「やだ！ってなんだよ。食ってばっかりじゃ脂肪の塊になるぞ！？」「それもやだー！」　まだ顔色は良くないが笑っているとやっぱり天使のようだった。この笑顔をずっと守りたい。　　
- ～番外編～和海ストーリー⑪
  　しばらくの間付きっきりで過ごしていた。寝室のソファーで様子を見ながら離れて眠っていたが抱いて眠ると突然目を覚まし暴れる様な事が無いことに気がついた。　　十分な睡眠をさせ、目を覚ませば水分補給とフルーツを食べさせ、アルカリ性の風呂にも浸からせていた。その度に何度も要求をされ疲れが溜まって来ていた。ライブ期間は車椅子を借り共に行動をしていた。3日程経過すると容態は少しずつ安定し始めた。目を離すと放心状態で暴走することもあったが食事を取るようにもなり、無意識ながらも自分でトイレにも行くようになっていた。　いつものように抱きしめて眠っている時だった。ゴソゴソと胸元で動き始めた。　（また禁断症状始まったか……？）枕に顔を埋めるような仕草でこっちを向いた。「ん？まーちゃん？」　（言葉を話した！？）「誰だよ。まーちゃんって。俺、かーくん。」　（良かった……。峠を越した様だな。）「かーくん……？かーく……ん！？」（ずっと一緒に居たけれど、目が覚めて目の前に俺がいると驚いても当然だよな。）「ア、ヤ、アノ、ソノ……。」「声出てねーぞ？あっ、なにもしてないからな。何しても起きないからさ、このまま食っちまおうかと思ったけど。」　（お茶持ってくるか）　　いつもの様に紙のコップでお茶を入れ持って行った。何度か持って行ってもそのままいらないとか言われて叩かれていたからなぁ。　「飲めよ。」「あ……。ありがとうございます……。」　　今回はしっかり受け取って1度で飲み干した。「もう少し飲むか？」「ありがとうございます。これだけで大丈夫です。」　　（ちゃんと喋った！）　「そっか。なんかあの時の逆みたいだなぁ。朝食は食べられそう？」「少しなら……。」　（いや、結構食べてたぞ？）　「朝食を食べに行こうか。無理ならここで食べるけど……。」　誘ってはみたけれど大丈夫だろうか？　「あ、行きます！」「じゃ行くか！たまには外の空気も吸わないとなー。」　服を着替えていると視線を感じた。　「おい！何じっとみてんだぁ。エッチだなぁ。早く準備しろよォ。」「あ！は、はい！」（いつも俺の服剥ぎ取って見てるクセに……覚えていないか。）「ひゃっ！」　　ベッドから落ちる音が聞こえた。　「お、おい！大丈夫か？」「だ、大丈夫です！ちょっとバランス崩しただけ……んッ！」　　トイレに駆け込み便座を前にしゃがみこみ嘔吐していた。　（もう少しだからな……。頑張れよ。）「大丈夫か？立てる？」「無理みたいです。お願いします……。」「よし。首に腕をかけて。」「今回はちゃんと助けを求めたな。偉いぞ。」「あっ。あの……。ありがとうございます。」「困ったときは、いつでも助けてやるからな。でも、それは彼氏がやってくれるよな。彼氏いない時、いつでも言えよ？」「ありがとうございます。」「やっぱりルームサービスにしような。」　　フロントへ電話をしていると虚ろな目をし始め近ずいてきた。この目この感じは……！　（話し中は身動き取れないからやめてくれ〜！）　　案の定、襲われていた。相手を刺激させる様変な躾をされていたのか体中をまさぐられる。慣れてきたとはいえ、話し中は結構きつい。「おーい！大丈夫かー！何やってるんだよ。くすぐったいな！」　声が届くかどうかわからないが受話器を置き話しかけてみると動きが止まった。　「ええっ！わぁーっ！いつの間にこんなに近くに来てたの！？ごめんなさい！ごめんなさい！」　恥ずかしそうに体から離れ何度も謝っていた。まだ体内に少し残っている感じがあるが以前に比べると明らかに抜けているように思えた。　「襲おうとしたでしょ？エッチだなぁ。ダメだよ〜。そんな軽い男じゃないんだからさぁ〜。俺はいいけどほかの人にこんなことしてたら本当に襲われるよ？それにしても……良かった。目に光が戻ってきている。」「目に光？どういう事ですか？」「いやっ！気にしなくて良いよ。」「教えてください！一体何があったんですか？」服にしがみつき真っ直ぐ視線を合わせていた。「もう少し治ってから話をちゃんとするよ。今まではこうしてろくに話も出来ないぐらいだったからな。」「恥ずかしい……。」「もう少しだ。頑張れ！」「頑張れ？」　部屋のチャイムが鳴りドアを開けるとルームサービスで朝食を持ってきてくれた。「中までお持ちします。」「いや！いいよ。ここで。食べ終わったら出しておくよ。」「ごゆっくりお召し上がりください。」　カットフルーツをいつもの様に多めに注文し中へ持って入ると目を輝かせていた。「よし！食べよう！」「うん。」　フォークで桃を刺し口に含むと嬉しそうに微笑みを浮かべ次から次へと頬張っていた。意識のない時にフルーツを食べさせ続けた甲斐があったみたいだ。　（目を覚ましたら更に食欲が増してるんだな。俺の分まで食べてる。）「ごめんなさい……。やっぱりあまり食欲が……。」　お皿を見ると、フルーツは全て食べ尽くし、残っているのはパンだけだった。　「か、構わないよ。す、少しずつ食べればいいよ。」（食欲無いね……。どこがだよ！フルーツは全部食べてるじゃないか！まぁいい……か。さっぱりと甘い物がいいんだな？）　「他のものはまた後で食べような。」「うん……。ごめんね……。」　　ペットボトルに飲み物を移し、パンを袋へいれた。「今日ライブがあるんだけど支度は自分でできるか？」「え？私も……行くんですか？」「いつも連れて行ってるけど？」「はい？いつも？ってどういう……事ですか？」「ん？ずっと一緒にいたんだぞ？」「はい？ライブ……ですよね？」「ライブだぞ。」「行かないです……。なんだか、ご迷惑おかけしていたみたいですみません。」　申し訳なさそうに俯く。　「まだ、お前1人には出来ないよ。今日やっと話できるようになったんだぞ？」「だ、大丈夫ですよ。」「じゃぁ少しの時間、ひとりになっても大丈夫かな？」「大丈夫ですって！」「絶対、外に出ちゃダメだからな？」「どうして……ですか？」「まだ抜けきれていないからだよ。」「抜けきれていない……？」「10時には行くから……。でもなぁ。やっぱり一緒に行こう。」「大丈夫ですって！私こんなに元気なんですよ？」「いや……。元気になっても油断は出来ないんだぞ！？」「心配症だなぁ。こんな足でまといになる人間連れて行っちゃダメですよ！ね？」「足でまといなんて思った事1度もないよ。」「私の事信じてください！」「わかった。じゃあ、できるだけ早く戻るよ。絶対部屋から出るなよ？」「わかりました！もう！」　　　とりあえず……。ワンステージ終わったら戻るつもりで行く準備を進めた。彼女も帰る支度をしようとしていた。「何を探しているんだ？」「私の荷物どこ……？だけど、どうしてここに……？え？」「しばらくここにいなよ。」「でも……。」「帰っても1人でしょ？具合が悪いときは1人でいない方がいい。」「でも……。どうして星川さんの所に？私は何をしてたいの？」「あー！また、帰ったらゆっくり話するよ！絶対出るんじゃないぞ！？できるだけ早く帰るから！」「はい……。」　心配ではあったが、ほんの数時間なら大丈夫だろうと思いホテルを出てライブ会場へ向かった。「あれ？今日、莉奈ちゃんは連れて来なかったの？」「意識が戻ってさ、自分が足でまといになるから行かないって聞かないんだよ。」「でも、目を離して大丈夫？連れて来た方が良かったんじゃない？今日意識が戻ったんでしょ？」「そうなんだよな。気になるから1部終わったら一旦戻るよ。」「そうだよ！その方が良いよ。ずっと見てた僕達も心配だよ。」　会場にいる限り不安で仕方が無かった。電話しようにも電源を切ってスマホは隠しているし……。あの子には今のところ凶器にしかならない。　ライブが始まったが気がかりで集中力が無くなっていた。『安心して。今のところテレビ見てのんびりしているから』　（そうか……。良かった。）　完全に抜け切るまでどの位かかるのだろうか……。接種頻度や量にもよるだろうけど……。　（……？また出てきたな。まぁいいか……。）　教えてくれたおかげで１回目のライブが終了した。休憩の合間にホテルへ一旦戻ることにした。　会場からホテルまで戻っている最中、前が騒々しくなっていた。「いやぁ！来ないで！来ないでよ！」「お、お客様！」　女性の声で何かから逃げようとしているようだった。　　「ん？なんだ？」　走って逃げているのは彼女だった。　（なんでここにいるんだ！）急いで止めようと走り始めると赤信号を渡ろうとしていた。「莉奈！あぶない！」　手を捕まえ引っ張り抱きしめた。　「大丈夫か？やっぱり連れて行けば良かった！ゴメンなゴメン……。戻ろうな……。」「おかえりなさい……。」　　そのまま安心し気を失い眠った。　莉奈を抱きかかえホテルへ戻ろうとすると後を追いかけていたホテルエが声をかけてきた。「星川様……申し訳ございません……。あまりにも危険だったのでお止めしたのですが……なにかに脅えて逃げ出してしまいまして……。大変申し訳ございませんでした！」「こちらこそ、ごめんね。迷惑かけたみたいで……。注意して見てくれてありがとう。」　心配そうに後を歩きホテルエは深々と頭を下げエレベーターに入り閉まるまで頭を下げて見送っていた。部屋へ戻ると、色々と物が投げられ花瓶も割れて散乱していた。「かなり今回も相当苦しんでいたみたいだな。」　莉奈の顔を覗き込むと、また泣いていた。「どれだけ辛い思いしてきてるんだよ。大丈夫だとか強がり言って全然大丈夫じゃないだろ？」　ベッドへ運び布団をかけ髪を撫でると安らかな表情を見せ始めた。「お前の力になりたいんだ。もっと素直になれよ。」　手を握りしばらくの間、顔を見ていた。「よく寝てるな。マネージャーに連絡して数時間誰かに様子を見ておいて貰うか。」　そっと手を離し、立ち上がり部屋を出ようとした時に急に苦しみ出した。「……！おい！大丈夫か！」「苦しい……！苦しいよ……！息が……！苦し……たす……」　今までなかった苦しみ方だった。自分では対処ができない苦しみ方でフロントに頼み救急車を呼んだ。「おい！莉奈！今、救急車呼んだからな！しっかりしろ！」　　痙攣を起こし呼吸が徐々に弱くなり始めていた。10分程するとチャイムがなり開けていたドアから入り彼女の元へと行き病状を見ると心臓マッサージを始めた。　タンカーに乗せられマッサージを繰り返し、車内へ入り再び繰り返すが心停止したまま病院へ運ばれた。　病院へ入っても心臓マッサージを繰り返したが息が戻ることはなかった。「……。」　　医師は心臓マッサージを止め首を横に振った。　「莉奈！うそだろ？なんでだよ！起きろ！お前の人生これからなんだぞ？あのデカイぬいぐるみ飾りたいんだろ？まだ夢を叶えていないんだろ？」　莉奈の冷たくなっていく体を必死に温めていた。「莉奈……。永遠にお前を守る。もう一度笑ってくれよ……。」　最後に別れのキスをし再び顔を見ると、莉奈から涙がこぼれ落ち大きな呼吸をし、ベッドサイドモニターを外そうと作業をしていた看護師は脈拍が動き始めた事に気がついた。　「先生、バイタルが動き始めました！」「え！？すぐに人工呼吸器を付けて！」　　医師、看護師は慌ただしく動き始めた。「星川さん！奇跡ですよ！白雪姫みたいだわ！」「キセキ……。」「ほら！王子様！手を握っていてあげて！」　手を握ると、血液が通い暖かくなって来ていた。「おかえり……。」　医師の懸命の努力により、通常の数値に戻った。　「星川さん、なんとか息を吹き返しましたが油断は出来ません。心停止して30分以上が過ぎています。蘇生後脳症が起きる可能性が非常に高く、生存する可能性は30%以下で、社会復帰できた事例は10%以下とされています。かなり厳しい予後であることを覚えておいてください。人によって違う事もあります。彼女はまだ若いので症状が良くなることも考えられます。決して諦めないでください。」　　返す言葉を失った。　　
12Aug
- ～番外編～〘和海ストーリー〙 ⑩
  　ライブ最中は目を覚ますことなく眠り続けていた。　ホテルへ戻りベッドへ寝かせると目を覚まし体を起し、抱きつき甘え始めた。　「どうした？具合良くなったか？」「……。」　Tシャツの中に手をいれ背中を触れ胸板を触り身体にキスをし服を脱がされた。　「ん？なんだ？なんだ？ど、どうした？」　抱きついてくるとベッドに押し倒し上へ跨り、自分の服を脱ぎ上半身裸になると体は複数のアザがついていた。「お、おい！どうしたんだよ！？」「ねぇ。アレ頂戴？今直ぐ欲しいの。ねぇ。」「アレ？ってなんだ？」　（どうしたんだよ。この無数のアザは。）　「早く頂戴……。今日は何をすればいいの？なんでもするから早く頂戴……。ねぇ……。」　首筋を甘噛みをされ上半身を触れ続けていた。何かされて、暴行されてきたのだろうか欲しがっているものがわからない。このままでは自分自身の歯止めが効かなくなりそうになっていた。　「おい！待て！待て！待て！」「早くあれが欲しいの！お願い早く頂戴！なんでもするから……。苦しいの……。早く。」　　必死に何かをねだり背中に爪を立てられ苦しみもがき泣いていた。　（アレってなんだよ！？どうすれば良いんだよ。そうだ！）　「ちょっとまってろ？今とってくるからな！」「早く……。」　キッチンへ向かいキャンディーボックスを開き飴を取り出した。「持ってきたぞ！目を閉じて、口を開いて！」　　言われた通りに目を閉じ口を開く。口に入れたものは棒付きのキャンディだった。「ん……甘い……。」「生憎、そういうのしか持っていないからな。口寂しい時はこれに限るよな！」「美味しい……。美味しい……。甘くて美味しいね……。」　泣きながらキャンディを舐めていると落ち着き始めた。　「風邪引くから服着ような。」「うん……。」　パジャマに着替えさせると子供のように飴を舐めていたが瞳には光が無かった。（さっきの身体中のアザ……。あの大男に？）　ドアのノック音が聞こえた。入り口へ向かいドアを開くと連絡を入れて呼んでいた晶が急いで来てくれた。「悪いな。こんな時間に。」　　晶は部屋の臭いが気になった様だった。　「星くん、この臭い！やってないよね！？」「臭い？タバコ？まだ残ってるか？ハウスクリーニングしてもらったんだけどなぁ。」「違うよ！大麻なんてやっていないよね？」「大麻？そんな臭いするか？」「ちょっと星くん匂わせて？」「あれ？いつもの香水の臭いしかしない。おかしいな？」「『おかしいな』って、なんだよ。」　　部屋の中に入ると更にきつくなっていた様だった。「星くん！？本当に吸ってないよね！？」「あー。もしかしたら。」　ベットルームへ向かうと飴を咥えたまま眠ってしまっていた。「ちょ！え？女の子？」「ああ。」「あ……匂い！こんなヤバい子をお持ち帰りでもしたの？」「ちょっとお前に見てもらいたいんだ。」　上に着ているパジャマを脱がせてあきらにみせる。「ほ、星くん？脱がせちゃって……。良いの？」「良いから。見てくれ。」　体のあらゆる場所に紫斑ができていた。　「これ、打撲か？」「星くん、こんな子どこで……。」「俺の知り合いなんだよ。以前、助けてくれた子なんだ。」「知り合いがどうしてこんな姿に！？」「このアザは殴られてできたものじゃ無いよな？」「そうだね。薬を打っていた後だね。自分で打ったものじゃない。誰かに打たれていた感じ。」「やっぱりそうなんだな。」「気がついていたの？」「太ももにもアザがあったんだ。」「大麻に覚醒剤って、もう精神おかしくなってるに違いないよ？警察に行って病院で……。」「それはしたく無いんだ。」「だけど……。どうしてここまで自分を追い詰めてしまったの？彼女の近くにそういった人が近くにいない限り覚醒剤なんて簡単に手に入らないよ？けれど、これだけ使用頻度が高いと言うことは簡単に手に入れることができる人物と言うことだね。」　　晶はグループ解散後、覚醒剤を常用し逮捕されたことがあったりしたが今現在は一般女性と結婚をし個人事務所を立ち上げ芸能界に戻り活動を復帰していた。過去に使用した経験ですぐに詳細をわかってくれた。　「少し前も過去に何かがあるとは思っていたけど、いつも笑顔でいるのに少し目を離すと悲しい表情するんだ。もっと自分のこと大切にして楽しめば良いのに……。周りの迷惑ばかり気にして苦しんでさ。」「誰かみたいだね。キツイ時でもいつも笑っていて、僕たちのことばかり考えていてさ。自分はどうなんだってずっと思っていたよ。」「そんな感じだったか？」「そんな感じだよ。思い通りにならないとメイク道具散らかしたり、行方不明になったり。あれはあれで困りものだったけどね。」「うるさいよ！そういえば。俺の事を憧れていたとか言ってたな……。まさか、俺の影響を受けて？」「テレビの前だけいい顔してた時が？そうなら悪影響を与えていたねぇ。どっち転んでも悪影響だけど。」「お前ね？黒歴史を思い出させるんじゃないよ。」　「ん……。寒い……。」「あ！脱がせたままだった。ごめんな。」　脱がせたパジャマを着せ、布団をかけた。　「もしかしたらだけど、彼女に惚れてたりする？」「どうだろうな……。この子のこと放って置くことができないんだよなぁ。」「良いんじゃないの？惚れちゃってるなら。何がどうなって今こんな状態になったのか分からないけど。」「落ち着いたら話すよ。空気の入れ替えするか。」　カーテンを開き窓を開け匂いのこもった部屋を換気していた。「換気するのは良いけどさ、薬を抜く方法はないのか？」「あるけど本当に効果が出るかわからないよ？」「どんな感じなんだ？」「副交感神経を動かすために内臓を動かせば良いんだ。あと体もリラックスさせてあげると良いよ。緑茶を飲ませてあげて。睡眠も沢山させること。とにかく不安がらせさせないようにする。飴は中々の効果あったと思うよ。糖分は安定剤みたいな物だし、薬をすると食欲も落ちてしまうんだ。飴を舐めながら眠ってる。ある意味荒技だね！」「さっき、ちょっと襲われてさ。アレをくれってさ。アレがわからなくてタバコの代わりに咥えてたのを咥えさせたんだ。でも、これから先どうすれば良いんだ？今、廃人に近い状態なんだよな。人物の把握ができていないんだ。」　「今ってライブ期間中でしょ？やっぱり病院に預けたほうが良いと思うけど。」　「それは避けたい……。彼女も一緒に連れて行くよ。不安がらすことは良くないんだろ？目を開けた時いないと不安だろ？また症状が出たら飴を咥えさせておくよ。こんなに痩せちまってさぁ。太らせてやるからな。」「さすが星くんだね。そうだ！お風呂も効果あるんだよ。アルカリ性の湯船に２時間浸かって。」「この症状あるのに？風呂？」「一緒に入ってあげないとね。」「いや、お前それはまずいだろ！俺たちまだそんな関係じゃないし……。」「今の所介護が必要でしょ？お風呂も入れてあげないと。女の子だよ？」「病院だったらしてくれるけど？」「わかったよ！ちょっと恥ずかしいけどさぁ。」「頑張ってね。」　目が覚めたのかリビングにやってきた。「お！目が覚めたのか？どうした？」「喉が渇いたの。」「水を飲むか？」「星くんお茶はないの？」「ないんだよ。僕買ってくるよ。」「悪いな。とりあえず、水でいいな？」「そうだね。」　冷蔵庫からペットボトルの水を出し飲ませると一気に飲み干した。「まだ飲むか？」「ううん。いらない。」「トイレは？」「行かない。」「じゃあ、ベッドに戻るか。」「戻らない。」「どうしたい？」「ここにいたい。」「ソファーに座るのか？」「うん。そばにいてギュッとして。」「ギュ、ギュッとして！？」「じゃ、僕はお茶買ってくるよ！ギュッと抱きしめてあげなきゃね！」「お、おう。た、頼むよ。」　莉奈を見ると瞳に光はなく無表情で手を差し出し抱きしめた。　「温かい……ね。」「温かいか？良かった。」「ずっとそばにいて……。」「ああ。そばにいるよ。」　　虚な目をし、遠くを見つめながら微かに微笑み抱きついて泣いていた。しばらくすると寝息をたて眠りにつきベッドへ寝かせると晶が戻ってきた。「とりあえず１ケース買っておいたよ。」「ああ、ありがとう。1000円あればいいか？」「いいよ。代金は。僕からのお見舞い。彼女は眠ったの？」「さっきな。」　晶は眠っているのを見ながらため息をついた。「星くん……。これから先が大変だよ？」「大変？」「今は落ち着いているけど、薬がきれ始めるとどんな行動を起こすかわからない。薬の副作用が無くなるまで目を離さず絶対外出しない様にしなきゃいけないよ。覚悟してね。」「そうだな……。」「本来なら病院へ連れて行かなきゃならないんだけど……。連れて行けば警察も来る。」「それは避けたい。」「僕も出来る限り手伝うよ。」「何言ってるんだよ。お前だって忙しいだろ？何かあったらまた連絡するよ。」「頑張ってね」「ありがとうな。」　晶を玄関まで見送りリビングに戻った。　ベッドルームを見ると落ち着いて寝ている様だった。「少し寝るか……。」　ソファーをベッド代わりにし眠ろうとし、うたた寝をしているとベットルームから物音が聞こえた。ドアを開けると枕が顔に飛んできた。「あっちいってよ！来ないで！嫌だって言ってるでしょ！まーちゃんなんで嘘つくのよ！離して！来ないで！」　枕を再び投げつけ、ライトを倒し、電話を引きちぎり投げつけていた。「来ないで……！嫌だ……！いやー！」　彼女は薬が切れ錯乱状態になっていた。「大丈夫！大丈夫だぞ！」　彼女の動きを止めようと行くと逃げられる。「来ないでよ……！来ないで！嫌だ！」　近寄ろうとすると、投げるものを探すが自分の周りには何も無く逃げ惑う。「莉奈……ちゃん？」「嫌だよ……。怖い……。あっちに行って……。」　その場で頭を抱え込み怯えしゃがみ込んだ。どうすれば良いのか分からず怯えている姿のまましばらくの間様子を見ていると、寝息をたてて眠っていた。　（眠ったのか？）　眠った状態で抱きかかえ、ベッドに連れていき眠らせた。この先どうして行こうか考えていた。また目を覚ませば暴れるのだろう。壊れそうな物は全て別の部屋に移動し、柔らかいクッション等をそばへ置くようにした。（そうだ。あのぬいぐるみもそばに置いておこう。）　朝になり目を覚まし、彼女の様子を見に行くとまだ眠っている様だった。　（朝食を食べさせないとな。）　フロントへ電話をかけモーニングを持って来て貰った。　暖かいコーヒーにパン、フルーツ等。　ベッドルームへ入り起こす事にした。夜中の錯乱状態から通常時はどうなんだろう……。　「莉奈ちゃん？起きて。朝ごはんだよ。」　反応が無くもう一度呼んでみた。「莉奈ちゃん？起きて暖かいコーヒー飲もう？」「……ん？コーヒー？」「うん。」「……いらない」「元気になるよ？」「……何もいらない……。」　今度はフルーツを用意し無理やりでも食べさせようと思った。　「莉奈ちゃん？フルーツ食べる？」「……いらない……。」「いちごとぶどうどっちがいい？」「……いちご……」「はい。あーんして。」「あーん……。」　まだ頭の中は眠っているのだろう。「美味しい……。冷たくて美味しい……。」「まだ食べる？」「いらない……。」「はい。あーんして。」「あーん。」　（美味そうに食ってる……。）　『いらない』と言いながらしっかり食べていた。この分だと何とかなりそうだと思っていた。「ねぇ……。頂戴……？」「ん？次は何食べる？グレープフルーツでも食べるか？」「ううん……。いらない……。ちゃんと言うこと聞いたんだから頂戴……♡」「モモか？それともー……」　持っていた皿を叩き抱きついてくる。「そんなの……要らない……。ワタシが気持ちよくなる物……。早く……頂戴……。苦しいの……。助けて……。」　苦しんでいる彼女を見ているのが辛くて抱きしめてた。　「ごめんな……。あの時……引き止めなかったばっかりに……。ごめん！」「苦しいよ……。早く……楽にして……。たすけて……。」　泣きながら訴えられ、悔しさと情けなさで押しつぶされそうになり力強く抱きしめた。　
