夢を再び
「あ。星川さんのライブのチケット買わなきゃ……。」 帰り間際に星川さんのライブのチケットを購入した。 (思わず、2部とも買っちゃったよ。帰っても余計なこと考えちゃうから良いか。) チケットを見ながら、昔を思い出していた。コンサートなんて何年ぶりだろう……。デビューして2、3回行った位で行くことはなかった。 家に戻りチケットを取り出した。 (そうだよね。彼が居ない時はこうして他のことをして時間を潰せば良いんだよね。映画行ったり……、読書したり……。ライブ行ったり……。私ライブハウスとか行ったことないな……。この会場知らないよ!?どこよ!なんだかある意味緊張しちゃうな。) ライブまであと5日……。4日……。3日……。日が近づいてくる事によって緊張感でいっぱいになっていた。2日前になると、再び星川さんからメッセージが入った。『お疲れ様!チケットは買えた?』『買いましたよ!2部とも買っちゃいました。』『2部とも!?』『私、暇だしね。』『見つけること出来たら何してくれんだ?』『え?何って……?』『決めてないのか?見つけたら俺が当日決めるよ。』『無理でしょ?たくさんのファンの人がいるし絶対見つけることなんて出来ないよ。』『どうかな?』 なんだかちょっと強引ではないですか?『何してくれる?当日俺が決めるよ?』 言ってる意味がわからないのですが? まぁ、いいか……。 ライブ当日 ─ 会場外には大勢のファンの方が物販でパンフレットやグッズで行列ができていた。(グッズかぁ。欲しいなぁ。でもこの行列は並ぶ気がしない……。席についておこう。) 1部は1階の後部後ろから3番目席のひだりから4番目。しかも前の席の方は身長が座っている限りでは高く完全に見えない可能性が……。(この席では全く私見えない……のでは?ま、まぁ仕方ないか。) しばらくすると物販で買い終えた人たちが席に座り始めほぼ全員着席が終わると、会場のライトがすべて消灯し、色とりどりのライトが点灯する。そして、スモークが焚かれバックヤードからバンドのメンバーの方がそれぞれの立ち位置に向かう。しばらくすると星川さんが現れ、ドラム、ピアノ、ギターが奏でられ歌をうたい始めた。初めて星川さんのライブを見て感じる事が出来た。歌声は低く甘く、優しく、力強い歌声で、聴いていると心の底から癒され涙が流れ落ちた。デビューした頃、歌声はほとんど分からなかったけれど、独立して作詞や作曲、たくさんの舞台に立ち、大勢の方を魅了し続けたんだ……。夢を叶えて、たくさんの人に夢を見せる事ができたんだ……。こんなにたくさんの人に長い間愛され続けるのは凄いこと……。やっぱり憧れるな……。ずっと涙が止まらないまま1部が終了していた。 (あ。全然、ステージ見てなかった!仕方ないよね。涙で全く見えないし、目の前に大きな人がいたらどっちにしても見えないし……。) 次は何時からだろう……。スマホを見るとメッセージが入った。星川さんからだった。『君、ずっと泣いてたろ?前にデカい人がいて見えないとでもおもったか?ちゃんとこっちから見てるぞ?それとも悲しいことでもあったのか?』(バレてた……。えぇー。見えるの?絶対見えないと思ってたのに……。)『悲しい事で泣いていたんじゃないです!嬉し泣きです!』『それなら良かった!次も探し出すからな!』『どうかなぁ。次は難しいかもね。』『じゃ、またステージで。』『はーい♡』 って……。私こんな事していていいの?他のファンの人達の中で……。いや、まずいでしょ。 次のステージまで少し時間があり、近くのカフェに立ち寄った。周りの人達はやっぱり星川さんのファンで衣装を仲良しグループで揃えていたり、このステージの為に衣装を作っている人もいたり、グッズで身を固めたり色んな人達がいた。