04Aug
- ～番外編～〘和海ストーリー〙⑨
  　あれからメッセージを送り続けていたが既読にならないまま、1年が過ぎ去っていた。日本へ戻りライブや取材等長期に渡り戻っていた。今日はモデル雑誌の取材でスタジオにはいっていた。その間に彼女に会える気がして常に自分のリュックの中にはピンク色のぬいぐるみを入れ何処に行く時も目の前に飾り座らせていた。　「かーくんそのぬいぐるみ、また持ち歩いているの？」　マネージャーにはすべての出来事を教えていた。「会えた時に渡したいんだ。」「いつ会えるかわからないのに？」「会えるさ。」「返信も1年位来ないでしょ？もう構うことないじゃない。」「いいんだ。頻繁にメッセージ送ればそれだけでも気にかけている事が分かるだろ？」「ブロックしてるかもよ？」「あるかもな！」　苦笑いするしかなかったが近々会える気がしていた。　取材を終えスタジオを出て外でマネージャーを待っていると誰かが後ろからぶつかってきた。　「イテッ！」「あっ、ごめんなさい。ごめんなさい！」「いやっ。大丈夫だよ。気にし……！えっ？莉奈ちゃん！え？どうしたの？」　ぶつかって来た相手は彼女だった。　「あッ！どうしてここに？ニューヨークじゃないの？」　あまりにも偶然すぎて驚いたがまた泣いていた。「おいおい、どうしたんだよ。どうして泣いてるんだ？なにかあったのか？」「星川さん！ごめんなさい……。あ、あのね。聞いてほしい事があって……。」　話を聞こうとした時に背後から大きな男が現れた。　（あれ……？この男……。）　「おい米田、大丈夫か？あ、すいません。あとは僕が彼女を見ますので、ありがとうございました。本当にお前は飲みすぎなんだよ。」「私は……」　　彼女の頭を軽く叩き抱き寄せていた。「え？いや、あの。彼女は僕の知り合いで……。」　（なんだよ……。どういう事なんだよ……。）「行くぞ、米田。」「あ、あの……。私……。」「ほら！迷惑かけるんじゃないよ！」「迷惑……。」　男は話しかけた言葉を無視し、彼女の肩を抱き寄せ、名残り惜しそうに彼女こちらをみて連れて行かれた。「ちょっと……！」（あの子、どうして泣いていたんだ？俺に何か話をしたかったんじゃ……。あの大きな男どこかで見た気がするな……。知り合いみたいだったけど同じ職場で働いていたのか？どこに連れて行くきだ？男と女だから何があってもおかしくは無いけど……。あまり立ち入らない方がいいよな……。あの男と付き合い始めたのかもしれないし……。でも……。）『追いかけて！』「言われなくてもそうしてるよ！」　気になり急いで後を追いかけた先はホテルらしきビルの前で何か揉めている様だったが話が聞こえなかった。しばらく様子を見ていると男は莉奈に覆い被さるように中へ連れて入って行った。（何してるんだよ！あれほど危ないからって言ったのに！もうどうなっても知らないからな！）『パパ……』　腹が立ちその場を離れ自分の仕事に集中をしようとするが中々できなかった。『元気になったか？なにか用があったんじゃないのか？』　メッセージを送ることを我慢していたが気になりすぎて送ったが、3週間が過ぎても既読にはなることはなかった。　「かーくんどうしたの？ずっとイライラしてない？何かあったの？」「あー。悪い。ちょっとな。」「もしかして、あの女の子に会いたくなったんじゃ？」「この前、偶然あったんだよ。彼女、泣いていてたんだ。話を聞いてあげたかったんだけど、同じ職場の男の人と合流してさ……。」「一般人なんだから。色々あるでしょ？」「そうだけど。よりによってなんでアイツなんだよ！」「アイツ？」「以前、あの子を襲おうとしてたやつなんだよ。」「同じ人物だったの？」「多分な。嫌な予感がして仕方ないんだよ。」「最後に見たのはどこ？」「雑居ビルみたいだったけど、ホテルにも見えたな。胡散臭い所だったな。」「胡散臭いビル……。まさかだけど、名前が書いていなくて外壁コンクリート剥き出しじゃなかった？」「そうだったかな？」「やばいよ！その場所。裏情報なんだけど、麻薬や覚醒剤を譲渡をよくしている場所だって耳に入れたことがある。」「まさか！あの子はそんなことしないだろ？」「相手がそんな人間だとしたら？我慢をよくするタイプなら危険かもしれない。」入院をしていた時の行動や一緒にいた時の行動を思い出していた。我慢を常にしていて笑って誤魔化していた。（まさか……。）「悪い。ちょっとその場所、もう一度行って張り込むよ。空いている車あるか？」「今は全部使っているからなぁ。」「たっちゃんに借りるか。」「ちょっとあの百貨店まで乗せて行ってくれ。」「まさか……。ライブもあるんだよ？いつ戻れるか分からないでしょ？いるかも分からないのに。」「まぁな。とりあえず行ってみるよ。」「かーくん！身元とか分からない子は関わらない方がいいよ？」「そうだな。全く分からないけどほっとく訳にはいかないんだよ。不思議だよな。」「本当に……。心配症だなぁ。」　　先に友人に電話をし車を手配をしてくれていた。「返却はいつになるか分からないけど構わないか？」「構わないよ。緊急なんだろ？」「ああ。ちょっとな。」「いつでも使うといいよ。」「ありがとう。」「何も無ければいいんだけどな。」　友人はただ事で無いことを察知し、早々と車を貸してくれた。車に乗り込み場所まで向かうとシルバーの乗用車が止まり、大きな男が助手席を開き女性をエスコートしていたが女性は足元がふらつきそのまま、地面に座り込んだ。「ん？あの子は……。」　うつろな目をして自力で立つ事が出来ず、男は手助けをし、目力もなく微笑み抱っこをされ中へ入って行った。（どうしたんだよ。何があったんだよ。あの時引き止めていればこんな事にならなかったのに！）　　ため息をつき、車のハンドルに頭を打ち付けてもたれ後悔ばかりしていた。中から出てくるのを待ちながら反省をしていた。　今はスケジュールが空いている。何とかして彼女を……今度こそ離さない。彼女の心の痛みを全て受け入れ癒してあげたい。　見つけたその日は出てくることはなかった。この日は諦めて帰るか……？彼女の表情を思い出す度に必ず連れ帰ると決意をしていた。翌日になりこの日はライブ当日でリハーサル前までには無理やりでも中へ入り突入すると決めていた。中から催促をする声が聞こえたと同時に彼女と大男が出てきた。「ねぇー。もっと頂戴よー。足らないよー。言う事聞くから頂戴♡ねぇ♡もっとしてよー。」「これ以上したらお前死ぬぞ？死にたいのか？」「死んでもいい……だから頂戴……」「死んで貰っちゃ困るんだ。俺の『おもちゃ』なんだからもっと楽しませろよ。」　「私ずっと、おもちゃ……でいいから……」　（『おもちゃ』だと？何言ってるんだよ！）　　腹が立ち車を動かし彼女の前に車を停め降りた。「莉奈……。」　虚ろな瞳でこっちを向き目に涙を浮かべ微かに微笑んだ。　「な、なんだお前！」　　無言で腕を掴み抱きしめ車の後部座席へそっと座らせたが座っていられる体力はなく、直ぐに横になっていた。「もう辛い思いはさせないからな。」「うん……。」　小さな声で呟き目を閉じた。　「おい！その子を返せ。」　大男は肩を掴み彼女を車から出そうとしていたが車のドアの前に立ち塞がり触れさせることはさせなかった。男に首をつかまれしばらくお互い睨み合いをしていた。　「……。」　　首に置かれた手を退け、無言で運転席に乗り込み車を出発させた。彼女は瞳を閉じたまま涙を流し無言の時が過ぎて行っていた。　（本当にどうしたんだよ。何がそうさせたんだよ……。）　声をかけると目を覚まし虚になった眼差しで遠くを見つめていた。　「あの人から離れちゃいけないんだよ……。離れたらお薬貰えなくなるからあの人のところに戻りたいの……。私ね……。もういいんだ……。私なんていなくても……彼はね……。」　　微笑みながら泣きずっとこの言葉を繰り返し話し続けていた。（どうすればいいんだ……。とにかく今日はライブがあるから連れて行くしかないな。）ライブ会場へ向かい駐車場へ車を停め車の外へ出したが自力では立つことが出来ない位に衰弱をしていた。「大丈夫か？本当に……。何があったんだよ。」　自動販売機横のベンチへ座らせた。「ここで待っていろよ？すぐに戻るから。」「……。」　　憔悴しきった身体は椅子にもたれることもできずに寝そべっていた。「行かないで……。ひとりぼっちにしないで……。」　涙を流し弱々しい力で腕を掴んできた。　「直ぐに戻るから。」　優しく髪をなで涙を拭き取ると微笑みを浮かべ、安心し手を離し目を瞑った。車のキーをかけ荷物を持ち再びベンチへ戻り、ぐったりとした彼女を起こし抱き上げた。（この子こんなに軽かったか？腕もこんなに細くなって……。もっともちもちしていたはず……。）スカートが捲れ太ももが見えた瞬間、紫斑が多数見られた。（どこかでぶつけたのか？）　　スカートを整え楽屋へ向かい荷物を置き寝かせた。「ここでしばらく眠ってな。」　　楽屋にあった毛布を被せと目を覚まし悲しげな瞳で『行かないでと』訴えかけられた。抱き上げ会場内へ向かうとマネージャーが駆け寄り事情を聞かれた。「か、かーくん！？どうしたの！」「悪い。今はそっとしてあげたいんだ。」「病院連れて行こうか？」「いや。いいよ。そばにいてあげたいんだ。」「かなり憔悴してるね。この前会った時はあんなに元気だったのに。」「俺が悪いんだ。」「えっ？」「よ〜し！今から特等席に座らせてやるからな！一番見やすい場所だぞ！俺からも目に付きやすいんだ。」　ちゃんと引き止め話を聞いて上げていればこんな事にはならなかった。同じ誤ちを2度も起こしてしまった。彼氏は何をしているんだろう。彼女がこんな目にあってしまっているのにずっと放置しているのか？疑問で仕方がなかった。　　中央の座席に座らせたが体は言う事が効かず横になって手を伸ばしそのまま眠ってしまっていた。ステージを降り眠っているのを確認し楽屋へ連れて行った。マネージャーは病院へ連れて行くことを勧めた。　「晶を呼んでくれない？」「晶くんを呼ぶの？」「ああ。多分様子を見て分かるはずだから。」「様子？」　マネージャーは覗き込む。　「腕を見てみろ。」　複数の紫斑があった。　「これって……。」「どこかでぶつけたのか……？こんなアザが太腿にもあったんだ。」「まさか。ね？」「そう思いたい。」　　　　
03Aug
- ～番外編～〘和海ストーリー〙⑧
  目を覚ますと彼女も既に目を覚ましベッドから降りようとしていた。「目が覚めたのか？」「うん……。ありがとうございます。」「もう少し寝ててもいいんだぞ？まだ朝早いだろ？」「ん……。帰りますね。本当にありがとうございます。」「なあ。」「はい？」「俺言ったよな？今日はずっとそばにいるって。」「あれは昨日の事だし……。」「1時回ってたんだぞ？だから今日だよな？」（深夜回っていたからな。今日は一日中一緒にいることができる。）「よし！もう一度10時まで眠らせてやる。」　無理やり腕を引っ張り抱きしめ布団の中に潜りませた。　「ちょっと！」「いいから静かにじっとして。」しばらく暴れていたが寝息をたて眠っていた。（眠いんじゃん。かわいいヤツ。）　　寝かし付けベッドを降りた。ひとつ気がかりなことがあった。昨日の白い封筒を慌てて隠した彼女の服のポケットを探したが見つからなかったが微かに大麻の匂いがした。（この匂いまさか……。でも物は持ってない…時処分したんだな？良かった。）　過去にニューヨークにいる友人が吸い中毒になってしまった事を思い出した。彼は心が弱く常に誰かの目を意識し、常に気を使い、孤独で麻薬に手を出しその精神状態で自害をした……。ベッドに戻り彼女の顔を見ると涙を流していた。なにか辛い夢でも見ているのか？再び腕枕をし抱きしめた。　数時間後――。　目を覚ますと驚いた表情で見上げられていた。「おはよう。」「！！」「あ！悪い！つい……。」愛おしさから思わず軽くキスをしてしまっていた。驚きながら口元を抑え恥ずかしそうにしていた。　「なぁ。」「は、はい！」触れた感触が物足らずもう一度キスをした。「あ……。ごめん。こんなことするつもりは無かったのに。」まだ物足りないけれどこれ以上すると自分の欲求が止められなくなる気がした。　「君は本当に……。気がついてないと思うけどさ。」「は、はい……？」「本当に危ないよな。」「危ない？」「普段からこんな事しているの？」「こんなこと？」「簡単に男とさ……。」（気がついていないのか？）　「……。星川さんのライブに呼んで頂いて、本当に楽しくて嬉しくて、飲み会まで御一緒させてもらって、その楽しさから離れるとギャップが激しくて孤独になることがこわくて……。気を紛らわす為なら……誰でもいいんです。こうしてそばにいて……。抱きしめてくれるだけで……。安心できるんです。」（気を紛らわすのなら誰でもいい……！？彼氏じゃなくても……って言う事なのか！？）　複雑な気分だった。どうしてこんな考えを持っているんだ！？美奈や他の女の子さえもこんな事は言わなかった。　「不安……なのか？」「やっぱり帰ります。これ以上ご迷惑おかけすることは出来ません。」「ちょっと待って！今日は1日ずっといるって約束したよな？」「でも、一緒にいると迷惑……。」「そんなこと一言も言った覚えないぞ？朝飯食いに行こう！」　服を着替えを待っているとスマホをチェック入れていた。　ため息をつき悲しい表情を浮かべテーブルに置き、何度かメッセージを送りその後チェックを入れ悲しい表情を浮かべている。支度ができると手を繋ぎホテル内のレストランに連れていった。これからどう対応するかを考えていた。彼氏もいるだろうし下手に手出しをする事は出来ない。　（と言いながら……。キス……しちゃったよな……。なんでしたんだ！？入院中も……。してたよな……。）様子を見ると俯き、コーヒーとパンを少ししか食べず、悲しい表情のままだった。　「そろそろ店も空いてるだろうからどこか遊びに行くか！」（あー！また俺なにか言い出したぞ！？）　「でも、星川さんお仕事は……。」「ライブの次の日は休養期間なんだ。そうだなぁ。行きたい所あるか？」「え？行きたい所……。」　しばらく考えていた。　「夢の国……遊園地に行きたい。」「遊園地か！良し行こう。」「い、い、いいんですか？」「たまにはいいだろ。平日だし、空いてる。」　色々とする事はあったが、今はそれどころの気持ちではなかった。1日如きでは彼女の笑顔が元に戻るとは思えないが少しの気持ちの余裕ができるのなら……。　　車を用意してもらいホテルの外にでた。　「うわっ！外車だ。凄！」「あ、これホテルの車。俺の車は日本に置いてないよ。向こうにいることが多いからな。」「あ、そうなんですね……。」助手席に座らせ目的地へ向かった。横を見ても相変わらず黙ったままでスマホを握りしめ画面をじっと見つめていた。　（彼氏からの返事を待っているのか？）横から覗いてみると自分の送ったメッセージしかなく、返信は全く無い状態だった。以前彼女に送っていたメッセージの状態で切なさを感じた。　　1時間ほどすると目的地が見えてきた。「もうすぐ夢の国に到着するぞ！」「え！うそ！ディズニー！？」「夢の国といえばここだろ？」「私的にもここですけど本当に来られるとは思わなかった！」　彼女の顔は驚きと嬉しさに変わっていた。　「俺も来てみたかったのもあるなー。酒飲めるでしょ？」「え？飲めますけど……。帰りはどうするんですか？」「あ……。しまった！飲めないじゃん！君、免許は？」「すみません。持っていません。」「マネージャー呼ぶか！」「酷い！自分が飲むために呼ぶんですか？ひどーい！」「わかったよ！飲まなきゃ良いんでしょ。飲まなきゃ！」「そうですよ！」　たちまち笑顔になり、駐車場へ到着し降りると目を輝かせ写真を撮り始めた。「嬉しい！たくさん乗り物もある！キャラクター達がいるー！可愛い！」　（あんなにはしゃいで……連れてきて良かった。）　手を繋がれ、色んな所へ連れて行かれ終始笑顔を見せてくれていた。　　お土産コーナーへ向かうと一目散にぬいぐるみを見ていた。　「かわいいー！新しい子がいるー！見てみて！ピンクのキツネの子♡良いなー♡しっぽ太いー♡かわいいー♡」「新入りなのか？」「そうなの♡今ね、少しづつだけど、ネットで購入してるんだぁ。ここに来ないと買えなくて……。」「へぇー。そうなんだ。」　嬉しそうに話をしていた。「向こうにもたくさんいる♡見てくるね♡」「俺、向こう見てくるよ。」「うん！」　違う場所の商品を見に行った隙に、ピンクのぬいぐるみを手に取りレジへ向かい、気が付かれない様にレジカウンターに預かってもらった。　目に着いたキャラクターの耳の付いたカチューシャとサングラスをつけ彼女の元へむかった。「こんなのどうだろ？」「ん？」　彼女は振り返り大笑いをしていた。「かわいいー♡さすがだね！」「良し！買うか！」「え？買うの？」「記念だからなー！」　レジへ向かい、カチューシャとサングラスを買った。隠していたぬいぐるみも受け取り、彼女の元へ向かうと大きなクマのぬいぐるみを見ていた。　「どうした？このデカイのが欲しいのか？」「こんな大きいの家に飾れないですよ！こんなの飾ったら私のいる場所無くなりますよ！大きい子は大きい広いお家がお似合いです。」「そうか……？」「可愛いですけど……。憧れますね。大きいお家にこの子達を並べるって。」「ふーん。大きな家に並べる……ね。」　自分の中で妄想を描いていた。　「そろそろ、パレードの時間ですね！行きましょ！」「お、おう。」　「あ、そうだこれ！せっかくここに来たんだから記念に。」　袋を手渡し中を見て彼女の顔がほころんだ。「1番、目についたからさ。」「わぁー！嬉しい！可愛い！抱き心地もすごく良いんですよ！」「喜んでくれて嬉しいよ。」「大切にしますね！」「可愛いー。持って歩いてもいい？」「落とすなよ？」　大事そうにぬいぐるみを抱きしめていた。「夢みたい！あっ！早くパレード見に行きましょう！」「はい。カチューシャ。」「え！？私がするの？」「え？俺がするの？」「私サングラスで……。」「俺がカチューシャ！？」「私なんかより、かーくんがつけた方が絶対似合うし♡絶対かわいいんだって♡貸してみて！」　カチューシャを渡した。「ちょっと屈んで？」「あ、はい……。」　自分の前に立ち、頭にカチューシャをつけられた。「うん♡かわいい♡やっぱりかーくんは何しても、可愛いなぁ♡」「そ、そっか？」「うん♡じゃあ、バレるといけないからサングラスも♡」　サングラスも渡されかけさせられた……。「ぷッ！う、うん……！かわいい♡」「今、ぷッ！って笑ったろ？」「かわいいーよ♡」　誤魔化された気分だった。ずっと笑っていてくれるのならそれで良かった。手を繋ぎパレードが始まる場所まで向かった。「凄い人だねー。」　周りには人だかりができていた。　「あの……。もしかして、星川和海さんですか？」　3人の女性から話しかけられた。「え？あ、そうだけど……。」「きゃー！やっぱりそうなんだ！こんなところで会えるなんて嬉しい！握手してもらって良いですか？あと、写真も一緒に撮って欲しいんですけど」「あー、今は……。」続々と人が集まりだした。「いや、ちょっと……」（まずいな……。アレ……。あの子どこに行った？）　周りを見渡してもいなかった。「ちょっと！ごめん！写真とか握手とか今はプライベートで来るからできないんだよ。本当にごめんね。」　集まったファンは不満そうにしている。「えー。せっかく会えたのに写真位良いじゃん！」「本当にごめんね！」　ファンの集まりをくぐり抜けて彼女を探すが周りを見てもどこにもいない。（トイレか？もうすぐパレードが始まるのにな……。）　　ベンチに座りしばらくするとパレードが始まる。「始まったじゃないかー。見ないのか？あんなに楽しみに……。」　胸騒ぎをし始めた。「まさか帰ったりしてないよな……。ホテルに出る前に帰るとか思い詰めて言い出してたよな……。スターだからとか……。」　土産コーナーを何件かまわり出口へ向かい見渡すがどこにもいない。「どこに行ったんだよ。」　出口付近を探したが何処にもいなかった。「星川様？お連れ様だと思いますけれど、こちらを渡してほしいと受け取りましたが……。」「これを？」　袋を確認するとピンクのぬいぐるみだった。首には莉奈がつけていたスカーフに指輪が付いていた。「なんなんだよ！全部返すって！」　　中に小さな紙が入っていた。　「手紙？」　『こんな形でごめんなさい。少しの間ですが一緒にいてくれて楽しませてくれて嬉しかったです。そしてたくさんの夢を見させてくれてありがとうございます。もし、このことが現実なのならもう一度このぬいぐるみと指輪をください。ずっとあなたのことを応援しています。お元気で……。　莉奈』「なんなんだよ！現実に決まってるだろ！必ず君を探し出すからな。君を今抱えている苦しみから救いたいんだ。」　まだ間に合うかもしれない。出口を出ても姿は見当たらなかった。駅へ向かっても何処にも姿はなく、駐車場へ向かった。目の前には駅のホームが見え、ちょうど電車が入った所だった。　（必ず君を見つけて救い出して守る……。）　事務所へ戻ると、マネージャーや他のスタッフたちが電話の応対に追われていた。「ちょっと、牧子どうした？何この騒ぎは？」「あなたのスキャンダルでしょ！」「え？俺の？」「ホテルで撮影されてたのよ！」「そういうことか！久しぶりだな！」「昨日の子じゃないの！それに会場で抱き抱えて行った写真とか！それも撮られてたのか。」「どういう関係なの！」「関係？くだらない。まだ友達だけど？」「友達！？」「ホテルは？」「1人でいたくないって。手は出した方が良かったのか？」「何言ってるの！？手は出しちゃ……出してないの！？」「何も出来なかった。それに……。ふられた。」「は！？振られたァ！？」　久しぶりのスキャンダル報道だったが他の報道が大きく、自分の事は何もあげられる事無く穏やかに終わっていた。　