話すことはやっぱり、星川さんの話だった。聞いていると少し嬉しい気分になっていた。 しばらくすると、ファンの人達は動き始め会場へ向かいはじめた。チケットを確認すると2階席の上から3番目の左端だった。これもまた見ずらそうな座席の様だった。 会場に入ると、ステージからは程遠く、全体が見渡せる絶景な座席だった。これならバレない自身があった。しばらくすると会場内はファンの人達埋め尽くされ色とりどりのペンライトやサイリウムが点灯し始めた。 会場が暗くなるまで周りを見ていると、星川さんから再びメッセージが入った。『絶対探し出す!』『頑張ってくださいねー!』 思わず吹き出して笑ってしまった。なんだろう……。星川さんと話していると凄く楽しい……。でも、芸能人だから当たり前か……。 会場のライトが消灯をするとペンライトとサイリウムの光が更に発光しはじめた。 (うわぁー。上から見ると凄く綺麗!星みたい!) ステージが始まる。先程とは違う光景ではっきりと星川さんは見える……。小さな体なのに大きくステージの端から端まで動きまわり大きさを感じられない。どんなに遠くても、オーラは感じられる。やっぱり凄い……。「2階席ー!ありがとうなー!ちゃんと一人一人見えてるからな!」 2階席のファンの方達は盛り上がり手を振り声援を送っていた。「なんだ?2階席、盛り上がってないやつ1人いるな?」(私……じゃないよね?)「上から3番目左端!お前だよ!」(わ、私!?名指し!)「つまんないか?」(そんなこと絶対ない!) 見えるように大きく首を横に振った。 「楽しんでるか?」 再び大きく首を縦に振った。 「よーし!俺が見えてないと思ったろ?わかってんだぞ?みんなもわかったろ?俺はちゃんとひとりひとり見てるからな!」 星川さんは会場全員に伝え、大きな声援が上がり笑顔になり本人も嬉しそうな表情をしていた。本当に凄い人。ミュージシャン『星川和海』が更に好きになった。 今日と言う日は本当に楽しくてずっとこの時が続けばいいのに……。 ライブが終わり会場から出ようとするとマネージャーさんが柱の横からチラッと顔を覗かせて手招きをしていた。「私?」 首を縦に振り手で合図をして、そちらに向かった。 「ごめんねー呼び出して。ちょっとこっちに来てくれるかな?」 ついていくと機材がたくさん置いてあり、ごちゃごちゃとしていた。非常階段の所まで連れて行かれた。 「ごめんね〜。こんなに狭いところに呼び出して。」「あ、いえ、大丈夫ですけど……。」「ちょっと待っていてね。って来たよ。」 ステージが終わり汗を拭きながらこちらにやってきた。「悪いなぁ。こんな汚いところに呼び出して。」 (ほ、星川さん!?さっきステージに立ってた人〜♡) 汗がキラキラとしていて、なおかつ笑顔が素敵だった。 「ちゃんと見つけ出すって言ったろ?」「良く見えましたね!本当にひとりひとり見てるんですか?」「当たり前だろ?ちゃんと俺は見てるよ。いつも来てくれる子、新顔の子ってことも分かる。」「すごーい!」 拍手をしていた。「ごめんね。なんか呼び出す感じでライブ来させちゃって。」 「ううん。ストレス発散できて凄く楽しい時間が過ごせました!ライブってこんなに迫力があるんですね!こう……、胸の中にズンってくるドラムの音や、ベースの音、ギターの鳴り響く音色、ピアノの綺麗な音色……。歌声も低くて優しくて、伸びのいい声量……。本当に凄く皆さんかっこよくて……。こんなに楽しい時間が終わってしまうなんて残念で……。もっと見たくなりました!」「そうか!そーかぁ!そんなに感激して貰えると凄い嬉しいよ!ありがとう!なんか、照れちゃうよな」 照れながら背中を向け椅子を撫でていた。関係者でもない、ただの一般人なのにこんな扱いはやっぱり間違っている……。 「あの……。