17Jul
- ～番外編～〘和海ストーリー〙⑦
  　楽屋へ戻ると姿が無く通りかかったスタッフに聞いてみると物販の手伝いをしていると言っていた。（なんであんな所に行ってるんだ？）　向かってみると楽しそうに牧子と話をしながら片付けをしていた。「どうした？いないとおもったら……。どうして物販手伝ってるの？」「あ、ごめんなさい。することが無かったので何かお手伝いができたらと思ってさせてもらってたんです。」「そんなことしなくても良いよ。スタッフがするんだから。」「みんなで行くんですよね？それなら協力して、みんなで片付けをすれば早く行けるじゃないですか！はい！この荷物運んでくださいね！」「なんだよ。なんでスターの俺が……。自分のグッズ運んでしなきゃなんないんだよ。」「スターですよね？みんなの憧れであるべき人間でなきゃいけないですよね？すごくないですか？スターの『星川和海』がスタッフと共にグッズの片付けをしてる事って！私なら憧れちゃうなぁー。超かっこいい♡」「そ、そうなのか？そ、そうだよな！俺が俺のグッズを片付けしなきゃなぁ！？そうだよ。俺はみんなの憧れなんだからな！」（なんだ？この操られるような感じは……。）　悪い気はしなかった。確かに一度もスタッフと片付けなどはしたことが無かった。スタッフにさせることが当たり前だとデビュー当時から思っていた。台車を押しトラックまで持っていくとマネージャーがこっちを向いて笑っていた。「え？かーくんなにしてるの？」「何って。運んでるんだよ。見りゃわかるでしょ？」「わかるけど、こんなこと一度もしたことないじゃない」　マネージャーは笑いを堪えながら台車に乗っていた荷物をトラックに積み込んだ。「『みんなの憧れであるべき人間でなきゃいけないですよね？すごくないですか？スターの『星川和海』がスタッフと共にグッズの片付けをしてる事って！私なら憧れちゃうなぁー。超かっこいい♡」』ってさ。なんか操られた感じでさぁ。」　「そ、そうなんだ！僕らもカッコいいと思うよ！スターがこんな裏方の仕事まで手伝ってくれるんだもん！さすがスターだよな！」　周りのスタッフも笑顔で頷いていた。「そ、そうか？まぁ、俺はスターだからな。なんでも言ってくれよ？」「ありがとう！」　少し腑に落ちないが台車を押しながら再び戻った。　「荷物持って行ったら大笑いされたぞ。俺だってやる時はやるんだからな？」「さすがですね！スターが運んでくれるとみんな嬉しくなりますよ。一致団結しているって感じで！良いスタッフやファンに囲まれてこそスターは輝くことができるんですよね！」「お、おう！そうだぞ！みんなが居てくれるから俺も頑張れるんだ。」　スタッフや彼女が笑っていた。「さて！かーくんのおかげで思ったより早く終わったんで、みんなで予約しているお店に行きましょうか！」　　マネージャーが皆を誘導する。牧子に朝食の話をしていると羨ましそうな表情をしていた。「良いな……。」「ん？何が？」「あっ！な、なんでもないです……。」「じゃ、行くか！」　少しこの言葉に違和感を感じた。　グループに別れタクシーに乗り込み予約した店に向かった。　「かーくん2人で行きたかったんでしょ？いいの？」「そりゃ行きたかったけどさ、仕方ないだろ？みんなといればきっと楽しんでくれるだろうし構わないよ。」　店に到着し、それぞれのグループに別れた。彼女は牧子のグループに座り女子トークとやらを楽しんでいるようだった。目が会うと嬉しそうに微笑み返されていた。　しばらくすると彼女は席を外していたがなかなか戻ってこなかった。牧子の方へ向かいどこへ行ったのか聞くとタバコを吸いに外へ行ったらしく自分も向かうことにした。様子を見ていると悲しそうに遠くを見ているようだった。ポケットの中から白い封筒をじっと見つめその封筒にキスをしているかの様に見えた。（手紙？今どき？まぁ……。そんな事もあるよな。）　彼女に近ずいた。　「君、タバコ吸うのか？」　慌ててその封筒をポケットの中に隠した。　（見られたらまんだらまずいものなのか……。）　「あっ。は、はい……。」「ふーん。タバコは体に悪いからな。やめた方が良い。」　タバコに火を付け吸い始める。　「自分も吸ってるじゃないですか！」「だなー！タバコ吸っても何の解決にならないから吸わない方がいいんだ。」「吸ってるじゃん！」「俺のは昔からの癖だな。」「癖治さないとですね。」「だなぁー。よし！やめよう！君もやめなよ。」「私は有言実行出来ないから……。」「タバコを吸う女は苦手だな。ほら、髪に匂いが着くだろ。どれ。」彼女の髪をすくい上げると細くて猫っ毛な髪が可愛らしかった。　「ほ、星川さん！？」「お花畑の中に雑草があるなぁ。可愛い女の子が腐りかけた雑草の中に埋もれている感じ。」　冗談半分で答えた。　「ちょっと！その行動はスターがする事ですかっ！」「今、一般人の星川だけど？仕事終わってるんだから。」「そ、そうですけど！」「タバコやめな？俺もやめる。」　吸っていたタバコを消し、持っているタバコやライターをゴミ箱に捨てた。これで彼女も辞めるなら自分の為にもなる。いい格好をする為のタバコがクセになってしまっていた。ポケットに飴が入っていた事を思い出し彼女に手渡した。　「口が寂しいのからこれ食べな。」「楽屋の中は吸えないからな。いつも持ち歩いてるんだ。」「可愛いもの食べてるんですね」「元アイドルだからな。ファンから時々送られて来るんだ。」「ファンはよくわかっていらっしゃる！」「そうだなー。さて、そろそろ中に戻ろっか。」「あ、はいっ！」　彼女がタバコを続けるのも辞めるのも自分の問題だと思い深く追求することは無かった。　席へ戻るといい感じに皆は出来上がった状態でお開きとなった。これからまだ呑みにいく者もいればそのまま帰る者もいた。「ねぇ。送るよ。今タクシー止めるから待ってね。」　　タクシーは乗車していて通り過ぎる。「あのっ！」「ん？タクシーなかなか止まらないなぁ。」「私、帰りたくない……。」「はぁ！？……帰りたくないって。」　（何言い出すんだ！？）　「帰りたくないんです。ひとりになりたくない……。」「なんだって？」（いや、まだその段階じゃないだろ？そういうのはちゃんと色々とさ……。）　「あ……。ごめんなさい……。私帰りたくないので、このままどこかへ行って……時間潰して……。」「ちゃんと帰りなよ。」「あの部屋に帰りたくない。」　　（！？）　「タクシー呼ぶから！」「いいんです！よばなくて……。どこかで泊まります。」「どこかで泊まるって……？」「とにかく帰りたくないんです……。星川さんは帰ってください。明日も仕事でしょ？」（休みだけどさぁ。）　「あてはあるの？」「ないですけど、適当な人を呼べば誰か来ます。」（適当な人……？）　「適当な人って……。」「彼氏？」「……。」（彼氏じゃ無かったらなんなんだよ……。）　「どうしようかな……。」（彼氏じゃないのなら男友達！？男友達の所で泊まる気なのか！？）　「いいですよ。帰って貰って。」　スマホを取り出し、少し離れて検索を始め電話をかけ始めた。　（嫌だぞ？絶対にそんな事許せる訳がない！）「遼くん？私だけどいまからすぐに来て……」　思わず電話を奪い取り上げてしまっていた。　『莉奈ちゃん？どこに行けばいいの？』　　受話器から声が聞こえる。　「あー！わかった！わかったよ！じゃ、着いておいで。」（彼氏じゃ無い男なんて絶対許さないからな！）　「あー、悪いね。間違い電話だから気にしないで！」『はぁ？』　　電話を切り手を繋ぎ自分の泊まるホテルへ連れて行くことにした。　「ほ、星川さん……？」「1人でいたくないんだろ？案内するから着いておいで。」　タクシーがタイミングよく止まり自分の泊まっているホテルを指示をした。繋いだ手は微かに震え怯えているようにもみえた。ホテルに到着し中へ入るとフロント受付がにっこりと微笑み挨拶をした。　「お帰りなさいませ。」「連れてる事黙っていてね。」「お客様ですね？分かりました。ごゆっくりとお休みくださいませ。」　部屋に着くまで自分の中の葛藤があったが……。繋いだ手はタクシーの中にいた時より冷たく俯いたまま震えていた。　（怖いのか……。）「さっ。入って。」　手を離し部屋の中へ案内をすると立ち止まったまま動かなかった。　「ほら、入って。ひとりでいるのが嫌なんだろ？ゆっくりすれば良いよ。それとも……先にシャワー浴びてくるか？」（いきなり『シャワー浴びておいで』はないだろ！何言ってるんだよ！）　「えっ？えっと……。い、いいんですか？ほ、星川さん先でどうぞ……。」「そっか？じゃお先に。」（そうだよ。俺が入っている間に落ち着いて来るだろう。）　ソファーに座らせ、落ち着くような音楽をかけて変な考えを無くすため何も考えずにシャワーに入った。30分程でシャワーから出て、いつもの様に鼻歌を歌いながらタオル1枚の姿で出て冷蔵庫を開きビールを取りに行きのんでいた。「あ……。」「あ……。こんな格好で出ちゃったな。いることすっかり忘れてたよ。シャワー浴びて来いよ。パジャマ用意しておくから……。」「あ、ありがとうございます……。」　ビールを飲みながら着替えパジャマを用意しベッドへ向かい横になって今日のライブの反省をしているといつの間にか眠ってしまっていた。「可愛い……寝顔してる。」　声が聞こえ目を覚ました。　「ん？出たのか？横で寝なよ。」「え、あ、はい。」「おやすみー。」　（眠れるかな……。ソファーに行くか？）　「あ、おやすみなさい……。」　ベッドの中へ入り背中を向け小さくなって少し震えているようにも見えた。「あの……。抱かないんですか？男なら誰でもすることじゃないんですか？」「ん？誰がそんな事言ったんだ？安心しな。何もしないからな。ひとりでいるの嫌なんだろ？だからそばにいて一緒にねる。それでいいよな？」　（やっぱり……。そんな事を思っていたんだな……。）　　布団の中に入りお互い背を向けていた。気になって眠れなかった。　「あの……。抱いても……いいんですよ？私何も思わないので……。」「まだ寝てないのか！って俺もだけどさぁ。そんなに抱いて欲しいのか？」　少し驚かせようと思い覆い被さってみると、悲しそうな目をして、目をそらした。「嫌っ！」　（やっぱり。）　「ほーら。本当はそういうの嫌な癖に。」「えっ？」「今まで何があったのかは知らない。でもな、自分をもっと大切にしなきゃダメだぞ。俺だって男だ。女が横にいると正常じゃなくなる。キミは心に傷を持ってるだろ？その傷をえぐる様なことはしたくないんだ。」「どうして……そんな事……。」「なんでだろうな。分からないけどな。」　手を繋いだ時や怯えていた事を思い返すと耐えられなかった。支えてあげたい、そばに居てあげたい、守ってあげたいと思った。　「私……。」　ずっと堪えていたのか、涙が溢れ出て泣きはじめた。今まで何があったのかわからないけれど、少しづつでもいい彼女の心を癒してあげれるのなら……。　「今日はずっとそばにいる。安心して眠りな。」　手を伸ばし彼女をしばらくの間抱きしめ、腕枕をすると胸にしがみつき安心したのかそのまま眠ってしまった。　どんな傷を負ったのだろう……。彼氏とはちゃんと会っているのだろうか……。彼女は今までどんな状況に置かれていたのか気になりはじめていた。　
07Jul
- ～番外編～〘和海ストーリー〙⑥
  　既読にならないメッセージを送り続けていたが諦めずにメッセージを送り続けていると全てが既読になった。　（開いた！）　『やっと既読になったね。元気にしているの？』『元気ですよ』　今見ているのかすぐに返信があった。ただ元気に過ごしているだけで嬉しかった。　『良かったー！また会いたいなぁと思ってさ。』　拒絶されるだろうと思っていたが挨拶程度に軽く入れてみた。　『私も会いたい』　（会いたい？）　『ファンとして？だよな？』　以外な返信だった事に驚いたがファンとしては数ヶ月ぶりに会うことは普通だろう。　『もちろんですよ！』　　やっぱり……。　『そっかー。俺も頑張らないとな。』　そうだ……。ライブに呼べば良いんだ。　『ライブ頑張ってくださいね！』『ライブに来いよ。会場で君のこと探し出して見せるから。』　会場からは知っている人がいればすぐに見つけることができる。　『絶対無理でしょ？』『絶対見つける！絶対来いよ！』『見つけたら？』『メシ連れて行ってやるよ！』『本当に？』『約束する。』　メッセージでは伝えられないもどかしさがあり、本当に来てくれるかどうかはわからないけれど、来てくれる事を信じたかった。ニューヨークへ戻っている間、レコーディングやプログラム構成などを試行錯誤をしていた。その間もくだらないメッセージを送り続けていた。以前と比べるとメッセージには反応をしてくれていた。　　ライブ1週間前に日本へ戻り、時差ボケの体調を戻しバンドメンバーやスタッフとの打ち合わせをしリハーサルをする。ライブが終了するとしばらくの間、日本でゆっくりと過ごす時間を作った。　ライブ2日前、念の為ライブに来られそうなのかメッセージをいれた。　『お疲れ様！チケットは買えた？当日券もあるけど……。』『買いましたよ！2部とも買っちゃいました。』『2部とも！？』　2部とも買ってくれていた事に少し驚いた。　『私、暇だしね。』　暇？彼氏とデートとかしないのか？時間は大丈夫なのか？仕事が終わったらいつも何をしているのか気になった。　『見つけること出来たら何かしてくれる？』『え？何かって……？』『決めてないのか？じゃあ、見つける出すことが出来たら当日決めさせてもらおう。』『えー！無理でしょ？たくさんのファンの人がいるし絶対見つけることなんて出来ないですよ。』『どうかな？』　飯連れて行くとか言っていた様なきがするけど……。まぁ、いいか。思わずメッセージを見ながら顔がほころんでいた。「あ、なんかかーくんいやらしい表情してる！」　　マネージャーから冷やかされた。「なんでもないよ！今日ライブ終わったら友達と食事行くから。」「ん？デート？」「違うよばーか！」　　笑って誤魔化した。　　ライブ当日――。　大勢のファン達が嬉しそうに会場内に入るのをモニターでみていた。　（あの子……来るかな？来るよな？物販でも見ているのか？）　様子を見ていると彼女らしき人物が座席を探し、何度も確認をし座り始めた。周りをキョロキョロとし、スマホをじっとみていた。　　（何を見ているんだ？覗き見はしたくないけど……。）　モニターで画面を拡大してみると、メッセージを眺めているようだった。返信も既読もされていないただ自分が打ち込むばかりの内容だった。ため息をつき目を潤ませて、ただ呆然とステージを見つめていた。（寂しそうな表情をしているけど彼氏となにかあったのか？喧嘩した……？）　物販で買い物を終えたファン達も座席に座り始め開演時間が迫って来ていた。再び彼女を見ると、真ん前に縦横大きな男性が座っていた。スタンディングをすれば彼女は間違いなく見えないだろう……。ステージが始まると皆一斉に立ち上がり声援を浴びる。人と人の間から見ているのか目をうるませ涙を流し泣いていた。テンポの早い曲では皆に合わせるように楽しんでいたが、バラードになる度、涙を流していた。　1部が終了し休憩に入った。まだ客席に座っているのを確認しメッセージを送った。　『君、ずっと泣いてたろ？前にデカい人がいて見えないとでもおもったか？ちゃんとこっちから見てるぞ？悲しいことでもあったのか？』しばらくするとメッセージに気がついて、送り返してきた。『悲しい事で泣いていたんじゃないです！嬉し泣きです！』　（嬉し泣き？始まる前から？）　『それなら良かった！次も探し出すからな！』『どうかなぁ。次は難しいかも。』『じゃ、またステージで。』『はーい♡』　思わず顔がほころんでいた所をバンドメンバーに見られていた。「星川さん……。何をニヤついているんですか？気持ち悪いッスよ？」「うるせ〜よ！気持ち悪いってなんだよ。」「何いい事あったんですか？」「なんでもないよ！」　彼女はやっぱり泣いていた。嬉し泣き？喜ぶ様なことあったかな？まぁ、悲しい事じゃないのなら大丈夫だろう。アップテンポの曲では皆と同じ様に合わせていたし……。　次の開演まで3時間……。マネージャーを呼び出した。「どうしたの？」「この前来た女の子を覚えてる？」「もしかして、事務所に連れ込んだ子？」「連れ込んだはないだろぉー。」「はは！え？もしかして……繋がりあったの？」「お見舞いへ行った時に偶然あってさ。」「まさか……。連絡先教えた！？」「教えた。」「大丈夫なの！？大騒ぎにならない？」「たぶん大丈夫。」「美奈さん亡くしてからそういう行為は無かったけど……。」「まだそういうのじゃないよ。友達みたいな！？感じ。向こうも彼氏がいるからなぁ。」「それなら良かった。」「頼みがあるんだけど、ライブ終わったら彼女を楽屋側まで呼んでくれない？」「え？呼ぶの！？」「こっそりと。彼女1人だからなんとかなるでしょ？」「いやいやいやいや……。まずいでしょ？」「良いんだよ！そこら辺彼女度胸あるから、スタッフの様な顔をして堂々と来るでしょ。」「いや、でも、ファンの子でしょ？」「ん？あ、まぁそうだけど……。じゃ、俺が行ってそのまま連れて……」「ダメダメ！そんな事したら大騒ぎになっちゃうよ！」「だよな？だから彼女迎えに行ってよ。顔覚えてるでしょ？」「んー！？なんとなく。」「じゃ、よろしくお願いします！」「ホントにー！」　自分で彼女を迎えに行きたかった。『芸能人』という殻から抜け出すことができなかった。　開演45分前に再びファンたちは物販へ買いに行く人が多数並び始めた。数人は会場内へ入り座ってのんびりしていたり友達と話をしていたりしていた。2階を見て行くと2～3人座っていた。その中に彼女がいて周りをまたキョロキョロとしたり飲み物を飲んだりしていた。　軽く打ち合わせをし円陣をくみスタンバイに入った。　（そうだ……。行く前に連絡入れるか。）　会場内は暗くなり始めミュージックがなり始める。『絶対探し出す！』　（もうわかってるけどな。）『頑張ってくださいねー！』　返信を見たあとステージに上がった。数曲バラードを歌い2階席を見ると目を輝かせながらこちらをみていた。　（また、泣いていたのか？嬉し泣きはそんなにするものなのか？）　MCにはいり挨拶をする。たくさんの声援を聞くと本当にありがたい。いつも来てくれるファンや、子連れのファン。　新規で来てくれるファン。2階席も同様に自分が見えるようにアピールしてくれるファンがたくさんいた。　「2階席ー！ありがとうなー！ちゃんと一人一人見えてるからな！」　その中で座りながらみていた彼女が目に付いた。　　（驚かせてやろう。）　「なんだ？2階席、盛り上がってないやつ1人いるな？」　周りを伺っていた。　「上から3番目左端！お前だよ！」　　自分だという事に気が付きこちらをみる。「つまんないか？」　　少し怒った様な口調で話しかけると、大きく首を振り焦っているようだった。　　「楽しんでるか？」　再び大きく首を縦に何度も降っていた。　　（焦ってる焦ってる！笑える！）　「よーし！俺が見えてないと思ったろ？わかってんだぞ？みんなもわかったろ？俺はちゃんとひとりひとり見てるからな！」　会場全員に伝え、大きな声援が上がりステージは最高潮になり盛り上がった。　ライブが終わり、マネージャーを呼び出し混雑がしないうちに例の件を頼んだが会いたい気持ちが抑えられなくなっていた。非常階段を降りていると声が聞こえた。　「ごめんね〜。こんなに狭いところに呼び出して。」「あ、いえ、大丈夫ですけど……。」「ちょっと待っていてね。って来たよ。」　　驚いた表情でいたが嬉しそうに微笑んでいた。「悪いなぁ。こんな汚いところに呼び出して。ちゃんと見つけ出すって言ったろ？」「良く見えましたね！本当にひとりひとり見てるんですか？」「当たり前だろ？ちゃんと俺は見てるよ。いつも来てくれる子、新顔の子ってことも分かる。」「すごーい！」　　拍手をしていた。「ごめんね。なんか呼び出す感じでライブ来させちゃって。」「ううん。ストレス発散できて凄く楽しい時間が過ごせました！ライブってこんなに迫力があるんですね！こう……、胸の中にズンってくるドラムの音や、ベースの音、ギターの鳴り響く音色、ピアノの綺麗な音色……。歌声も低くて優しくて、伸びのいい声量……。本当に凄く皆さんかっこよくて……。こんなに楽しい時間が終わってしまうなんて残念で……。もっと見たくなりました！」「そうか！そーかぁ！そんなに感激して貰えると凄い嬉しいよ！ありがとう！なんか、照れちゃうよな」「あの……。私に何か用でも……？」「ん？あ、いや、あの……。」「かーくん！シャワー浴びて！食事行くんでしょ！」　　マネージャーが横から声をかけてくる。　「それじゃ、用がないようでしたら帰りますね！本当に今日は楽しかったです！またライブ見に来ますね！お疲れ様でした！」　「え！？いや！あの！」　自分事でないと思ったのか、慌ててその場から離れた。（用が無いじゃないだろ？用があるから呼び出してるのに何帰ってるんだよ！）「も〜！なんでこうなるかなぁー！」「かーくん、ごめん！僕何か悪いこと言ったかな？」「あの子の早とりちだよ。ちょっと俺、彼女引き止めるよ！」「いや！僕行くよ！かーくんはここにいて……」「構わないよ。行ってくる。」　　マネージャーの肩を叩き後を追いかけた。彼女も走って降りたのだろう。近くに姿は無かった。　（ずいぶん逃げ足早いな！）「キャッ♡かーくん♡え？どうして！？」　もう退場してしまったのかと思いフロアの方へ行ったが何人かファンが残っていた。「かっこいいー♡きゃー♡」　周りのファン達が群がり出したが避けながら、声をスルーしながら走って探していると階段を降りていた。近くまで行くとこちらに気がついた。　「あっ！」「危ない！」　　足を踏み外し、先回りをし彼女を支えた。「危なかったなぁー。ごめん！驚かしちゃったよな。」　　ファンの黄色い声で更に人が集まり始めた。　「あー。まずいな。ごめん！」「エッ！」　　彼女を抱き上げそのまま楽屋へ連れて行った。後を追いかけられたがスタッフたちに助けられ、逃げることが出来た。「本当にさぁー。話まだ終わってないのになんで帰ろうとするかなぁ。」「え？だってスタッフの皆さんやバンドの方と食事会があるみたいだったから。それに私、部外者で関係者じゃないし……。ただのファンだし……。ファンはこんなことしないでしょ？そもそもおかしいじゃない？ここにいては駄目なはずですよ？」　マネージャーの顔を見ながら話をしていた。「スター様に何かあったらファンの人悲しむよ？だからこれ以上近づいちゃ駄目なんですよ？私は『星川和海』さんが大好きです。憧れでたくさん夢をもらいました。この前も言いましたよね？これ以上、夢をみちゃ駄目なんです！やっと元の現実に戻れたのに……。ごめんなさい。帰ります。」（なんだよそれ。）　「なぁ。」「？」「メシ連れていくって言ってただろ？忘れたのか？」「えっ？」「俺は約束を必ず守る。」「冗談……。ファンと食事なんて……。」「ファン！？ファンなら連絡とかしないだろ。」「そうだけど……。やっぱり……。」「2人で行くのはって言うのなら、バンドメンバー、スタッフ全員連れていくぞ。それで文句ないだろ。」　マネージャーは失笑していた。　「かーくん、強引でしょ？言い出したら聞かないんだから。頑固者と言うか、男らしいと言うか……。」　コソコソと聞こえるように彼女に話をしていた。　「何？何か言った？店手配しておいてよ？」「ハイハイ。」「それから、君はここで待機。シャワー浴びて着替えて来るから。わかった？」「あ、ハイ……。あの……。」「ん？なに？」「降ろして……貰えますか？」　離したくなかったのか、ずっと抱っこしながら話をしていた。　「お？おおー！ごめん、ごめん！よーし。３０分ほどしたら戻るからね。」　急いでシャワーを浴び支度をしたが楽屋へ戻るとまたいなくなっていた。「またかよ。」　
01Jul
- ～番外編～〘和海ストーリー〙⑤
  　飛行場へ行くまでの少しだけしか会う時間はないけれど会っておきたかった。病院へ到着し花を後部座席から取り出し花束を持ち歩いているとやっぱり注目の眼差しで見られていた。　（花持っているのがおかしいか？）　「あっ！」　　誰かが自分に気がついた様だったが振り返っても誰か分からなかった。　　（まぁ、いいか。）　花束を持ちカーテン越しに合図をした。　　「コンコン。」　以前はゆっくりと開いていたが今回は勢いよくカーテンをフルオープンで開いた。　「うぉっ！急に勢いよく開けたらびっくりするじゃんよー。」　　彼女も驚いた様子だった。「どうだぁ？体調は。今の勢いからしてだいぶ良いみたいだな。そろそろ、花が萎れて来る頃だと思ってさ。」　「こんなにたくさん!!今日も来てくれたんですね。凄く嬉しいです！」「ちょっと……。しばらく会えなくなるからなぁ。ベッドに座って良いよ。」「あ、椅子出しますね！」「ありがとう。」　　彼女が持って来ようとしたパイプ椅子をとりに行き、その椅子に座った。花束を渡しベッドの上に置くと恥ずかしそうにベッドの脇に座る。　「かーくんは雲の上の神様の様な人だから会えないのは当たり前だから……。スターだし……。」「……。あのさ……。これ。受け取って欲しい。」「ん？」　　白い薔薇花を渡した。　「あ、ありがとう……？」　　いまひとつ反応が薄かった。　（やっぱり大きいかな？）　「あと、手を出して。」「……？あ、うん。」　薬指の指輪を外し、彼女の左手薬指につけようとしたがサイズが大きかった。　（やっぱり大きいな。）　「えっ？何？何してるの？」「これさぁ。ファンクラブでグッズ販売してたんだけど、もう在庫ないんだよ。君、何も持ってないだろ？だから、プレゼント。」「わぁ〜。凄く綺麗ですね〜。え？でも凄く大切なものなんじゃないですか？それにこんな高価なもの受け取れないですよ。」「良いんだよ。あの時君が注意してくれなかったら、今の俺じゃ無くなってた。君が言ってくれたから……。そのお礼。って、柄でもないこと言うなってな〜。少し大きいな。中指にでも付けておくと良いよ。」　俺は何をしてるんだろう。手を握りながら自分自身に問いかけた。ファンなのに！？そうだよ。ファンなんだよ。ただ注意をしてくれたファンなんだよ。何を依怙贔屓みたいな事をしているんだ？彼女の表情を見ると遠慮しながらも目を輝かせ嬉しそうに微笑んでいた。もっと彼女の笑顔が見たい、自分だけのものにしたい……と欲が出始めていた。　（俺、何考えてるんだ？）　恥ずかしさの余りに手を離すと、急にベッドへ倒れ込んだ。　「お、おい！だ、大丈夫か？気分悪くなったのか？悪い事したな。大丈夫か!?」「だって、あまりにも突然で、憧れのスター様にこんなことされたら誰でも堕ちますよ！」（スター……。そうなんだよな……。俺は芸能人……。俺は……。）　無性に芸能人である自分が悔しくなった。　「あっ、あのっ。星……川さ……ん？ごめ……！」　気がつくと彼女を抱きしめていた。「本当にありがとうな。」　小さな彼女の体を抱きしめると芸能人『星川和海』ではない、本来あるべき姿の『星川和海』でいられる気がした。　（このまま連れて帰りたいな……って何言ってんだ！？）　「と、まぁー。こんな感じの事をライブでもやってたりする」　（危ない危ない。今何考えていたんだ！？この子には彼氏がいるはずだ！そうだよ、いたはずだ！）「酷いなぁー。今、完全に乙女心掴みに来たでしょ。ずるいなぁー。私、一瞬ドキドキしちゃったじゃないですか！」「しばらくは会えないからなぁ。こんな事しとかないとファン逃げちゃうからな。」「そういうの上手なんですね〜。」「あ、そうだ！連絡先聞いてなかったからライン教えてよ。また、連絡する。」　（っておい！俺さっきから何言ってんだよ！）　「あ、そうですね…………。って、交換!?」　　（聞いてどうするんだよ！）「えっ？ダメか？俺は良いけどなぁ。そっかー。ダメなのかー。」（俺が言うのかよ！）「いや、だって、スターの連絡先なんて聞いたら……。」「スターって思うからだろぉ。」　（！？）　「俺だって仕事以外は普通の人間だぞ。スター、スターってさぁ……。職業が芸能人ってだけでさぁ。俺だってさぁ、普通に恋愛ぐらい……いゃ、なんでもない。」　自分で言っていて気がついた。職業が芸能人だ。　「本当にいいんですか？ファンに教えてしまって。」「君、誰かに喋っちゃうの？そんなことできないでしょ。」「誰にも言わないですよ。」「だろ？信用してるから。」　何を根拠に彼女を信じることができているのか分からなかった。　「コレでニューヨーク帰っても、話できるな。君がここを退院できたかも確認とれるし。これで安心だよ。」　（安心……？ゆ、友人として連絡が取れるようになる安心だよな。）　「あ、そろそろ空港行かなきゃ。」「えっ？今日帰るんですか？」「そうだよ。その前に、顔みたかったから。あ、いや、そういう意味じゃ……ないからな。そう、とってくれても別にいいけどさぁ……。そ、それじゃー、またなぁ。」　　こんなことを言う自分が恥ずかしくて目を合わす事が出来なかった。　「あのっ。星川さん……。」「ん？」　荷物を持ち出ようとすると声をかけられ振り返って見ると　恥ずかしそうにしていた。　「いえっ、あのっ、き、気をつけて……くださいね。」『お元気で』の言葉じゃない言葉が嬉しくて彼女の元へ向かい抱きしめた。このまま連れて帰りたい……。けれど彼女には彼氏（らしき）人物がいる……。　『好きな人に彼女がいただけ。』　　以前彼女が揉めていた時の言葉を思い出していた。それに自分は芸能人で相手はファン。決して手を出す訳には行かない。何かあった時にはただ事じゃ済まない。けれど……。『好きな気持ちに関係ありますか？好きだから一緒にいたいそう思うのはいけないことなんですか？』　　彼女の言った言葉が胸に突き刺さり、思わず抱きしめておでこにキスをした。美奈には1度もこんな感情を起こしたことがなかった。　「連絡……する。」　彼女も顔を赤らめ戸惑い恥ずかしげにしていた。ここまで恥ずかしがられるとこっちも恥ずかしくなる。「じゃあ、またなぁ〜。」　　逃げるように病室を出た。　（何やってんだよ俺！騒ぎになったらどうするんだ！？『星川和海』！お前は芸能人だろ？何やってるんだよ！）　自己嫌悪になりながらも、連絡を取り合うことが出来るようになったことが嬉しく思えていた。　エレベーターを降り駐車場へ向かいふと病棟の方へ目をやると頭を覗かせこっちをみて微笑んでいた。大きく手を振ると同じ様に手を振り返し微笑む。自分の気持ちが変わっているかもしれない。今は偶然が重なって有頂天になっているだけだ。頭を冷やそう。　車に乗り、事務所へ戻った。「かーくん？どうしたの？元気ないじゃない。」「向こうに戻らなきゃダメか？」「え？何突然！」「あ……。いや、なんでもないよ。」「びっくりしたー。」　飛行場へ到着し、早速メッセージを送った。『教えてくれてありがとう。』　そこからはその時の状況をニューヨークに到着してからも写真で送っていた。『こちらこそ、たくさん写真入れてくれてありがとうございます。アメリカンドリームって感じですね。体調崩さずに頑張ってくださいね。』　返信がされていたがその返事は一瞬、終わりを告げるような感じがした。その後もメッセージを送っても既読になることはなかった。仕事が忙しくてメッセージを見る余裕がないのか、体の具合がまた悪くなっているのか、彼氏に気が付かれてブロックをしたのか気になり電話をかける事にした。『トゥルル……』　呼び出し音がなったが通話にはならなかった。仕事中かもしれない。もう少し時間を置いてかけてみよう。　日本時間15時――　きっと休憩時間に入る頃だろう。電話をかけてみるが呼び出し音がなり続けていた。　しばらくすると、通話になった。「もしもし？莉奈ちゃん！電話つながってるんだろ！」　周りの雑音が微かに聞こえていた。　「おい！切るなよ！黙っていてもいい。聞いてくれるだけでもいい。」『コッ……』　指が画面に当たる音がした。きっと黙って聞いているに違いないと思った。「元気になったのか？退院はしたのか？」「……。」　何も答えが帰って来なかった。「元気で幸せに暮らしているのならそれで良いんだ。」「……。」「もし、俺のことで気をつかって距離を置こうとしているなら、気にすることないからな。」「……。」「俺が事務所を辞めた理由言ってなかったよな？」「……。」「やりたい仕事が出来ない、自由のない暮らしそれが嫌だから事務所を出たんだ。言われた仕事をただしているだけのことが嫌でさ。」「……。」「自分自身の夢を叶えたかったんだ。」「……。ごめんなさい……。」「やっと話す気になったか？」「でも……。私はいつまでも夢を見ていちゃいけないから……。星川さんとお話ができるなんて本当に夢みたいなことだし、入院した時の幻なんです……。」「幻にされてるのか？」「幻で良いんです……。永遠のアイドルなんです。子供の頃は、いつかかーくんのお嫁さんになりたいって思ったこともありましたよ？彼女になりたいって。現実には決してあり得ない事なんです。待っているのは実際地獄の様な毎日……。一瞬だけの夢を見られただけでも幸せだったんです。だから、星川さんのメッセージもたくさん夢に溢れていて見ていたいけれど見なかったんです。」「そっか。」「それに彼がいます。目の前しか見ることができなくて……。」「そっか。」「ごめんなさい。」「謝んなよ。それが現実なんだろ？」「……。」「もうアイドルじゃない！いつまでもアイドルじゃないんだ！」「ごめんなさい。」　一方的に電話を切られた。彼だけしか見ることが出来ない……。彼女には現実しか見えない？自分は夢を見ることが出来ない？夢を叶えたいと思わないのか？彼女の言葉は全てを遮断し許されない事を言っているようにしか思えなかった。なんとかして、彼女の閉ざされた心を開いてあげたいと思うようになっていた。その後も彼女がメッセージを見なくても開いた時には笑顔になれる様に一方的に送る様にした。　
17Jun
- ～番外編～〘和海ストーリー〙④
  明日はクリスマスライブと翌日にはファンクラブ設立記念日が控えていた。明後日にはニューヨークへ戻って、レコーディングの打ち合わせをする事になっていた。今日はテレビ生出演で午前中の空き時間の合間に少しだけ見舞いに行くことにした。事務所へ行くとグッズとCDが目についた。　（新しいアルバムでも渡しておくか……。プレイヤーとかも無さそうだったな……。電気屋に寄って見るか。）　電気屋へ行くと、店内はクリスマスソングか流れ、親子でおもちゃを買いに来たり、ぬいぐるみを買って貰ったりとはしゃいでいる子供たちがいた。『うわぁ！たくさんおもちゃがあるね！いいなぁ〜。』　頭の中でまた声がした。「本当になんなんだよ！ちょこちょこ出てくるのやめてくれよな！」　周りにいた人が奇妙な目つきでこちらを見てくる……。『ごめんなさい……。だって……。ボク……。』（わー！マジ怖いからさぁ！何？なんなの？）『ごめんなさい……。ごめんなさい……。』　なんだろう……。日本に帰っているとこの声が聞こえる気がする……。　（誰なんだよ！？）　答えは返って来なかった。霊に取り憑かれているかもしれない恐怖感があった。とにかく、プレイヤーを買って……。（名前……。なんだっけ……？）『莉奈だよ……。』（また出たー！）『酷い……。』　特に悪さをする訳でもなく、こうして話しかけてくる謎の少年らしき声……。一体何者なのか……。『ボクの事知りたいの？』「わー！ごめんなさい！ごめんなさい！話しかけないで！怖いんだよ〜！」『パパは怖がりなんだね♡』「パ、パ、パ、パパ〜！？」『あ！いっちゃダメだったんだ！』　周りの人が一斉に振り返る……。一斉に見られた事で恥ずかしくなってその場から立ち去り急いで車に乗り込んだ。（なんだよ、何だよ！パパって！え？水子霊か？え？あの子とやった時か？それとも、あの子か？いや、あの子かも……。）「わー！ごめんなさい！ごめんなさい！俺が手当り次第やっちゃったからこんな事になったんだよな？本当にごめんなさい！ちゃんとお墓行くから本当に許してください！」『へー。酷いねぇ。その事、あの綺麗な細いお姉ちゃんに伝えておくね。』「わー！頼むそれも言わないでー！」『ほら！早く行かないと色々と遅れちゃうよ？』「そうだ！急がないと！」　何が何だか分からないうちに、電気屋を出て病院へ向かった。余りにも奇妙過ぎて車で運転している時にバッグミラーを常に見ていた。けれど車に乗っている最中や、歩いている時は何も話しかけて来ることはなかった。　車で走っている途中に花屋が目に付いた。（花買って行くか。『ガーベラ』と『かすみ草』は……。）　花を作って貰い、後部座席に乗せた。　（これくらいの量で良いかな？足りないかな？でも、あるだけ全部してもらったから……。いいか？）　正直、花束を購入する事が初めてでどれくらい買えばいいのか分からなかった。病院に到着し、花束を持って歩いていると周りの患者さんや看護師が花束をみて驚いていた。　（何かおかしいのか？確か……。病室5階だったよな？上の名前なんだっけ？アイツ『莉奈だよ』って言ってたよな？）　　病室を1件ずつ確認をしていると、『米田莉奈』の名前が出てきた。　（そうだ！この名前だ！）　ノックをする所もなく、突然カーテンを開けるのも失礼だと思って声でノック音をたてた。すると、ゆっくりとカーテンを開き始めると丁度顔の真ん前に花束が来る感じになっていた。「わっ！なに？」「ヘヘッ！びっくりした？」「え？なんで？」「忘れたのかぁ？見舞いに来るって言ったじゃん。」「え？本当に来ると思ってなかった！」「俺は約束を破らないって。ところで調子はどう？歩けるようになった？」「はい！もう入院してると退屈すぎておかしくなりそうですよ〜。」「そっかぁ！今日は、そんなことだろうと思って！あ、これ！俺の新曲が入ったCD！あと、これプレイヤー。お見舞いだからな！」CDを持ったまま、微動だにしなかった。「え？持ってた？要らなかったか？」「ハハハッ！だって、全てがサプライズすぎるんですもの。凄く嬉しいです！この花束もこんなに大きいし、一般人こんなに大きな花束買わないですよ！」「え？そうなのか？まぁ、俺はスターだからなぁ。」嬉しそうにCDを握りしめ瞳をきらめかせていた。　（そんなに嬉しかったのか？ある意味ちょっと恥ずかしいな。）　「CDも嬉しい！本当に嬉しい！グループじゃないんですよ！こうしてお見舞いに来てくれるなんて夢の様ですよ！」　グループじゃないのにこんなに喜んでくれるのか？見舞いがそんなに嬉しい物なのか？俺がここに居ることがそんなに不思議なのか？　「でも、ちゃんと現実だからなぁ。こうして、ここに立ってる。」　手を握ると嬉しそうに微笑んだ。　「私、デビューイベントに参加していたんですよ。こうして、握手してくれたんですよね。」「お？来てくれたんだ！覚えてるよ！」「嘘つき！絶対覚えてない！じゃ、聞くけどどんなヘアースタイルだった？」「え？えっとな〜。確か……。三つ編みしてたな！」「残念でした〜。ショートヘアーでした〜。」「あー！そうだ！そうだよ！ショートだった！」「……。大嘘つき！」　楽しそうに笑顔を見せてくれるとこっちまで嬉しくなっていた。そういえば……。解散した後の事知らないんだろうな……。少し話をするか……。過去の辛かった時の話は余り語りたくはないが少しくらいならいいだろうと教えた。　真剣に話を聞き、時には涙ぐんだりしていた。　　合間に看護師が検診にやってきて、その姿を見ていた。（この子は一体どこが悪いのだろう……。後で看護師にこっそり聞いてみるか……。）電気屋で少し時間を取ってしまったばっかりに収録時間が、迫ってきたいた。「今日はテレビに生出演するんだ。」「え？ほんとに！？絶対見なきゃ！かーくん出るんだもんね！うれしいなー！」「で、明日はクリスマスライブだぞ！」「えー！良いなぁ！行ってみたいなー！歌声生で聞いてみたい！」「君、来られないもんな。よし！一曲歌ってあげるよ。」　　歌っていると突然目を潤ませて泣いていた。　「おいおい！泣かないでくれよぉ！」「あ！ごめんなさい！なぜか分からないんですけど出ちゃいました。」　自分の曲は泣かすほどなのだろうか……。ちゃんと伝わっているのだろうか……。　「ありがとうな。」「え？」　何故か頭を撫でていた。　　（な、なんだ！？なんで頭撫でたんだ？）「なんだろな。無性に撫でてあげたくなった……。っと！そ、そろそろ仕事行かなきゃな！」　自分のした行為が恥ずかしくなって誤魔化した。　「また、時間空いたら見舞いにくるからな。次は外で話をしような。」「はい！色々とありがとうございました。花束もこんなにたくさんいただいて。」　「じゃぁな！」　病室を出ると喜んでくれた事に気分が良かった。廊下を歩いていると検診をしてくれていた看護師が巡回をしていた。（そうだ。彼女の病状教えてくれるかな？聞いてみよう。）　「看護師さん、ちょっといいですか？」「はい？」「あの子、どこが悪いのか教えて貰えますか？」「あー。すいません。まだ、病状はよく分からないんです。精神的なものがあるのは確かなのですが……。」「退院とかは？」「決まっていないんですよ。精密検査が近日されるみたいなんですが…。御家族の方でないと詳しいことはお話出来なくて…。」「そう……ですよね。わかりました。ありがとうございます。」（そうだよな……。深入りする必要ないよな。聞く必要なんてない……。）　『支えてあげて。』「え？」　その一言を伝えられると声は聞こえなくなった。（支えてあげてって言われても……。何？中途半端過ぎて気になるじゃん。）　車に乗りテレビ局へ向かいメイクをし、軽く打ち合わせをし、本番に入る。　久しぶりのテレビ番組収録で余計な事を言っていないか少し心配になったが、番組の最後に明日のライブの宣伝をし、無事終了した。　「お疲れ様でしたー。」「今日は出演ありがとうございました！所で、星川さん時々話を聞いていない感じありましたけど何か悩み事でも？」「え？そんな感じあった？」「はい……。」「あー。夕飯何を食べよーかなーってね！」「はい？それであんなに真面目な表情されるんですか！？」「こう見えても、俺はどんな事でも真面目に考えるからなぁ！」　スタッフ一同は笑い、誤魔化した。あの子は番組を見て笑ってくれていたのだろうか？　翌日はクリスマスライブで設立記念日でもあり、最高な1日を過ごすことが出来た。ライブが終わると雑誌の取材などを受けたり、年末のスペシャルゲストとして生出演が急遽決まった。（なんか……、日本に帰ってから忙しいな。ニューヨークに戻るのが大晦日になりそうだな。それまでにもう一度……。って何会いに行こうとしてるんだ！？別に会いに行かなくてもいいんじゃないのか？ファンの子だぞ？そうだよ。別に……。）　なんだかんだと大晦日にまで仕事が入り、飛行機のチケットも取れなくなり友人の自家用ジェットでニューヨークへ戻ることになった。事務所のスタッフは大掃除をしていた。花瓶の花を入れ替えしている姿をみて思い出した。（あ……。あの子に送った花も、萎れている頃だろうな。）「ちょっと出てくる。」「かーくん、夕方には帰って来てよ？飛行機間に合わなくらるから。」「わかった。」　車に乗りこみ花屋へ向かった。男性店員に花束を繕ってもらっていると白いバラの花が1輪残っていた。「すいません、この花もお願いします。」「あ♡わかりました。」　バラの花を1輪別に繕ってくれ手渡してくれた。「頑張ってくださいね！」「えっ？何よ？」「白いバラの花束1本と言うことは……ですよね？」「ち、違うよ！ほら、1本だけ残ってるじゃん！」「在庫ありますよ？あ、在庫が必要と言うことは……！」「あー！わかった！わかったよ！こ、これは挨拶だからな！」　店員は笑顔を見せながらなだめていた。自分もバラを購入した時に彼女の笑顔を想像していた。　白いバラ1本の花言葉は……。『一目惚れ』　美奈とは違った感情だった。
15Jun
- ～番外編～〘和海ストーリー〙③