私に何か用でも……?」「ん?あ、いや、あの〜。」「かーくん!シャワー浴びて!食事行くんでしょ!」 マネージャーさんが声をかける。(あ、みんなで食事に行かれるんだ。じゃ私帰らないと!)「それじゃ、用がないようでしたら私、帰りますね!本当に今日は楽しかったです!またライブ見に来ますね!お疲れ様でした!」 「え!?いや!あの!」 少し急足でその場から離れ再び、会場の方の階段へ戻るとファンの方は一部ファン同士でお話をして盛り上がっていてスタッフに誘導されている人や物販に一部残っている人がいたりし、ほぼ退場した後だった。来たときはこんなに広いと思っていなかった。キョロキョロしながら階段を降りていると誰かが走ってくる音が聞こえ振り抜くと足を踏み外した。「あっ!」「危ない!」 誰かが背中から体をキャッチされ小麦色した腕に包まれて座らされた。「危なかったなぁー。ごめん!驚かしちゃったよな。」 振り返ると星川さんだった。ファンの方も私の声と星川さんの声で驚き一斉にこっちを向いていた。 「あー。まずいな。ごめん!」 ふわりと体を持ち上げお姫様抱っこをされファンの間をすり抜けその場を離れた。何があったのかわからない状態で楽屋へ連れて行かれ椅子に座らされた。「話まだ終わってないのにー!なんで帰ろうとするかなぁ。」「え?だってスタッフの皆さんやバンドの方と食事会があるみたいだったから。それに私、部外者だし……。ただのファンだし……。ファンはこんなことしないでしょ?そもそもおかしいじゃない?ここにいちゃ駄目なはずだよ?」 マネージャーさんの顔を見て話をした。マネージャーさんも私の顔を見て話を聞いて頷いていた。「スター様に何かあったらファンの人悲しむよ?だからこれ以上私近づいちゃ駄目なんだよ?私、『星川和海』さんが好きです。私の憧れでたくさん夢をもらいました。この前も言いましたよね?これ以上、夢をみちゃ駄目なんです!やっと元の現実に戻れたのに……。」「……ごめんなさい。私、帰りますね。」「なぁ。」「?」「メシ連れていくって言ってただろ?忘れたのか?」「えっ?」「俺は約束は必ず守る。」「冗談……。ファンと食事なんて……。」「ファン!?ファンなら連絡とかしないだろ。」「そうだけど……。やっぱり、私……。」「2人で行くのはって言うのなら、バンドメンバー、スタッフ全員連れていくぞ。それで文句ないだろ。」 随分強引だなぁと呆れ返りマネージャーの顔を見ると笑っていた。 「かーくん、強引でしょ?言い出したら聞かないんだから。頑固者と言うか、男らしいと言うか……。」 コソコソと話かけてきた。 「何?何か言った?店手配しておいてよ?」「ハイハイ。」「それから、君はここで待機。シャワー浴びて着替えて来るから。わかった?」「あ、ハイ……。」「よし。すぐに戻るからね。」星川さんはシャワー室へ向かって行った。マネージャーはお店の手配をしながら会場の片付けをしていた。 待っている間、邪魔にならないように外へ出ていようとすると荷物を重そうに運んでいた牧子さんがいた。 「あのっ!私もお手伝いします!」「あら、あなたこの前の。」「あの時はお世話になりました。」「良いのよー。今日はライブに来てくれたのね。」「はい!とても素敵でした!」「今日は食事に行くんでしよ?あの子すごく楽しみにしてるわよ。あなた帰ってからずっとあなたの話ばっかりしてたのよ。」「え?そ、そうなんですか?」「これからも仲良くしてあげてね。」「え?え?どういうことですか?」「あの子息子なのよ。」「え?む、息子!?さん!?」「お母さん!?お母様がどうして!?」「他の人は信用出来ないってね。物販は家族でする事になったの。昔いた事務所で色々あったからね。」「そうなんですね……。」 家族がスタッフなんて初めて聞いてびっくりしていた。