  3ステージが終演し、気がつくと車椅子に乗って病院に運ばれていた。氷のうで首と脇を冷やされ額にはシートを貼られ、手が震え身体が動かなかった。「ほ、星川さん！？」　（天使……？）　顔を少しあげると、心配そうに顔を覗き込む天使がいた。　「あっ、あの大丈夫ですか？冷たいドリンク持ってきましょうか？」　（ドリンク……？）　目を凝らして見ると、あの時の女の子だった。　「あ……。キミはあの時の……。ごめんね……。お願いしてもいいかな……。」「今持ってきますね。」　走る足音が遠ざかり、再び近ずいてきた。すると口元に飲み口を当てられると少し頭を上げられた。「大丈夫ですよ。すぐに良くなりますからね。」「ありがとう。」　　すると冷たい水分が口の中に入り始めた。喉に差し掛かると体は水分を欲しがるように一気に飲み干した。　「おっ！いい飲みっぷり！まだ飲めそうですね！」　褒められると嬉しくなった。今度は蓋を開けた状態で手渡されると再び飲み干した。　「まだいけそうですね！もう少し持ってきますね。」　再び買いに行きそれもまた飲み干した。身体が満たされたのか、体力が少し回復した。　「本当にありがとう……。落ち着いたよ。」　看護師の呼ぶ声が聞こえ車椅子を押し始めるととマネージャーが慌ててやってきた。　「お大事にしてくださいね。」　優しく微笑み見送ってくれた。診察室に入り、診察を受けるとオーバーワークの末に熱中症という判断が下された。点滴を受けながら明日の最終ステージの事を考えていた。必ずやり遂げなければ……。点滴が終わる間何も考えずに眠っていた。夢を見ていた。朝日が登る前の瑠璃色の空にうっすらとオレンジ色した朝日が上り始めるのを小さな少年を挟み手を繋いで見ている女性と笑いながらその景色を見ていた。『パパ！無理しないでね！』　自分に向かって小さな少年は微笑むが朝日に照らされていて顔が分からなかった。　目を覚ますと、蛍光灯と点滴が見えた。（あー。病院に来てたんだったな。さて……。明日の為に備えて早く帰るか……。）　起き上がろうとした瞬間、めまいがして気分が悪かった。「星川さん、点滴終わりましたね？今日と明日はゆっくりお休みしてくださいね。」「いや、明日最終ステージだから意地でもステージに上がらないとね。」「先生は無理だって言ってたじゃないですか？無理せずゆっくり休んで……。」「帰ります。寝てる場合じゃないんで。」「ダメですよ！まだ体力も戻っていないんですから！」「かーくん！先生の言う事ちゃんと聞いて！」　（俺はスーパースターの『星川和海』なんだからステージに穴を開ける訳にはいかない！）　ベッドから立ち上がり、点滴室から退出をした。　「かーくん明日は中止をした方がいいよ!そんな体ではあとが続かないよ！」「大丈夫だから！明日もステージ立たなきゃみんな待ってるだ！無理してでもステージ出なきゃスターじゃないだろ！」「いや、でも今日の明日では本当に先が持たないよ！」　　数歩歩くと足元がふらついて倒れそうになってスタッフに支えられたが振りほどき歩こうとした。　「そんな体でステージに立つ気なんですか？ボロボロになっている体でファンに本当の笑顔出すことできるんですか？体を万全にしてステージに立つのがスターなんじゃないですか！？ファンが大切で期待を裏切るなんてできないこともわかります。でも、かーくんを支えてるのはファンなんですよ？ファンもかーくんに気持ちを支えられてるんですよ？ファンの為に体を大切にしてくださいよ！」　目の前にあの女の子がいて、涙ぐんで怒っていた。久しぶりに叱られた。美奈がいなくなってから誰にも叱られたことはなかったまだ、2度しかあったことの無い、名前も知らないファンだと言ってくれる女の子に……。　「あのっ！体大切にしてくださいね。」「お前、何言ってんの？本当にすいません。訳のわからない事言ってしまって……。莉奈、帰るぞ。」「ずっと応援していますからね！頑張ってくださいね！」　あの時の彼氏……だろうか。女の子は腕を引っ張られその場を離れて行った。話は解決したのか？仲良くしているのならきっと幸せなんだろうと感じ取った。「なんなんだ！？なんなんだよ！」「か、かーくん！？」「あの子、スーパースターの俺を怒って帰って行ったぞ！？怒ってるけど……。」　嬉しくなった。ファンの彼女が言う通り体を万全にしてステージに立つこれぞスターだ。「明日のステージ、延期にしよう。チケットはそのまま有効で。同じ会場抑えておいてくれないか？」「それでこそスターだよ。了解！待たせといて。かーくんはゆっくり休暇を取って！」「だな。」　その後、ファンへのお詫びのお知らせをする形となり、ありがたい事にキャンセルの対応は以外と少なく、体の心配をしてくれるファンが花束を送ってくれたりしてくれていた。（あの子にもお礼を言いたいよな……。もう合うこと出来ないのかな……。ファンなら会員に入って……。名前聞いてないな……。仕方ないか……。会いたいよな……。）　会いたい？会えるわけないだろ！自分の中で不思議な感情が生まれかけていた。この、日本中で名前もなんの手掛かりもないわからない子を探すなんてできるわけがない。忘れよう。その方がいい。『近いうちに会えるよ。』　頭の中で久しぶりに少年の声が聞こえた。「だからなんなんだよ！誰なんだよ！」　マネージャーの隣で思わず怒鳴ってしまった。　「え？何？かーくん……。ついに頭やられた？」「はぁ！？」　大御所のおかげでグリーンカードを取得が出来、自由に行き来することができるようになった。それ以来、日本にはライブ活動で戻る様になり、ニューヨークではブロードウェイミュージカルの出演や、プロデュースを手がけるようになった。しばらくの間、日本には戻ることは無かった。　数ヶ月後日本でのライブ活動の為戻る事になった。知り合いが体調を崩し入院をし、お見舞いへ向かい帰ろうとした時だった。　（そういえばこの病院で会ったんだよな。俺が車椅子に乗せられて……って！？）　　看護師が押す車椅子に乗った女の子がこっちに向かって来ていた。「ん？あ……！君はあの時の！」「え？あ！うそ！かーくん！？ど、ど、どうしてここに！？」　　（こんな偶然あるのか！？）　　事情が分からず入院していたそうだった。会えたことが余程嬉しかったのか足をばたつかせていた。　　（あの時のお礼を忘れずに言わないとな）　「あー！そうだ、あの時はありがとうね。君が注意してくれなかったら最悪なステージになる所だったよ」「え？じゃ、次の日お休みされたんですか？」「ファンの子達に申し訳なかったけど、あんなこと言われたらね」この子のおかげで最高のステージが出来た。ファンの皆も喜び、スタッフ一同も皆が無事に終われた事を喜んでいた。　　（部屋に戻る途中？）　「あ、病室まで送ろうか？」「え？お仕事が……あるんじゃ……。」「まだ、リハまで時間あるから大丈夫だよ。」　　少し2人で話がしたくなった。　「あ、僕が病室連れて行くんで変わります。」「では、お願いします。米田さん、またなにかあったら今度はちゃんとナースコール押して下さいよ」「あ……。わかりました。すいません。」　　車椅子を交代すると恥ずかしそうにしていた。　「じゃ、行こっか。」「あ、はい。すみません……。」「しっかし、偶然って本当にあるんだなぁ。病院に来てから君に言われた時のこと丁度思い出したんだよ。」叱られた直後の話やその後の話をしていると、ありがたい気持ちでいっぱいになっていた。話が楽しくて部屋を通り過ぎた様だった。このフロアのどこかに部屋があるということだった。　　Uターンをしていると、足をばたつかせている事に気がついた。　「ん？具合悪い？」「ち、違うんです！嬉しすぎて、恥ずかしくて……。我慢できないんです……！すいません……。」「はははっ！そんなに好きだったのか！前はそんな素振りしてなかったのにな！あの時はー、あーそれどころじゃなかったよな。」「あの時は……。ねー。」「嬉しいなぁ。俺のステージ見に来たら良いのに。ファンクラブ入ってないの？」「ごめんなさい。入っていなくて……。」「そっかぁ。入ってなかったのぁ〜。俺の情報満載……って程でもないけどな。ライブ情報、グッズとかイベントとか載せてるんだ。」「そうなんですね！入っちゃおっかな！退院したら！」「じゃ、退院するまで俺が情報提供してやるよ。」　（え！？俺今なんて言った？）　「え？」「見舞い！俺、こう見えて暇だからな。」　（え？俺なに言ってるの？）　「え？暇なの？」「リハ終わった後とか、ずーっと酒飲んだりサウナ行ったり筋トレしたりしてるよ。曲作ったりとかもしてるかな。NYいる時はミュージカル行ったり、映画行ったり、友達のライブ行ったりかな。」「ニューヨーク……？」「俺、ニューヨークに移住してるんだよ。日本には仕事でくる感じだなぁ。」「そう……。なんですね。ニューヨーク帰っちゃったら、またわからなくなっちゃいますね……。あ、ファンクラブ入ればいいのか！絶対入りますからね！」　　Uターンをして、しばらく歩いていると病室に名札が着いていた。「あ、あった！」「米田莉奈？っていうの？」　（米田莉奈ね……。）　「はい！フルネームでかーくんに呼ばれちゃった。恥ずかしい！じゃぁ、ここで大丈夫です！ありがとう……？」「ベッドに1人で戻れるのか？」「……。大丈夫ですよ！何とかなります！」　（大丈夫な訳ないだろ。歩けないから車椅子に乗っているんだろ？）　　病室に入りベッド脇まで連れて行ったが立てるはずがない。　「ありがとうございます。」　　立ち上がろうとしていたが足元がおぼつかない様子で腕を掴んだ。　「ほら〜。立てないだろぉ。ここは、甘える！な？」「す、す、すみません！」「辛い時は1人で抱えるんじゃないぞ？周りの人に甘えるのも時には必要だからな。誰かが手を差し伸べてくれる。」　ベッドへ座らせ無意識に大御所が俺に言った言葉を思い出していた。彼女を見ていると以前の自分を見ているようだった。誰かの支えがないと歩くことが出来ないのに無理して前に進もうとする……。その後は痛い目に必ず合う。今の状況とは違うかもしれないけど……。時計を見るとリハーサルの時刻が迫っていた。　　「じゃ、そろそろリハの時間だからもどるよ。また、見舞いにら来るから。その時には歩けるようにするんだぞ。」「ありがとうございました。あ、あのっ！」「ん？どうした？」「あ、あのっ、いえ、な、なんでもないです……。」「じゃ、またくるから。」（アレ……？またくる？まぁ、見舞いあるしな。良いか！）　病室を出ると、小さな声で『キャー♡』と若干黄色い声援らしき物が聞こえ思わず笑ってしまった。　（次は花でも持ってくるか！）　
- ～番外編～〘和海ストーリー〙②
  美奈を失い、事務所を退所し新たに個人事務所を設立したが元いた事務所から根回しをされことごとくテレビ出演、音楽会社に出禁をされ続けていたが大御所の番組には出演する事はできた。「星川久しぶりだな！」「お久しぶりです！出演させて頂いてありがとうございます！」「前の事務所から連絡が来て出演させるなって圧力かかってきた見たいだけどお前、前の事務所で何したんだ？」「これと言ってはないんですけどね。事務所のこと暴露されたり、裏事情話されることが怖いんじゃないですか？」「話される前にお前を芸能界から追放しようって感じだな。」「そうなんですかね。僕は芸能界に入らせて貰ったことに感謝しているんで何かあったとしても何も言わないですよ。今、こんな目にあっていますけど、それも試練なんで全て受け止めますよ。」「お前変わったな。向こう行って何か影響あったみたいだな。」「そうですね。かなりありましたね。今は自分の信じることを貫き通すことですかね。」「ようやくするべき事が見え始めたようだな。よし！お前のバックアップをしてやる。他の奴らにも声掛けておくからこれからの事は任せとけ。向こうに自由に行けるようにもしてやるよ。」「いやっ！大丈夫ですよ！」「この世界は潰し合いの所がある。現にお前はその現状に立たされている。でも、腐らずにそれをひとりで乗り越えようとしているだろ。ひとりで乗り越えようとしても限界がある。その手助けをするそれに甘えろ。お前も上になった時に若手を支える事ができるようになる。この世界のトップスターになった人間でお前には根性があって、優しさもある。尊敬されるスーパースターになれ！俺たちは待ってるぞ！」　（だれからも尊敬されるスター……。）今までずっと自分の事ばかり考えて来ていて周りに人がいるのが当たり前で全て人に任せていた。　事務所を退所して、ひとりになって周りに仲間や仲良くしていた人物がいなくなってしまっていても、自然と関わって心配くれていたのは大御所や大統領、医者、社長と大物ばかりだった。今も尚可愛がってくれている。ありがたい事だった……。　相変わらず、仕事のスケジュールが上手く行かず決まっていたミュージカルさえも元いた事務所の圧力がかかり、急遽会場からストップをかけられ中止となった……。「クッソ！俺が何したって言うんだよ！」　腹が立ち、事務所の扉に蹴りを入れた。　「かーくん！落ち着いて！いつかまたできる日が来るから！」「もういいよ！芸能界なんて辞めてやる！」「かーくん！？ちょっと待って！」　ギターだけを持ち事務所から出た。（なんでこんなことになるんだよ……。）　苛立ちながら歩いていると目の前に公園が目に入ると周りには誰もおらず、噴水の音だけが響いていた。ベンチに座り、何も考えずに噴水を見ているとただなんとなく歌いたくなり、ギターを取り出した。ギターを奏で、歌っていると走って泣いてベンチに座った女の子がいた。　（ん？どうした？泣いているのか？あの年頃だと……。）　歌を止めることなく続けていると涙を流しながら女の子はこちらを見ていた。（気が付かれたか？まぁ、良いか何曲か歌ってあげるか。）　数曲歌うと泣き止んで嬉しそうな顔をして歌を聞いていた。夕日が沈んだ頃に走る足音が聞こえるとその子の彼氏だろう、彼女の元へ行き抱きしめていた。（ケンカでもしたんだな？仲良くなれたのなら邪魔しちゃ悪いな。戻るか……。）　ギターをケースに入れ戻る支度をしていると、もう1組カップルが走ってきた。　「まーくん！？」　（ん？あっちが彼女？）　抱き合っていた女の子の方は彼氏らしき人物を突き放していた。　「どうして？どうして！」　（あらー。三角関係って所だな。面白そうだからしばらく見てるか……。）　　彼女は抱きしめていた男を問い詰めていたが、抱きしめられていた女の子は別の男に捕まっていた。（わぁ。修羅場だなぁ。他人事ってちょっと興味わくなぁ。声も微かに聞こえる。）　「逃がさないよ？」「あ、あのっ……。私……。」「君、彼に彼女いるの知ってる？よね？」　（やっぱり三角関係か！？）　「知っています……。だから？好きな気持ちに関係ありますか？好きだから一緒にいたいそう思うのはいけないことなんですか？」「でも、あの子達は……。」「私が好きな人にたまたま、彼女がいただけなんです。」（強気な女の子だな諦めないのか？まぁ、たまたま彼女がいたってなら仕方ないよな？）　「……。そっか。それは仕方ない事だよね？君たちは付き合っているの？」「……。付き合ってはいません。」　（男側浮気じゃん！）　　「じゃ、問題ないよね？話があるからちょっと来て。」　（ん？問題ない？どういうことだ？彼女じゃないこと分かったら何かするのか？……にしても、あの男デカいなぁ。女の子見えないじゃん。）　　女の子の手を掴みどこかへ行こうとしていた。　「離してください！」　（嫌がってるぞ？そりゃ、訳が分からないよな？）　しばらく様子を見ていたが、腕を掴み女の子は全力で嫌がっていたが簡単に引きずられていた。　（なんか、ヤバそうだな……。）『早く助けてあげてよ！危険な目に遭っちゃうよ！』　どこかから声が聞こえた。（な、なんだよ。誰だよ？関わっちゃ、やばいだろ。）『何言ってるの！早く！』「わかったよ！行きゃいいんだろ？面倒な事に首ツッコミたくないんだけどなぁ。」　誰だかわからない人物に後押しをされ、2人の元へ行った。「ねぇ、そこの人！そこの体の大きなお兄さん。」　大きな男は振り向いたが手を離さなかった。「彼女嫌がってるでしょ？こんな柄の小さい子が全力で拒否しても無駄なのわかってるでしょ？女の子の扱いわかってないなぁー。」　（とにかく手を離さないと身動き取れないよな。）　「女の子はね、優しく扱うの。ちょっといい？」　男の手を軽く添えると、女の子から手を離し黙って話を聞き始めた。（このまま逃がそう。）　「手の握り方も力を入れちゃだめ。お姫様を扱うみたいにそっと握って……。」　男は黙って手を見ていた。その隙に女の子の耳元で呟いた。　（おい！これからダッシュで逃げるぞ！着いてこい！）　（えっ！）「行くぞ！」　手を強く握り離さない様に全力で走った。（ついて走れるかな？）　　後ろを見るとデカい男も全力で走っていた。女の子を見ると後ろを気にしながら全力で走っていた。　（頑張れよ！とにかく事務所に逃げ込もう。）　事務所の入口を開き中へ案内をした。　「ここまでは近ずいて来ることないよ。大丈夫だった？」「あ。はい……。ご迷惑かけてすみません……。」　息切れもしているが、震えていた。　「なんか揉めてたね〜。」「すみません……。」「まぁ、ゆっくりしていきなよ。今行くとあの、大男がいるかも知れないからなぁ。」「すいません……。」「『すいません』ばっかりだな！」「すいません……。」　　女の子は寒いのか怯えているのか分からない状態で謝り続けていた。　「牧子ー。暖かいコーヒーでも飲ませて上げて。少し落ち着くだろ。」「あら？大丈夫？そこのソファーに座ってゆっくりしなさいよ。」「ありがとうございます……。」「あ、ありがとう言った！すいません以外話せるんだな！」　笑いながらソファーに座り落ち着かせようとギターをひいていた。（あの少年の声はなんだったんだろう？）　流す程度にギターを弾いていると女の子と目が合った。「何俺の事じっと見てるの？」「あ、いえ……。なんでもないです。」　（まさか、俺の事知らないとか言わないよな？）　「かっこいいなぁ〜って思ったでしょ？わかってるって！かっこいいのは！」　（本当に知らないのか！？）　「あ、あの……。」　　（気がついた！？）　「早く言ってよー。かっこいいって！」　「そ、そうですね……。あの、私これで……ありがとうございました。」（分からないのかー！なんだよー。同世代だろ？知ってるはずだろぉー？）　「もう、大丈夫なのか？家まで車で送ってやるよ。ちょっと来てー。」「え？あ、いえ、大丈夫です！」「悪いけど彼女家まで送ってあげてくれる？それから……。大きな男に気をつけろ？まだうろついているかもしれないからな。」外の様子を確認をした。　「あと、これを渡しておいて。何かあったらここに電話する様にって。」　　マネージャーの耳元で周りに聞こえないようにメモ紙を手渡した。　「了解。」　女の子の顔を見ると不安げな表情をしていた。　「マネージャーに送らせるからね。」「あの、本当に大丈夫です！私ひとりで……。」「あんな目に会って大丈夫な訳ないだろ。俺が行ってあげたいけど、そうも行かないからな。」「あの……。もしかしてなんですけど……。」　傍に貼ってあったフライヤーを見ていた。　「え……！うそ！」「いいよ？そのフライヤー持って帰って。」　（舞台がダメになってしまったからな……。）　「車の用意できたよ？行こうか！」「星川　和海……。」「うん。わかってると思ってたけど……。」「あ、あの！私ずっとファンだったんです！」「そっかぁ！ありがとうな！」　（ファンだったんだ。ファンだったら気がつくだろー！）　ツッコミを入れたかった。　「車も来たし……気をつけて帰るんだぞ？」「あ、ありがとうございました。」　車に乗り込む所を見送ると寂しそうな表情を見せてきた。「また、きっといつか会えますよね？体大切にしてくださいね。それから……。素敵な曲を聞かせてくれてありがとうございます。心が落ち着きました。」「必ずまた会えるよ。約束。こんな形じゃなく、また必ず会おう！」「あ……。はい！お会いしたいです！」　彼女の天使の様な微笑みに一瞬で何かを鷲掴みにされた気がした。　「本当に大丈夫？気をつけるんだぞ？」「ありがとうございます。」　どうしてだろう。彼女を見ていると初めて会ったのに不安な気持ちと安らぐ気持ちがあった。　『助けてくれて、ありがとう。』　頭の中でまた声が聞こえた。　（だからなんなんだよ！怖いからさぁ。）　不思議な声はその時以来聞こえなくなっていたが不思議な事があってから以降、舞台公演をしてほしいとの依頼、コラボでの音楽活動、テレビ出演など、順調に仕事が増え始め、ファン人口も増え続けていた。ライブ活動も増やしできるだけファンとの交流ができるようにイベントやグッズ販売も増やす様になった。色んな事をプロデュースをする様にもなり、毎日多忙に暮らせる様になった。ライブを全国各地で行う様にし、多い時で1日3ステージをする様にしていた。「かーくん、大丈夫？今日顔色悪いよ？」「大丈夫だよ。こんなの寝てりゃすぐに元に戻るよ。」「本当に、今回のライブ詰め込みすぎだよ。」「そうか？昔は1日3ステージ当たり前だったぞ？」「昔は他の方もいたし、休憩も出来ただろうけど今はひとりなんだよ？休憩も少ししか出来ないじゃない。」「俺だよ？スーパースターなんだよ？出来ない訳無いじゃない！」　とは、言ったもの……の体力は限界だった。次の日のステージをクリアすればしばらくの間休暇を取れる。　　3ステージを終えた瞬間目の前が真っ白になり倒れた。
12Jun
- ～番外編～〘和海ストーリー〙①
  「撮影入りまーす！」　15歳で事務所の社長にスカウトされ、同じ事務所の同期と初めて雑誌モデルの仕事についた。色々な服を着せられ、撮影をする……。これが芸能界の仕事……。何が良くて何が悪いのか分からないまま、ただ言われた通りに動き撮影をしていた。　社長から30人ほど呼び出され好きな様にダンス自主練習をしていたが求められていたダンスはアクロバットが出来る様なダンサーだった。できない人はできるように日々練習したり、できない人は参加をやめていた。自分はできる側で、他の仲間に教えていた。残った人数は10人になっていた。社長曰く、自主練習じゃなくオーディションだと言うことだった。自ら去って行くものはデビュー先延ばしとなり、残ったメンバー10人の中から7人が選ばれ、学業の都合上、そのうちの4人が先にテレビ番組のオープニングソングを歌い踊るということになった。グループ名は『Jewelry』と名ずけなれたがメンバー1人が年齢が1番高いためメンバー入れ替えとなり、そのショックで事務所を退所した。『Jewelry』は4ヶ月後にデビューが決まり、慌ただしい毎日を送っていた。数々のテレビ番組出演、数え切れない程のイベントに参加をしてリーダーが代表し話をしていたがこれと言ったインパクトがなく、これでいいのか？と疑問を抱き始めていた。並び配列があり、自分は後列の真ん中にいたり左端にいたのだが配列変更をされた。「キミが対応をしなさい。」「俺！？いや、僕がするんですか！？」「なんでもいい。聞かれたことを話すればいい。あとは、笑顔で笑って。キミは『アイドル』なんだから。」「アイドル？」「そのうち分かるよ。」「はぁ……。」　リーダーと場所を変更し、自分が話す様になるとカメラは集中して集まり出した。とにかく笑っていればいい。人気が上がれば良い。しばらくしてデビューイベント会場では今まで以上の来客数が会場に集まりメンバーの会話が聞こえない半端ない声援になっていた。曲紹介を終え、少しのトークに最後は握手会で終了だった。ファンひとりひとりに『ありがとう。よろしくね！』と笑顔を交わしながら答えていた。　　ある女の子と握手を交わした途端目の前の光景が変わった。周りは朝焼けの様な綺麗な澄んだオレンジ色した光が差し込んだ。『やっとあなたの元にたどり着けたよ。』「は？」　そこには自分と良く似た少年がいた。小麦色の肌に屈託のない笑顔でこちらに向いて歩いて握手を求める。　（あ、握手会だからか……。）　握手をすると眩い光と共に体内に何かが入り込む感じがすると目の前には背の低い女の子が天使の様に微笑んでいた。「頑張って下さいね！」「ありがとう！」（なんだ？今の……。）「進んでくださーい！」　スタッフに押され次のメンバーと握手をしていた。次の女の子は特に何もなく、さっきの女の子の前には男の子はいなかった。（怖！気持ち悪！）　その当時は、恐怖体験として忘れる事にしていた。　　毎日が怒涛のように忙しくしていたがそれなりに豪遊したり、恋愛もそれなりにしていたが本気にはなれなかった。　元々自分が憧れていたアイドル『本田美奈』と話ができるようになり、叱ってくれたり、一緒に喜んでくれたり友達の様な、姉の様な存在だったが月日が経つ事に彼女自身の存在が大きくなり、いなくてはならない存在になっていた。ついたり離れたりと頻繁に繰り返していたが、彼女の偉大さに気が付き、プロポーズをしようとしたが断られた。「気持ちは嬉しいけど、今はそんなこと言っている場合じゃないでしょ？デビューしてまだ3年じゃない。今はする時期じゃないでしょ？ファンの為にまだまだ頑張って行かないと！それに事務所が許す訳がないじゃない。良く考えなさい！」　美奈は笑いながら答えた。案の定、事務所に言っても相手にされず話は流れた。それからも美奈と交際は続けていたが2年後突然別れを告げられた。「美奈！なんでだよ！意味がわからないよ！俺たちいずれ結婚するって……！」「和海……。ごめんね。私、音楽と結婚する。死ぬまでずっと歌い続けたいの。」「俺じゃダメなのかよ！」「ごめんね。」　意味がわからなかった。美奈とは連絡が取れず音信不通になり、真実を知ったのは半年後の事だった。舞台の千秋楽を迎え、幕が降りたと同時に倒れ緊急搬送され重体という緊急速報が流れた。急いで病院を探し出し駆けつけると面会謝絶となっていた。「なんだよ……。どうしたんだよ……！」「和海くん？」　美奈の母親が涙ながらに近ずいてきた。「はい……。どうしてこんなことに……。」「やっぱり美奈は和海くんに心配かけたくないから伝えていなかったのね。」　別れを告げられる数ヶ月前に謎の発熱をし点滴を受けながら舞台に立っていたが後日、病院に調べてもらうと『白血病』という診断を下されていた。その事を話するはずだったが顔を見た瞬間に心配をさせてはならないと言う事が浮かび、『音楽と結婚する。死ぬまで歌い続けたい』という言葉を選んだ……。そして、病状がよくなると、ステージに立ち歌い続けていた。（先が長くないから別れを選んだ……？なんだよ……。なんでなんにも言わないんだよ！心配かけたくないとかなんだよ！）　ICUに入っている美奈に扉の外から声を出さずに1度だけ扉を軽く叩き叫び泣いていた。その日から毎日病院へ向かう様になった。4日後、美奈は一般病棟へ移る事となった。身体は以前よりも痩せ、抗がん剤で髪の毛も全て抜け落ちていた。「美奈……。目を覚ましてくれよ……。たくさん謝りたいんだ。お前の笑顔見せてくれよ……。」　手を繋ぐと涙が止まらなかった。「……か……ず……み……？」「美奈！」「なかな……い……で……。わ……たしは……い……つも……あなたを……みて……いる……から……。」「美奈……。」　目を覚ましたが瞳に光はなく、何も見えていない感じだった。　「みあ……げて……ごらん……よるの……ほ……し……を……ちい……さな……ほしの……ち……いさな……ひかりが……ささ……やかな……しあ……わせを……うた……って……る……」「もういい！歌わなくていいんだ！」「か……ず……み……」「美奈！？」「私が……ずっと……好だ……った……曲……なんだ……よ」「元気になったらもう一度聞かせてくれよ。」　　力なく微笑みを見せた。　「か……ずみ……？」「ん？どうした？」「無理……しちゃ……だめだ……よ？」「しないよ。」「女の子……泣かせちゃ……だめ……だよ？」「しないよ。」「笑顔……、忘れちゃ……ダメ……だよ？」「わかってるよ。」「しあ……わ……せ……に……なって……ね」「お前じゃないと……」「ば……か……。あなたを……待って……いる……子がか……な……ら……ず……いる……よ……」「美奈……。」　優しく微笑むと、大きく息を吸い込み今までない力で手を握りしめ、静かに息を吐き出すと、笑顔を作り息を引き取った……。　その後……グループを解散し事務所を退所した。周りにいた人達は離れて行き、ファンも離れて行った。何が良くて何が悪いのか……分からないまま、カバンとギターだけを持って自分の事を知らない人が多いニューヨークへ旅立った。言葉の壁、街、生活環境が馴染まず、公園に座っているとホームレスが近ずき、話しかけてくる。「お前は日本人か？」　片言だが日本語がわかるようだった。　「オッサン、英語教えてくれよ！わかんないんだよ！」「それが人に物を教えてもらおうとする言い方か？」「お、教えてください。」「1回につき5＄だ。」「金取るのかよ」「それが嫌なら他に当たるんだな。」　その頃は自分自身にも金が底をつき始めていた。けれど、これから生きていく為に必要なことだと思った。「わかったよ。」「1日2時間だ。」「たったの2時間！？」「嫌なら……。」「わかったよ！2時間でしょ？いいよ！2時間で！」「なんだ？その言い方は？」「あー！もー！1時間でも2時間でも構いません。あなたの時間が空いている時でいいので英語を教えてください。よろしくお願いいたします！」「なんだ、ちゃんと言えるじゃねぇか。」「うるせぇよ！」「なんだ？」「お願いします！」　名前も知らないホームレスに英語を教えて貰うために、初めてアルバイトを始めた。片言だがなんとか働く事ができた。時には、何も知らずに麻薬を運ばされていた事もあった。半年ほど経って、ホームレスのオヤジはいつもの場所に来なくなった。　（最近、顔見なくなったな。死んだのか？）　なんとなくテレビを見ると、大統領が決まったと報道されていた。そこにはいつも英語を教えてくれていたオッサンがスーツを着て演説をしていた。（オッサン！？何してんだ？ってか、大統領！？なんだよそれ！）　驚きのあまり笑ってしまった。「オッサン、大統領目指してたのか？そういえば、俺の渡した金、子供達にパンを買って上げてたな……。そういう事だったのか！」　教える側にも大した負荷をかけず渡した金ですぐにパンを買いに行きホームレスの子供達を集合させ渡していた。『この子達は身寄りがない、親が貧困で苦しみ生活がやって行けなくて、育児放棄をしたりと様々な子供達が暮らしているんだ。満足に勉強も出来ないが自分達の力で頑張っている。できる限りのことをしてあげたくてな……。』笑顔で集まった子供達に手渡しているのを見ていた。『体を売ってまで生活している子もいる。まだ中学生位なのに子供を身ごもり、その子供を売ったりな……。人身売買だな。日本人でもいるんじゃないのか？自分の子供を売って収益を取る。ある子はそれが普通の事だと認識し、親に褒められるからするという子もいるだろう。普通では考えられない事が貧困層にはあるんだ。お前は……違うだろうな。何かから逃げてここにいる。何かを見つけたくてここにいるんじゃないのか？俺にはお前がこの先どうなろうとどうでもいい。お前が困っているようだったから手助けしただけだからな。』　この話を最後にオッサンは、大統領になり、貧困層を変えたいという願いがあったのだろう。後日、ホームレスに恒久的な住宅を提供するという対策をとり、300家族以上がホームレスから抜け出すことができたそうだった。自分も歌で誰かの気持ちを支えることができて、何かを伝えることができるのならと思い始めがむしゃらになって歌を作り歌っていた。アメリカでは結果が全てだ。この時は無くすものは何も無かった。　
14May
- ～番外編～笑顔がみたいから
  莉奈の体調が回復傾向に向かっていた。　少し前まで生死がかかっていたと言うのにケロッとしているのにはびっくりしてしまう。この数日間で疲れがたまり、少し体調を崩し風邪をひいた。この状態で病院にはいけない。病状も心配だったが行くことをやめた。自分の体調も良くなって莉奈の病院へ向かった。　（何を持って行こう……）　　車で走りながら何を持って行けば喜ぶか考えていた。　病院に到着し、病棟へ到着すると同じ花があちらこちらに花瓶に入って飾られていた。莉奈の病室のカーテンを開くと更に大量の花束があった。　「ここにも同じ花が！この階同じ花だらけだな。お前の所がいちばん多いけど、誰か来たのか？まさか……」「凄いでしょー。かーくんが来てくれたのー！これでも分けたんだけどねー。」「は？」　　笑顔で嬉しそうに話をしていた……。　「って、なんでまたアイツが来てるんだ！？」　　思わず言葉に出してしまった。　「アイツって何よ！見て見て！ＣＤも貰ったんだぁ。暇だろうからって。でね、今日ライブがあるんだけど行くことが出来ないだろうからって1曲歌ってくれたんだぁ。かっこよかったぁ。」　　久しぶりに満面の笑みを浮かべ話をしていた。ずっとこの調子で良くなって行けばいいのだが……。　「何？なにか持って来てくれたの？」　　コンビニで買ったお菓子類を、渡した。　「あ、ああ〜。コンビニでプリン買ってきた。アイツみたいにいい物買えないけどさ。」「プリン♡食べるぅ〜。」　　嬉しそうに封を開け食べていた。「今日ね、外出届け出して新居にもどろうっておもったの。現在地がどこで、どこに新居があるか分からなくて、帰るのやめたの。少しずつでも、行ける時に片付けしたいんだけど……。」　　転居する前に病院へ運んでいた事を忘れていた。　「あー。そういえばどこの病院かわからないよな。お前の部屋はこの病院から歩いて15分程の所だよ。明日、定休日だから一緒に戻ろうか！」「本当に！？うんうん！戻りたい！嬉しいー！」　次の日に一緒に戻る事にした。面会時間が迫ってきていた。「明日、楽しみにしてるね！」「おう。何時に迎えに来ようか。早く行きたいだろ？」「うん。2、3時間しか外出が出来ないからね。」「じゃあ、11時頃迎えに来るよ。お昼もどこかに食べに行こう。」「うん。嬉しいなぁ。久しぶりに外の空気が吸えるよ。」　いつもの様に笑っていた。　　約束をし病室を出てナースステーション前に差し掛かるとると看護師に呼ばれた。「担当医がお話があるそうなので面談室までお越しください」「あ。はい……。」　そのまま面談室へ向かうと担当医が難しい顔をして座っていた。「あ、お忙しい所申し訳ございません。」「何か……病状がわるいのですか？」「御家族の方の消息など分かりますか？」「母親と色々ありまして、今絶縁状態なんです。」「そうなんですか……。」「彼女さんで？」「いえ、友人……です。すいません。今の所は……。」「そうですか……。ご友人という事……ですね？」「あ、はい……。」（回りくどい言い方だな？）「時々、米田さんは変な言動や動きなどしている事など見た事はありますか？」「いえ……。特にないですが……。この前、シャワー室で急に眠くなったからって眠っていた事がありましたね。」「その時、何か感じませんでしたか？匂いとか。」「いえ……。特には……。」「そうですか……。」「米田さんはおタバコは吸われますか？」「そうですね。本数までは分からないですけど……。」「そうですか……。特殊なタバコなど吸ったり……。」「え？」「薬物に手を出してしまう方は、心に傷を負い自分では処理ができなくて誤魔化す為に頼ってしまうんですよね。」（薬物……。）　一瞬以前あった出来事を思い出した。シャワー室に入り、莉奈を抱えた時の呼吸が微かに匂いがあった……。「看護師から聞くところによると、疑わしい行動が見られ少し発作らしきものを起こしているようで後日、再検査をさせて頂きます。反応が出れば警察に連絡させて頂きます。」（え……。まさか……。）　不安が尽きることが無かった。　次の日病院へ迎えに行き、莉奈の部屋へ向かった。　「本当に意外と近かったね〜。自転車で来れる距離だね。」「頻繁に戻るつもりじゃないだろうなぁ。」「ン？なんのこと？かなっ！うわ〜！凄く綺麗に配置してくれてる！いつまで、この配置と綺麗さが保てるかな〜。このままにしてよ〜っと。」自分の着替えを引っ張り出し楽しそうにカバンに詰め込んでいた。突然動きが止まった。　「まーちゃん、明日私再検査するんだって。どこも悪くないのに。」　（先生まさか薬物の件を話したのか？）　「さ、再検査だろ？なんともなければすぐに退院できるじゃん。」「うん。そうだけど…。どこが悪いのか教えてくれてないのに、心臓とか脳とか言われたら不安になるよ。」「そうだよな……。でも、結構前から何か症状あったんじゃ無いのか？ずっと我慢してたんじゃ無いのか？丁度いい機会だから検査してもらえばどこが悪いとか教えてくれるだろ？」　莉奈は固まっていた。「どこも悪くないよ！」「じゃ、どうして病院で入院しているんだ？何か異常があったから運ばれたんじゃないか。」　目を逸らし誤魔化している感じがしていた。　　いつも我慢をする。もっと甘えてくれてもいいのに。もっと頼ってくれていいのに。寂しい気持ちになっていた。　　食事を一緒に食べいつものようにニコニコ笑い、話をしていた。書店の前を通ると立ち止まった。　「あ、本みてもいい？漫画本見たいんだー。」「おう。俺も何か買おうかな。」　　別々で見て回り数冊読みたかった本を手に取りレジへ向かおうとすると１箇所に立ち止まり本を持ったり、手放したりということを繰り返していた。　「買わないのか？」「面白くなかったら、買うの勿体ないし、でも読んで見たいし……。」　恋愛物の漫画だった。　「ふーん。読んでみろよ。面白くなかったら、もう買うことないだろ？」　一緒にレジへ持って行った。　「えっ!?えっ!?いいよ。勿体ないよ。買ってもらうなんて悪いよ！」「面白かったら自分で揃えて行けばいいだろ？」　（何遠慮してんだよ。1冊位。ずっとあたふたしていた。）　「悪いよ〜。私自分で出すよ〜。」　レジカウンターで目をキラキラさせていた。商品を貰い莉奈に渡すと、嬉しそうにしていた。　「いいの？本当にいいの？」「も〜！良いから。」　　満面の笑みを浮かべていると、何かに気づいたのか、不思議そうな顔をしていた。　「2階……。何があるんだろ？雑貨？行ってみていい？」「あ、うん。行こっか。」　　2階へ上がるとぬいぐるみや、雑貨などが置いてあった。　「へぇー。こんな所あるんだぁー。可愛いー。見てみて！この小さなワンコ!!」　　15cmほどのお座りした耳が黒く、体の白い犬のぬいぐるみを見せてきた。　「可愛いねぇー。」　ニコニコしてかなり気に入っていたみたいだった。　値段を見てそっと置き、店内を見て回っていた。そんなに高い物なのか気になり値段を確認した。　そこまで高い価格ではなかった。一度戻って来てそのぬいぐるみの頭をぽんぽん叩き下へ降りて行き本屋をうろついて雑誌を見始めていた。　　（ぬいぐるみ……。欲しかったのかな？）　　そのぬいぐるみを手に取りレジへ向かった。簡単に袋に入れてもらい、本の袋の中にいれた。　　莉奈と合流をし車に乗り込み病院へ戻る事にした。　「本、ありがとうね。すごく嬉しい。結構前に立ち読みしてて気になってたんだよ。」「そうなんだ。恋愛マンガね…。」　　少し苦笑いをした。　「ん？なによ。」「別に。」　　睨みつけられ、半笑いをすると手をつねられた。　病院に到着し、莉奈の荷物を持って車を降り病室へ向かった。　「あーあ。戻って来ちゃったよ。やだなぁ。病院にいるの。」「もうすぐ戻れるって。本でもよんでのんびり……あっ！」「どうしたの？」「忘れ物した。ちょっと取りに行ってくる。」「そうなんだ……。わかったぁ。」　　エレベーターに向かい、ボタンを押し、降りようとした時に上がって来たエレベーターから大きな花束を抱えた男性の姿がチラッと見え扉は閉まり下へ降りた。　もしかして……。星川……？少し時間開けて帰った方が良さそうだな。駐車場にもどり車に乗り込み、どうしようか考えていた。　（俺が今行けば場を悪くするだろうし……。ゲーセンでも行くか。それにしても……。アイツ良く来るよな。暇なのか？芸能人だから悪いことをすることはないだろう。しかし……。あの花束の量凄いな。1本だけ別に白い花持ってたけど……。まぁいいか。袋に入ったぬいぐるみを見たら喜ぶだろうな。）　そのまま病院を出てゲームセンターに向かい時間を潰した。2時間程時間を潰し、そろそろ面会時間も近くなっていた。（そろそろ戻るか。）時間潰しのゲームセンターも飽きて病院へ戻る事にした。病院へ戻り院内へ入ると前から星川が出てきた。今の星川にはオーラが無くなり一般の男性の様な振る舞いをしていた。　駐車場に向かい歩いていると、立ち止まり何かに気がついたように上を向き、大きく手を病室に向かって振っていた。　自分の中で小さな不安が生まれていた。けれど星川は芸能人。ファンに手を出すなんて事は……。無いはず……。　無いはず……なんて、ことはない。男なのだから。　芸能人と張り合おうなんてそもそも間違っている。　考えるのはよそう。しばらく見ていると、嬉しそうに笑い車に乗り込んで走らせて行った。　面会時間も近くなっていた。急いで病室へ向かい莉奈の様子をそっと見てみると、祈るように手を組み幸せそうな顔をし微笑んでいた。俺にもそんな表情しているのか？第三者の立場になると不安を覚える。ベッドには大きな花束と、1本の白い薔薇が置いてあり、その横へ座りおもむろにスマホを触り始めた。　「悪い、遅くなって。面会時間ももう終わりだな。あ、これ。」　　驚いた顔をして振り向くとぬいぐるみの入った袋を渡した。　「何？お菓子？」　　受け取ろうとした右手の薬指に指輪を付けていた。いつもは付けていなかったはず。部屋から持ってきたのか？　一瞬気にはなったが触れないでおこう。　「違うよ。見てみろよ。」　　袋の中から出した時弾ける様な嬉しそうな顔でぬいぐるみを見て袋から出すとぬいぐるみを頬に付け泣き始めた。　こんなもので泣いて喜ぶ姿をみて嬉しくなり莉奈を抱きしめキスをした。　「もうすぐ戻れるようになるからな。退院したらまた色んな所へ行こうな。」　天使の様に微笑みを見せてくれた。「所で……。その花……。また来てたんだな。」「そうなの！ニューヨークに戻るからしばらく会えないからって。芸能人なのに会えないってね。当たり前だよね。私一般人だし、住む世界が違うんだから……。」少し寂しげな表情を浮かべていた。相手は芸能人であの時お世話になって、偶然出会ってただ気まぐれで、お見舞いに来た。1歩外に踏み出せば、もう二度と出会う事はない。莉奈にとっては夢のような出来事だった。　　次の日莉奈は再検査を受け、特に問題がなかった様だった。薬物反応もなく、大麻も吸っていない事が分かりひとまず安心をした。退院が週末に決まり、仕事は週明けから初め通院をするということだった。　　退院日になり荷物を整理をしていると一輪のバラの花が変色をし無造作にゴミ箱の中に入っていた。　「莉奈、いいのか？バラの花。ドライフラワーとか……。」「いいの。気にしないで。色変わっちゃってるし。」　　一度も花を見ずに返事をした。あんなに好きだとか言っていたのに？「いいのか？」「いつまでも夢心地ではいられないよ。現実に戻らなきゃね。それに、アイドル追いかけるのもねっ！」　　無理して言っているようにしか見えなかった。芸能人を諦めるとか意味がわからなかった。　「ファンクラブに入るって言ってたじゃないの？」「そんな夢ごと！笑っちゃうよね。芸能人に会えてよっぽど嬉しかったんだろうね。退院して、仕事始めたらそんなこと言ってられないよ。そうでしょ？」「あー、まぁ、そうだな。」　気持ちの切り替えが異常に早い気もするが……。　　退院をして顔色も良くなっていつも通りの生活に戻っていた。いつものように笑い、はしゃぎ、悩みなどない振る舞いをしていた。
- ～番外編～無くしたくない
  喉が乾き目を覚ますとカバンは置いたままで莉奈の姿が無かった。（コンビニでも行ったのか？そのうち帰って来るだろ。）呑気に水を飲み再び眠り、もう一度目を覚ますとシャワーの音が聞こえた。（またシャワー入ってるのか？まぁいいか。）　再び眠ろうとしたがシャワーの音が気になり始めた。　全く動きのないシャワー音だった。（どれだけ出しっぱなしで浴びてるんだよ。）「莉奈ー。お湯出しっぱなしでうるさい……！」　扉越しから横たわっている姿が見えた。「莉奈！？」浴室を開くとシャワーにあたりながら横たわっていた。シャワーを止め様子をうかがった。　「おい！莉奈？」（眠ってるのか！？）　　呼びかけても起きる気配が無く熟睡をしていた。濡れた体を拭き取ってバスローブを着せベッドへ寝かせた。数時間が経ち、ホテルを出る時刻になっても目を覚まさず起こすことにした。「莉奈？莉奈？大丈夫か？」「ん？どうしたの？」「お前風呂場で倒れてたんだ。体調悪いのか？」「大丈夫だよ。シャワー浴びてたら急に眠くなって寝ちゃったんじゃないかな。ほら、セールで忙しかったし。」「そっか。ビックリさせるなよ。」「ごめんね。」「早く着替えろよ？帰るぞ。」「あ、うん。」　着替えをしているのをじっと眺めながら、平野さんが言っていた言葉を思い出していた。莉奈の人事異動をなんとか回避できないだろうか……。あの人の近くに居させるなんて危険すぎる。どうしてあんな目に……？まさか、奈津子が仕組んで平野さんと……。グルなのか？ホテルに取りに来いとか……。それに、あの時もおかしい。あのタバコも……。　莉奈と関わりを持つ前までこんな目にあったことは無かった。あいつの周りには一体何があるんだ？奈津子も様子がおかしくなってきている気がする……。否、俺が気がついていなかっただけ？奈津子はクラブへ頻繁に通っていたけれど、それとこれとは話が……。分からないことばかりで気持ちが焦り始めていた。　　数ヶ月後、莉奈の両親は離婚をし2人での生活を送っていた。金銭的にも苦しいらしく食費だけでもと思い、夜は一緒に少しの間食事をしていたが新たにアルバイトを始めてやりくりをしていた様だった。「莉奈、アルバイト増やすのは良いけど体は大丈夫なのか？」「体？」　鏡を見に行き首元や胸元を確認して、ほっとした様子をしていた。「だ、大丈夫だよ。楽な仕事だからね。心配ご無用！お母さんと2人で頑張らないとだからね！」　いつもの様に笑って見せた。その横顔は前よりも少し痩せ影がある様にも見えた。　昼の休憩時に、お菓子屋の方に来て欲しいと莉奈の母親から言われ戻っていたがなかなか戻って来ず母親がお店に戻って来ないと言っていた。　結局夕方に戻り訳の分からない事を言い、家に帰らせ店を閉め莉奈は戻って来るなり泣いていた。「どうしたんだよ？泣いてちゃ分からないだろ？」「言いたく無かったけど……。」　　洗いざらい話をしてくれたが、初めて莉奈の家庭環境を知った。事情を聞くと正直関わりたくなかったが苦しんで泣いている。こんな時どうすればいいのか全く分からない、どんな言葉をかければいいのかもわからない。　とにかく家にいる事が莉奈にとっては幸せでないといえる。俺の家に匿えばいいんだ。とにかく家を出て逃げる事をさせなければ……。　「よく分かった……。とりあえず……。俺の家に匿ってあげようか？」　　だが莉奈は断った。　「ありがとう……。うん。大丈夫だよ。大丈夫。迷惑かけちゃいけないから……。」「俺の家来いよ。」「本当に……。大丈夫だから……。私、お母さんのそばにいてあげなきゃ……いけないから。」また、笑っているのに泣いていた……。「お母さんとずっと居なきゃ行けないし、守って上げなきゃ行けないし、お母さんがした事は私がした事だし、私が全ての責任おわなきゃ……。」　結婚も頭に入れ交際をし始めていたがこの状況下では今は結婚なんて出来ないと思った。俺自身がその状況にいまは太刀打ちが出来ない。　「お前と……、結婚出来ないな……。」　莉奈は笑顔で声を震わせ涙を浮かべてこちらを向いた。　「話を聞いてくれてありがとう……。帰るね……。ごめんね……。」　何も言葉をかける事が出来なくて莉奈は横を通り過ぎた。　俺は何か良い手はないのか、剛に相談をしたが自分の幸せより母親の幸せを考えるのは娘としてどうなんだと言われ、他人の家庭の事に首を突っ込まない方が良いと言われた。守ってあげたい気持ちはあった……。　どうすればいいのか分からなかった……。　次の日にとにかく出来るだけ早く、家を出るように薦めた。　母親の元から離れる決意をし、しばらくして莉奈の新居が決まり、離れる日がきた。まっちゃんに車を用意させ、荷物を運び新居へ行く予定だ。　一旦玄関が開いたがまた締まり、そこからしばらく出てこなかった。少し気になり、家に向かった。玄関を出た時莉奈の母親もでてきた。「莉奈、準備はできたのか？」「あ……。うん……。」「お母さんをひとりにするの？お母さんにはあなたが必要なの。お母さんがどんな気持ちであなたを育てて来たと思ってるの？」　　手が震え一点をじっと見つめ独り言を言い始め、手を握ると顔を見て笑顔を見せてくれた。自分の意志を母親に力強く話をしていた。話終わると、母親に振り返らず歩き出し階段をある程度降りると、突然ふらつき倒れた。「莉奈？莉奈？おい！大丈夫か？」　反応が全くない。呼吸は停止して慌てて抱きかかえ、車に乗り込み、人工呼吸をすると咳き込み、呼吸が戻ると再び意識を失い眠ってしまった。　　そのまま病院へ救急で連れていき入院をさせ、そのまま検査となったが検査中は一度も目を覚ますことはなかった。頻脈性不整脈と言う症状が出ていたらしい。心理的ストレスや薬物乱用なども原因に入るらしい。（ストレスに薬物……。）　これ以上負担をかけさせるわけにはいかなかった。再び起こると死にも関わってくる。　病室に戻り生体状態モニターや人工呼吸器などを取り付けられ症状は落ち着きを取り戻した。　3日後に目を覚ましたが自分がどこにいるのか聞いて笑顔でまた眠りにつくと、生体モニターに異様な反応が出始め嫌な予感がし呼吸も早くナースコールを押し、看護師が到着するとすぐに担当医を呼んだ。全く苦しそうな表情を見せておらずただ眠っている様に見えるがモニターは脈拍数が最大になっていたようだった。医師の処置が続いていたが全ての動きが止まった。『ピー』という音が鳴り響き、別の処理が行われ始めた。心臓マッサージや電気ショックなどが行われた。10分以上の処置をしても蘇生はしなかった。「誠に残念ですがご臨終です」　　医師は愕然とし頭を下げた。　「嘘だろ？さっきまで普通に寝ていて笑ってたんだぞ？嘘だ！もう一度蘇生をしてくれ！」　　頼んだが蘇生時間は過ぎていた。近づき頬を触れると冷たくなってきていた。　「嘘だろ？お前さっき起きたじゃないか？お前、俺のこと好きだって言ってくれないのか？お前はスターになるんじゃないのか？お前は、そっちの星になりたかったのか？違うだろ？起きろよ！起きてくれよ！」　冷たくなってきている莉奈の体を抱き上げ、抱きしめて温めキスをし背中を摩っていた。　（莉奈！目を覚まして！）　　看護師が生体センサーの電源を切ろうとした時脈拍が動き始めた。　「せ、先生！生体反応が！動き始めました！」「本当か？奇跡だ！君、そのまま続けてもらっていいかな？」　莉奈を抱きしめながら背中を優しく摩っていた。　「莉奈！戻ってきてくれ！」　　さっきまで冷たかった体がどんどん温かくなってきていた。　「先生！生体反応が通常に……。」　　莉奈をベッドに寝かし手を握った。　「君のおかげで戻って来られたみたいだね。良かった。」　　莉奈は目を覚ました。　「……ん？……どうか……したの？……また……泣いてる……。」「莉奈！良かった……。良かった……。」「な……にが……あった……の？」　　まだ朦朧としている。この状態ではまだ油断は出来ない。「もう大丈夫だぞ。」「……？うん……。」　　とりあえず戻って来られただけでも嬉しかった。二度とこんな思いをしたくないしさせたくは無い。　平野さんの話を思い出していた。転勤の話、何とか出来ないのだろうか……。決定事項といっていた。バイトの莉奈なら仕事を今辞めさせるのもひとつの手かもしれない。辞めさせても新しい環境に慣れるまで大変だろうし……。俺の転勤の話が無くなればいいのだけれど……。部長にその時が来たら断りを入れようか迷っていた。出来れば自分の視界に届く所でいてもらいたい。　体調が落ち着き、担当医から会議室に呼ばれた。「莉奈さんは10分以上蘇生するまでに時間が経っています。脳の方にも何かしらの影響が出ているかもしれないので今後も注意してください。しばらくは経過観察で入院をしていただき特に異常が見られない場合は退院して頂いて通院を定期的にお願いします。あと、ストレス、疲労、薬物などには注意をしてくださいね彼女はかなり昔からストレスを感じる何かがあったはず。何度か発作もあったはずなのでは？」　過去の事は全くと言っていいほど分からなかった。最近になって家庭事情を聞いた程度で体調の事等一切話をする事は無かったが、気になったのは薬物だった。　「かなり前からですか……。一時的なのはありました。今回の様なことは初めて見ました。」「そうですか……。分かりました。」　二度とこの様なことを起こさせてはならない。でも、どうすればいい？親元からは離すことはできたけれど、それだけではないはず……。今の自分では分からなかった。　病状を聞き莉奈の元へ戻る時に『星川和海』とすれ違った。　あの時とは違い、元気そうで少し嬉しそうな表情をして車のキーを軽く指で回していた。　　莉奈の病室へ戻るとベッドの上で枕に顔を埋め足をバタつかせていた。また発作が出たのかと思い声をかけた。　「莉奈？どうした？具合悪くなったのか？」「あ！まーちゃん！」　　先日の表情とは全く違い、明るくて元気な顔色をしていた。　「さっき、『星川和海』を見かけたぞ。今日は元気そうだったけど、誰かの見舞いかな？」「あ、そうらしいよ。私もさっきまで話をしてたの。お礼言われたよ。この前の事で。」「そうなんだ。」「うん！もう、すごくかっこいいー！退院したら絶対ファンクラブ入るんだァー！」「そうか。じゃぁ早く元気にならないとな。」「そうだね！」　看護師が体温と血圧、心音の確認に巡回に来た。脈拍や血圧や心音が少し上昇していた。『星川和海』にあって話をしたから高くなっているだけだと言っていた。看護師も笑って答えていたから心配はないだろう。この変化は凄すぎる。いつものように笑い、話をしている。気分がよほど良いのだろう。莉奈は自分の部屋の心配をしていたが心配するより早く治して帰ることだった。　あと、転勤まで数ヶ月しかない……。　どうしたらいい……。　
29Apr
- ～番外編～悩み
  「お客様？到着致しましたが……。」　タクシードライバーの声で目が覚めた。　「ん？あ。ありがとうございます。」　料金を支払い車から降りるとまだ少しだるさが残っていた。　「まーちゃん、おはよ！」「ん？おはよ。随分早いな。」「昨日はごめんなさい……。私どうかし……て……た。あ……。」「どうした？」　莉奈の笑顔が一瞬曇り俯いた。　「ん？ううん……。なんでもない……。」「ん？な、なんだよ？」「なんでもないよ……。」　そのままその場を離れようとしたが手を取り引き止めた。　　「気になるだろ？なんだよ。」　目を見ると涙が今にもこぼれ落ちそうだった。　「えっ、えっ？どうしたんだよ！」「……首。どうしてこんなのつけてるの？」　服に手をかけ首元を広げられた。　「あ……。これはその……。」「そうだよね。彼女がいれば当然の事……だよね……。ちょっと椅子に座って……。」　　椅子に座らせられ化粧ポーチを出しファンデーションを首に塗り始めた。　「すごく目立つよ？人前に出るのに、こんなの……。つけちゃ……、ダメだよ……。」　泣きながら首のキスマークを必死に消そうとしていた。「こんなの嫌だよ……。」　申し訳無い気持ちになりただ無言で泣いているのを見ていた。どちらかを選ぶ……事が出来なかった。　　数日後お菓子屋へ向かい近くまで行くと誰かが来ていた。　（もしかして……。）「莉奈〜。腹が減ったんだけど何かない？軽〜いものでさぁ……？あ、ゴメン！お客さん来てたんだ。また。後でいいから用意しておいて〜。」「あ、ごめんね。用意しておくね。」　（何しに来たんだ？しかもこんな時間に……。人のこと言えた口じゃないよな）　　自分の店に戻ると奈津子がいたことを忘れていた。　「まーくんお菓子は？」「あー、忘れてた。」「はぁ！？」「悪い！後でもう一度行ってくるよ。」「いいけどぉ。別に。晩御飯まで待ってるし。」「いや、ちゃんと買ってくる！」　（様子が気になるからな……。）　「変なの。それより～。今日何を食べに行く〜？」　　どうでもいい話が始まりしばらくそれに付き合った。　何を話しているのだろう……。気になる……。　「ねぇ……。最近のまーくん上の空だよね。私の話聞いてないでしょ？」「ちゃんと聞いてるよ。」「私の事ちゃんと見てる？」「見てるに決まってるだろ？」「それなら良いけど……。」　　少し時間をずらし莉奈の元へ向かうと男が帰っていくのが見えた。「彼氏？」「あ、うん。たった今別れちゃった。」「え？別れたの？」「うん。」「どんな人だったの？」「すごーく優しい人で私には勿体無いぐらいの優しい人だったよ。」「ふ〜ん。俺より優しかった？」「うん。」「え？」「あ。言っちゃった。」　莉奈はスッキリした表情で笑っていた。　俺は……。どちらにもどう話をすれればいいのかわからなかった。　「あ、まーちゃんこれさっき言ってたおやつね。それと、彼女待たせたままでしょ。ご飯食べにいくんでしょ？」「あ……うん…。」「ほら！行ってらっしゃい。」　　微笑んで見送られた。どうしてそんなに笑えるんだよ。嫌じゃないのか？嫌だと言ってくれれば……。奈津子の元へ行き食事を終わらせ家に送ろうと車を走らせていた。車中で話をしていると突然黙り込んだ。　「ねぇ、まーくん……。」「ん？」「あの子の事だけど……。」「莉奈……？あ、あ～、あの子ね。あの子がどうしたんだよ」「呼び捨てする程仲がいいんだね。」「職場でも呼んでるから……。」「ふーん。あの子嫌い。」「お前ほとんど話した事ないだろ？それを嫌いとかなんだよそれ。」「まーくんがいるから入社ったんでしょ。気分言い訳ないじゃない。それに同じ店舗って。いい気しないよ。」「あれは店長から言って来てたからさぁ。」「断ればいいじゃない。あの時、まーくん振ったって言ってたじゃない。それなのに……。」「まぁ……。それもそうだけど……。俺は一緒に働いてくれてありがたいと思ってるけどな。」　　奈津子は黙り込み気まずい雰囲気になっていた。　「それに……。さっき私ずっとまーくんとあの子の事見てたんだよ？何？あの感じ。彼女みたいじゃない。」「え？ずっと見てたのか？」「気になるから着いて行ったの。もうあの子の元には行かないで。」　車を公園の前に停め話をすることにした。「お前らしくないな。」「最近のまーくん様子がおかしいから…。」　その通りだった。ずっと莉奈ばかりを見てあいつのそばにいたいと思っていた。　「まーくん。行かないでよ……。まーくんが離れちゃったら私何するか分からないよ？」　奈津子を泣かしてしまった。2人への罪悪感で申し訳ない気持ちになっていた。ずるいかもしれないがどちらも離したくない……。奈津子を抱きしめ何度も行かないでと泣いていた。　セールの真っ只中に油断をし怪我をした。自分自身への罰だと思ったが、かなりの出血を動揺が隠せなかった。梨奈はその怪我に慄くこともなく淡々と病院へ導いてくれた。不安で仕方ない自分に手を繋ぎ、慰め癒してくれていた。　「もう大丈夫だからね？ちゃん治療してもらおうね？」　　天使の様に微笑み手は血まみになり靴にも血が付着していたが気にする様子もなく手を繋いでくれていた。　処置室に呼ばれた時も『大丈夫だよ。ここで待ってるから。』声には出さなかったが笑顔で見送ってくれていた。治療が終わり処置室から出ると笑顔で待ってくれていた。こんなに安心できたことは今までになかった。　会計を終わらせ病院を出ようとした時に梨奈は立ち止まり処置室を見ていた。背筋が伸び堂々とした姿で処置室から出てきて何やら揉めている様だった。　「かーくん明日は中止をした方がいいよ!そんな体では無茶だよ。」「大丈夫だから！明日もステージ立たなきゃみんな待ってるだろ！無理してでもステージ出なきゃスターじゃないだろ！」「いや、でも今日の明日では先が持たないですよ！」　なんの事なのかさっぱり分からなかった。　「まーちゃん、ちょっとだけ待ってね。」「どうしたの？」「ちょっと、腹たって来た。だから行ってくる」　　何言ってるんだ？他人事だぞ？何を首突っ込みに行ってるんだ？追いかけて近くへ行くと真ん中にいる男性を怒っていた。知らない相手に揉め事はごめんだ。男を相手取ってもしかしてアイツ失礼なこと言ってる？　　「莉奈？どうした？」　男性は怒っているのか悔しそうな顔をしていた。　「あのっ！体大切にしてくださいね。」「お前、何言ってんの？本当にすいません。訳のわからない事言ってしまって……。莉奈、帰るぞ。」「ずっと応援していますからね！私、あなたのファンなんでよ！頑張ってください！」　　莉奈の腕を引っ張り病院を出て事情を聞き、相手は誰なのか尋ねると『Jewelry』と言うアイドルの『星川和海』だと言っていた。ずっと彼のファンをしていたが解散をしてからは何をしていたのか分からなかったらしい。　芸能人を生で見たのは初めてだったが体調が悪くてもあんなにも堂々としているのを見ると住む世界の違う人間はすごいなと感心をした。自分も何事にも自信のある人間になりたいと思い始めていた。　　手の傷が少し良くなり忘年会が開催され、莉奈も参加をする事になった。2人のことは隠していたはずだった。　席は少し離れた所で、お互いが見える位置に座っていた。　少し目を離している間に、席を外しいなくなっていた。　「あれ？由美さん、莉奈は？」「体が暑いから外で涼んでタバコ吸ってくるって出ていったよ？」「そうですか……。」　　そのうちに帰って来るだろうと思い様子を見ていた。けれど10分20分経っても戻って来なかった。　少し様子を見に行ってみよう。トイレついでに喫煙所を覗いてみると5~6人でつるんで話をしていた。（あー。いつもの集団か。）　特に気にせずトイレに行き戻ってきてよく見ると、足の間から白い足がバタバタ動いているのがみえた。　まさかと、思い覗き見をすると莉奈の顔がチラッとみえた。　（嘘だろ……！）「ちょっと！何してんですか？マジでやばいっすよ！お前たちここ開けろよ！どけって！」　莉奈は意識が朦朧とし虚ろになり始めその姿を見て俺は焦りを隠しきれなかった。どうして一緒にいてあげなかったんだろうと後悔ばかりしていた。　　莉奈は意識を取り戻すと怯え始め震え始めると抱きしめ落ち着かせ、何度も謝られたがこっちが謝らなければいけない立場だ。落ち着いた莉奈を席に戻したが、先輩や後輩たちにひとこと言っておかなければならない。「もうアイツにこんなことしないでくださいね。」　平野さんに問いかけられた。　「なんであの子に手をつけたんだ？お前には鴫野が丁度いいんじゃないのか？あの時、鴫野悲しんでいたんだぞ。」「それとこれとは別です。」「お前……、鴫野と別れてないんだろ？二股か？」「そんなんじゃないです！」「莉奈ちゃんかわいいから、言い寄って来られ堪らないよな。でもな、鴫野は気がついてるぞ？お前達のこと。」「えっ……。」「莉奈ちゃんを許せないって。」「莉奈は何もしてない！」「でも、彼女いる事は知っているよな？普通ならこんな事はしないはずだろ？莉奈ちゃんは好きな人に彼女がいただけだと言っていたし、お前と付き合ってるわけでもないって聞いたぞ？付き合っていなくてもそういう関係はありってことだよな？」　莉奈とは付き合ってはいない。俺が手を出した。「お前、どっちも手放したくないんだろ？」「……。」「まぁ……。時間の問題だけどな。莉奈ちゃんはそのうち俺の物になる。」「なんでだよ！」「そのうち分かるさ。邪魔が入った事だし、そろそろ席に戻るか。お前ら、後であのホテルまで取りにこい。」「わかりました！」　莉奈を囲っていた奴らも席へ戻って行った。「平野さん後で話させてもらっていいですか？」「手短にたのむな。俺たち忙しいんだ。」　肩を叩き、横を通って座席へ戻って行った。　　忘年会も終わり、由美先輩に莉奈を連れて先に帰ってほしいと伝えた。「莉奈。由美さんと一緒に先に帰れ。」「でも……。」「良いから帰れ。由美さんお願いします。」「莉奈ちゃん、帰ろう！何か用があるんでしょ。」　何度も振り返りながら店をでた。　しばらくすると平野さん、奈津子と後輩たちがぞろぞろとやって来る。　「まーくん、今日平野さんと話終わったら一緒に……。」「行かない。帰れ。」「なんか、すごくムカつく言い方だね。」「帰れよ。お前には関係ないんだから。」「関係ないってなによ！」「ほーら！喧嘩しない！」　　平野さんが止めに入った。　「曽我〜。お前もう少し優しくしたらどうだ？奈津子も先に行って。話終わったら行くから」（奈津子の事を呼び捨てしたか？まぁ、良いか。）　「平野さん！だって、まーくんが……。」「話あるって言われているんだから先に行ってろって。」「はーい」　奈津子は怒りながら後輩達と店を後にした。「それで？話ってなんだ？」「莉奈には手を出さないで欲しいんです。」「はぁ？」「手を？出すなって？お前俺に手を出すなって？笑える！お前が言うのか？」　呆れるような笑い方をされた。「仕方ないな。きっとさっき言ったことが知りたいだろうから教えてやるよ。これは極秘事項で部長から口止めされてるんだけどな。」（なんだろう。口止めされる程の秘密ごとか？会社がらみなのか？）「2年後の春には俺と百貨店のリニューアルオープンで一緒に働く事になっている。今、店舗を改装しているのはお前も知っているよな？かなり前からの決定事項だからな。」「決定事項？」　（どういうことだ？）　「お前の店で働き始めた時部長ともう1人来たのは知っているか？」「もう1人？」「百貨店の取締役だ。結構前から目をつけていたらしい。お菓子屋でバイトしていたんだろ？取締役がたまたまお菓子屋に行った時に、気軽に話しかけてくれてかなり気に入ったらしくてな、お菓子屋で働かせるのは勿体ないって思ったんだろうな。同じ建物内でお前のいる店舗がある事に気がついて、百貨店部の厚木さんに話が行ったんだよ。なんとかして、取締役に部長は好かれたかったんだろうな。その話を武内さんにした時に、『もしかしたら、お前に惚れてるから来るんじゃないか？』っていう話になったんだろうな。部長が聞いてこれは好都合って思ったんだろう。とりあえず、お前の店で研修をさせて慣れた頃に百貨店勤務に戻すってことだ。履歴書も百貨店側に出されている。」（どういうことなのかわからない。莉奈は元から百貨店勤務だった？）　「武内さん俺の店舗に連れてきてただろ？あれも俺に顔見せで来てたんだ。まさかなぁ。あの子だったなんてな。俺たちは運命だな。」（全くいみが分からない。）　「それから～。お前にも転勤が決まっているんだ。戻れるのはまだいつかはわからないけどな。もしあの子が一緒に行きたがっても部長が許すわけないよな？百貨店の売り場の顔になるんだからな。」　（俺も転勤？しかも未定！？）　「お前が転勤した後、俺が面倒見てやるよ。お前の代わりに可愛がってやるからな。」　　平野さんは不吉な笑みを浮かべていた。莉奈は絶対平野さんには任せたくない！　「あんたには絶対触れさせない！」「ま、時間の問題だよな〜。あの子から寄って来るかもしれないからなぁ。」　腹が立ち平野さんの胸ぐらを掴み殴ってしまった。　周りの人達が止めにかかった。「痛てーなー。お前の様な中途半端なやつには誰も守れねぇんだよ！」　その通りだ。中途半端で今の俺では守りたくても守れない。口先だけだ。悔しくて外へ出た。　　店の外に出ると心配そうに莉奈が待っていた。　「まーちゃん！」　手を掴み逃げるようにその場を去った。　「まーちゃん！ねぇ！どうしたの？」　　問いかけてきたが何も言えなかった。行く宛てもなくただ歩き回り終電もなくなり、莉奈も疲れ始め適当なホテルに入り抱いた。　「まーちゃん、どうしたの？何があったの？」「ん？あ……。ごめん。」「教えて？何があったの？」「なんでもないよ。」「莉奈、ごめんな……。」　　俺は何も出来ない自分が莉奈を苦しめるかもしれない。今の俺では幸せに出来ない。今だけしか幸せを与えられない。自分が未熟すぎるばかりに傷付けるかもしれない。莉奈は何も聞かず優しく抱きしめてくれた。あんな事を聞かされたがまた違う展開があるかもしれない。まだ、先の事はわからない。今は、隣で笑っていさせて上げたい。けれど…。この先どうしたらいい…。
- ～番外編～微笑みを君に
  次の日、莉奈はいつものように元気に出勤をし、機嫌よく仕事をしていたが、時折とこっちを向いては下を向き若干気分が沈んでいるように見えた。倉庫に入り商品の確認を兼ねて、莉奈を倉庫に呼び出し色々と持って行って貰いたいものがあると仕事の話をし、あれこれ商品をたくさん持たせていた。わざと身長より高く積み上げ困らせてみた。　「ちょっと〜！もう持てませんよ〜。前見えないよ〜！」「おぉ！悪い悪い。普通ならもっと持てるんだけど背が低いからすぐ限界になるな。」　笑いながら少しずつ商品を減らし、顔が見えて少し怒っている顔をしていた。　「チビで悪かったね！」　拗ねた顔が見えた途端に軽いキスをしするとビックリして呆然としていた。　「昨日はお疲れ！」しばらくすると恥ずかしげに笑っていた。　「もう！不意打ちはずるいよ！」　何か吹っ切れたかのようにいつもよりキラキラした笑顔になり嬉しそうな表情を見ていると幸せだった。　その後はいつもどこででもキスをしたり時々、自分が抑えられなくなりその場で抱いたりもしていた。笑顔でいてくれるのならそれでよかった。　　仕事仲間で遊び兼、同じ圏内の各店舗に莉奈の紹介をするために向かっていた。莉奈は嬉しそうにはしゃいでいた。以前、勤務していた店舗へ着き平野店長に挨拶をした。「平野さん、お久しぶりです！」「おー、久しぶりだな。元気だったか……？」　　莉奈に気が付き、挨拶をさせると少し話をすると近ずき、突然嬉しそうに抱き上げた。「恥ずかしいから降ろしてください！」「本当に大きくなっても小さくて軽くて可愛いなぁネコみたいだな。」（突然なんだ！？大きくなって小さい？ネコみたいって！）　　莉奈を下ろすと慌てて俺の後ろに隠れた。「何？怖かったのか？子供かよ？」　　顔を見合わせ笑っていた。　「まーくん！来てくれたんだ！」奈津子が嬉しそうに走ってきて抱きつき手を繋ぎ甘え出してきた。　（今は場が悪いだろぉー。）「まーくん、今日はこれからどこ行くの？私も一緒に行きたいなぁ。」「今日はうちの店舗でのイベントだからお前は参加出来ないんだよ。」　（本当に頼むから！）　「えー。行きたいよー。武内さんに言ってくる！」　奈津子は武内店長に交渉をし許可をもらっていた。「いいって！私も参加するー！」　（マジかよ、やめてくれよ……。）　奈津子は嬉しそうに腕に抱きつき喜んでいた。正直今日は一緒にいたくなかった。　莉奈の方を向くと平野さんが壁になり姿が見えなくなっていたがしばらくすると、武内店長の方へ向かい何かを話している様だった。　ひとり離れ商品を見ていた莉奈に断りを入れることにした。「ごめんな。今日お前と一緒にいること出来ないかも……。」「そうだよね。うん。いいよ。彼女の元に行ってあげて。」　いつもの笑顔で答えられ背中を押され振り返ると平野さんと話をし、次に見た時は武内店長に話をしていた。「まーくん？あの子の事気になるの？」「いや、別に。」「ずっと目で追ってるじゃない。」「そんな事ないよ。」　　話をしている間に姿が無くなっていた。　（あれ？どこに行ったんだ？）「まーくん？」「悪い。ちょっと平野さんと話してくるよ。」　平野さんの所へ向かい事情を聞くことにした。「合同で飲み会するからって米田さん誘って見たんだけどなぁ。武内さんに用事があるからって伝えて帰ったんだよ。」「帰る？」「ああ。ちょっと様子がおかしかったから後追いかけて見るよ。」「いや、僕が行きます。」「お前……、奈津子放っておくのか？」「……。」　自分の中で迷いが出た。今ここで奈津子を置いて莉奈を追いかけるか、それとも平野さんに任せるのか……。　「まーくん？どうしたの？」「ん……。ちょっとタバコ吸って来るよ。」　店を出てタバコを吸い考えていた。（家に帰るって……。夜は飲み会をするってなっているというのに帰るとかなんだよ。空気読めよ。でも……。アイツはそんな事はしないはず……。）　急いでタバコを消し探しに向かおうとしていると奈津子が迎えにやってきた。　「まーくん？どこへ行くの？もうすぐ飲み会するってなってるじゃない！」「お前出れば良いよ。俺も用事思い出した！」「はぁ!?まーくんが行かなきゃ、私1人行っても意味がないじゃん！」「平野さんいるだろ！それ所じゃないんだよ！」　早く莉奈の元へ行かなきゃと後を追いかけたがみあたらなかった。「何処に行ったんだ？」　通りすがりに公園があり、覗いて見るとベンチに座っている姿が見えた。「莉奈！？こんな所にいたのか。」「まーちゃん？どうしてここに？みんなと飲みに行くんでしょ？」「お前が行かないのなら行かない。」「だって、彼女さんが……。」「あいつのわがままなんて聞いてられないよ。」　　離したくない気持ちから抱きしめた。「まーくん！？」　　振り返ると奈津子と平野さんが後を追いかけてやってきていた。莉奈は思いっきり突き放し、そっぽを向いた。　「どうして？どうして？今あの子を抱きしめてたよね！？」　逃げる様に莉奈はその場を離れた。「まーくんどういう事なの！？ちゃんと説明してよ！どうして抱きしめてたりしてるのよ！」「抱きしめてなんてしてないよ。そう見えただけだろ。」「あ〜、アイツがめまい起こしたんだ。それで支えたんだよ。」「その割には愛おしいそうな表情していたけど？」「そ、そんなわけないだろ？」　背後で様子を見ていた平野さんは莉奈の後を追いかけてくれた様だった。「まーくん、もしかしてあの子が好きなの？」「な、何をいってるんだよ。同じ職場の子に手をつけるわけないだろ？」「信じてもいいんだよね？」「も、もちろんだよ。」「良かった♡」　奈津子は幸せそうな表情を見せ抱きつかれキスを交わした。2人に対する罪悪感しかなかった。それぞれの性格の違いに惹かれこのような形になってしまっていた。卑怯な事をしている事は分かっていた。けれど、どちらも無くしたくない……。そう思ったことが全ての誤ちだった。「くっそぉ。あの男なんなんだよ。」　平野さんが戻ってきた。「どうしたんですか？」「米田さん連れ去られた。」「は？どういうことですか？」「ギター抱えたやたらと派手な男が絡んで来てさ、姿くらましたんだ。」「誘拐？」「かもしれないな。事務所に連れ込んで入って行ったんだ。」「事務所！？」「怪しい事務所だったなぁ。」「どうして連れ戻さなかったんです！？」「制服着た警備員が立ってたんだよ。」　怪しい事務所に警備員……。大丈夫なのだろうか……。「ねぇ、そんなにあの子が気になるの？」「いや……。」「じゃあ、飲み会行こ！」「誘拐とかだったら……。」「誘拐される様な所って警備員いる？きっと用事で急いでたんだよ。用があるって言ってたんでしょ？」「あ……。それも……、そうだな。」　真実を知らないまま納得をし飲み会へ向かいひとときを楽しんだ。「まーくん、今日行くよね？」「ん？今日は帰るよ。明日仕事あるしさ。」「えー。行こうよ。そのまま仕事に行けばいいじゃん！」　そんな気は初めからなく、莉奈のことが心配で仕方がなかった。「私トイレに行ってくるね。」「あ、うん。」　メッセージを見ても何も受信はされていなかった。　（心配だな…｡メッセージ入れて置くか……。）『大丈夫か？平野さんのから話は聞いたけど…』奈津子が戻ってきてメッセージを入れることを中断したが続きを外の喫煙所で書くことにした。　「ちょっとタバコ吸ってくるよ。」「タバコ、新しいもの買ってきたよ。はい！これ。」　残り少なくなっていた事に気が付き新しい物を買ってきてくれていた。「助かる。ありがとう。」「後でそっちにいくね。」「…？うん。わかった。」　（迎えに来る？変なこと言うなぁ。）　喫煙所に入ると平野さんもタバコを吸っていた。「お！来たか。」　（なんだよ。メッセージ打てないじゃないか。）　スマホを持ちメッセージを打ち始めようとし、タバコを吸った。　「お疲れ様です。」「奈津子と仲良くしてるのか？」「あ、まーそれなりに。」「そうか……。」「米田さん、可愛いよな。」　（何言い出すんだよ！）　「彼女になってもらおうかなぁ〜。いいよなぁ～。抱きしめたら小さくてさぁ」　（はっ？何言ってるんだよ。）　気持ちが焦りタバコを慌てて吸っていた。「お前、莉奈ちゃんものにしたんだろ？」　（何言ってる……？）　平野さんの顔を見ると周りが歪み始め少しづつ気分が良くなってきていた。　（酔いが回った？）「莉奈ちゃん良かっただろ？」「……何言ってるんすか？」「でもな、あの子は俺の物だからな。」「……言ってる、意味が……わかんない……す……。」　　徐々に視界が狭くなると、奈津子の声が聞こえた。「まーくん？効いてきた？」「何……？」「かわいい♡やっぱり私のまーくんだ♡たくさん愛してあげるからね♡」　その声を最後に眠ってしまっていた。　目が覚めるとベッドで奈津子と眠っていた。（うわぁー。なんだ？クラクラする気持ち悪。俺、記憶が無くなるぐらい飲んだのか？しかもいつの間に脱いで、奈津子としたんだ？）　奈津子も目を覚ました。　「まーくん♡おはよ♡」「お、おう。」「まーくん……。」「な、なんだよ。」「もう1回しよ♡」（何言ってるんだ？俺は仕事行かなきゃならないんだぞ。それに莉奈が……。）　立ち上がろうとすると目眩いがした。「しばらくは立つことできないよ？たくさん吸ってたからね。」「は？」「体も言うこと効かないでしょ？私の言いなり♡」「何言ってるんだよ。俺は仕事に行かなきゃならないんだぞ！？」「無理だよ？」　動こうとしても体全身が重く起き上がることが出来なかった。　　（なんだよこれ。）「まーくんは私の物なんだから誰にも渡さない。」　体全身唇でアザをつけ始めていた。　「奈津子！やめろよ！いい加減にしてくれ！」　　重い体をなんとか起き上がらせ奈津子を振りほどいた。「仕事……行かなきゃならないんだよ！」「何よ。つまらない。」　ベッドを降り服を着ていると、甘い青臭い匂いが灰皿からした。　（このタバコ！まさか……。）「ふふっ♡気持ちよかったでしょ？」　（俺が……吸ったのか……?）「まーくんすっごく可愛かったよ♡あんなに燃えちゃったら赤ちゃん出来ちゃうかも♡」　（嘘だろ……？）　「ふふっ！冗談。今出来て貰っちゃ困るからね。」「ホテル代……。ここに置いてる。」「寂しいなぁ〜。」「……。」　足元はふらつき気分が悪くタクシーを呼びそのまま仕事場へ向かった。　スマホを見るとメッセージが入っていた。『今日はごめんなさい。大丈夫だった？』　（良かった……。）　　返信を打とうと思ったがあまりの気分の悪さに眠ってしまっていた。
23Apr
- 試煉の向こう側～番外編～〘雅章ストーリー〙②
  莉奈ちゃんの心を少しでも癒してあげたいと思い始めた。「店長、歓迎会しましょうよ！」「そういえばまだしていなかったなぁ。まぁちゃん予約しておいてくれる？」「この近所でいいですよね？」「任せるよ。」　極力莉奈ちゃんの家から近い地元の店を予約をし、数日後に歓迎会をする事を伝えた。「え？本当に！？嬉しい！家の近所にしてくれたんだね！」「地元なのにわざわざ電車に乗りたくないだろ？」「気を使ってくれてありがとう！」　久しぶりに笑顔を見れた気がした。歓迎会が余程楽しみなのかその週はずっと楽しそうに過ごしていた。　歓迎会当日、仕事を少し早く終わらせ店に向かいながら店長と話をしていた。　「まーちゃんの横に莉奈ちゃん座らせるからな。」「別に横じゃなくてもいいんですよ？」「その方が莉奈ちゃん喜ぶからさぁ。あっ！この前さ、聞いたんだよ。まーちゃんの事どう思っているのか。」「また、そんな事きいてー！俺には彼女いるんですよ？」「莉奈ちゃんの答えがさ、『まーちゃんに振られちゃったんだ。でも……。彼女がいても好きなんです。』って！莉奈ちゃんも彼氏いるのになぁ。なんと言うか……。好きだからそばに居たいんだろうな。」（好きだからそばに……？）　言われて見れば助手のようにそばにいて、求めているものがいつも手に届く所に置いてくれたりすぐに手渡されていた。目が合えば無言で微笑んでくれて癒されていた。奈津子の様に前に出て指示をするわけではないが、常にバックアップをしてくれていた……。　店に集まり席に座り始めると店長は莉奈ちゃんの背中を押して目の前に連れて来た。　「お前は大好きなまーちゃんの横！はい。行って行って。」「何言ってんのよ。別に横じゃなくてもいいってば！」　二人の会話はふざけたことばかりを言い合い、照れ臭そうに横に座った。　「もう！まーちゃんもなんとか言ってよね！」「俺も言ったんだけどなぁ。」　お互い顔を見合わせ笑っていた。店長は時々彼女にちょっかいをかけながらやりとりをし楽しそうに笑っていた。やっぱりずっと笑っている表情が好きで見ていたい。　1時間程経つと電話の時計を頻りに見る様になって来ていた。　「あ……。ちょっと私飲みすぎたみたいだから外出てくるね。」「おう。」　席を外し、店の外へ出た様だった。　立ち上がりトイレに向かうと武内店長が手を洗っていた。「おっ！まーちゃん！莉奈ちゃんいい子だろ？」「そ、そうっすね。」「莉奈ちゃんの頬にキスでもしてやれよ！喜ぶぞ〜！」笑いながら悪巧みをしていた。　「何言ってるんですか！！」　照れながら拒否をし、座席に戻ると外から戻った彼女は酔っているのかボーっとしていた。武内店長と由美先輩はメニューを見ていた。座席につこうとした時に体が自然に動いて頬にキスをしすると驚いた表情でこっちを向いて頬を押さえて思わず笑ってしまった。莉奈ちゃんはお茶を一気に飲みまたお茶を注文して顔を赤らめていた。少し怒ってる？表情が愛おしく思えてきていた。　（あ…。俺…？まさかな…。）店長は一部始終その現場を見て茶化していた。　「まーちゃんだけずるいぞ～。俺も、俺も！」　そう言いうと莉奈ちゃんを捕まえ頬に無理やりキスしていた。　「もー！やめてよー！鬱陶しい！」「店長！莉奈ちゃん嫌がってるでしょ！やめなさいって！」由美さんが止めに入る。「だって、まーちゃんだけずるいよー！」　その場が盛り上がっていた。店長と由美先輩がトイレに立ち上がり二人になった。　「もー！気持ち悪いってば！」莉奈ちゃんは頬を怒りながらおしぼりで必死に頬を拭いている途中で莉奈ちゃんの肩を叩き唇にキスをした。（あ……俺…。何やってるんだ？）　莉奈ちゃんに思いっきり打たれた。「彼氏がいるんだからそんなことしないでよ！」（当たり前だよな。たとえ冗談でも……。）自分の思っていることと体が違うことをし無意識に手を握ると驚き、目を合わせると恥ずかしそうに俯き握り返していた。　莉奈の笑顔を守ってあげたい……。居酒屋も閉店時間になりお開きになると、繋いでいた手を離した。「お疲れ様でした！」「今日はありがとうございました！」「これからもよろしくな！」「こちらこそ！」　笑顔で挨拶をしていた。　「自転車なのでここで失礼しますね！また明日！」　背を向けて歩いて自転車置き場へ向かった。武内店長や由美さんと電車で帰るつもりにしていた。だけど、彼女は一人で夜道を帰る…。何故だろう…。帰る後ろ姿を見てひとりにさせたくないと思った。「あ、連れが迎えに来るのでここで。」「剛くん来るのか？」「そ、そうなんです。」「本当にお前たちは恋人か？」「何言ってんですか！」「じゃー、また明日！お疲れ様！」「お疲れ様です！」　みんなが改札まで行くのを見送り、友達に迎えの連絡を入れ急いで莉奈ちゃんを追いかけた。　「莉奈！」　来たことに驚いていた。　「送っていく。」「えっ！どうして！電車で帰れば間に合うでしょ？自転車だからすぐに帰れるよ？」　促されたが言う通りにしたくなかった。このまま返してしまうとどこかへ行ってしまうかもしれないと感じ手を繋ぐとなんとも言えない愛しさが込み上げ離したくないという気持ちから、抱きしめキスをした。「自転車…。取りに行こうか…。」自転車置き場へ向かった。この手を離してしまうと二度と手を繋ぐことは無い。思わず繋いだ手に力が入った。　小さな手は一瞬握り返してきていた。　一度莉奈を振りったがそれでも毎日、好きだと言って笑顔を振りまいてくれていた。何があったのかわからない涙の時も無理をしてでも見せてくれようとしていた笑顔をずっと守ってあげたい。「あ、あった！自転車ちょっと出すね。」手を離そうとしたが離さずに腕を引き、抱きしめると愛しさが止まらなかった。「え？何？ダメだよ！どうしてこんなことするの？お酒飲みすぎたんでしょ？本当に……。酔った勢いでこんなことをしちゃダメだよ……。彼女いるんだからさ……。」　腕を振り払い涙ぐみながら答えた。泣かせるつもりはなかった。再び引き寄せ抱きしめた。それでも腕から離れようとしてもがいていた。「ダメだってば！離して！彼がいるんだから！」「莉奈…。ごめん…。俺…。」　（お前を離したくない。）　もがく度に俺は力強く抱きしめ莉奈はずっと泣いていた。　「なんで？どうして……？こんなことは…… 彼女がいるんだから……。しちゃダメだよ！」そんなことはわかっている。泣きじゃくる莉奈が愛おしくて抱きしめ無理やり何度もキスをした。「しちゃダメなんだって……。」「ずっとこうしたかった…。」抵抗をやめると抱きついてきた。「好きでいてもいいの？ずっと……好きでいてもいいの？」好きだと言ってくれる莉奈が愛おしくて仕方なかった。「ごめん。もっと早くこうしてあげればよかったな。」抱きしめると再び泣き出し見つめると涙を拭きキスをした。「まーちゃんが好きなの……好きなの……。」「うん。知ってる。」　何度も好きだと言い抱き付きてくれた。誰にも渡したくない誰にも触れさせたくない。今すぐに愛したくて守りたくてたまらなくなりその場で愛し合った。　奈津子を守りたいということを一度も思ったことはなかったがをこれからは守って行きたい心から思い、彼女が笑顔でいられる場所を作ってあげたかった。自転車を押して彼女の家まで送り、歩いて駅へ向かうと迎えが来てくれていた。いつも遊ぶ仲間『松本剛』別名運転手。彼にはいつも無理を言ったり相談に乗ってくれたりする良い友達だ。「おつかれ。今日はどうした？飲み過ぎたのか？」「ん。いや…。ちょっとな…。」て「ふーん。」「なっちゃんと何喧嘩でもしたのか？」「いや……。」「ん？どうした？浮かない顔してるぞ？」苦笑いをした。「なんだよ。何があったんだ？話せよ。」「あのさ……。」車の中で今までの事情を全て話をした。「ふーん。それで？どうするんだよ。なっちゃんと別れる事できるのか？」「どう切り出せばいいのか、わからないんだ。あいつ良い奴だからさ、俺の事1番に考えてくれて色々してくれるし…。あいついなきゃ何もできないし…。」剛は呆れ返っていた。「まーちゃん、よくお前そんな事言えるな？莉奈ちゃんに対してどう思ったんだよ。」「離したくない、笑顔を守りたいって思った。」ため息をつくと更に呆れ返っていた。「守りたいだ？なっちゃんがいなきゃ何も出来ない？はぁ？よく手を出せたもんだな。ま、おまえの場合は気持ちと体は別なんだろうな。」「離したくないって思ったから…。」「どっちも離したくないわけだな？酔った勢い、気まぐれで莉奈ちゃん抱いたワケだ。」「そんなんじゃねーよ。」「じゃなんだよ。自分が良ければそれで良いんだろ？」「莉奈に安心できる場所を作ってあげたい。」剛は鼻で笑う。「今のお前じゃ、どちらも傷つける無理だ。」「……。」「よく考えろよ。」確かに、どちらも離したくはなくて卑怯だとは思っていた。奈津子は身の回りを良くし、母親の様な役割をしてくれて行くべき場所を作ってくれ安心させてくれる。それに対して莉奈はただ一途にずっと好きだと言ってくれ、瞳はいつも真っ直ぐで、いつの間にか好きになっていた。けれど笑顔の裏で何をしているのかわからなくて、何を抱え込んでいるのかさえもわからない。常に自分の居場所を探していて…。いつも勝気で笑っている莉奈が泣いている姿を見ると放っておけない。俺は身勝手で都合良すぎて中途半端な甘い考えしか持っていない。莉奈に対する行動も気まぐれだったのかもしれない。　『安心できる場所』　俺にそんな事ができるのか？支えになることできるのか？あいつの事守れるのか？身勝手な行動がまた泣かす事になるかもしれない。あいつはそんなこと耐えれるのか？伸し掛る現実に嫌気がさしてきていた。「まーちゃん、莉奈ちゃんに謝るなら今のうちだぞ。出来心だったってな。お前にはなっちゃんがいるんだからさ。ちょっと浮気したかったんだろ？お前の事好きだっていいながら、男を取っかえ引っ変えしていたんだろ？ちょうど都合が良かったんだよ。お前にも、莉奈ちゃんって子にも。」違う…。俺は出来心で莉奈を抱いたわけじゃない。奈津子にとっては浮気になってしまうけれど…。「はぁ〜。」「どうした？決断ついたか？」「いや…。もう少し考える…。」「そうか。莉奈ちゃんはオススメ出来ないな。大麻の件もあるだろ？」「あれは1度っきりだろ。あれからは以降は何もないし。」「なにかのきっかけで酷くなるかもしれないぞ？もしかするとお前も誘われるかもしれないんだぞ？」「莉奈ちゃんを信じてるから。」「1番幸せにしたいって思える人物を選択するんだな。」幸せにしたいと思える…。人物…。こんな自分でも幸せにする事ができるのだろうか…。莉奈をずっと笑顔にさせることができるのだろうか…。　未熟すぎる自分の考え方にうんざりしていた。

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